「始!」
倒れて動かないジョーカーにシャルロットは駆け寄る。
近づいて彼女は息を呑む。
ジョーカーから富樫始の姿に戻っている、しかし、彼の体は冷たく息をしていない。
「そんな・・・・ねぇ・・・・ウソ・・・・だよね?」
シャルロットはゆさゆさと彼の体を揺らす。
けれど、反応がない。
彼女の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「まだだよ・・・・まだ彼は死んでいない・・・・シャルロットさん、これを使うんだ」
ヒューマンアンデッドはプロバーブランクを差し出す。
「これを・・どうすれば・・」
シャルロットの質問に彼は無言でその場に寝転がる。
すると、腹部のアンデッドバックルが音を立てて開く。
「封印しろって・・・・ことですか?でも・・・・」
「この場にハートスートのカードが全て、揃っている・・・・、後は僕を封印すれば・・・・もしかしたら彼が帰ってこられるかもしれない」
「・・・・でも」
「大丈夫」
それだけいってヒューマンアンデッドは目を瞑る。
シャルロットは意を決しプロバーブランクをアンデッドバックルに押し込む。
緑色の輝きを発してカードの中にヒューマンアンデッドが封印され、ハートスート2“スピリット”がシャルロットの手の中に落ちる。
「でも・・・・これだけで、どうしたら」
おろおろしているシャルロットの前で手の中にあるプライムベスタが勝手に動いて始のジョーカーバックルに読み込まれる。
『スピリット』
途端、両目を開いて始が起き上がった。
「始・・?無事」
「ハートスートのカテゴリーAをよこせ」
「え?」
低い声で呼ぶ始にシャルロットは戸惑う。
「持っているだろう?渡せ」
「・・・・キミは、誰?」
シャルロットは目の前にいる始が始じゃないことに気づいて下がろうとした。
「俺が誰というのはこの際どうでもいい・・・・お前はコイツを失ってもいいのか?」
「嫌だ!」
彼女は叫ぶとポケットの中から、偶然入っていたカテゴリーAのプライムベスタを取り出して、始に渡す。
受け取ったカテゴリーAをバックルに読み取らせる。
『チェンジ』
黒い水が弾け飛んでカリスへと変身した。
「ふっ!」
カリスは地面を蹴ると、おぞましい化け物に拳をたたきつけると、ブレイドの横に着地した。
「は、始!?お前、無事に・・・・」
「ブレイド、時間がない。カテゴリーKのカードを渡せ」
「え・・・・あ、おう・・・・」
ブレイドはラウザーからプライムベスタを取り出して渡す。
「後はコイツ次第だ」
受け取ったプライムベスタをみて、カリスは小さく呟いた。
「え・・?」
「始!」
言葉の意味をブレイドが尋ねようとし、シャルロットがカリスに近づこうとする。
瞬間、ラウザーにプライムベスタを読み取らせた。
『エボリューション・キング』
その瞬間、至る所からハートスートのプライムベスタが飛来してカリスの体の中に消える。
眩い光にカリスはシャルロットごと包み込まれ消えた。
「いつまでそうしているつもりだ?」
「あん・・・・」
富樫始は呼ばれて振り返るとそこには男がいた。
自分と同じ顔立ちをした男、だが、全く違う存在だと始は気づく。
「誰だ?」
「“相川始”・・・・ジョーカーだ」
「あぁ、オリジナルか」
「いつまで、ここにいるつもりだ?」
「いつまでって、既に化け物に」
「お前はまだ人間に戻れる・・・・いや、少し語弊があるか」
「は?」
「富樫始、お前に守りたいものはないのか?」
「俺の・・・・守りたいもの?そんなものないね」
「本当にないのか?」
真っ直ぐに相川始に見られて富樫始は言葉を詰まらせる。
「お前は復讐というもので全てを隠して本当の思いを見失っている。それを思い出さない限りここから出られないぞ」
「俺の本当の思い?」
あぁ、と相川始は頷いて横にずれる。
富樫始は目を見開く、相川始の後ろにはシャルロットがいた。だが、彼女は意識を失っているようで目を開ける様子がない。
