仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第三十一話

 

 

「前もきたけれど、本当に豪華というか、いい設備してるよな。IS学園って」

 

「おにぃ、気持ちはわかるけれど、そんなきょろきょろしないで田舎物だって思われちゃう」

 

「あぁ、悪い」

 

IS学園の学園祭二日目は一般者の来場も可能になる。

 

但し、一般の人は生徒から渡された特別チケットが必要、不審者やパパラッチなどの侵入を防ぐという目的があった。

 

五反田弾と蘭の二人は事前に一夏や簪などから参加するためのチケットを貰っていたのでなんの問題もなく入場する事ができた。

 

「ねぇ、おにぃ」

 

「ん?」

 

「来年、IS学園に入学したいっていったらどーする?」

 

「お前が決めたんなら別にいいんじゃないか・・・・けれど、入学するにはIS適正が必要って」

 

「実は前に、簡易適正受けたの」

 

「いつの間に・・・・結果は?」

 

「A+」

 

「うそぉ!?」

 

弾は驚きの声を漏らす。

 

ISの適正は高ければ高いほど、動きがよくなる。

 

適正レベルの上位がSなので、A+はそこそこいい結果だった。

 

ちなみにSは今のところ織斑千冬だけ、公式の話においてであるが。

 

「それで、IS学園いくのか?」

 

「実を言うと、適正は友達と一緒に受けただけだから、悩んでいるの・・・・今の友達と離れるというのも抵抗あるから」

 

「・・・・お前も考えているんだな」

 

「その言い方だと、私は何も考えていないように聞こえるんですけど?」

 

「いや、そういうわけじゃ!?」

 

「もう!いいから行くよ!話によると一夏さん達が執事しているらしいからみてみたいし」

 

「アイツらの執事か・・・・すっごい人気だろうな」

 

「急ごうおにぃ!」

 

「そだな、少しでも並ぶのを少なくしないとなぁ」

 

その頃、富樫始は執事服を着て接客をしている。

 

「富樫、四番テーブルで呼び出しだ」

 

「りょーかい・・・・やれやれ、衰えってものはないのかねぇ」

 

二日目を迎えた一組の喫茶店だが、前日よりも長蛇の列が形成されていた。

 

そのために一日よりもハードなシフトが組まれている。

 

「お待たせしましたぁ、お嬢様」

 

ケーキを持って始が現れると待っていたお客様の二人はひそひそと話し始める。

 

「執事のサービスをどちらからお受けいたしますか?」

 

「あ、じゃあ・・・・私で」

 

手を挙げた女性に微笑みながら始は執事としての仕事に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

そんな彼の様子をシャルロットはみていた。

 

「シャルロット、どうした?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

「そうか?傷が痛むのなら無理をせずにいうのだぞ」

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ラウラ」

 

うむ、と返事をしてラウラは厨房の方へと戻っていく。

 

昨日の誘拐事件については生徒会によって外に漏れる事はなく、彼女の怪我については階段から転がり落ちた事によるものということになっている。

 

下唇のところに小さなガーゼなどを貼りながら作業をしているシャルロットは離れた所で執事としてご奉仕している始の姿を見てため息を漏らす。

 

「(どうしょう・・・・)」

 

昨日の連中について、黙っておくか。

 

誘拐した連中が何者なのか、生徒会は現在、尋問中らしいが、シャルロットはわかっていた。

 

何故なら――。

 

「(どこにいっても・・・・デュノアという名前からは逃げられないという事?)」

 

誘拐した連中の中に、ISを操縦していた女性に見覚えがあった。

 

ISのテストパイロットとしてデュノア社で働いていた時に自分を苛めていた先輩パイロット。

 

適正があるからということでパイロットになったシャルロットをその女性は妬み、訓練と称して暴力を振るっていた。

 

その女性が誘拐犯の中にいたことをシャルロットは話していない。

 

デュノア社は社長がなくなった後に他の企業の傘下に入り、社員やパイロットが大勢切られたという話を聞いている。

 

もし、怨恨だというのなら仕方ない事だと思っている。

 

会社を潰すきっかけを与えてしまったのは――。

 

「シャルロット」

 

「え」

 

ポン、と肩をたたかれて振り返ると執事姿の一夏が立っている。

 

「どうした?元気がないみたいだけれど・・・・もしかして、どこか痛むのか」

 

