仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第二十三話

“富樫始だった”ジョーカーは誰もいない森の中を歩き続ける。

 

人間だった理性はもうないに等しい。

 

彼にあるのは戦うことへの闘争本能と内にとぐろを巻く目的のない復讐心のみ。

 

理性を失い、記憶が混濁し、彼の中にあるのは他者へのマグマのように煮えたぎる激しい憎悪だった。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

一歩踏み出そうとした途端、ジョーカーの体から銀色の光が噴き出すと同時に緑色の血が噴き出る。

 

「グッ」

 

膝をついて座り込む。

 

まただ、

 

ジョーカーは苛立つ。

 

体に激しい痛みが走る。

 

――原因はわかっている。

 

人間の時に持っていた異物だ。

 

自らを抑え込もうとしていた邪魔なものを弾き飛ばした時に何故か、これだけは外れず、ジョーカーを蝕んでいた。

 

まるでジョーカーを追い出そうとするみたいにずっと攻撃を加えている。

 

その度に体から血が噴き出す。

 

だが、ジョーカーは止まらない。

 

全ての始祖を倒す。

 

そして、全てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、とんでもない無茶をやらかしたな・・・・昔のお前を見ているようだ」

 

「いやぁ・・・・そういうところまで似ちゃったのかなぁ・・」

 

ブレイドとギャレンの戦いから少し時間が流れて旅館に剣崎と橘の二人がやってきていた。

 

弾は旅館の一室を借りて寝ている。

 

「お二方、のほほんとしているところ悪いが、あれは止めなくていいのか?」

 

千冬が指差した所には寝ている弾の耳元でお説教をしている蘭の姿がある。

 

弾が怪我をしたという連絡を受けて親族を連れて行くために橘が蘭に連絡すると「いきます!」といって学校を早退してついてきた。

 

そして、状況を知った蘭は弾を責めている。

 

傍では簪と睦月がおろおろしていた。

 

「もう!おにぃは一夏さんよりバカなんだからしっかりしてよねぇ!」

 

「おい・・・・俺が一夏よりもバカっていうのは納得できねぇぞ」

 

「病人は口出ししない!」

 

「うっ・・」

 

蘭の威圧に弾は何も言えなくなる。

 

その間も延々と説教は続いた。

 

「だが、俺も弾と同じ考えだ。ジョーカーが危険だというのは同意だ」

 

「・・・・」

 

橘の言葉に剣崎は黙る。

 

昔も橘と剣崎はジョーカーのことで対立して互いに戦った。

 

まるでそれを再現されているような気分だ。

 

「ヒューマンアンデッドを見つけるために一夏君は動いています。俺も行きます」

 

「僕も行くよ!」

 

「・・・・剣崎さん、白井先生、私も同行していいだろうか?」

 

「織斑先生?」

 

「生徒達は山田先生に任せている・・・・一夏の事が心配なんだ。協力させてもらえないだろうか・・」

 

「わかりました・・・・・・橘さんはここで待機してもらえますか?」

 

「あぁ、それと睦月は」

 

「僕は、少し話したい相手がいるんですけど」

 

「そうか、なら頼む」

 

剣崎と虎太郎、そして千冬は虎太郎の車に乗って一夏のブルースペイダーの反応を追跡する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、反応がない」

 

一夏はアンデッドサーチャーを使ってヒューマンアンデッドの行方を捜していた。

 

彼なら、何か知っているかもしれない。

 

ジョーカーとなっている始を救うための方法を。

 

一夏には考えつかないような方法を知っているかもしれない。

 

「(でも、もし・・・・なかったら?)」

 

富樫始を人間に戻す方法がなかったら、自分は。

 

「(仮面ライダーとしてアイツを・・アンデッドとして封印しないと・・・・いけない?)」

 

――出来るのか?

 

かつての友を、アンデッドとして封印する事が出来るのか、と一夏は自問する。

 

考えながらブルースペイダーに戻ろうとした一夏は後ろに下がる。

 

彼が立っていた場所に真空刃が突き刺さり、アンデッドサーチャーが反応した。

 

「・・・・きしし・・」

 

「始・・・・のクローンか」

 

「きしし、またクローン、扱いか」

 

一夏は最初始が現れたのかと思ったが違う。

 

彼からは今まで対峙していた時に感じていた雰囲気がない。

 

「ざぁんねんながら俺はクローンじゃねぇ・・いや、これからオリジナルになるんだよ・・その前にまずは邪魔するお前を殺してやる」

 

彼の腕から真空刃が放たれるが前にオリハルコンエレメントが展開されて攻撃を弾き飛ばす。

 

「きしし・・・・行くぜ」

 

