仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第十七話

篠ノ之箒はある人物へ電話をかけた。

 

少しして、その人は電話に出る。

 

『もしもしひねもすぅ~、はぁい!みんなのアイドル篠ノ之束さんだよぉ!』

 

「(むっ!)」

 

かけて後悔し箒は電話を切ろうとした。

 

『あぁー、待って待って箒ちゃん!』

 

「姉さん・・・・」

 

『元気そうだね、わが妹よ~。わかってるよ。欲しいんだよね?キミだけの専用機が!そしていっくん達が戦っているアンデッドを倒したい!箒ちゃんが描いている強さを具現化するための力が欲しいと!』

 

「姉さん・・・・なんで・・」

 

 

「天才の束さんに知らないことなんてないのだぁ!」

 

箒は息を呑む。

 

天才というのは間違いない、姉である束はISを作った本人で、各国家が血眼になって行方を追っているのに見つからないのは天才といえるだろう。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは誰もいない屋上で富樫始と二人で夕焼けを眺めていた。

 

「みんなと一緒に行かなくて良かったの?」

 

目の前にいる始はどこかの学校の制服を着ていて無言で夕焼けを見ている。

 

シャルロット自身もどこかの制服を着ていた。

 

「・・・・あぁ」

 

「私といても楽しくない・・かもしれないよ?」

 

「そんなことないさ」

 

始は今まで見せた事がない笑顔で彼女を見る。

 

見たことのない、向けられた事のない笑顔、シャルロットの心臓がバクバクと大きな音を立てていた。

 

「大好きな子の傍にいてつまらないなんてことはないさ」

 

「・・・・・・それって・・・・・・」

 

「好きだ。愛しているシャルロット」

 

そういってぎゅっと始に抱きしめられてシャルロットは嬉し涙を流す。

 

始はゆっくりと顔を彼女へと近づけていく。

 

彼がやろうとしていることがわかって彼女は目をつぶって近づいてくる顔を待つ。

 

「(始・・・・・・)」

 

 

ゴンとシャルロットは床とキスをする。

 

「・・・・・・あれ?」

 

ゆっくりと起き上がって周りを見た。

 

いつも自分が使用している部屋。

 

周りを見てみるが始の姿はない。

 

当然の事だが、それが悲しい。

 

「はぁ~~~~~~~~~~~~~夢かぁ~~」

 

これでもかというほどため息を吐いてベッドの上に倒れ込む。

 

「(夢落ちだなんて・・・・・・なんか悲しい)」

 

しかも、告白して次の日にそんな夢を見ているのだから余計に虚しく感じる。

 

シャルロットは富樫始に告白をした。

 

けれど、返事は貰っていない。

 

彼が目的を果たし終えるまで、返事を待つことにした。

 

 

「(はぁ・・・・後10秒くらい寝ていたら)」

 

ちゃんとキス出来ていたのに、と考えた瞬間、ボンと彼女の顔が真っ赤になる。

 

「(な、なにを考えているんだろうね・・・・はは・・・・)」

 

「あれ・・・・」

 

苦笑してシャルロットは寝ようとしたのだが枕元においてある物に気づいてそれを手に取る。

 

小さなケース。

 

なんだろう?と思って中身を空けると銀色の小さいブレスレットが入っていて、始が書いたらしき文字があって。

 

『昨日は楽しかった。これは渡しそびれたプレゼントだ。出来たら大事にしてくれ』

 

と書かれていてシャルロットは笑顔になりブレスレットを手に取る。

 

「ほんっとうに・・・・不器用だね・・・・・・始は」

 

シャルロットは着替えて始に会おうと考えてベッドから出た。

 

 

「ねぇ、お兄さん」

 

富樫始は街中にあるコンビニから出て誰もいない公園に足を踏み入れた途端、後ろから声をかけられて振り返る。

 

「お小遣い頂戴」

 

ちなみに、声をかけてきた三人の中学生とは面識がない。

 

面倒だ。追い払うか、と考えた瞬間、一人がナイフを突きつける。

 

「・・・・・・そんなもの突きつけられても出すお金はねぇよ。失せろ」

 

「そんな態度にでれるんだ?状況わかってる?」

 

「そっちこそ・・・・・・」

 

