仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第三十三話

「(どうしてだよ!!)」

 

ブレイド、一夏は仮面の中で叫びたかった。

 

目の前にいる警官隊は恐怖を浮かべた者、決意を秘めた者たちで一杯で、彼らの視線はギャレンとブレイドに向けられている。

 

「(どうして、俺達が争わないといけないんだ!!)」

 

仮面越しに一夏は叫びたい衝動に駆られた。

 

だが、銃弾の音で一夏の声が届かない。

 

「逃げるぞ」

 

ギャレンがブレイドの手を引いて走る。

 

「(くそっ!なんで!!)」

 

悔しさを抱えながら二人は逃げた。

 

近くに停車させていたブルースペイーダーとレッドランパスに乗り、逃げた。

 

だが、警官隊もバカではない。

 

二人が戦闘をしている間に既に包囲網を展開していたのだ。

 

バイクで逃げる二人に発砲してくる警官隊をけちらすわけにはいかない。

 

次々とルートを変えるが、待ち構える警官隊、その状況に二人は追い込まれていく。

 

「くそっ・・・・どうする?」

 

「最悪の場合」

 

ギャレンはホルダーのラウザーに触れる。

 

『アンタ達!聞こえる!?』

 

「鈴!」

 

「なんで!?」

 

『説明は後!!これから私の誘導にしたがってバイクを走らせていいわね!?』

 

「お、おう!」

 

警官隊の包囲網を二人のライダーは突破した。

 

だが、どこをどう逃げたのか警官隊はわからなかった。

 

 

空を一夏達は飛んでいる。

 

正確に言うならば、一夏と弾の乗っているバイクを箒とセシリアの二人がISを纏って運んでいた。

 

ISならば重さを感じないし、地上に意識が向いている警官隊も気づかない。

 

「全く、無茶をしすぎだぞ一夏!」

 

「箒さんのいうとおりですわ。山田先生が気づいたからよかったものの、最悪警官隊に捕まっていたかもしれません!」

 

「悪い・・・・」

 

「し、しかし、二人とも無事で安心したぞ」

 

「そうですわ。もし怪我をしていたらと考えると」

 

「・・・・ごめん、でも、俺は」

 

「とにかく!お話しは学園に戻ってからです」

 

セシリアに言われて一夏は小さく頷いた。

 

 

 

「おら!起きろ!」

 

英語が響いたと同時に顔に冷水が掛けられて富樫始の沈みかけていた意識が浮上する。

 

目を覚ますと、小さな電球が見えた。

 

意識が完全に覚醒する前に胸倉を掴まれて顔を殴り飛ばされる。

 

拘束具によって動きを封じられている始は何も出来ずに地面に倒れた。

 

「お前に眠る権利なんざねぇんだ!さっさと吐け!」

 

ブラックジャックと呼ばれる黒い棒のようなものを振るって始の顔を殴る。

 

富樫始が屈強な男達に拘束させられた後、目隠しをされてどこかにつれてこられた。

 

時間の感覚からしておそらく、日本ではない。

 

目隠しを外されると、男達による尋問が始まった。

 

否、尋問という名前の拷問だろう。

 

この場所に人権など存在しない。

 

あるのは殴る人間と殴られる存在だけ。

 

どれだけ泣き叫んだとしても、助けを求めたとしても救いの手はこない。

 

そんな地獄みたいな場所にきて、どのくらいの時間が流れたのかわからない、始は水も食料も与えられておらず、一定時間ごとに男達から殴られている。

 

「(本当に人権もへったくれもねぇ)」

 

内心、苛立ちを覚えながらも始は大人しくしている。

 

男達が飽きるまで耐える。

 

全てはそこからだと始は考えていた。

 

「(この程度の暴力、慣れているからな)」

 

誘拐されて非人道的な実験を幾つも受けた始にとって男達の振るう暴力など蚊が刺した程度のものだ。

 

暴力よりもさらにおそろしいものを始は体験している。

 

故に男達の苛々は増していた。

 

今までこの部屋に着た人間はおそろしさのあまり狂うか自分達に命乞いしてくるものばかり、だというのに、始は無表情のまま暴力を受けている。

 

今までにない態度に男達の苛々は増していた。

 

それが始への暴力の増加へと繋がっていく。

 

「何をしているの!?」

 

薄暗い部屋のドアが開いてナターシャ・ファイルスが叫ぶ。

 

「みてわかりませんか?こいつへの尋問ですよ」

 

「尋問!これが!?」

 

「我々は上からの指示で行っているのです。いくら貴方といえど邪魔をする事はできません」

 

「だからって・・・・これは」

 

「銀の福音を取り戻したくはないのですか?」

 

「っ!」

 

尋問している男の言葉にナターシャの頬は少し動く。

 

「我々は奪取された銀の福音を取り戻さないといけない。あれの重要性はパイロットである貴方も理解しているはずです」

 

「わかっているは・・・でも、こんなこと」

 

「それに調べた所、富樫始という男は数ヶ月前になくなっています」

 

「・・・・え?」

 

「公式に発表はされていませんが、数ヶ月前に富樫始の遺体が確認され、DNA鑑定の結果、本人であるという証明がなされている。ここにいるヤツに人権など通用しないのです」

