仮面ライダー剣―Missing:IS   作:断空我

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第十二話

IS銀の福音を纏ったKがイーグルアンデッドと飛びながら下のほうを指差す。

 

「あれが今のライダーとなっている奴らだ。あいつらのうちの誰かがアンデッドを解放する力というのを持っているかもしれないな」

 

 

『なるほど・・・・彼らか』

 

「殺すのか?」

 

『殺しはしないさ。カリスとの決着をつけることが私の目的。他の種族を殺す事に快楽を覚えるつもりはない・・・・もっとも、私たちの周りをこそこそかぎまわろうとする奴らは別だが』

 

「ふぅん」

 

「では向かうとしよう」

 

 

 

「私と取引きをしよう」

 

現れたイーグルアンデッドは人間の姿をとると戦闘の意思はないと両手を挙げて告げる。

 

その事に誰よりも早く復帰したのは橘朔也と上城睦月の二人。

 

仮面ライダーとして経験のある二人は少し戸惑いを浮かべながらも尋ねる。

 

「取引き・・?」

 

「そう、取引きだ。キミ達の探しているモノの情報を教える変わりに私の願いを一つかなえてもらいたい」

 

「願い・・・・って?」

 

簪の呟きにイーグルアンデッド・高原は懐から一枚のプライムベスタを取り出す。

 

それを見た反応は人それぞれだった。

 

千冬や簪は見覚えのないカードに首をかしげ、橘と睦月の二人はそのカードを見て目を見開き、弾はなんであいつのカードを?と疑問に抱き。一夏は。

 

「っ!」

 

『ターン・アップ』

 

高原はイーグルアンデッドの姿となり一夏が変身したブレイドの拳を受け止める。

 

「いきなりだな・・・・私は取引きにきただけだというのに」

 

「そのプライムベスタ・・・・あいつのだろ!あいつはどこにいる!?」

 

「さっきまで空にいたよ。だが、彼はどこかに向かったよ」

 

「ふざけ」

 

「話の途中だ。落ち着きたまえ」

 

イーグルアンデッドはブレイドを蹴り飛ばして彼に向かって手裏剣を放つ。

 

「がぁあああああ!」

 

アーマーが連続で火花を散らして後ろに倒れ込み、変身が解除される。

 

「一夏!」

 

「てめっ!」

 

「やめろ!」

 

倒れた一夏に駆け寄る千冬、ギャレンバックルを取り出して構える弾を橘が制する。

 

「私は戦いに来たのではない・・・・取引きをしにきたんだ。だから武器を下ろしてもらおうか?」

 

高原の視線はギャレンバックルとレンゲルバックルを構えている弾と簪に向けられる。

 

その二人の間に割り込んだのは意外にも千冬だった。

 

「このままでは話が進まない。そちらの取引きの内容を話してもらえないか?」

 

「話のわかる人がいて助かりましたよ・・・・私の願いはこのカードに封印されているマンティスアンデッド・カリスとの戦い・・・・そのために、あなた方にこのカードの封印を解いて貰いたい」

 

「なっ!人を襲うようなヤツを解放しろっていうのか!?」

 

「カリスは人を襲うなどと下賤な真似はしない!・・・・私とカリスは約束をしたのですが、それが果たされる事はなかった。今回のこの事態もそう、だからなんとしても約束を果たしたいのですよ」

 

「・・・・こちらの見返りは?」

 

橘が尋ねる。

 

高原はにやりと微笑み。

 

 

「ヒューマンアンデッドの行方」

 

その一言で橘と睦月の顔に衝撃が走る。

 

剣崎一真が探しているアンデッド、そしてこの異変の原因を知っている可能性が一番高いアンデッド。

 

千冬はちらりと橘へ視線を向ける。どうするつもりです?と目が尋ねている。

 

考える橘の隣にいた睦月が一歩前に出た。

 

「いいよ、その取引き受ける」

 

「睦月さん!?」

 

驚き叫ぶ一夏、アンデッドとの取引きを受けるというのだろうかとその表情は語っている。

 

「彼は信頼できる。少なくとも他の上級アンデッドの中ではまだまともな部類だと思う」

 

「そうでしょうか?もしかしたら私も嘘つきかもしれませんよ?」

 

「そうだったとしても俺はアンデッドを信じるよ。戦いを望まないアンデッドだっているんだ。人間との約束を守ろうとするヤツだっているはずだ」

 

「・・・・そうですか・・・・では、二日後。またここに来ます、そのときにカリスの封印を解いてください」

 