「お前には守りたいものがないのか?」
「・・・・・・」
問われて富樫始は黙る。
――守りたい、ものはある。
彼の脳裏に今までの記憶、触れ合った人々の姿が過ぎる。
そして。
「こんな俺に何が守れる?こんな・・・・人じゃなくなった俺に守れるものがあるのか!」
「・・・・・・」
「答えろよオリジナル!」
「そんなもの俺が知るか、自分で考えろ」
「っ!」
突き飛ばされて富樫始は黙り込む。
「・・・・まだ、俺は守れるのか?」
「お前が望むのなら」
「そっか・・・・どうすればいい?」
「十三体のアンデッド全ての力を引き出し使いこなせ、そして外で暴れているジョーカーの成りそこないを封印しろ、そうすればお前はジョーカーとして封印されることもない」
「そっか・・・・わかった」
「GUAOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「しまっ!」
化け物は急にブレイドから標的を変えて動かないカリスとシャルロットに向かっていく。
止めようとするが化け物の腕に蹴られて木に叩きつけられる。
「・・・・」
怪物が迫る中、ハートスート全てのプライムベスタがカリスの前に現れると体に吸い込まれていく。
カリスの姿が変わる。
黒かった姿が全体的に赤くなり複眼が緑に変化し、胸部にはハートスートのカテゴリーKのパラドキサアンデッドの紋章が刻印される。
十三体のアンデッド全てと融合したカリスの強化形態・ワイルドカリスはシャルロットを抱えて空に飛ぶ。
直後、化け物が二人のいた場所を襲う。
ワイルドカリスは離れた場所にシャルロットを寝かせる。
「ここで、休んでいてくれ」
眠って動かない彼女の顔を見て、呟いた。
醒鎌ワイルドスラッシャーをホルダーから抜いてワイルドカリスは目の前の敵を睨み、ブレイドの方を見た。
「手を出すな」
ブレイドは無言で頷く。
呻る化け物にワイルドカリスは地面を蹴ってワイルドスラッシャーで次々と切り刻んでいく。
化け物は巨大な手でワイルドカリスを叩き潰そうとするがそれよりも早く、後ろに回り込んでワイルドスラッシャーを振るう。
体から緑色の血を噴き出しながらも化け物はワイルドカリスを叩き潰そうと動ける手を振り回す。
だが、ワイルドカリスはそれらを受け止めるか斬りおとして攻撃を防いでいた。
「GUAOOOOOOOOOOOOO!」
「騒ぐな」
叫んだ化け物の顎に強烈な蹴りを叩き込んでワイルドカリスは後ろに跳ぶ。
怪物と適度の距離を置いてカリスアローにワイルドスラッシャーをコネクトさせて片方の手を空中に伸ばす。
カリスの体から全てのプライムベスタが飛び出して一枚のカード“ワイルド”となる。
ワイルドをカリスアローで読み取る。
『ワイルド』
カリスアローから放たれたワイルドサイクロンが化け物の体を貫く。
攻撃を受けた化け物は最後に大きく鳴いて地面にひっくり返る。
倒れた拍子に腹部のバックルが音を立てて開く。
ワイルドカリスはワイルドベスタを取り出して投げる。
バックルに刺さったワイルドベスタに怪物が取り込まれて戻ってくる。
ワイルドカリスの手の中にはジョーカーのカードがあった。
「・・・・・・」
ジョーカーのカードを仕舞って去ろうとするワイルドカリスをブレイドが黙って見送ろうとする。
「待ってくれ!」
「・・・・箒?」
ワイルドカリスの前に紅椿を展開して箒が降り立つ。
まさか、攻撃するのではと身構えたブレイドだったが彼女の行動に動きを止めてしまう。
「すまなかった!始!」
紅椿を解除して箒は思いっきり頭を下げる。
「もう何を言っても遅いかもしれない・・・・でも、これだけはいわせてくれ!すまなかった」
頭を下げたままなので目の前のワイルドカリスがどうしているのかわからない。
殴られても構わない。
今、思っていることを始に伝えるためにきた。
箒はそれだけのためにここにいる。