「う、ううん!そうじゃないの・・・・大丈夫だよ・・・・あれ?まだシフトじゃないよね?」

 

「客足が多すぎて裁けないから時間短縮して、多くの人に触れ合わせるって言う話になって呼び戻された」

 

「そ、そうなんだ」

 

苦笑しているシャルロットの顔を一夏は覗きながら尋ねる。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、それより指名が入ったみたいだよ」

 

彼女の言葉どおり、メイド服を着た鷹月さんが一夏を呼んでいた。

 

「あまり、無理するなよ!」

 

一夏は言い残して接客に向かう。

 

軽く手を振ってからシャルロットはため息を吐く。

 

「どうしたら・・・・いいんだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、中々縮まらないな。この列」

 

「あ、でも、さっきよりもかなり進んでるよ?」

 

蘭の言葉どおり、五分間という制限時間を設けた事により客足は衰えていないが入れ替わりが激しくなっている。

 

「蘭、少し抜けるわ」

 

「え・・・・おにぃ!」

 

「トイレだ」

 

「もぅ!急いでね!」

 

「おう!」

 

弾は列を抜けてトイレに向かって走り出す。

 

 

「では、次のお客様、どうぞ!」

 

「あ、はい!(うそ!?)」

 

メイドさんに案内をされて蘭は空いているテーブルへと通される。

 

弾はまだ戻ってきていない。

 

「(どうしょう!?おにぃがまだ戻ってきていないのに!?てか、IS学園の女の人って、みんなスタイルいいなぁ・・・・)」

 

「お待たせして申し訳ありません・・・・って、蘭?」

 

「あ、一夏さん」

 

「来てくれたんだ?」

 

運の良い事に?やってきた執事は一夏だった。

 

「弾は?」

 

「それが・・・・トイレにいってて、まだ戻ってきていないんですよ」

 

余談だが、学園祭の間はトイレの一部を男性用として解放されている。

 

張り紙のはっているところしか使用できないが。

 

「まぁ、悪いけれど、後が押しているからメニューを選んでもらっていいか?弾は運がなかったってことで」

 

「はい(もう、おにぃ)」

 

蘭はメニューを見てから、少し悩んで。

 

「あの・・・・この執事のごほうびでいいですか?」

 

「・・・・かしこまりました。箒!」

 

「わかった・・・・」

 

むすぅと機嫌の悪い箒は一夏が蘭の隣に着席すると、お菓子を置く。

 

「あの・・・・これは?」

 

「執事がお嬢様にお菓子を食べさせるんだよ・・・・」

 

「えぇっ!?」

 

「一応、説明、かいていあるけれど」

 

一夏に言われて蘭がメニューを見ると、確かに書かれている。

 

注意書きをみてから。

 

「あの、食べさせるのは無しにして、相談に乗ってもらうってこととかもできますか?」

 

「・・・・いいけど、俺は助かるし」

 

「実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、五反田弾は離れた所にあるトイレまで来ていた。

 

何故か、学園内にトイレがみつからなかったためにここまで歩いていたのだ。

 

「・・・・一夏や始は苦労してんだな」

 

巷ではリア充やハーレム野郎とか男子から睨まれている。

 

弾も最初は羨ましいと思っていた側だ。

 

「はぁ・・・・わっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

校舎に戻り中に入ろうとしたところで女性とぶつかってしまう。

 

倒れそうになった女性の腕を咄嗟につかんで引き寄せる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「はい・・・・ありがとうございます」

 

女性はずり落ちたメガネを掛けなおしてぺこり、と弾に感謝した。

 

「あ、いえ、お怪我がないようで安心しました・・・・」

 

「いえ、こちらこそぶつかってしまいすいません」

 

謝罪した女性との間に気まずい空気が流れる。

 

「すいません。妹を待たしているので、失礼します」

 

「あ、はい」

 

女性をその場に残して弾は急いで一組に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏さんやおにぃをみていると、自分の将来どうしょうかなと悩む時があるんです」

 

「いうと?」

 

「二人はライダーとして、自分の進むべき道っていえばいいんでしょうか?そのために真っ直ぐに進んでいます。でも、私は・・・・」

 

蘭は悩んでいた。

 

ちゃんと自分の道というものを進めているのか。

 

自分の道というのはなんだろうか?蘭はそのことに悩み始めていた。

 

「・・・・自分の道か、それは・・・・少し違うと思う」

 