睦月の答えを聞いてメガネを掛けなおす仕草をしてイーグルアンデッドは空高く舞い上がる。

 

「よかったんですか?」

 

「はい・・」

 

千冬の問いに睦月は頷く。その瞳はなんら迷いがない。

 

純粋にアンデッドを信じていた。

 

「織斑」

 

「なんですか・・・・」

 

「カリスと何かあったのか?」

 

「・・・・っ、いいえ」

 

「そうか」

 

今聞いても無駄、と判断した橘は追求しない事にした。

 

余計な追求は危険を呼ぶ可能性もある。

 

二日後にまた全員集まろうという話になり、一夏と千冬、そして簪はIS学園へと戻る。

 

「え・・・・簪もIS学園の生徒なのか?」

 

「うん・・・・四組なの」

 

「俺は一組だ。これからもよろしくな」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦月、彼女は大丈夫なのか?」

 

橘朔也は気になっていた事を睦月に尋ねる。

 

更識簪が継承した仮面ライダーレンゲルは様々な問題があった。

 

レンゲルバックルは彼らの戦いの最中、ピーコックアンデッドが元BOARDの研究者を操って作成されたものなのだが、“わざと”封印されたスパイダーアンデッドの邪悪な意思により、未知の部分が含んでレンゲルバックルは作成されたのである。

 

そのために、レンゲルの装着者はカテゴリーAの邪悪な意思に操られた。

 

レンゲルの装着者であった上城睦月もその一人である。

 

一時は橘朔也によってカテゴリーAの邪悪な意思を跳ね除けようと訓練を受けていたのだが、増大していくカテゴリーAの力に対抗できなくなり支配されてしまった。

 

その時、剣崎ら仲間達の協力によりカテゴリーAは再封印され、邪悪な力も減少した。

 

 

「カテゴリーAの力もかなり弱まっていますし簪ちゃんは、あぁみえて芯は丈夫で強い子です」

 

「しかし・・・・」

 

「それに、今は色々な理由であんな引っ込み思案な子になっていますがきっと・・戦いの中で彼女は強くなります。俺みたいに・・・」

 

「お前がそういうなら・・・・大丈夫だろう」

 

「はい」

 

 

 

次の日、IS学園の誰もいないグラウンドで一夏はランニングウェアを身に着けて走っていた。

 

少し遅れて箒も後に続いている。

 

一夏は自身を鍛えたいと望んでいた。

 

あの時、イーグルアンデッドにまるで赤子の相手をするかのように軽くあしらわれた。

 

今のままではもっと強い上級アンデッドが出現した時、ブレイドでどこまで戦えるだろうか?

 

それに・・・・と内心呟く。

 

「(カリス・・・・)」

 

いや、カリスのプライムベスタを使っていた少年という言葉が正しいか。

 

あいつはいきなり現れて富樫始を殺した。

 

その後、ピーコックアンデッドとの戦いに現れたのだが、あの後から一切姿を見せない。

 

イーグルアンデッドによると、カテゴリーAを手放したようだが、何が目的なのだろうか?

 

「い、一夏・・・・ペースが・・・・上がっているぞ」

 

「え・・・・あぁ・・ごめん」

 

気づかないうちに速度を上げていたようで箒が息を切らせ始めていた。

 

「どうしたんだ。途中から表情が険しくなっていたが・・・・」

 

「あぁ・・いや、色々と考えていて・・・・すまない」

 

箒に謝罪をしてから他愛もない話を始める。

 

その中でレンゲルのことを話す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は・・・・仕事がないだと?」

 

アジトに戻ったKにエスから告げられた言葉を聞いてマヌケな表情を浮かべる。

 

ここは亡国機業のアジトの一つ。

 

部屋の中には仲間であるエスとエムの二人しかいない。

 

「仕事がないってどういうことだ?」

 

「なんか・・・・私たちとは違う部隊の人が暴れまくったおかげで仕事がないんだって」

 

「違う部隊?」

 

「最近、新設された“アレ”だ」

 

「あぁ・・・・“アレ”か」

 

Kは思い出す。黒い三機のISを使う女達。

 

性格がすごい捻じ曲がっていたことを思い出す。

 

そこまで強くなかったような?