状況わかってんのか?と中学生の持っているナイフに始は自らの手を突き刺す。

 

ずぶりと嫌な音を立ててナイフが手を貫く。

 

赤と緑の液体がナイフを伝って少年の手に流れる。

 

「ひっ・・・・・・あ・・・・」

 

「そーゆうもん持っているとこういう状況になりえるってことさ学習したか?クソガキども・・・・・・・・失せろ!」

 

始の一喝に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「・・・・・・さて、動くか・・・・」

 

公園の入口に停車させていた市販のバイクに乗って始は目的地へと向かう。

 

決着をつけるため。

 

 

 

 

臨海学校当日。織斑一夏はブルースペイダーに乗って前を走っているバスを追いかけていた。

 

本来なら彼もバスの中に乗る込むはずだったのだが“誰が一夏の隣に座るか?”で揉めに揉めたために痺れを切らした千冬が。

 

「お前はバイクがあるのだからそれで行け!その方が色々と楽だ」

 

ということで一夏はブルースペイダーで乗ることになった。

 

なったのだが。

 

「虎太郎さん・・・・大丈夫かな?」

 

一人だけとなってしまった虎太郎がバスの中でどうなっていたのか、ソレは想像にお任せする。

 

道中、立ち寄る予定のパーキングエリアに到着すると一夏のクラスメイト達がぞろぞろとブルースペイダーに群がってきた。

 

「わぁ、カッコイイバイクだね!」

 

「どこのバイク?見たことないなぁ」

 

「ねぇねぇ、少し解体させて~」

 

「ダメ」

 

最後の言葉だけ否定してから一夏は近くの自販機で飲み物を購入しようとして立ち止まる。

 

「え・・・・・・?」

 

一夏の目の前に立っている人を見て驚きの声を漏らす。

 

肩までにかかりそうな黒い髪、纏っているのは白いワンピース。

 

にこりと普段は浮かべないような笑みでこっちを真っ直ぐに見ている。

 

似ている・・・・けれど、有りえない。

 

――どういうことだ・・・・?

 

 

「ふふ・・・・」

 

混乱している一夏の前で小さく笑ってゆっくりと近づいていく。

 

何か言おうと口を動かすがぱくぱくと動くだけで肝心の言葉が出てこない。

 

「どうした?緊張しているのか?“一夏”」

 

「千冬・・・・・・姉?」

 

ようやく搾り出せた言葉がそれだった。

 

むっと目の前の少女は顔をしかめて、顔を近づける。

 

 

「マドカ・・・・」

 

口と口が触れ合いそうな距離で少女・マドカは囁く。

 

「私の名前は織斑マドカ・・・・」

 

「織斑・・・・マドカ・・・・」

 

「そう、それでいい」

 

マドカは満足したのか、一夏から離れる。

 

一夏が何か言おうとした瞬間、強い風が吹いて視界が一時的に塞がれた。

 

「・・・・あれ!?」

 

再び目を開けたとき、そこには誰もいない。

 

「・・・・・・」

 

夢でも見ていたのか?一夏は自分の頬をつねるが痛みは感じた。

 

「・・・・・・なんだったんだ。あれ・・・・」

 

呟くが答えるものなどいない。

 

 

 

 

長い道を走り、どれくらいの時間が流れただろうかバスは海が見える道を走っている。

 

ヘルメット越しから一夏は海を見ていた。

 

「(海かぁ・・・・来るの久しぶりだよな・・・・・・最後に来たのって)」

 

一夏の脳裏に蘇るのは親友達との海水浴。

 

なけなしの金を出し合ってローカル電車をいくつも乗り換えて低予算で海にたどり着いたときの高揚感。

 

思い出しただけで一夏の顔に笑みが浮かび上がる。

 

「っ!」

 

一夏はブルースペイダーを急停車させた。

 

中のみんなは騒いでいるのか一夏が止まっている事に気づかない。

 

バスとの距離が開いていく中、呆然と見ていた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

目の前にいたのはカリスによって顔を叩き潰され命まで奪われたはずの富樫始。

 

「どうして・・・・」

 

「その様子だと、全く調べようとしなかったみたいだな・・・・やれやれ・・期待した俺がバカだったわけか」

 

「どういう・・」

 

「こういう意味だ、バーカ」

 