「え?」

 

「俺や弾、始に簪、みんながライダーになったのは些細な偶然だと思う。たまたまライダーになるという選択肢があって俺達はそれを取り進んだ・・・・それだけのことなんだよ」

 

「それだけ・・・・?」

 

「なんていえばいいかわかんないけど、蘭の前にもこれからについての選択肢は一杯転がっているはずだ。それをどう選ぶかによって将来ってのはみえてくるんだと思う・・・・これからどうするかが大事なんだと思う・・・・思うばっかりで悪いけれど」

 

「・・・・なんとなくですけれど」

 

彼女は微笑む。

 

「一夏さんのいおうとしていることは、本当になんとなくですけれどわかりました」

 

「そっか、役に立てたかわからないけれど」

 

「いえ」

 

「お客様」

 

話をしているとクラスメイトの一人がやってくる。

 

「申し訳ありませんが時間です」

 

「あ、はい!それじゃ、一夏さん」

 

「おう、またな」

 

彼女が外に出ると「すまん!」「遅いよ!もう!」という兄妹の騒がしい声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、一夏さん」

 

休憩となって、一夏が休憩をする為に教室を出ようとするのをセシリアは呼び止める。

 

「ん、セシリア?」

 

「これから休憩ですわよね?よろしかったら一緒に行きませんか」

 

「おう、いいぞ」

 

「本当ですか!」

 

「あ、あぁ」

 

物凄い勢いで距離を詰められて一夏は驚きながらも肯定する、するとセシリアは天にも舞い上がる気持ちです!というような喜びの顔を浮かべていた。

 

「それで、セシリア、どこかいきたいとか、そういう希望ってある?」

 

「実は、これが」

 

持っていたパンフレットを取り出してみせたのは射的だった。

 

「射的?」

 

「ISの訓練などで銃を使うことはありますけれど、こういう遊びの場というのがなくて、どうせだから体験してみたいと思いまして」

 

「なるほど、じゃあ、いってみるか」

 

二人が射的をやっているクラスに向かうと。

 

入口のところで五反田兄妹とであった。

 

「弾、蘭!」

 

「よぉ、一夏!」

 

「あ、はじめまして、五反田蘭です」

 

「セシリア・オルコットですわ」

 

それぞれ挨拶して中に入る。

 

「弾も射的を?」

 

「いや、適当にまわってた。へぇ、ここ射的なのか」

 

「おにぃ、あれ!あれをとれる!?」

 

蘭が指差したのは巷で人気が出ているパンダ犬のぬいぐるみだった。

 

パンダが犬のきぐるみをかぶっているものだが、人気が高いらしい。

 

「よし、任せろ」

 

「そういえば、五反田さんは銃を扱うのでしたね」

 

「弾でいいですよ?まぁ、そこそこ腕はいいです」

 

「でしたら、勝負しませんか?どちらが多くの標的を落とせるか」

 

「・・・・いいっすね。負けても恨みっこなしっすよ」

 

「えぇ」

 

「「(あ、厄介なことになった)」」

 

一夏と蘭の二人が思った直後、パンパンとモデルガンから次々と弾丸が発射される。

 

数分後。

 

 

「も、もう勘弁してください。お願いですからぁ」

 

クラスの代表らしき人が涙で顔を濡らしながら弾とセシリアに懇願する姿がそこにあった。

 

二人だけによって置かれていた景品がねこそぎ撃ち落されてしまっていた。

 

最初は凄い!と騒いでいたがおそろしい勢いで奪われていく景品にそのクラスの人たちは顔を青ざめてしまう。

 

「あぁ・・・・・すいません、やりすぎました・・・・」

 

「私も年甲斐もなく興奮してしまいましたわ」

 

さすがにやりすぎたと感じたのだろう、二人は謝罪して、手に入れた景品のほとんどをクラスに返却して、自分達は三つほど手にとってクラスを出る。

 

「さすが、セシリアだな・・・・やりすぎだけれど」

 

「おにぃもさすが・・・・滅茶苦茶やりすぎたけれど」

 

「あれ!?俺だけ厳しい!?」

 

「でも、弾さんも中々の腕ですわ。これでISが操縦できたら国家代表になれたかもしれないです」

 

「お世辞でもどうも・・・・ISかぁ・・・・そういや触ったことないな」

 

「あれ?俺が動かした後に一斉に検査したんじゃないのか?」

 