 

不思議に思いつつもエムが続ける。

 

「様々な研究施設を破壊し続けたらしい。そのせいでこちらの動きが制限されることとなって・・・・いい迷惑だ」

 

「そうだな・・・・ったく・・・・んで、オータムとスコールの二人は?」

 

「デート」

 

「・・・・はい?」

 

「仕事がなくなったからデートに行くらしい。緊急の用事がない限り各自自由にしていてくれということだ」

 

「ふぅん・・・・・・いきなり暇になったか・・どうするかねぇ」

 

「じゃあ、買い物に付き合ってくれない?」

 

「買い物?」

 

エスがもじもじとしてKに尋ねる。

 

買い物か、そういえば衣類がボロボロになっていたからそろそろ買い物に行く必要があったということを思い出す。

 

主に戦いの後の吐血が原因で服が汚れているのだが。

 

それを口に出すほどKはバカではない。

 

話せばエスは絶対に心配する。

 

心配される事を彼はなによりも嫌いだから。

 

「えっと・・・・ダメかな?」

 

「いや、いいぞ・・・・・・二人でいくのか?」

 

「え・・・・?」

 

一瞬、きょとんとした後、エムの方を見る。

 

彼女はさっきからずっと本を読んでいるようでこちらを見ていない。

 

「私はいいぞ。二人で楽しんで来い。ここを空にするのもまずいだろう」

 

「そうか、悪いな」

 

「じゃあいってくるよ」

 

エスとKの二人は街へと繰り出した。

 

心なしかエスの表情が嬉しそうに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルロットは久々の休暇というか、街に出て息抜きができることに喜びを感じていた。

 

今まで血まみれのような仕事ばかりをこなしてきて・・・・これは自分で選んだ事なので深く気にしていないけれど、やはり空気の入れ替えというか息抜きはとても嬉しく感じる。

 

街に出ることは度々あったのだが、こうも伸び伸びと何も考えられずに歩けるというのは幸せである。

 

なにより。

 

「(二人っきりって・・・・デートみたいだよね)」

 

「どうした?こっち見て」

 

「う、ううん、なんでもないよ・・・・あ、そういえば」

 

シャルロットは気になる事があったので小声で。

 

「こういう場所ではなんと呼べばいいの?」

 

「・・・・・・」

 

ここは亡国機業ではない、普通の人達が楽しく遊ぶ街の中、そんな所でKなどと呼べるわけがなかった。

 

「最初に名乗っただろ?俺は・・・・」

 

一歩前に出てシャルロットの前に立ち、告げる。

 

「富樫始・・・・それが“俺”だ」

 

「うん!」

 

二人は街の中へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・トイレが遠いって不便で仕方ない」

 

一夏はIS学園から少し離れた所にあるトイレから教室へ戻ろうとしていた。

 

IS学園は教師も生徒も全て女性であるためトイレも女性用しかない。

 

しかし、今年からは一夏や虎太郎がIS学園にいるため、トイレの増設も検討され工事が始まりつつあるのだが、まだ出来ていないため少し遠いトイレを使用していた。

 

「ん・・・・」

 

IS学園の中庭を通って教室に戻ろうとした一夏だが、視線の先にいる人物を見て動きを止める。

 

そこにいたのは自身の姉である織斑千冬と自分に敵意を向けているラウラ・ボーデヴィッヒの二人。

 

「何か揉めているみたいだな・・・・」

 

隠れて様子を伺う事にした。

 

すると、二人の話し声が聞こえてくる。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツでご指導をしてくれと訴えていた。

 

そして、この学園の生徒はISをファッションかなにかと勘違いしている。そんな奴らを指導するべきではない、と。

 

ソレに対して千冬は選ばれた人間気取りか?と少し怒ったような表情をしてラウラに尋ねる。

 

千冬の剣幕に押されたのかラウラは会釈をしてそのまま去っていく。

 

「盗み聞きは感心しないぞ」

 

「すいません、出て行く雰囲気ではないと思いまして。織斑先生」

 

「今は二人だけだからいつもどおりでいいぞ」

 

「うん、わかったよ」

 

「・・・・・・ラウラの事だが」

 

「千冬姉を慕っているという事だけはわかったよ」

 

「二年前の事件・・・・あの時にお前を探すためにドイツ軍の協力を仰いだ。借りを返すためにドイツ軍で指導をする事となってな。当時、ラウラはある事情で軍の中で落ちこぼれの状態だった。そいつを私は指導して」

 

「一流にした?」

 

「そうだ。その為か、モンド・グロッソを二連覇できなかったことに対して私より悔しがっていて・・・・」

 

「それを台無しにした俺に対してあんな態度をとっているわけか」

 