クローンの姿が大きく変わってパラドキサアンデッドへと姿を変える。

 

ブレイドはパラドキサアンデッドを前にラウズアブゾーバーから二枚のプライムベスタを取り出して読み取った。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

普通のままでは勝てないと判断した一夏はジャックフォームへと姿を変えてディアマンテエッジが付与されたブレイラウザーを構えて地面を蹴る。

 

パラドキサの片腕とブレイラウザーがぶつかる。

 

真空刃を繰り出そうとする動きを見てブレイドはオリハルコンウィングを展開して空へと逃げた。

 

「それで逃げたつもりかよぉおおおお!」

 

次々と真空刃を繰り出し、見えない刃が逃げたブレイドを追う。

 

ブレイラウザーで攻撃を防ぐがあまりの数の多さと見えにくい事が原因でほとんどの攻撃を受けてしまってブレイドは地面に叩きつけられた。

 

「うわぁっ!」

 

倒れたブレイドを無理やり起き上がらせてパラドキサアンデッドはブレイドのアーマーに拳を叩き込むと同時に至近距離で真空刃を放つ。

 

「がぁああああああああああああああああ!」

 

バチバチバチと火花を散らしてブレイドは後ろに吹き飛び、道路に飛び出して近くのガードレールに倒れこむ。

 

「がっ・・」

 

「きししし、この程度か?こっちは半分も出していないぜ?」

 

「そうかい・・」

 

ブレイラウザーを地面に突き刺してゆっくりと立ち上がる。

 

 

「俺は、まだ、一割も出していないけど?」

 

 

「・・・・あー、お前面白いわ」

 

 

 

瞬間、

 

 

 

「がっ!?」

 

パラドキサアンデッドの姿が消えたと思うとブレイドは竜巻の中に包まれて空高く舞い上げられ、そして地面に叩きつけられた。

 

 

「ほらほらー、次々いくぞぉ」

 

 

パラドキサアンデッドの腕から触手が伸びてブレイドを捕まえると同時に投げ飛ばし、きりもみキックをブレイドに叩き込む。

 

「その・・・・力・・・・まさか!?」

 

体がねじれるような痛みを感じながら地面に落下したブレイドを冷やかすようにパラドキサアンデッドは笑いながら手元に十一枚のプライムベスタを見せる。

 

それは始が持っていたものだった。

 

「あいつがいらなかったみたいだからなぁ・・・・利用さしてもらってる。きしし、お前は一人で十一体のアンデッドと戦っているというわけさぁ」

 

「そんなこと!」

 

起き上がってブレイラウザーを振るおうとした瞬間、顔面にモスリフレクトが展開されてブレイラウザーの攻撃が弾き飛ばされる。

 

「あるんだがなぁ、これが!」

 

笑いながらパラドキサアンデッドは空中へ舞い上がりブレイドに『スピニングダンス』を繰り出す。

 

「このままやられるかよ!」

 

『スラッシュ』

 

『サンダー』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

繰り出される攻撃に対してオリハルコンウィングを展開しライトニングスラッシュを叩き込む。

 

しかし、パラドキサアンデッドの攻撃が強力で弾き飛ばされる。

 

「・・・・ぐっ!」

 

あまりの強さにジャックフォームが強制解除され、通常形態に戻ってしまう。

 

「だからいっただろ?十一体のアンデッドと戦っているんだって、たかだか二体のアンデッドの力で勝てるわけがないだろ?それで、いつまで一割のままで戦うのかなぁ?」

 

ブレイドはふらつきながらラウズアブゾーバーから二枚のカードを取り出す。

 

「まーた、ジャックフォーム?無駄だって、その力でも勝てないからさぁ」

 

「そうだな・・・・」

 

きっと、ジャックフォームでは勝てない。白式の力と融合させても勝てるかどうかわからないだろう。

 

ならば、自分がとるべき手段は一つしかない。

 

『それと・・・・僕を封印したからって油断しないでね。キミが少しでも油断したら僕が体を乗っ取っちゃうから。クラブのキングやクィーンと違って、僕らは甘くないからね』

 

『封印が解除されたからブレイドとギャレンの力はより向上するけれど、危険度も増すから気をつけるんだ』

 

『アンデッドとの融合係数が高いとよりアンデッドに近づいてしまう。そもそもライダーシステムはどんなアンデッドの姿になれるという“ジョーカー”という存在を模して作られている。といっても使えるのはカテゴリーAのみだが・・・・、だが、カテゴリーAとの融合係数が大きくなるほど、他のアンデッドとの融合係数も大きくなり危険な状態になる』

 

 

脳裏に蘇ったのは倒した相手、そして、自分を導いてくれた人たちの言葉が響く。

 