「おにぃは色々不運が重なって検査いってないんですよ」

 

織斑一夏がISを動かしてからというものの、他にも男性で動かせるものが存在するのでは?と考えた政府によって地域で検査が行われた。

 

ただし、強制ではないため、全員が検査に訪れたかといわれるとそうではない。

 

五反田弾のようにアンデッド退治や欠席した授業の補習、家の手伝いとか諸々の理由で検査にいっていないものも少なくなかった。

 

「私の国でも検査は行いましたが、強制でしたわね」

 

「・・・・もし、おにぃがIS動かしたら橘さん、泣くんじゃないかな?」

 

「いやぁ、あの人は泣かないと思うぞ」

 

弾の脳裏には常に冷静で鬼のように厳しい橘朔也のイメージがある。

 

ライダーとして鍛えてくれた師匠のイメージはそう簡単に崩れ去る事はない。

 

それから、弾達とわかれて一夏とセシリアは休憩時間ぎりぎりまで色んなものを見て回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・どういう状況だ、これは?」

 

「俺に、質問するな」

 

休憩を終えて、教室に戻ろうとした一夏と始は山田先生と千冬に誘導されて、薄暗い場所に来ていた。

 

二人は執事姿ではなく、ファンタジーせかいにでてくるような王子の格好をしている。

 

教師に連れて行かれて、「これに着替えろ」といわれて渋々着替えた。

 

「てか、なんで俺と始なんだ?」

 

「さぁな」

 

二人が他愛もない話をしていると目の前に映像が流れる。

 

『むかーしむかーし、あるところにシンデレラという名前の女の人がいましたぁ』

 

「し、シンデレラ・・・・」

 

「この声、のほほんさん?」

 

首をかしげている二人の前でシンデレラの話が流れる。

 

だが、それは実際のものと少し、いや、かーなーり違いがあった。

 

『だがぁ、シンデレラというのは仮の姿ぁ、実際はいくたもの戦場を駆け抜けて各国の情報を奪取する超優秀なスパイのコードネームなのだぁ』

 

「「いやいやいやいや!?」」

 

あまりにぶっ飛んだ内容に一夏と始はつい叫んでしまう。

 

『そして、今日も王子の王冠に隠された情報と王子様を狙ってシンデレラは現れるのでしたぁ、おりむー、とがしー、頑張ってね~』

 

「なぁ・・・・始」

 

「・・・・奇遇だな、お前の言いたい事がわかるぞ」

 

「「(すっげぇ、嫌な予感がする!?)」」

 

直後、一夏のところにクナイが飛んでくる。

 

「え?わぁぁぁぁ!?」

 

飛んできたクナイを慌てて避けて一夏が視線を見上げると白いドレスを纏った凰鈴音が現れる。

 

片手に青龍刀を携えて。

 

「いやいや、なんで!?」

 

「安心なさい、刃は落としてあるから!痛いだけよ!」

 

「おーう、これが修羅場というヤツだな。凰、一思いにやってやれ」

 

「始!?」

 

「王冠を寄越しなさい!!」

 

青龍刀を振り下ろして降り立つ鈴音を一夏は慌ててよける。

 

始は既に安全圏に引っ込んでいて、被害を受ける心配はない。

 

「な、なんなんだぁ!?」

 

「いいから、さっさと王冠をよこし」

 

「二人とも、注意した方がいいぞぉ」

 

直後、鈴音は後ろに跳んだ。

 

少し遅れて、彼女がいた場所が小さく抉れる。

 

「狙撃・・・・セシリアね!」

 

「実弾!?」

 

「いや、ゴム弾だな・・・・当たれば痛いな」

 

「本当に他人事だなぁ!始!!」

 

「そりゃ、他人事だし」

 

次々と飛んでくるゴム弾から逃げながら一夏は叫ぶ。

 

「てか、二人が狙っているのは王冠なんだから、さっさと渡せばいいじゃねぇか」

 

「そ、それだぁ!」

 

振り下ろされる青龍刀を避けて、一夏は王冠に手を伸ばす。

 

『あぁ、なんということでしょう~。何人ものシンデレラに狙われながらも王子様は決して王冠を手放そうとしません。王子様にとって国は全て、そして、象徴である王冠を手放すことなんてありえないのです~』

 

「ん?」

 

頭上から聞こえたスピーカーに意識を向けた瞬間、体に激しい電撃を受けた。

 

