騎士学校に入って1年と半年。
イオリアは、鍛錬に勉強に音楽活動にと大忙しだった。
それ以外にも、騎士学校は寮に入るのが原則なので、休日くらいしか外泊できず、それを知ったリネットの家出騒動があったり、ミクとテトがイオリアと同じ部屋に入ることで男子寮に大騒動が起きたり、いきなりの3年生という飛び級な上クラウスと親しいという噂(事実だが)が広がりやっかみから学校全体を巻き込んだ決闘騒ぎになったり……
イオリアは自分の周囲が常に騒動に溢れていることから、もしや自分が疫病神になんじゃ……と落ち込んだりした。
そんなあらゆる意味で忙しいイオリアだったが、一番の調査は遅々として進んでいなかった。
(くそ! これもハズレか。一体、ベルカ戦争の火種は何なんだ?ベルカを最終的に消滅させるくらいだから、とんでもない兵器なのはわかる。兵器なんだから機密も高く容易に突き止めることができないことはわかってた。それでも当たりくらいはつけられると思ってたのに……)
イオリアは手に持っていた資料を机の上に放り投げた。
その資料は、イオリアが個人で頼んだ情報屋から買ったベルカ諸国の最新の噂やお国事情が記載されたものだ。イオリアは、独自調査や騎士学校でできたコネを利用して戦争の気配や火種になりそうなものがないか調べ続けているのだ。
(クラウスさんやオリヴィエさんに聞いてみてもそんな気配はないって断言するし……聖王オリヴィエは若くして亡くなっていたはずだ。ヴィヴィオの大人バージョンより少し年上。20代前半といったところだろう、死亡したのは。現在のオリヴィエさんは21歳。……たぶん、もう時間がない。数年以内に戦争は始まる。ベルカの地をまるごと消滅させる兵器とともに。……やはり、あらかじめ火種を消すのはムリか・・・)
イオリアは、悶々と考えに没頭する。そんな様子を、彼の相棒達が見かねて声をかけた。
「マスター、そんなに悩んでも仕方ないですよ。起きてからでも私達なら何とかできます! 何とかする」って言ったのはマスターです。私は、マスターが宣言して有言実行できなかった例を知りません。だから、絶~対、大丈夫です!」
「ミクちゃんの言う通りだよ、マスター。ボク達なら何があっても大丈夫。悩むくらいなら、鍛錬でもしてできることを増やした方が得策だよ」
最も信頼する相棒達にそう諭され、自分の頭が茹だっていたことに気づいたイオリアは、二人からの絶大な信頼と、根拠はなくとも何故かすんなり納得できてしまう言葉に笑みをこぼした。
「そうだな、そのために鍛えてきたんだ。ミクとテトが一緒なら、戦争だろうが古代兵器だろうが、どうということもないな」
イオリアの言葉に、うんうんと胸を張りながら頷くミクとテト。
そんな二人の様子に益々笑みを深くしながら、イオリアは、う~んと背伸びをした。凝り固まった筋肉や関節が音を立てて解れてゆく。
「もうこんな時間か、そろそろ食堂行くか。腹減ってきた。」
「了解で~す。」
「アイサ~」
イオリアは二人を夕食に誘った。ちなみに、二人はユニゾンデバイスではあるが、食事を取れるし味覚もある。絶対必要というわけではなく、エネルギーに変換できることと嗜好品として楽しむ目的だ。
アイリス曰く、
「みんなで食事してる時に、傍らで見てるだけなんて寂しいじゃない?」
とのことだ。
三人は連れ立って食堂に向かった。食堂には既に何人かの生徒がそれぞれのグループで座り、ワイワイと騒ぎながら食事を楽しんでいた。
イオリア達も本日の夕食を受け取り、さて、どこに座ろうかと辺りを見回していると、見知った顔が此方を向き手招きした。
彼の名はタイル。イオリアの友人の一人で、調査のためコネを利用させてもらっている。タイルは商家の出なので、情報には強いのだ。