「一夏、本当は私が解決する事なのだが、あいつは私のいう事を聞いてくれない。こんなことを頼むわけにはいかないが・・・・頼む。ラウラを嫌わないでやってくれ。あいつはそこまで悪いヤツじゃないんだ」

 

「・・・・わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンデッドが現れた。それも二箇所同時に。

 

一体は街のショッピングモールで、もう一体は。

 

ここ、IS学園で。

 

 

「一夏!」

 

「わかってる!」

 

千冬が持っていたアンデッドサーチャーに反応があると同時に学園の壁を壊してライオンアンデッドが現れた。

 

それも、一夏と千冬の目の前に。

 

突然の事に、一夏は表情を変えてブレイバックルにスペードスートのプライムベスタをブレイバックルに入れてターンアップハンドルを引く。

 

『ターン・アップ』

 

襲い掛かろうとしたライオンアンデッドの前にオリハルコンエレメントが展開されてアンデッドは弾き飛ばされる。

 

一夏はそれを通り抜けてブレイドへと変身する。

 

「・・・・ブレイド・・・・私も!」

 

更識簪はアンデッドサーチャーに反応があって現場に来ていた。

 

既にブレイドがライオンアンデッドと戦っている。

 

更識はポケットからレンゲルバックルとクラブスートのカテゴリーAのプライムベスタを取り出して、バックルに内蔵されたラウズトレイにプライムベスタを入れる。

 

バックルからカード状のベルトが自動的に伸張して装着された。

 

 

「変・・・・っ!」

 

バックル部のミスリルゲートを開こうとした簪の脳裏に怪物の姿が蘇る。

 

同時に彼女の体が震えだす。

 

「あっ・・・・あっ・・・・」

 

震えだした彼女はそのまま地面に座り込んだ。

 

「簪!?おい・・・・ぐぉっ!」

 

視界の隅に座り込んで動かない簪の姿を見つけたブレイドだが、ライオンアンデッドの突進を受けてそのまま壁に叩きつけられて中に入り込む。

 

中は教室だったらしく生徒達は悲鳴を上げて外に出て行く。

 

「くそっ・・・・教室なのか!?」

 

教室の中に倒れ込んだブレイドに連続攻撃するかのようにライオンアンデッドが追撃を仕掛ける。

 

うっ!」

 

ブレイラウザーを引き抜いてライオンアンデッドの体を切り裂く。

 

そのまま追撃しようとした瞬間、教室の壁を壊してISが現れる。

 

漆黒のIS肩には大型のレールカノンのようなものを装備していた。

 

「・・・・これでも食らえ」

 

「なっ!?」

 

漆黒のISから攻撃が放たれる。

 

ブレイドとライオンアンデッドの方に。

 

爆発と煙に包まれる。

 

「一夏ぁ!?」

 

千冬の悲鳴に簪も顔を上げる。

 

「そんな・・・・!?」

 

 

「あ・・・・あぶねぇ・・・・」

 

ブレイドが突如、簪と千冬の前に現れる。

 

「い、一夏・・・・無事なのか?」

 

「なんとか・・・・千冬姉と簪はみんなを安全な所に避難させてほしい」

 

「わかった。無茶はするなよ」

 

「うん・・・・ごめんなさい」

 

簪の手を引いて千冬は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、この程度か・・・・噂の怪物も大したことがないな」

 

漆黒のISシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラ・ボーデヴィッヒは攻撃が直撃したのを確認して余裕の表情でいた。

 

「やはり私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では有象無象の一つで」

 

言葉を最後までいうことなく何かの衝撃を受けた。

 

腹にきつい一撃を受けて壁に叩きつけられる。

 

「なっ、バカな!」

 

現れたのは先ほど攻撃したライオンアンデッド。

 

しかも、レールカノンによる攻撃が全く効いていない。

 

動揺しつつも、襲いかかかろうとするライオンアンデッドにAICを発動する。

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略)はISに搭載されているPICを発展させたものであり、対象の動きを任意に停止させることができる。

 

それによってライオンアンデッドの動きが止まり、シュヴァルツェア・レーゲンの両腕に装備されているプラズマ手刀を腹部に叩き込む。

 

しかし。

 

「なに!?片手で受け止めるだと!」

 

ライオンアンデッドは片手でプラズマ手刀を受け止めてあろうことか、ラウラを投げ飛ばす。

 

「がっ・・・・!」

 

地面に叩きつけられるシュヴァルツェア・レーゲン。

 