 

『どんな時でも躊躇うな。結果に怯えていたら何も守れないぞ』

 

 

去り際に伝えてくれた友の言葉を思い出して一夏はラウズアブゾーバーに読み取らせる。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

 

「だから、学習」

 

 

『エボリューション・キング』

 

 

「ぐっ・・・・あぁ」

 

ブレイドの体を緑色の雷が包み込んだかと思うとラウザーから十三枚のプライムベスタが現れて、全身のアーマーがディアマンテゴールドへと進化し、左右の肩、上腕部、太腿、膝、脚部、右下腕部の十一箇所にカテゴリー2-Qまでのアンデッドクレスト、胸部にカテゴリーKの紋章が装備される。

 

重醒剣キングラウザーがブレイドの手元に現れる。

 

十三体のアンデッド全てと融合したブレイドの最強フォーム。

 

キングフォームへと進化した。

 

「はっ・・・・ははっ!面白いぞ!てめぇ・・・・や、やっぱり、お、俺は間違っていなかった!お前は殺しておくべきなんだ!」

 

パラドキサアンデッドはスピニングウェーブを繰り出すが。

 

「無駄だ」

 

ブレイドはパラドキサアンデッドの攻撃を掴んで受け止めている。

 

「お前の動きは・・・・見えている!」

 

叫ぶと同時にキングラウザーを振り下ろす。

 

振り下ろされた攻撃を受けたパラドキサアンデッドはトラックが追突されたかのように後ろに飛んでいって壁に叩きつけられた。

 

「返してもらうぞ。ハートスート全部・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・・あれは・・」

 

車で一夏を探していた虎太郎達はアンデッドの反応を探して道を走っていたのだが、前方にいる存在を見て息を呑む。

 

「一夏・・・・?だが、なんだあの姿は」

 

助手席にいた千冬は見えてきたブレイドの姿に息を呑む。

 

綺麗だった。

 

太陽の光を受けて反射し輝いている金色の鎧。

 

まるで、騎士を連想させる姿に千冬は目を奪われた。

 

「一夏君・・・・やばいよ!あの力は!」

 

「白井先生?何がそんなに」

 

白井虎太郎は酷く狼狽して剣崎は一言も喋らない。

 

「とにかく危険なんだ。すぐに」

 

「虎太郎!」

 

剣崎がハンドルを動かす、車が揺れる中、千冬は見えてしまう。

 

パラドキサアンデッドがこちらをみて、不気味に笑っていた。

 

 

 

 

 

「きしし!」

 

笑ったパラドキサは真空刃を放つ。

 

「っ!」

 

方向はブレイドではなくやってくる車に。

 

『マッハ』

 

アンデッドクレストが輝いてブレイドは走る。

 

真空刃が車に届く瞬間、ブレイドが間に割って入って再びアンデッドクレストが輝く。

 

『スラッシュ』

 

「デェェェェイ!」

 

切れ味が増したキングラウザーで真空刃を弾き飛ばしてスリップしそうになっていた車を片手で止めた。

 

ぎろり、とブレイドは目の前のパラドキサアンデッドを睨む。

 

アンデッドクレストが輝いてスペードスートのプライムベスタが特殊変化したギルドラウズカードが高速ラウズ機能によって読み取られる。

 

『スペード10』

 

『スペードジャック』

 

『スペードクィーン』

 

『スペードキング』

 

『スペードエース』

 

『ロイヤルストレートフラッシュ』

 

ラウズしたカードが眼前に出現し、キングラウザーを構えて地面を蹴る。

 

攻撃を見たパラドキサアンデッドは眼前にモスリフレクトを展開して防御の体制に入った。

 

「がっ!?」

 

パラドキサアンデッドが展開するモスリフレクトを切り裂いて一撃が炸裂する。

 

ブレイドの手が伸びてパラドキサアンデッドの心臓を掴む。

 

「や・・・・め・・・・」

 

「うぉおおおおお!!」

 

掴んだものを引きずり出すとパラドキサアンデッドは地面に真空刃を放つ。

 

爆発と煙でブレイドの視界が見えなくなる。

 

「・・・・・・一夏」

 

千冬が車を降りてブレイドに近づく。

 

ブレイドはキングラウザーを左手に持ち、右手には十二枚のハートスートのプライムベスタが握られている。

 

「・・・・・・・・」

 

がくっ、とブレイドが崩れ落ちて地面に倒れる。

 

「一夏!?」

 

倒れる直前に千冬が抱きとめると変身が解除されて一夏はそのまま意識を手放した。

 

ハートスートのプライムベスタをしっかりと握り締めて離さない。

 


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