「よっ、タイル。一人か?」
「タイルさん、こんばんは~」
「こんばんは、タイル君」
イオリア達は気軽にそう挨拶しながら、タイルの向かいに座った。
ちなみに、ミクとテトはイオリアを挟んで両サイドに座る。4人だからといって、タイルの隣には座らない。タイルの表情が少し寂しげだ。
ちなみにタイルは、MTF(ミクテトファンクラブ)の会員005、幹部である。
「チッ! いい加減慣れたとは言え、殺意が湧くのは止められないな。いい加減、足の小指でもぶつけてショック死しろ」
「お前、毎回それだな。こっちもいい加減飽きてきたぞ」
「フン! 我らが天使たるミクちゃんとテトちゃんを独占してるんだ。俺たちファンのやっかみくらい受けろ」
「はいはい」
二人のやり取りは毎回のことなのでミク達も何も言わない。これでも、イオリアとタイルは仲がいいのだ。
なにせ、かつての男子寮騒動の後、イオリアとミク達の関係に下世話な想像をして吹聴したヤツを調べ上げてくれたのはタイルなのだ。そして、イオリアはリストの人間にまとめて断空拳の連打を浴びせた。
泣いて許しを請う彼らに、
「お前らが! 泣いても! 殴るのを! 止めない!」
といって文字通りフルボッコにした。イオリアは身内を誹謗中傷されて流せるほど出来てはいないのだ。
その件があってから、タイルの調査能力とイオリアの武力のコンビネーションはちょっとした恐怖の代名詞になった。
特にミク達に対する誹謗の類はきっぱり無くなった。学園では彼女達に手を出した者には「ヤツ等がくる」という都市伝説みたいな噂が流れた。
ちなみに、この件を知ったクラウスは腹を抱えて爆笑し、臣下達を大いに驚かせた。
しばらく雑談しながら食事をしていると、ふとタイルが真面目な表情になった。
「イオリア、剣皇家がやられたらしい」
「!?」
思わず吹き出しそうになりながら何とか食事を飲み込んだイオリアは、タイル以上に真剣な表情で聞き返した。
「やられた? どう言う意味だ?」
「そのままの意味だ。詳しいことは分からないが、正体不明の敵に襲われて、城は全壊。現剣皇は亡くなったらしい」
「正体不明……」
イオリアは嫌な予感が急速に湧き上がってくるのを感じた。左右を見れば、ミクやテトもいつになく険しい表情をしている。
そんなイオリア達の様子を観察するように見ながら、タイルは続けた。
「ああ、幸い全滅は免れたらしいから、お家断絶にはならなかったらしい。ただ……」
タイルは一度そこで言葉を切った。まるで聞いた情報が本当なのか自身でも疑問に思っているというように。
イオリアが続きを促すと、タイルは意を決したように語り始めた。
「剣皇は、真正面からの剣の戦いで敗北したらしい。生き残った者が言うには、まるで鏡合わせのような戦いだったとか。同じ剣術で相手の方が上手だったらしい。……まるで歴代最強と言われている初代剣皇のようだったと」
タイルからの衝撃的な情報を聞き、イオリアは頭の奥でチリッと何かがかすめる様な感覚を感じ、それを追うように思考に没頭した。
何かが、もう少しで何かが掴めそうな感覚。
そうやって、思考に没頭していると、不意に肩を揺さぶられ、その感覚はどこかに行ってしまった。
何事かと顔を上げると、ミクとテトが心配そうに此方を覗き込んでいた。イオリアの意識が戻ってきたのを確認すると、テトが視線で促した。
そちらに顔を向けると、タイルが此方をジッと見ていた。イオリアは、タイルを放って思考に没頭していたことに気づき、慌てて情報の礼をしようと声を上げかけた。
「タイ――」