「スタンガンよりも威力高いな」

 

「な、な、な」

 

『あぁ、なんと国を思う心が深いのでしょうかぁ~シンデレラに狙われながらも彼らは王冠を手放そうとしないのです』

 

「なんだそりゃぁぁぁぁあ!?」

 

「なるほど、痛い目見てまでも王冠を手放したいか。痛い目見て王冠を奪われるかのどちらかなんだろうな」

 

「状況に納得してんじゃねぇ!?てか、狙われているの俺だけ!?」

 

「みたいだな。こっちくんじゃねぇぇぇ!」

 

ダッシュしてくる一夏から逃げるように始は傍にあった大きなドアの向こうに隠れる。

 

一夏はドアに鍵を閉めた。

 

「あけなさいよ!一夏ぁ!」

 

「やだっ!殺される!」

 

「・・・・剣林弾雨って、こんなことをいうのかねぇ?」

 

「・・・・始、始」

 

やり過ごそうとしていた二人に、テラスの向こうの茂みからシャルロットが姿を見せる。

 

「シャルロット?」

 

「こっちにきて、ライフルの死角だから撃たれる心配はないよ」

 

「よし」

 

「待ってくれ」

 

二人はシャルロットの隠れている茂みに辿り着いた。

 

今更なのだが、襲い掛かってきた鈴音も遠くで狙撃しているセシリアも白いパーティードレスを纏っていて、シャルロットも同じ格好をしている。

 

「・・・・」

 

まるで絵本から抜け出したお姫様のような格好が似合っていて始は見惚れてしまう。

 

「始?どうしたの」

 

「あ、いや、なんでもない・・・・すまんすまん」

 

「なぁ、これからどうしたらいいんだ?」

 

「えっとね・・・・詳しい事はいえないんだけれど、凰さんやオルコットさんの狙いは織斑君の持っている王冠なんだ・・・・それをなんとかすれば」

 

「なんとかって、外そうとすると電撃走るんだぜ!?」

 

「え、そうなの!?」

 

シャルロットは驚いた顔をして始を見る。

 

「なんで、俺を見るんだ?」

 

「あ、なんでもない・・・・」

 

目があうと慌ててそらすことに気になりながらもこれからのことを話し始める。

 

ガサガサ!

 

近くの茂みが揺れて三人が身構えていると。

 

「一夏!始・・・・ここにいたのか」

 

「箒・・・・まさか、箒も」

 

「落ち着いてくれ。今は狙わない・・・・それよりも始はすぐにここから逃げろ」

 

一夏が何故?と尋ねようとする。

 

だが、箒の口から説明される必要はなかった。

 

何故なら。

 

「み・つ・け・たぁ」

 

頭上から聞こえてきた声に始は確認せず逃げた。

 

「あ、逃がさないわよ!」

 

あっという間に始は近くにあった階段を駆け上がっていく。

 

「・・・・・えっと・・・・・」

 

「見つけたわよ!一夏ぁ!」

 

「覚悟なさい!」

 

「やべっ!?さらば!」

 

痺れを切らして姿を見せた二人に一夏は全速力で逃げる。

 

「・・・・さて」

 

小さく頷いて箒はどこに隠し持っていたのか、日本刀を取り出して一夏が向かったのとは別の階段を昇っていく。

 

「あ、始・・・・」

 

シャルロットは少し慌てながら彼を追いかける。

 

「(どうしょう・・・・王冠を取ったら電撃が流れるなんて・・・・)」

 

ことのはじまりは少し前、教室に更識楯無がやってきた事がはじまりだった。

 

彼女は箒やセシリア、自分達を集めて、提案してきた。

 

――生徒会のだしものに参加してくれない?

