「・・・・・・ごめんなさい。戦おうとしたのに足を引っ張っちゃって」
「いや・・・・でも、なんで震えていたんだ?」
IS学園の屋上。
織斑一夏は更識簪に呼ばれていた。
一夏は気になっていたことを尋ねる。
本当ならもう少し言葉を選ぶべきだったのかもしれないが、一夏は遠まわしにいってもダメだと判断した。
「・・・・・・昔ね、アンデッドに襲われたの」
「え・・・・」
簪はゆっくりと語り始める。
金色のクワガタムシのようなアンデッドに襲われて殺されそうになったことがあった。
その時のことが変身しようとする瞬間に蘇り体が震えてしまいそうになる。
「そうか・・・・」
「アンデッドがいない時には変身する事ができるんだけど、アンデッドを前にすると昔の事が蘇って体が動かなくなって・・・・」
簪はポツリと呟いた。
「どうして、私なんだろうって、いつも思う・・・・どうして、私がライダーになれたんだろう」
「簪は何のために戦いたいんだ?」
「え・・・・?」
「俺は人を守るために戦っている。簪は?・・・・恐怖心から逃げ出したくて戦うのか?」
「私は・・・・・・」
口を開けるが言葉が出ない。
わからない。
簪はわからなかった。
自分でもわからず言葉が出ない。
「別に無理して答えを出す必要なんかないんだろうけどさ。ライダーの先輩として俺が言えるのは一つだけ、後悔するな」
「後悔・・・・」
「俺達はアンデッドと戦う事ができる力を持っている・・・・力を持っているのに何も出来ない・・・・は絶対に後悔する。だから後悔だけはするなよ」
「うん・・・・」
更識簪が屋上を後にして一夏も続いて出でようとして。
「後悔だけはするな・・・・か、立派な言葉だ」
「っ!」
驚いて振り返るとそこには誰もいない。
「・・・・・・気のせいか?」
「だけど、キミは自分の本質を理解しているかい?」
声が聞こえているというのに誰もいない。
一夏はブレイバックルを取り出して身構える。
「キミは何のために戦う?」
「アンデッドから人を守るために決まってる!」
「・・・・なら、どうして人を守る?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
声の主の質問に一夏は初めて言葉を失う。
戦う理由は答えた。なら人を守ろうとする理由?
何故すぐに出ない?
言葉の出ない一夏の態度をみて声の主は「やはり・・・・」と声を漏らす。
「今のキミでは、ダメだな・・・・」
それっきり声の主から何も言われない。
一夏はそのまま動かなくなる。
一夏、箒、セシリア、鈴音はアリーナの客席に座っていた。
アリーナには睦月と簪の姿がある。
イーグルアンデッドはまだ姿を見せていない。
「けど、変なアンデッドもいるもんね~。取引きを持ちかけるなんて」
「でも、そういうアンデッドがいると考えるともしかしたら話し合いで解決できるアンデッドもいるかもしれないと考えられますわよ?」
「しかし・・・・そんなアンデッドがいるのだろうか?」
「いたらしいぜ?」
「「「えっ!?」」」
一夏の肯定に全員が驚いた表情をして視線を向ける。
「そんなアンデッドがいたの!?」
「あぁ、剣崎さん達から聞いたことがあるんだよ。戦う事が好きじゃなかったアンデッド。剣崎さん達に協力していたらしいんだけど、ある理由で封印されたって、その理由だけはどうしても教えてくれなかったけど」
「アンデッドといっても・・・・やはり個性があるのですね」
「・・・・・・来たようだぞ」
箒の視線の先にはアリーナに降り立つイーグルアンデッド、高原の姿があった。
「さて、場所を変えられたことには驚きましたよ。待ち合わせ場所に向かったら一人しかいなかったので」
「すいません、事前に伝えておきたかったんですけど。連絡方法がなかったので」
交渉役として傍にいる睦月が微笑む。
相手の態度が礼儀正しかったことからか、高原はいえ、仕方ありませんね。といってメガネをかけなおす。
「それは取引きの返事をいただきたい」