ライオンアンデッドは唸り声を上げて追撃をかけようとするが。

 

「こっちだ!」

 

ブレイドがブレイラウザーで背中を切り裂いて蹴り飛ばす。

 

ライオンアンデッドが地面に倒れている間にブレイドはブレイラウザーのオープントレイを展開して二枚のプライムベスタを取り出して、ラウズリーダーでスキャンした、。

 

『キック』

 

『サンダー』

 

『ライトニングブラスト』

 

 

「ウェェェェェェイ!」

 

必殺技の一つ。ライトニングブラストを発動。

 

雷撃を纏ったキックを起き上がったライオンアンデッドに叩き込む。

 

攻撃を受けたライオンアンデッドは爆発して地面に倒れ込んで動かない。

 

着地したブレイドはプロバーブランクを取り出して投げた。

 

プロバーブランクに吸収され、プライムベスタとなったカードを手に取り、ブレイドは変身を解除して千冬達のほうへ向かう。

 

 

 

 

 

 

「・・・・バカな!」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは目を見開く。

 

信じられない。

 

自分が、軍人である自分が倒せなかった怪物を一般人が倒した事。

 

そして何より教官の面汚しである弟があの怪物を倒した事が信じられない。

 

ありえない。

 

認めることが出来ない。

 

こんなことが許されていいわけがない!

 

 

「力が欲しいか?」

 

ギリリッと奥歯をかみ締めていたラウラの前に一人の男が現れる。ラフな格好に麦わら帽子をかぶった男。

 

男は真っ直ぐにラウラを見つめもう一度尋ねた。

 

「力が欲しいか?お前の尊敬する人のために、邪魔者を排除するために“力”がほしいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一体のアンデッドは大量のトンボを従わせてドラゴンフライアンデッドが暴れていた。

 

車を投げ飛ばし、逃げ惑う人達を襲っていた。

 

「・・・・・・ねぇ、始」

 

「なんだ?」

 

「戦うんだよね?」

 

「あぁ、だから安全な所に逃げてろ」

 

「うん・・・・無茶しないでね」

 

シャルロットが走り出したのを確認して、富樫始は懐から一枚のプライムベスタを取り出す。

カテゴリーAは手元にない。

 

ならば。

 

「こいつを使うしかないよなぁ!!」

 

『フュージョン』

 

カテゴリーJ・ウルフアンデッドへと変身して始はドラゴンフライアンデッドへ殴りかかる。

 

マンティスアンデッド・カリスと比べて多彩な戦闘が出来るというわけではないが動きは中々のものだった。

 

ウルフアンデッドは唸り声を上げながらドラゴンフライアンデッドの頭部をつかんで地面に叩きつける。

 

何度も、何度も、地面にドラゴンフライアンデッドの顔を叩きつけた。

 

何回か叩きつけた後、次の攻撃に移ろうとした彼を大量のトンボが襲い掛かる。

 

「ぐぁっ!?」

 

体を噛み付かれてウルフアンデッドは苦しそうな表情を浮かべて、周囲を飛んでいるトンボを叩き潰す。

 

『ターン・アップ』

 

「うぉりゃああ!」

 

その時、ギャレンが拳をドラゴンフライアンデッドに放つ。

 

攻撃を受けたドラゴンフライアンデッドは地面に倒れる。

 

「てめっ・・・・」

 

「話は後だ。こいつを封印する」

 

ウルフアンデッドの提案を頷く事で了承してギャレンはギャレンラウザーを連射してドラゴンフライアンデッドの体を撃ち抜く。

 

攻撃を受けて仰け反っている時に間合いを詰めて鋭い爪で体を切り裂いていく。

 

「ちぃ!!」

 

攻撃をしていたウルフアンデッドはあるモノに気づいて瓦礫の方に駆け寄った。

 

斜めに傾いている瓦礫は今にも崩れそうになっている。

 

「てめっ・・・・何をしている!」

 

そこにいたのは泣きじゃくっている女の子を抱きしめているシャルロット。

 

彼女は泣いている女の子を必死に宥めていた。

 

「安全な所に逃げていろといっただろ・・・・!?」

 

「逃げようとしたけど、放っておけないよ。母親を探して泣いていたんだよ?母親に会わせてあげないと・・・・」

 

母親という言葉を聞いてウルフアンデッドは即座に理解した。

 

シャルロットの母親は既に他界していて、この世にはいない。

 

彼女の愛した存在はもういないのだ。

 

だから、会わせてあげたい。

 

この子を母親に会わせてあげたいと望んだ。

 