 

クラスの出し物が忙しくてそんな余裕はないため断ろうとしたが彼女が勝者には男子と相部屋になれる権利が手に入るというえさにまんまとつられてしまった。

 

シャルロットとしてはこれ以上、楯無を始に近づきさせたくない!という気持ちがあって参加を決意する。

 

だが、

 

「(電撃を浴びせてまで王冠を取るなんて・・・・)」

 

王冠を取れば始に電撃が走る。

 

始が傷つく。

 

そんなことをシャルロットはしたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、富樫始と更識楯無は城の広場のような所で大絶賛、戦闘をしていた。

 

「おい!こんな企画のためになんで命狙われなきゃならんのだ!」

 

瓦を手裏剣のように投げながら始は叫ぶ。

 

みためはただの瓦だが、よくみると側面が鋭くなっている。当たれば痛いだろう。

 

ソレに対して、楯無は扇子で全てを叩き落す。

 

瓦を叩き潰している辺り、ただの扇子ではないだろう。

 

「安心して、私が狙うのは、命は命でも貴方のハートだから!」

 

「しゃれにならねぇ!お前の場合!目がマジだ!」

 

楯無はにこりと笑いながらも傍に転がっていた模造刀を振り下ろす。

 

傍に転がっていた鎖鎌を手にとって刃を受け止める。

 

どれも危険性はないが当たれば痛いだろう。

 

「うふふふふふふ、王冠を手に入れたらあんなことやこんなことを貴方と一緒に楽しむ」

 

「何を企んでいるのか聞きたくねぇ・・・・」

 

「そ・れ・に」

 

ずぃっと、楯無は距離を詰める。

 

「私だけが得しないようにちゃんとシャルロットちゃんにもチャンスを上げているわ・・・・あの子はそれを無駄にするかもしれないけれど」

 

「チャンス?無駄?どういう」

 

「一夏君や貴方の頭上にある王冠を手に入れた子は手にいれた王子様と一緒の部屋で生活が出来るという条件があるのよ」

 

「おいおい・・・・」

 

始は状況を理解した。

 

「いっておくけれど、貴方が電撃で少し痛い目をみることになったとしても王冠は手に入れるわ」

 

そういう楯無の目は本気だ。

 

 

本気で彼女は始の王冠を奪うつもりでいる。

 

「・・・・悪いが、最後までこいつは死守させてもらうぜ!」

 

思いっきり距離をとると始はそのまま全速力で逃げた。

 

「こいつを死守すれば俺は一人部屋だからな。今度こそ平穏な生活!」

 

「に・が・さ・な・い♪」

 

二人の鬼ごっこは続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、織斑一夏は。

 

「人数増えてるぅ!?」

 

セシリアと鈴音とは別に観客だった人たちも参加しても大捕物へと発展していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは悩みながらも始を探していた。

 

一般の人も参加することになり、特別に作られたフロアのほとんどがエリア指定されたため、中々見つからない。

 

さらに、参加者の中での潰しあいが激しい為、中には壁にもたれて気を失っている生徒らしき姿もある。

 

一般といっても捕物?に参加希望者だけで、他の人は設置されている監視カメラからこちらの様子を見ているはずだ。

 

「(どうしょう・・・・)」

 

未だに王冠を手に入れることにシャルロットは抵抗があった。

 

確かに始と一緒の部屋にはなりたい。

 

だが、そのために始に電撃を浴びせるというのはどうなのだろうか?

 

そこまでして手に入れるべきなのかというところでシャルロットは止まっている。

 

「とにかく、始を」

 

先を行こうとした彼女の前にふらり、と人が現れる。

 

避けようとしたシャルロットは男の手に握られていたナイフに気づいた。

 

「お前は邪魔だ」

 

ナイフを避けようにも間に合わない。

 

シャルロットは目を瞑る。

 

だが、いつまで経っても衝撃が来ない。

 

彼女が目を開けると、そこには始がいた。

 

「始・・・・?」

 

「無事みたいだな。ったく」

 

富樫始はナイフを手で受け止めている。

 

男は驚きながらもナイフを手放して後ろに跳ぶ。

 

「貴様が二人目の男性操縦者か」

 

「・・・・そのことを知ってるってことはアンタはIS委員会の関係者か?いや・・・・違うな」

 

「私は先導者だ」

 

「・・・・は?」

 

男の言葉に始は目を細める。

 

「お前は存在してはならない」

 

懐からもう一本ナイフを取り出して男は笑う。

 

「篠ノ之束をどう思っている?」

 

まるで普通に会話を投げかけるみたいに飛んできた内容は始の心を揺さぶるには十分な一言だ。

 

ISの生みの親であり、世界を狂わせた張本人。

 

そして、富樫始の人生を狂わせたことに加担している人間だ。

 

「お前にいう必要はない」

 

「あるとも、異常者。お前は織斑一夏と同じようにISが使える。彼と接点があることからもしかしたら、と考えるだろう・・・・だが、富樫始は少し前に死んでいる。だが、ここに富樫始を名乗るものがいる・・・・貴様は何者だ」