「オーケーです。我々は貴方との取引きを受けます・・・・簪ちゃん」
「どうぞ・・・・」
簪はレンゲルバックルを睦月に渡して、睦月はレンゲルに変身して、醒杖レンゲルラウザーにプライムベスタを読み取らせる。
先の戦いで融合係数が低下している上城睦月だが、変身する事は可能であり今回、睦月が変身するになった。
『リモート』
カードの能力により高原の手に握られていたハートスートのカテゴリーAの封印が解除されて目の前に現れた。
富樫始の使用していたカリスの外見。
マンティスアンデッド。
但し違いがある。腰部にあるのはハートの形をしたバックルではなくアンデッドバックル。
「・・・・カリス、約束を果たそう!!」
高原はイーグルアンデッドに変身して羽手裏剣を放つ。
マンティスアンデッドはカリスアローを構えてフォースアローを放ち手裏剣を相殺させた。
煙の中をカリスは突っ込みイーグルアンデッドへソードボウで斬りかかる。
「流石はカリス!」
イーグルアンデッドは歓喜の表情を浮かべて手の爪でソードボウを受け止めた。
そして、しばらくつばぜり合いをした後、イーグルアンデッドは空高く舞い上がる。
「・・・・・・!」
マンティスアンデッドは無言になったかと思うと飛来してきた手裏剣をバックステップで回避して、イーグルアンデッドが降りてくるのを待つ。
獲物が近づいてくるまで虎視眈々と狙うカマキリのように。
お互い動かない。
ちまちまと羽手裏剣やフォースアローを撃つ事は無駄だと判断した。
「すごい・・・・」
箒は自然と口から呟いた。
技術が伴っている力。
ただ我武者羅に力を求めた自分とは異なる力。
すごい、と思った。
素晴らしいと思った。
こんな動きを身につけたいと望んだ。
こんな自分から・・・・。
「カリス・・・・素晴らしい・・・・本来ならバトルファイトの中で決着を付けたかった。しかし・・・・・・今はどうでもいい。キミと本気で戦える事に・・・・さぁ」
イーグルアンデッドは歓喜の表情から真剣になる。
殺気があふれ出す。
「決着をつけよう」
マンティスアンデッドも静かに頷いてカリスアローを構えた。
お互いにじりじりと隙ができるのを待つ。
少しの間があり。
「「っ!!」」
マンティスアンデッドとイーグルアンデッドは同時に動く。
接近してくる爪と弓。
お互いに一閃。
その動きを見極められた者はほんの一握り。
ISの代表候補生ですら見極められた者がいるかどうか怪しい。
それほどまでの速い動き。
お互いの場所が入れ替わり、全員がどうなったのか息を呑む。
少しして。
「がはっ・・・・・・」
マンティスアンデッドが膝を突く。
「私の・・・・・・・・・・・・」
前のりにイーグルアンデッドが倒れた。
直後、腰部のバックルが開いた。
イーグルアンデッドから高原の姿となる。
「やはり・・・・キミは強いな・・・・・・カリス」
マンティスアンデッドは無言のまま動かない。
誰も間に割り込もうとしない。誰も言葉を発しなかった。
勝敗の決した者は封印される。
バトルファイトではなくてもそれは変わらない。
大人しく封印されようとしたイーグルアンデッドが言葉を発しようとした瞬間、アリーナの壁を壊して黒い影が現れた。
「あれは!」
現れたのはシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。
ラウラはレールカノンを発射してイーグルアンデッドとマンティスアンデッドに砲撃を開始した。
激しい戦闘の後で疲労が蓄積されて二人の動きは鈍い。
二体のアンデッドは壁に叩きつけられて動かなくなる。
爆撃は二体のアンデッドだけではなく変身していたレンゲルと簪も巻き込んだ。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「やめなさいよ!」
「何をなさっているのですか!ボーデヴィッヒさん!」
一夏が白式を展開してボーデヴィッヒの前に現れ、アンデッド二体を守るようにして鈴音とセシリアがISを展開する。