「・・・・ちっ・・・・」

 

ウルフアンデッドは一枚のワイルドベスタを取り出してギャレンへと投げた。

 

「うわっ・・・・これは・・・・」

 

「それでそいつを倒せ!いいな・・・絶対だ」

 

「あ・・・・あぁ・・・・」

 

ギャレンは戸惑いながらも左腕に装備されている“ラウズ・アブゾーバー”から一枚のプライムベスタを取り出す。

 

ウルフアンデッドからもらったワイルドベスタをラウズ・アブゾーバーにスキャンさせる。

 

ワイルドベスタがスキャンされる瞬間、ワイルドベスタにダイヤスートのマークが表示された。

 

『アブゾーブ・クィーン』

 

そして、もう一枚のプライムベスタを読み取る。

 

『フュージョン・ジャック』

 

直後、ギャレンの身体の各部が金色のアーマー・ディアマンテゴールドに覆われ、胸部にはダイヤのカテゴリーJの孔雀の紋章が刻印され、背中には翼・オリハルコンウィングが装備された。

 

ラウズ・アブゾーバー、イーグルアンデッドの乱入後、橘朔也によって渡された道具。

 

 

「くっ!」

 

ギャレンはディアマンテエッジが装備されたギャレンラウザーでドラゴンフライアンデッドを切り裂く。

 

攻撃を受けたドラゴンフライアンデッドはふらふらと空へ飛ぼうとするがギャレンラウザーの弾丸を受けてそれを阻まれる。

 

ギャレンはラウザーのオープントレイを展開して三枚のプライムベスタを取り出す。

 

『バレット』

 

『ラピッド』

 

『ファイア』

 

『バーニングショット』

 

オリハルコンウィングを展開したギャレンは空を飛び、逃げようとするドラゴンフライアンデッドをディアマンテエッジで突き刺し、共に上昇しながらゼロ距離で弾丸を放つ。

 

必殺技を受けてドラゴンフライアンデッドは地面に落下。腰部のアンデッドバックルが開く。

ギャレンはコモンブランクを取り出して投げる。

 

コモンブランクに封印されて、ワイルドベスタとなったカードを手に取りギャレンは着地した。

 

すぐ傍には瓦礫を支えていたはずのウルフアンデッドがいる。どうやら中の人は避難したらしい。

 

ウルフアンデッドは一瞬で間合いを詰めてギャレンジャックフォームからワイルドベスタを奪い取る。

 

「お、おい!?」

 

「悪いがハートスートのカテゴリーを集めているんでね。こいつはもらった!」

 

『フロート』

 

カリスラウザーにワイルドベスタを入れる瞬間、ワイルドベスタにハートスートのマークが表示された。

 

ドラゴンフライアンデッドに変身し、飛翔して姿を消す。

 

「・・・・・・ヤバイ・・・・蘭になんて説明しょう」

 

自分のサポーターである妹の怒り具合を想像してギャレン=弾はその場に座り込みそうになったが、警察のサイレンが聞こえてきたため即座にそこから逃げ出した。

 

余談だが、蘭はジャックフォームの使用後に身体は異常ないか?と心配してくれたため、弾は面食らった表情をしたらしい。

 

 

 

「がはっ・・・・はぁ・・・・はぁ、連続で変身というのは流石に堪えるな」

 

富樫始は呼吸を整えるために壁にもたれようとした。

 

「あん・・・・」

 

背中に暖かいものを感じて振り返るとそこにはシャルロットが受け止めるようにして抱きしめている。

 

「なにしてんだよ・・・・・・」

 

「その・・・・ごめんなさい・・」

 

「なにに対しての謝罪?」

 

「始が逃げろっていったのに、逃げなくて迷惑をかけて・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「でも、どうしてもあの子を放っておく事が」

 

「シャルロット」

 

彼女の言葉を遮るようにして始は一言だけ告げる。

 

「俺は誰かを守りながら戦うなんて器用なことは出来ない。復讐を目的として生きている存在だ。もう一度いっておくが俺とついてきても絶望しかないぞ?」

 

「そんなことないよ・・・・」

 

富樫始の体を抱きしめてシャルロットは微笑む。

 

彼がいてくれたおかげで彼女は地獄から救われた。

 

絶望しかなかった彼女の世界は大きく変わる。

 

表情は始のほうからは見えないが彼女は笑う。

 

「そんなことない・・・・」

 

彼の温もりを感じながらシャルロットはもう一度告げた。

 


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