 

「でも、これはやりすぎです。みたところ水も何も与えていない。人権がないからといってこれは見過ごせません!」

 

「・・・・わかりました。十五分の休憩を与えます。それならよろしいですね?」

 

「えぇ」

 

男達は最後に地面にうずくまっている始を蹴ったり唾を吐いて外に出て行く。

 

残されたナターシャは倒れている彼に近寄って、泥などをハンカチで落とす。

 

「・・・・何の、真似だ?」

 

「別に、見過ごせなかっただけよ」

 

ナターシャはそういって彼を壁にもたれさせる。

 

「どうして、福音の居場所を吐かないの?」

 

「なんでだろーな」

 

「惚けないで、貴方が強情を張るから彼らは暴力を振るう」

 

「それはないだろーな。アイツらがいっていただろ?俺は公式には死亡した人間という扱いになっている・・・・」

 

「でも、目の前に」

 

「俺は俺だ・・・・話したところでアンタに理解されるとは思っていない」

 

始は自虐的に笑う。

 

そう、話したところで理解されない。

 

「教えて」

 

強い瞳でナターシャは尋ねる。

 

「理解するのかはわからない、でも話を聞いてからでないと判断をくだすことなんてできない」

 

「・・・・まぁ」

 

「時間です」

 

ドアが開いて男達が入ってくる。

 

「上官がお呼びです」

 

「・・・・わかったわ」

 

ナターシャはちらり、と壁にもたれている始をみてから部屋を出た。

 

少しして響いてくる怒声から離れる為に早足になってしまう。

 

「ん、ナタル?」

 

「・・・・」

 

「おい!ナタル!」

 

「っ・・・・イーリ?」

 

「あぁ、どうしたんだ?顔真っ青だぜ?」

 

ナターシャが振り返ると友人のイーリス・コーリングが不思議そうな顔をして立っていた。

 

「いえ・・・・」

 

「お前が来た方向って、独房だろ?あっちは・・・・福音盗んだ犯人がいるって聞いたけど」

 

「そうよ」

 

「ソイツ、強いのか?厳重に保管してあった福音を盗んだほどなんだからかなりの強さだと思うんだが」

 

「・・・・え?」

 

「だーかーら!」

 

そこで、ナターシャは疑問が浮き上がった。

 

富樫始が銀の福音を盗んだ事はわかっている。

 

ならば、どうして彼はISを使おうとしないのだろうか。

 

盗んだISを誰かに渡したというのならわかる。

 

だが、情報部からの報告によると銀の福音は彼が使っていると聞いていた。

 

この状況から抜け出せるほどの力を銀の福音は持っているはず。

 

「(あの子は軍事用のISだ、本気を出せばこの基地などあっという間に壊滅させられる・・・・何故なの?)」

 

浮かび上がった疑問をナターシャは必死に考える。

 

そんな彼女の様子にイーリスは首をかしげていた。

 

 

 

 

「・・・・まだ、部屋から出てこないか?」

 

「うん、かんちゃーん!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは扉の前にいる布仏本音に尋ねた。

 

本音は頷いて扉を叩くけれど、返事は来ない。

 

更識簪が部屋に閉じこもって既に三日が過ぎようとしていた。

 

アンデッドの襲撃以降、体調不良ということで彼女は授業を休んでいる。

 

寮長であり事情を知っている千冬は無理に部屋から出すべきではないと判断して何も言わない。

 

何も言わないがラウラや本音にそれとなく様子を見るように頼んでいた。

 

「精神的ショックが大きいのだろう・・・・軍人であるのに何もできないというのは歯がゆい」

「・・・・私もだよ。かんちゃんの友達なのに、何もできないなんて」

 

扉一枚。

 

ラウラと本音にとって鋼鉄の隔壁以上の強度を誇っている。

 

それだけの扉を壊す事は造作もないだろう。

 

だが。

 

「それほどまでに簪の心の傷は深い・・・・のか」

 

拳を壁に叩きつけて唸る。

 

三日の間に状況は激しく動いていた。

 

BOARD関係者の事情聴取。

 

検察による強制捜査。

 

仮面ライダーと命名された一夏達への対策と対応。

 

たった三日間で状況は彼らにとって最悪という言葉が当てはまるほどに悪すぎた。

 

「(だが、何かがおかしい)」

 

ラウラは最悪すぎる状況に対して逆に違和感が強くなっていた。

 

前々からネットでライダーの存在は都市伝説として語り継がれている。

 

それがどうして、今回騒ぎだしたのか。

 

警察まで乗り出すほどの事態に発展したのか?