「お前が、……一体何を抱えているのかは知らん。なぜ、各国の情報を集めているのか興味もない。まぁ、本当は、ミクさん達を巻き込むな位は言いたいが、強大なお世話だろうしな。……ただ、俺に対し遠慮はするな」
「タイル……」
イオリアは、タイルの言葉に感動した。
この友人は会えば罵り合ってばかりだが、何だかんだで気の合う友人なのだ。目の前で助けを求められたら応えずにはいられない。「大切」と定めた者のためなら労力は惜しまない。商家の息子としては失格だろう。だからこそ騎士学校にいるのだろうが。根本的なところで二人は似ているのかもしれない。
イオリアは、友人の気遣いに、最大限の感謝を込めて礼をいった。
「タイル……ありが――」
「2割引で引き受けてやる」
礼を言おうとして、続くタイルの言葉に思わず言葉が止まり、代わりに「は?」と間抜けな声を出してしまう。
「だから2割引だ。これ以上はまける気はない。ん? 何だ、その間抜け顔は。まさか、無料でとか思ってたのか? どこまでも、おめでたいヤツめ。今まで通りギブアンドテイクに決まっているだろう? 俺を誰だと思ってる。あ、あと、何をする気か知らんが、ミクさん達に傷何てつけるなよ。お前は瀕死の重傷くらい構わんが、我らが歌姫に傷とか世界の悲劇だ」
ベラベラよく回る口で、そうのたまうタイルにイオリアは、「感動を返せ」と言わんばかりの半眼を向ける。
タイルは、イオリアのその様子を「フン!」と鼻で笑うと、空の食器を持って席を立った。
そして、去り際に一言呟いた。
「まぁ、金は後払いにしといてやる」
「……男のツンデレとか誰得」
その様子を見て、ミクとテトはくすくすと笑うのだった。
イオリア達が食堂からの帰り道、廊下を歩いていると、自分達の部屋の前に誰かが立っていることに気が付いた。その人物は、イオリア達に気が付くと挨拶もなくいきなり要件を告げた。
「ちょうど良かった。イオリア君、陛下がお呼だ。すぐ一緒に来てもらいたい」
彼の名はアルフレッド。クラウスの直属の騎士で秘書のようなこともしている。右腕的な存在である。イオリアとも面識があり、イオリアを君付けで呼びイオリアもアルさんと呼ぶぐらいには親しい。
そのアルフレッドが何時になく険しい表情でイオリア達に同行を求めた。イオリア達もただ事でない雰囲気に、ためらう事もなく頷いた。
アルに連れられてやってきたのは、クラウスの私室だ。そこにはオリヴィエもおり、二人共難しい表情をしていた。
「イオリア、それにミクとテトも。悪いな、こんな時間に」
「こんばんは、イオリア君、ミクさん、テトさん」
クラウス達は、イオリア達の姿を確認すると笑みを浮かべて挨拶をした。
しかし、その笑みにはどこか影がある。今から話すことが二人の心に影を落としているのだろう。
「いえ、それは構いません。それで、緊急の要件だと伺いましたが……もしや剣皇家のことですか?」
イオリアは、挨拶もそこそこに話を切り出した。要件に心当たりはあったのだ。何せ、このタイミングだ。ついさっき友人から仕入れたばかりの、未だイオリアの心の内を嫌な予感で充たす情報に関係するのだろうという予測は当然であった。
そして、それは図星だったのだろう。クラウス達は驚いたように目を丸くした。
「既に知っていたか。そういえば、学園でもいろいろ情報収集しているようだしな。……
まったくその通りだ。つい昨日、現剣皇が亡くなった」
イオリアは、一つ頷いた。
「何でも、初代剣皇と見間違うほどの腕前だったとか」
「それも知ってるか。そうらしいな。さらに詳しく言うなら、女の騎士だったらしい。しかも初代剣皇と同じく炎熱変換資質持ちだ」
女の騎士で炎熱変換資質持ちという点で、再び頭の奥がチリッとする感覚を感じたイオリアだったが、今はとにかくクラウスの話しを聞くことを優先した。