富樫始は小バカにするような笑みを浮かべると懐からハートスートのカテゴリーAのプライムベスタをカリスラウザーにスキャンさせて漆黒の姿へと変わる。

 

『チェンジ』

 

 

「お前が・・・・カリス・・・・だって?」

 

「期待はずれだ」

 

直後、一夏はその場を離れる。

 

彼がいた場所をフォースアローが飛来した。

 

カリスから放たれる殺気を感じ一夏はブレイバックルにスペードスートのカテゴリーAを入れてターンアップハンドルを引く。

 

『ターンアップ』

 

目の前のオリハルコンエレメントを潜り抜けて一夏はブレイドに変身する。

 

しかし、ブレイラウザーには手を伸ばさない。

 

「何の真似だ?戦うつもりはないって態度か」

 

「教えてくれ・・・・なんでお前が」

 

「質問タイムはとうの昔に終わっているんだよ!」

 

再びフォースアローを放つ。

 

ブレイドは咄嗟に横に飛んで避けた。

 

「いくら俺が叫んでも耳にいれることはなかった。あの偽物が殺されたことだけをずっと胸に抱いて憎悪を俺に向けていた・・・・そんなお前に話す舌はもう持ち合わせていねぇんだよ!」

 

間合いを詰め込んで一気にソードボウをたたきつけた。

 

アーマーに火花が散ってブレイドは後ろに仰け反る。

 

「さぁ、立てよ。ブレイド・・・・俺はお前を本気で殺す。お前がその気でいかなくても俺は殺すぞ」

 

「・・・・・・」

 

 

「それとも同じ顔をしているから戦えないとでもいうつもりか?・・・・全く違う。いいか、俺とあの人形は“全くの別物”だ。どうだ?これで満足か?」

 

「そう・・・・か・・・・」

 

ゆらり、とブレイドは立ち上がる。

 

少し迷いがあるがそれよりも怒りの感情の方が大きい。

 

「だったら、俺も・・・・お前を“倒す”・・」

 

 

 

カリスアローとブレイラウザー、二つの武器が火花を散らしながらぶつかり合う。

 

相手の動きに注意しながら、次の自分のとる動きを検討しながら攻撃を繰り出す。

 

ブレイドの動きがよくなっていることにカリスは気づく。

 

「(前よりも戦闘を重ねたわけか・・・・)」

 

カリスの動きが前よりも激しく、強くなっている事にブレイドは気づく。

 

「(強い・・・・でも、なんだ?)」

 

ブレイドは戦いの中で奇妙な違和感が胸の中で湧き上がってくるが相手の動きに変な部分は見られない。

 

それに深く考える余裕がなかった。

 

「どうしたぁ!お前の実力はこの程度か?」

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

カリスアローのソードボウがブレイドアーマーを貫く。

 

アーマーに火花を散らしながらブレイドは地面に倒れ込む。

 

呼吸を整えるようにカリスは距離を置く。

 

「“倒す”・・・・か」

 

「・・・・・・はぁ・・・・はぁ・・なん・・だ・・」

 

「どれだけ怒り狂ったとしてもお前は倒すだけであって殺すまでの覚悟はない。ようは甘えん坊の餓鬼だってことだ・・・・そんなヤツに守られているなんてあいつらも弱者だな」

 

「取り消せ!!」

 

ブレイドは立ち上がる。

 

ブレイラウザーを持っている手が震えている。

 

恐怖によるものか、怒りによるものなのかわからない。

 

侮辱されたことが許せない、いろいろな事があっても必死で生きていこうとしている彼女達を、バカにした事が一夏は―ブレイドは許せなかった。

 

――何も知らないのに!