 

「(何かがある・・・・この騒動には・・・・だが)」

 

そこまで考えてからもう一度扉を見る。

 

「(状況を打開するにしても、簪を助けたい・・・・私には何も出来ないのだろうか?)」

 

 

 

凰鈴音とセシリア・オルコットは屋上で話をしていた。

 

「なんか、変な空気」

 

「そうですわね」

 

屋上からは楽しそうにしている生徒達や掃除をしている用務員などが見える。

 

当たり前の学園風景。

 

だが、二人は何かが欠けているような気がしてならない。

 

モノクロの景色を見ているような気持ち悪さが離れてくれなかった。

 

「たった三日でここまで変化する事って、私の両親の離婚以来かなぁ」

 

凰鈴音の両親は離婚している。

 

中国からの強制帰還という理由で家庭が崩壊してしまったのだ。

 

その時のショックを思い出したくはなかった。

 

だが、それと同じくらいの空気がみんなの中に漂っていると鈴音は思っている。

 

「まだ、三日しか過ぎていないんでしたわね。もう一ヶ月と錯覚してしまいそうになりました」

 

「・・・・そうね」

 

剣崎たちが警察に捕まった。

 

更識簪が部屋に閉じこもり。

 

富樫始がアメリカ軍に連行されたこと。

 

一夏達がアンデッドと戦っていたら警察の攻撃を受けたこと、あげればきりがない。

 

最悪の状況。

 

「でも、一夏は諦めていない」

 

どれだけ最悪な状況でも一夏は諦めていない。

 

「一夏さんは、あそこまで強いのでしょうか?」

 

「前にも聞いたことあるわ。そしたらなんていったと思う?」

 

――俺は強くない。

 

かつて、鈴音に一夏はそういった。

 

「尊敬している人になりたくて背中を追いかけているだけだってさ」

 

「剣崎一真さんですか・・・・」

 

「そうね、こんな状況なのにあの人は諦めないそうよ?美化しているわけじゃないでしょうけれど・・・・それだけ凄い人なんでしょうね」

 

「これからどうします?」

 

「一夏だけに戦わせて傍観するなんて、私の性に合わない!こんなことをした犯人を見つけ出す!」

 

「・・・・当てはあるんですの?」

 

「ない!とにかく、ネットから原因を見つけ出すしかない」

「鈴さん、その発言は脳筋みたいですわ」

 

「うっさいわね!?」

 

「私も手伝いますわ」

 

「え?」

 

「こうみえても私は電子系、少し得意ですのよ」

 

淑女の笑みをセシリアは浮かべた。

 

 

 

 

「始・・・・」

シャルロットはベンチに座って俯いていた。

 

手の中には始が置いていった十四枚のプライムベスタとワイルドベスタがある。

 

男達に奪われないように咄嗟にシャルロットのポケットに忍ばせたものだ。

 

「(どうしよう・・・・状況はどんどん悪くなってる。こんな時に)」

 

「また、貴方は動こうとしないの?」

 

悩んでいるシャルロットの前に更識楯無が現れる。

 

彼女は冷たい瞳をシャルロットに向けていた。

 

「・・・・どういうこと」

 

「そのままの意味よ。この学園に入ってから貴方は弱くなったわね」

 

「私が・・・・弱く?」

 

「えぇ」

 

楯無は冷たい瞳のままシャルロットに近づいた。

 

「この学園に入って、貴方は色々な人と触れ合った。前からデュノア社で苦しい思いをしていた分、色んな温もりを知ったんでしょうね。だからこそ、奪うという事に対して貴方は億劫になっている」

 

「そんなこと・・・・」

 

「あるわよ。貴方、学園祭で生徒会が主催したシンデレラに参加した・・・・でも、王冠に電撃が仕組まれているとわかったら、奪う事に抵抗を感じたでしょう」

 

図星だった。

 

シャルロットは始を傷つけてまで王冠を手に入れたくない、と奪う事を渋ってしまった。

 

「それが証拠よ。貴方は“彼”を理由に戦う事を拒否した。そんな貴方は彼の隣にいる資格なんてない」

 

「それを・・・・決めるのは・・・・」

 

「えぇ、私じゃない。でも、貴方でもないわ。彼が決める・・・・でも、今の貴方に富樫始を渡すつもりは毛頭ない。奪うわ。どんな手段を使ってでも」

 

――それが、私の覚悟。

 

楯無は、刀奈は強い意思をこめた瞳でそう宣言する。

 

「国家代表という肩書きがそれを邪魔するなら、捨てる。更識の家が邪魔をするならどんな手段を使ってでも認めさせる。生徒会長という肩書きが邪魔をするなら、後任を見つけて辞任する・・・・なにがあっても私は彼と一緒にいたい。それほどまでに私は彼を愛しているから、貴方はどうなの?このまま彼の帰りを待つつもり?いっておくけれど、始が戻ってくる確立は0に等しい。あいつらは始をモルモット同然の扱いをしているわ。そんなこと許せない。私は彼を取り戻す。邪魔をするなら世界でも運命だろうと叩き潰す」

 

強い瞳にシャルロットの中で何かが動く。

 

その気持ちは燃えさかる炎のように一気に爆発した。

 

「・・・・・・だって」

 

震える声をおさえながらシャルロットは顔をあげる。

 

弱いシャルロットではなかった。

 

「私だって、始のことが好きだ!誰にも渡さない・・・・」

 

「そう、牙が抜けてしまったかと思っていたけれど、大丈夫のようね」

 

楯無は不敵に笑う。

 

――さぁ、反撃だ。と楯無は告げた。

 

 

 

 




NEXT-戦いの代償

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