「それと、これは最新情報だが、斧皇と水帝もやられたらしい」
クラウスのもたらした情報にイオリアは戦慄した。時間的に考えて正体不明の犯人は、剣皇を倒した後、一気に斧皇と水帝も倒したということだ。それぞれ四皇家と四帝家の人間であり優れた武人と聞いている。突然の襲撃だったのだろうが、それでも相手の戦力は異常である。
「亡くなったのですか? 犯人はやっぱり女騎士?」
イオリアの疑問に、クラウスは首を振った。
「いや、両名とも亡くなっていない。ただ、あくまで死んでないだけで、武人としては死んでいる。斧皇は、赤毛の子供の姿をした騎士に、水帝は獣の耳と尻尾を生やした大柄な男に、それぞれやられたらしい。あと、被害者は全員、魔力を抜かれていたようだ」
その言葉を聞いて、イオリアは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。心の中で「まさか、まさか……」と何度も呟く。
そして、その予測を確信に変える情報をクラウスはついに口にした。
「奴らの主だという人間は、自分を闇の書の主、ベルカを統べる王と名乗ったそうだ」
イオリアは、目眩でも起こしたようにフラと後退った。咄嗟に、ミクとテトが両側から支える。イオリアは、混乱する頭で必死に情報を咀嚼した。
(闇の書だと? まさか、ベルカ戦争の火種はそれだったのか? 確かに、この時代に宿主がいてもおかしくはないが、……しかし、記憶してる限り、ベルカの地は消滅後汚染されたハズ。闇の書にそんな機能あったか? この時代に収集した何らかの魔法か? それとも、連鎖的に誘爆でもした別の兵器か? くそ、てっきり核みたいな兵器かと思っていたのに……闇の書だなんて、八神はやての時とは状況が全然違う。記憶にある方法なんて役に立たんぞ。どうすれば……)
再び思考に没頭するイオリアに訝しげな表情を見せるクラウス達。
「大丈夫か? イオリア、何か知ってるのか?」
「……大丈夫です。闇の書についてはある程度知っています。昔、偶然、関係する資料を読んだことがあるので……」
イオリアは、別に転生のことから話してもよかったが、事態を余計混迷させるだろうことから、とりあえず誤魔化すことにした。古代ベルカ時代なら、それなりに闇の書の資料もあるだろうと当たりをつけて。実際にはそんな資料読んだことないが。
それを、あっさり信じるクラウス達。イオリアへの信頼の高さが伺える。イオリアは、罪悪感に胸の奥をツンツンされるのを感じながら話の続きを促した。
「闇の書に関しては私達もある程度把握している。現在もより詳細を調査させている。闇の書の主は、ランデルス・バグライトという男で詳細は不明だ。既に数十万の兵を従え、ベルカ諸国に宣戦布告した」
「戦争……しかし、そんな兵力どこから?」
予想以上に事態は進んでいたらしく、タイルが知らなかったことから本当に最新情報だということが伺える。
しかし、数十万もの兵を集めるにはそれなりに時間がかかるはず。そんな大きな動きをタイルや諸国が見逃すはずがない。
その疑問に、クラウスと苦虫を噛み潰したような表情を、オリヴィエは憂いを帯びた表情を見せた。
「半数は、別次元で集めた傭兵や犯罪者の集団です。……もう半分は難民から集ったようです」
「難民……それは……」
「はい、過去の戦争で、行き場をなくした者達です。彼らは、言うなればベルカの負の遺産。我々王族が救済しなければならなかった人達です」
オリヴィエは悔しそうに説明した。クラウスも神妙な表情だ。