 

 

 

「何で・・・・・・あいつを殺した?」

 

ブレイドに向かってフォースアローを放つ。

 

攻撃を受けてブレイドは地面に倒れこむ。

 

「全く同じことばっかり、何も知らない赤ん坊の相手をしているようでムカツクぜ・・・・こんなのに」

 

カリスは無言でブレイドを見る。

 

「数年前の誘拐事件」

 

ぴくっ、とブレイドが反応した。

 

「あの時、お前と別に、もう一人の男の子が誘拐された」

 

「なんだと・・!?」

 

知らなかった事実に一夏は驚きの表情を浮かべる。

 

その間もカリスは淡々と語り始めた。

 

「片方は有名人の弟だから丁重に扱われた。しかし、片方の男の子は有名でもない凡人、即座に裏社会に売り飛ばされて実験モルモットのような扱いを受けた」

 

そして、とカリスは続ける。

 

「片方は救われて表の世界に戻り、モルモットの扱いを受けていた子はそのまま裏の世界にどっぷりと浸かり・・・・この力を手に入れた」

 

そういってカリスは告げた。

 

「わかるか?俺はお前と同時に誘拐された男の子だ。お前は覚えていないだろーが」

 

「ソレと・・・・あいつを殺したことと何の関係があるっていうんだよ!?」

 

「大有りだ。あいつは」

 

カリスが何かを言おうとした瞬間、道を開ける。

 

「なんの真似だ?」

 

「アンデッドがバスを襲おうとしている・・・・」

 

「なんでその事をお前がわかる!?」

 

「信じる信じないはお前の勝手だ。だが、俺を疑っている間に誰かが死ぬかもしれないぞ?」

 

「・・・・」

 

ブレイドは武器をしまい、ブルースペイダーに乗り込んで走り出す。

 

姿が見えなくなるまでカリスはその場から動かなかった。

 

「俺も・・・・甘いな・・・・・・ぐっ!」

 

 

跪いてカリスは苦しそうな声を漏らす。

 

変身が強制的に解除されてプライムベスタが地面に落ちる。

 

震える手でプライムベスタを掴もうとした時。

 

「っ!」

 

一瞬だったが、カリスの手が異形となる。

 

 

 

 

バスはバッファローアンデッドの襲撃を受けていた。

 

といっても、運転手が咄嗟にハンドルをきったおかげでバスが転倒するという最悪の事態は避けられた。

 

現在はセシリアがブルーティアーズで気をひきつけているのが見える。ブレイドはバイクのアクセルをさらに回してバッファローアンデッドに体当たりをした。

 

「一夏さん!」

 

「セシリア!大丈夫か?」

 

「なんとか・・・・やはり、アンデッドの相手は難しいですわね」

 

インターセプターを構えながらゆっくりとセシリアはブレイドの隣に降り立つ。

 

「俺に任せてみんなの方を守ってくれ」

 

「わかりましたわ!」

 

バッファローアンデッドは地面を何度も蹴りながらブレイドに襲い掛かる。

 

咄嗟に横へ飛んで攻撃を避ける。

 

そのままバッファローアンデッドは崖に激突するがダメージを受けた様子はない。

 

「・・・・こいつは頑丈そうだ」

 

速攻で決着をつけようと判断したブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを取り出す。

 

 

『サンダー』

 

『キック』

 

『ライトニングブラスト』

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

地面を蹴ってバッファローアンデッドに向かって雷撃を纏ったキックを放つがバッファローアンデッドは体制を低くして攻撃を受け止める。

 

「ぐあっ!?」

 

「一夏さん!」

 

攻撃に押し負けてブレイドは後ろに吹き飛び地面に落下しそうになる。

 

落下する直前でセシリアがブレイドを受け止めた。

 

「サンキュ・・・・結構頑丈だったな・・・・・・なら」

 

ブレイドはセシリアに感謝してからラウズアブゾーバーから二枚のプライムベスタを取り出してラウズする。

 

『アブソーブクィーン』

 

『フュージョン・ジャック』

 

ブレイドはジャックフォームへとチェンジして突撃してくるバッファローアンデッドにディアマンテエッジを装備したブレイラウザーで斬りつける。

 

先ほどよりも強化された一撃が効いているのかバッファローアンデッドは苦しそうな声を上げた。

 

ブレイドはラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタをラウズする。

 

『サンダー』

 

『スラッシュ』

 

『ライトニングスラッシュ』

 

オリハルコンウィングを広げてブレイドは空へと飛翔して雷撃を纏ったブレイラウザーを前に構えて振り下ろす。

 

バッファローアンデッドは自身の角で応対しようとするがブレイドジャックフォームのパワーが強力で押し負けて崖にたたきつけられた。

 

雷撃を受けたバッファローアンデッドの腰部のバックルが開く。

 