 

「俺は俺だ。富樫始」

 

「まぁいい・・・・そんなキミにあの方は反応し行動した」

 

男は目を動かさずに始を見る。

 

「キミを処分しようとした。だが、生きている。そこの女の子も」

 

視線がシャルロットに移るが始が前に出て阻止する。

 

「生きていたら悪いみたいな言い方だな」

 

「そのとおりだ。キミらは不要な存在だ。あの方が必要ないと下したのだから・・・・あの方が作り出した紅椿の存在によって証明された」

 

今まで無表情になった男の瞳に感情が浮き上がった。

 

汚物を、全てが妬ましいような。憎悪。

 

男が懐から銃を取り出すより前に始の拳が中の拳銃ごと打ちぬく。

 

拳銃が砕ける音と共に男はぐはっ!?と声を漏らして地面に倒れこむ。

 

「いいたいことはそれだけか?」

 

どこまでも冷たい瞳で始は見ている。

 

「やはり、お前は、異常だ」

 

「なんとでもいえよ。お前みたいに誰かに縋るようなヤツにいわれても響かねぇよ」

 

「あのお方のお蔭で世界は変わり、人類は進歩している。正しくないわけがない!」

 

「進歩した代償として蔑まれている奴らがいたとしてもか?」

 

「それはやむをえない犠牲、仕方のないことだ!進歩するのに切り捨てるべきものだ!それを何故、理解――」

 

男は最後まで言葉をいう事はなかった。

 

倒れているすぐ横、床に大きな穴が空いている。

 

「いい加減、黙れ。殺すぞ?」

 

低い始の声にシャルロットは息を呑む。

 

何度も、彼の低い声は聞いてきたはずなのに、恐ろしく思える。

 

まるで、別人になってしまったかのような始にシャルロットは動けない。

 

「始・・・・」

 

男はくぐもった声を漏らしてぎょろぎょろと目を動かす。

 

その目とシャルロットの目が合う。

 

男は笑いながら腰に隠し持った拳銃を取り出して発砲する。

 

真っ直ぐに弾丸がシャルロットの体を貫く。

 

はずだった。

 

飛んできていた弾丸を始は素手で掴む。

 

まるでみているかのような動きに男は目を見開いた。

 

「てめぇ・・・・」

 

マグマのように湧き上がる怒りをシャルロットは始から感じた。

 

「――シャルに」

 

弾丸を掴んだ手をさらに握り締めて始は拳を。

 

「――手を出すなぁ!」

 

一喝と同時に放たれた一撃は男の鼻をへし折り、完全に意識を失う。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

荒い息を吐きながら始は男を見下ろしている。

 

殴った手は怒りにぶるぶると震えていた。

 

手だけじゃない、体の全身が震えている。

 

それが激しい憎しみからくるのか、哀しみなのかわからない。

 

だが、

 

「(独りぼっちだ)」

 

シャルロットは自然に、彼に近づいて、震えている手を両手で包み込む。

 

「・・・・なぁ、シャルロット」

 

「なに?」

 

「俺って、やっぱり異常なんかなぁ」

 

違う、とシャルロットは否定するように彼の手を強く握り締める。

 

実際のところ、男の認識は間違っていた。

 

彼らの言う死亡した富樫始はクローン。

 

偽物を潰して本物、自分を取り戻しただけだ。

 

だが、それを男は勘違いした。

 

篠ノ之束の意思だと錯覚して、行動した。

 

男はそれを正しいと思い行動し、始を否定した。

 

富樫始は誰よりも優しく、傷ついてばっかり。

 

誰かを傷つけたりもした。

 

決して消えることはない罪もあるかもしれない。

 

それでも始は忘れない。

 

自分のしでかしたこと、犯したことを忘れずにいつも向き合っていた。

 

シャルロット(わたし)を助ける為とはいえ、手を汚した事に始はどこかで後悔している。

 

始は否定するかもしれないが、シャルロットは知っていた。

 

亡国機業に所属して日が浅い頃に、始が寝言で後悔の言葉を漏らしている事を、悩んでいる事を知っている。

 

そんな始をシャルロットは異常だなんて思わない。

 

「異常なんかじゃない・・・・異常なんかじゃないよ。始は、始は普通の人だよ。誰かの為に傷ついてばっかりの優しい・・・・私の大好きな人だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田弾は蘭、偶然遭遇した簪と一緒にシンデレラをみていた。