アンデッドを人間が守る。
今までない光景に高原は戸惑いの表情を浮かべていた。
「(人間が我々アンデッドを守る?・・・・)」
人間とはどこまでも弱い種族だと思っていた。
バトルファイトを勝ち抜いたヒューマンアンデッドも当初は弱かった。
しかし、いつの間にか全てのアンデッドを倒すほどの力を持っていたのである。
「(人間も進化しているということ・・・・ですかね?)」
「邪魔をするなら貴様も排除してやる」
レールカノンから放たれる攻撃を避けて一夏は雪片弐型を構えて振り下ろす。
いや、ラウラに振り下ろそうとした瞬間、動きが止まった。
「なっ・・・・!?」
まるで見えない壁かなにかに阻まれたかのように動かなくなる。
「がら空きだ」
容赦なくレールカノンの砲口が一夏に向けられる瞬間、衝撃がラウラを襲う。
「あんたの相手はこっちよ!」
衝撃砲から放たれた一撃がシュヴァルツェア・レーゲンを襲う。
鬱陶しそうな表情をしたラウラはワイヤーブレードを放ち、甲龍を攻撃しようとするが、横からレーザーが放たれてワイヤーブレードが千切れた。
「ちっ!」
ラウラが視線を向けるとビットとスターライトMkⅢを構え、ISブルーティアーズを纏ったセシリア・オルコットの姿がある。
「貴方の相手は一夏さんだけではありませんのよ」
セシリアの言葉どおり鈴音も双天月牙を構えて振り下ろす。
「ちっ!中国とイギリスの第三世代二機に・・・」
教官の汚点、と口の中で呟きながらレールカノンを連射する。
ワイヤーブレードは破壊されて、AICは使ってもこっちが不利になるのは目に見えている。
なら。
「(周りの有象無象などどうでもいい。教官の汚点・・・・織斑一夏をここで潰す!)」
一夏はラウラが自分ひとりを狙うのだとわかり、雪片弐型を構える。
プラズマ手刀で切りかかってくるラウラの攻撃を刃だけでいなして、懐に深く入り込む。
「なに!?」
ラウラはISをまだ使って日が浅い、使用頻度が極端に少ないことを見抜いていた。
それゆえに、今の一夏の動きに目を見開く。
確かにISの使用期間は少ない。
しかし、戦闘経験は代表候補生が行なうものよりも過酷なものを潜り抜けてきた。
それも一歩間違えれば死んでしまうような戦いを。
死闘を潜り抜けてきた事により今までの一夏よりもより強く、そしてはっきりといえる。
AICを使えないラウラ・ボーデヴィッヒなど敵ではない、と。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
雪片弐型の零落白夜を発動させて自身のISのエネルギーを代償にしてシュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーを根こそぎ奪っていく。
反撃をしようとするラウラだが、それを見越していた一夏は白式の速度を上げていきアリーナの壁に叩きつけた。
「(負けるのか?)」
どんどんエネルギーが減少して行く中、ラウラは焦り始めていた。
たった一撃で撃墜されそうになっている自分に。
自分を撃墜しようとしているのがあの教官の汚点だという事に。
そいつに何も出来ない自分自身に。
「(負けてたまるものか!力が・・・・力がほしい。こいつらを倒せるほどの力が!)」
まるで悪魔の囁きのように、
それは現れた。
『願うか?自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』
「(力を・・・・唯一無二の比類なき力を・・・・・よこせぇ!)」
DamageLevel・・・・D.
MindCondition・・・Uplift。
Certification・・・Clear。
Valkyrie Trace System・・・・Boot。
「始まった。さぁ、俺も動こう!」
男の姿がアンデッドに変わる。
上級の中でも戦う事を嫌いといいながら冷静に相手の分析を行い、勝てる相手に戦いを挑むアンデッド。
エレファントアンデッドがアリーナに現れた。