ブレイドはプロバーブランクをアンデッドに向かって投げて封印する。

 

 

「千冬・・・・織斑先生、みんなに怪我とかは?」

 

「幸い怪我人はいない、意識を失っている者が何人かいるが横に寝かせれば問題はない・・・・ないのだが」

 

「?」

 

「気絶した者を横に寝かせると一人だけどうしてもバスに乗れない。織斑、誰か一人後ろに乗せろ」

 

「・・・・・・え・・・・」

 

千冬からのとんでもない発言に一夏はゆっくりと後ろを振り返る。

 

そこには意識がある(約六割)生徒が目を輝かせてこちらを見ていた。

 

一夏は顔を引きつらせながら一言。

 

「ジャンケンで決めてください」

 

バスが運転を再開したのはそれから十分後のことだった。

 

 

 

 

篠ノ之箒はこれでもかというほど緊張していた。

 

すぐ傍には愛しい人の温もりが感じられる。

 

そう、彼女はジャンケンで見事勝利して一夏の後ろをゲットしたのだ。

 

他の女子(主にセシリアとラウラ)はバスから羨ましそうに見ている。

 

「箒・・・・!」

 

「な、なんだ!?」

 

バイクは風をきる音やエンジン音でかなり大きな声を出さないと聞こえない。

 

突然大きな声で一夏に呼ばれて戸惑った声を上げる箒。

 

「もう少しスピードあげるから気をつけろよ!」

 

「わかった!!」

 

箒が了承した直後、ブルースペイダーのスピードがあがり箒は「う、わ!」と声を漏らして必死に一夏に抱きついた。

 

一夏は背中に感じる箒の温もりとかにドギマギしたのだがカリスの言葉が頭から離れてくれない。

 

まるで呪いの言葉として纏わりつくかのように。

 

 

 

 

 

それから目的地の旅館にたどり着いた。

 

一夏はブルースペイダーにブルーシートを被せてクラスに合流する。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないようにしろ」

 

『よろしくお願いします!』

 

全員が礼儀正しく挨拶をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生は元気があってよろしいですね。あら、こちらが噂の?」

 

礼儀正しく挨拶した生徒達に対して着物姿の笑顔が素敵な女将さんが微笑む。

 

この旅館は毎年お世話になっているため、対応にも慣れているらしい。

 

「えぇ、今年は男子が二人いるので浴場分け難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな、それにいい男の子じゃありませんか、しっかりしてそうな感じを受けますよ・・・・それに有名な作家さんがいらっしゃられるなんて嬉しい限りですわ」

 

「初めまして、織斑一夏です」

 

「特別講師の白井虎太郎です。いやぁ、嬉しい」

 

「いえ、見た目だけです。白井先生も浮かれていないで」

 

「うふふ。ご丁寧に、清洲景子です」

 

気品のある笑顔に一瞬、ドキリとする一夏。

 

知り合いの女性の中にない部類の笑顔を向けられて戸惑っているようだ。

 

 

 

「織斑さん。実は」

 

女将さんは何を思い出したのかこそこそと織斑千冬と話し合う。

 

少しして、織斑千冬は顔に困ったという表情を浮かべて口を開く。

 

「一つ、連絡がある!学園関係者以外に一組の旅行者が止まっているそうだ。迷惑をかけないように気をつけろ!」

 

どういうことだろう?と思っていたが、隣にいた虎太郎が事情を知っていたらしく。

 

「どうも、学園に連絡してあったみたいだけど出発してあったから入れ違いになっちゃったみたいだよ」

 

「それじゃあ、皆さん。お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますからそちらをご利用ください。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

「ねぇねぇ、おりむー、部屋どこ?かんちゃんと一緒に遊びにいこうと思うんだけど」

 

一夏に話しかけてきたのは布仏本音。

 

少し前に簪を紹介した(といっても既に二人は顔見知りだったのだが、まぁ、そこは気にしないで置く)

 

「あぁ、部屋か・・・・教員の所と同じ場所だって虎・・・・白井先生と同じ部屋じゃないかな」

 

「そうなんだ~」

 

本音は納得して歩いていく。

 

他の女子達は遊びに行こうと企んでいるみたいだが。

 

 

 

臨海学校が始まる。

 


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