身構えていると、ぽん、と頭の上に手が置かれた。
「え・・」
「過去の事は振り返らない主義に変わったんでね。もう、気にしてない」
「始・・・・」
「またな」
そういって、ワイルドカリスはシャルロットを抱えてその場から消えた。
変身を解除して一夏は箒に近づく。
「箒・・・・」
「これで・・・・私は許されたと思わない。もう、間違わないようにこれから気をつける。だから、見ていてくれ・・・・そ、それと・・・・すまなかった一夏」
「俺は気にしていないよ」
「でも・・すまない」
もう一度深く箒は頭を下げた。
「ん・・・・・・あれ?」
「よーやく起きたか、眠り姫め」
「は、始!?」
感じた温もりに体を起こそうとしたシャルロットは始に背負われている事に気づいた。
慌てた彼女は後ろに倒れそうになる。
「なにやってんだ・・・・頭から落ちたら痛いだけじゃすまないぞ」
「ご、ごめん・・・・・・その、始だよね?」
「富樫始ですよ。俺があのむかつくクローンに見えるか」
「う、ううん!そんなことない・・・・でも、無事なの?」
「無事といっていいのかわからないけど、まぁ、無事かな・・・・」
「そうなんだ・・・・よかった・・・・」
「・・・・あー、それとな。シャルロット」
「ん、なに?」
「 だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「もう伝えたからな。聞こえていないなら諦めろ」
「え、待ってよ!もう一回!もう一回だけ言ってくれない!?」
「いやだね。こんな恥ずかしい事何度もいえるか!」
「そんなぁああああああああ!」
「ったく(今度からしっかりいってやるよ・・・・愛してるってな)」
誰もいない道を富樫始は歩いていく。
愛しい人と一緒に進んだ。
今回の出来事を一夏はBOARDのメンバーに話した。
始のことについては保留となり、残りのアンデッドを捕獲することを優先する。
「危険な事にならない限りキングフォームの使用を禁止する」と橘と剣崎にいわれて一夏は大人しく従う。
合宿は一夏達が不在の間も問題なく進行していた。
途中参加で色々と遅れていた一夏は泣きそうになったがラウラやセシリアといった代表候補生の手助けを借りて日が沈む前に全てを終わらせる。
弾には終わった後に攻撃をした事を謝ったら「今度、ご飯奢れ!」ということで落ち着いた。
蘭がいたことには驚いたが兄の看病に疲れて眠っていたのでそっとしておいた。
最後に千冬に報告したら「無茶をせず私に頼れ」と思いっきりハグされて嫉妬が飛んで来た事を記しておこう。
富樫始をめぐる因縁もこれで終わったのだと一夏は勝手に思っていた。
だが、違った。
ジョーカーの封印は舞台の一幕が下りたに過ぎなかった。
「いやぁー、侵食という力を与えて野に放ってみたけれど、全然ダメダメだったなぁ」
誰もいない空間でキーボードを動かしながら篠ノ之束は笑顔で呟く。
「本当はISのシールドエネルギーとか搭載しようと思ったんだけどなぁ、途中で脱走されたせいで記憶が中途半端でなにもかも不完全になってしまうなんて束さんも予想外だよ~。
でも、でも、侵食は使えたなぁ・・・・まさか、ジョーカー因子を吸収して自らをジョーカーに変えてしまうなんて、これはこれで成功なのかもねぇ~」
データを保存しながら次は紅椿に移る。
「紅椿についてはほとんど性能を明かす事ができなかったから、まぁ、大人達がうるさくいうこともないかなぁー、にしても」
笑顔だった束は二つのデータをゴミ箱に送る。
「この子達が私を裏切るなんて思わなかったなぁ・・・・もう、悪い子には罰を与えないといけないなぁ・・・・・ゆっくり考えよっと・・・・さぁて、次はこれかなぁ~」
別のパネルにはあるものが映っていた。
三つの人の形をしているものをみて、束は微笑む。
第二幕が誰も知らないところであがろうとしている。
次回は本編から外れた番外編のようなもの、もしかしたらみたいなものばっかり~。