「彼等の中には、今日食うものにも困る者が多いだろう。余裕のない人間は簡単に傾く。大方、統一後のベルカで優遇するとでも言われたのだろう。巨大な力と兵力を持つ者に手を差し出されれば、彼等はその手を取らずにはいられない。例え、手を差し伸べたものに救済の意志などなかったとしても。……これは、我々ベルカの王族の怠慢が招いた事態とも言えるな……」
クラウスは、自嘲気味な笑みを浮かべた。イオリアは、そんな二人の王を見つめながら、一番肝心なことを切り出した。
「それで……なぜ、その話を自分に?」
イオリアの半ば確信している瞳を見返しながら、クラウスは表情を引き締め、覇王としての威厳を纏った。常人なら思わず後退りそうな圧迫を感じながら、イオリアは臆することなくそれを受け止める。
「イオリア・ルーベルス。……ベルカの騎士となれ」
部屋の中を静寂が支配する。
かつて、クラウスは「待つ」と言った。イオリアの意思を尊重し、必要なものを自力で得る時間を望むイオリアを信じた。
そのクラウスが「騎士となれ」と言ったのだ。そこには様々な感情が含まれているのだろう。
敵は巨大だ。今は、一人でも多くの人材が必要だった。待てないことの申し訳なさ、王族として稀有な人材を放置できないという責務、それら全てを理解したうえで、イオリアは、かつてそうしたようにニヤリと不敵な笑みを見せた。
「もう学ぶことがなくて退屈していたところです。それに元々、こういう時のために力を、知識を、身につけたんだ。……俺は、今、ベルカの騎士となります」
クラウスは、その宣言に思わず破顔する。目の前の少年の心根はあの時から何も変わっていない。いや、それどころか、さらに鍛えられ強靭になっているようだ。かつて求めて、今日実現する。そのことに嬉しさを隠せなかった。
オリヴィエもまた、クラウスと同様に笑みを浮かべた。
クラウスもオリヴィエもイオリアが力を隠していることを何となく知っていた。それがイオリア自身の力なのか、それとも彼の相棒達の力なのか、あるいはその両方か、それは分からないが、騎士になるということはそれらが全て露見するということ。
オリヴィエは、イオリア達とかなり深い信頼があると信じている。それでも、知らされなかったことには、それなりの理由があったのだろう。それを知られてもいいと宣言されたに等しく、そのことがオリヴィエは嬉しかったのだ。
実際は、ミクとテトの力は戦争の火種になる! と過剰に心配したイオリアが、普段から秘匿を心掛けすぎて話すのを忘れていただけなのだが……
「では、略式で悪いが、早速、叙任したいと思う。準備が出来しだい行うから玉座の間で待機してくれ」
「私も、この事態ですから、そろそろ聖王家の方に戻らねばなりません。その前に、ベルカの新たな騎士の誕生を見ることができそうでよかったです」
イオリアはクラウスに頷いた後、オリヴィエの言葉に一瞬目を丸くし直ぐに納得した。
政治的理由で長く留学という体裁でシュトゥラに滞在していたオリヴィエだが、流石に戦争が始まっては帰らざるを得ないだろう。オリヴィエ自身、義理堅く真面目な女性だから聖王家の人間として自国を守りたいのだろう。
闇の書の主は、いつやってくるか分からないのだから。
「オリヴィエさん。いろいろお世話になりました。今度会うのは戦場かもしれませんね。……どうか、無茶だけはしないでください。あなたに何かあれば、俺はともかくクラウスさんは泣きます。鼻水とかいろいろ垂れ流しながら……」
「お、おい! イオリア、何だそれは!?」
オリヴィエは、キョトンとした後、くすくすと笑い出した。
イオリアは、無駄だと思いながらも言わずにはいられなかった。オリヴィエは、必要だと思ったなら躊躇わずその身を犠牲にできる人だ。根っからの王族なのだ。ただ、その時が来たら何が何でも救ってみせると決意を新たにした。