 

「なんつぅか、修羅場だよな」

 

「ですよね」

 

「うん」

 

ライフルを構えているセシリア、青龍刀で無力化させる鈴音、日本刀で野次馬を追い払う箒、それらから全力で逃げている一夏。

 

「一夏がどれだけヘタレかってのがよくわかる」

 

「一夏さん・・・・」

 

「大変だね」

 

三人がそれぞれの感想を漏らしていると蘭のポケットに入っているアンデッドサーチャーに反応が起こる。

 

「おにぃ・・・・」

 

「学園に近いな、一夏と始は抜け出すわけにはいかないから俺達でいくしかないだろな」

 

「・・・・うん!」

 

「おにぃも簪さんも気をつけて」

 

周りの人に気づかれないようにこっそりと抜け出す。

 

抜け出した二人はアリーナの近くに来ていた。

 

学園祭の間はアリーナを使用することはないので人はいない。

 

「・・・・危ない!」

 

簪が弾を突き飛ばしてはなれる。

 

直後、彼らのいた所を鉄球が直撃した。

 

トータスアンデッドは鉄球を構えて二人を睨む。

 

「すぐに倒すぞ」

 

「うん!」

 

ギャレンバックルとレンゲルバックルを装着した二人は目の前のアンデッドを睨んだ。

 

「「変身!」」

 

『ターン・アップ』

 

『オープン・アップ』

 

ギャレンはホルダーからギャレンラウザーを抜いて光弾を撃つ。

 

トータスアンデッドは腕の盾で防ぐ。

 

動きを止めた所をレンゲルラウザーで突く。

 

突かれたところが痛いのかくぐもった声をあげながらトータスアンデッドは仰け反る。

 

ギャレンラウザーの光弾がトータスアンデッドを狙う。

 

火花を散らして地面に崩れるトータスアンデッドを見ながら二人はオープントレイを展開する。

 

『ドロップ』

 

『ファイヤ』

 

『バーニングスマッシュ』

 

 

『ブリザード』

 

レンゲルラウザーから放たれた冷気にトータスアンデッドは自身の盾を構えるが、それごと凍りついた。

 

そこにギャレンがバーニングスマッシュを放つ。

 

盾をも砕いた一撃を受けてトータスアンデッドは爆発を起こす。

 

爆発が収まるとアンデッドバックルが開いたのを確認してギャレンはプロバーブランクを投げる。

 

投げたカードに吸い込まれてプライムベスタとなり、ギャレンの手元に戻った。

 

「よし、もど―」

 

戻ろう、といったところで爆発が二人に襲い掛かった。

 

爆発に巻き込まれた二人は地面を転がりながらもすぐに起き上がって、攻撃の方向を睨む。

 

「なんだ!?」

 

砂塵が舞い上がる中、ゆっくりと近づいてくるアンデッドがいた。

 

「っ!?」

 

その姿を見た途端、レンゲル―簪の脳裏に悪夢が過ぎる。

 

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

「簪!?どうした!」

 

震えて後ろに下がるレンゲルに対してゆっくりと砂塵を体に受けながらアンデッドが姿を見せた。

 

全身が金色で二つの剣を手に持っているアンデッド。

 

――転倒した車。

 

――黒い煙。

 

――ザクロのように弾けとんだ人の体。

 

そして。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」

 

「お、おい!?」

 

地面に座り込むレンゲルに戸惑うギャレンに金色のアンデッドが襲い掛かる。

 

ギャレンは攻撃を避けて、アンデッドを遠ざけるために拳を振るう。

 

だが。

 

「なっ!?」

 

拳を受けたアンデッドは平然とした顔で二つの剣を振り下ろす。

 

十字の火花を散らしてギャレンのアーマーが爆発する。

 

爆発に気づいたレンゲルが顔を上げるとギャレンが地面に崩れ落ちようとしているのを見た。

 

その途端、レンゲルは声にならない叫びを上げてレンゲルラウザーを振り下ろす。

 

アンデッドは攻撃を受け止めると刃を振り下ろした。

 

「あうっ!?」

 

火花を受けて変身が強制解除される。

 

「・・・・」

 

地面を見ると、同じように弾も変身が解除されていた。

 

アンデッドは鼻で笑い、そのまま姿を消す。

 


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