真剣な表情で茶化したのは締まらなかったが・・・
「それは私のセリフです。お二人こそ、どうかご自愛ください。私も二人に何かあれば泣いてしまいますよ?」
オリヴィエは、焦るクラウスをスルーしながら、ミクとテトに視線を向けた。
「ミクさん、テトさん。お二人もどうかご無事で。それと、あなた達のマスターをよろしくお願いします。皆さんの音楽が聞けなくなるのはイヤですよ? あと、ついでにクラウスもよろしくお願いします」
「もちろんです! オリヴィエさん。マスターには私達がいますから問題ありません! ついでにクラウスさんも気にしておきます」
「大丈夫だよ、オリヴィエさん。ボク達は最高だからね。ついでにクラウスさんも気にしておくよ」
オリヴィエとミク達は笑い合った。その自信満々な様子に、オリヴィエの笑みは益々濃くなるのだった。
「ついで、ついでって、……俺、こんな弄られるキャラじゃなかったハズなんだが……」
クラウスのどこか落ち込んだ様子を気にするものは誰もいなかった。
玉座の間にて、今、イオリアは片足を膝まづく形で頭を垂れていた。眼前にはクラウスがおり、脇にはミクとテト、それにオリヴィエの他アルフレッドや幾人かの立会人がいた。
クラウスはイオリアの前まで来ると、儀式用の剣をイオリアの右肩、左肩に軽く触れさせた。
「汝、イオリア・ルーベルス。今、この時を持ってベルカの騎士に任ずる。誓いの言葉を宣誓せよ」
クラウスが、厳かな声でイオリアに誓いの言葉を促す。
ベルカの騎士の叙任式において、叙任を受ける騎士は自ら考えた宣誓の言葉で自らの誓いを立てる。よく「汝~を誓うか?」という形式を見るが、ベルカにおいては、誓いとは他人の言葉にするものではなく。騎士自身で立てるものと考えられているからだ。
イオリアは、目を閉じたまま、誓いの言葉を唱えた。
「 強靭な意志の下、
ここに、“不屈”を誓う。
私の意志は、無力を守り、
私の歌は、弱きを支える。
私の絆は、万民を癒し、
私の拳は、理不尽を滅ぼす。
求める者に、“救い”をもたらす 」
静かになされた、イオリアの誓い。誰もが息を飲み込んだ。その歌うような言葉に込められた途方もない意志の力を感じたからだ。
クラウスは思い出していた。かつて、目の前の少年を自分の騎士にと誘ったとき、「騎士の心構えもあり方も知らない」と言っていたことを。そんな彼が、見つけたのであろう騎士のあり方。それが、宣誓の中に全て詰まっていた。
クラウスは、ふと思った。イオリアは果たして騎士でおさまる器なのかと。もしかすると、自分はもっと歴史的に決定的な瞬間を見ているのかもしれない。そんな思いがクラウスの胸中を満たしていた。
「汝の誓い。確かにこのクラウス・G・S・イングヴァルドが聞き届けた。……宣言する! 今、ここに新たなベルカの騎士が誕生したことを!」
クラウスの宣言に周囲から盛大な拍手がなされた。
ミクやテトなんかは、今すぐにでもマスターに飛びつきたいと言わんばかりの様子だ。イオリアも二人に笑顔を向けた。
状況は切迫している。しかし、きっと何とかなる。いや、何とかする。してみせる。
イオリアは、そう決意を新たにするのだった。
いかがでしたが?
オリジナル展開は楽しいけど辻褄合わせが大変ですね。
矛盾とか色々あるかもですけど、そこはご都合主義で流して下さい。
誓いの言葉とかめっちゃ厨二・・・ハズい・・・
わかる人にはわかるかもしれませんが、某竜の心臓な映画を元にしました。
騎士が出てくる映画としては一番好きです。
次回は、いよいよイオリア達が戦場で戦います。