重ねたキズナと巡る世界   作:唯の厨二好き

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旅団員の口調が微妙。

大丈夫かな。


第11話 旅団と一戦、そして念修得

 クロロ達に連れられて来たのは、如何にもお尋ね者のアジトといった感じの人気のない倉庫街の一角だった。

 

 露店のおっさんのホクホク顔を後に、道中、開き直って大量に買い占めた串肉焼きをモシャモシャと貪っていたイオリア。

 

 その様子を見て、最初は肩を震わせていたクロロ達だったが、貴様らには一本たりとてやらん! と言わんばかりの勢いで肉を貪るイオリアに、普段どんな食生活を送っているんだ? と若干哀れみの混じった目を向けた。

 

 自分達のマスターが欠食児童扱いを受けている! と悟ったミクとテトが何やら弁解じみたことを話していたようだが、イオリアはその一切を無視してとにかく肉を貪った。その様子が、マスターの名誉を取り戻そうとするミク達の努力をことごとく無駄なものにしているとわかっていながら。

 

 なんとなく、グダグダした空気が流れていたが、アジトに到着すると流石にクロロ達の雰囲気も一気に張り詰めたものになった。扉を開け倉庫のような建物に入る。

 

 中は閑散としており、古びた電球が頼りない光で必死に闇夜を払っていた。

 

 そんな薄ぼんやりした灯のなかで、9人の人間が思い思いにくつろいでいいた。その中の一人、金髪の笑顔を浮かべた男がクロロに声を掛ける。

 

「団長、おかえり。随分遅かったね。で、そちらさんは?」

 

「怪しい音楽家だ。」

 

「へぇ~」

 

 団長のその言葉に気を惹かれたのか、その他の団員も近寄ってくる。

 

 原始人のような大男ウボォーギン、ポニテの美人マチ、メガネの女がシズクだろう。包帯を巻いた男はボノレノフ、侍っぽいのがノブナガ、長い髪で表情がよく見ないのはコルトピで、あとは消去法でクロロに声を掛けたのがシャルナーク、残りがフィンクスだろう。

 

 イオリアはそう推測しながら各々の能力を思い出していた。ピエロっぽいヤツなんて見えない。こっちを見てニヤニヤしてる変態など断じて見えないのだ!

 

「最初は見事な演奏に声を掛けたんだが、俺達のことを知っているようでな。パクの能力まで知っていたから連行した」

 

 パクノダの能力を知っていた、というクロロの言葉に警戒心を強める団員達。さりげなく出入口を塞ぎ、イオリア達の周りを囲む。

 

「さて、では答えてもらおうか? お前達は何者だ? なぜ、パクの能力まで把握している?」

 

 クロロの尋問に、イオリアは道中、ミク達と相談して決めた手順で行くことにする。伊達に肉を貪っていた訳ではないのだ。マルチタスクで思念通話をしながら、ミク達がクロロに話しかけることで油断させたのである。無言で押し通せば、何らかの念能力で意思の疎通を図っていると警戒されないとも限らない。そう、全ては作戦なのである。決して、不貞腐れていたわけではないのだ。

 

「いや、パクノダとか言う人の能力なんて知らない。全くの誤解だ。」

 

「……では、なぜパクを避けた?」

 

 

 自分何のことかわかりません、といった表情を浮かべるイオリアにピクッと眉を上げるクロロ。

 

「勘?」

 

「てめぇ、舐めてんのか? アァ?」

「状況が理解できてないのかな?」

「ふふふふふ」

 

 イオリアの言葉に、即効で切れるフィンクス。笑顔だが目が笑ってないシャルナーク。興奮し始めてるヒソカさん。団員全員が殺気立っていた。

 

 ノブナガとフェイタンが、イオリアの後ろに控えるミクとテトに近寄る。

 

「度胸があるのか、ただの馬鹿かは知らないが、連れの女の事を考えてやったらどうだ?纏すらできていないということはお前達は一般人だろ。それが、どういうルートで俺達のことを知ったのか、それを教えるだけで無事に帰れる。……別に話さなくても無理やり聞きだす方法はあるんだ。ただ、それであの演奏技術が失われるのは痛い。どうだ?」

 

 どうやら、クロロは本気でイオリア達の音楽が気に入ってくれていたようだ。ここまで、実力行使をしてこなかったのはそういうことなのだろう。

 

 だが、イオリアも無い袖は振れない。この世界に来たのは今日が初めてで、クロロが想像するような情報ルートなど持っていない。あくまで、日本にいた頃の知識なのだ。

 

 故に、さっきの弁解以上の理由はイオリアにはない。念能力という言い訳も、オーラを纏えず正真正銘垂れ流しているだけとバレていることからできない。

 

 また、パクノダに記憶を覗かれるのもまずい。もし、中途半端とは言え、ハンター世界の知識を覗かれてしまえば、彼らがどんな行動に出るかわからない。この世界に骨を埋めるなら別だが、イオリア達はベルカに帰らねばならないのだ。悪影響だけ与えてさよならなど流石に無責任というものだ。

 

 故に、イオリアにはこの選択しかない。

 

「ミク、テト、どうだ?」

「はい、マスター安全は確認済み! 大丈夫です!」

「準備完了。いつでも行けるよ? マスター」

 

 突然、話し始めたイオリア達に警戒心を最大に引き上げる団員。

 

 同時に、フェイタンとノブナガが動いた。一息でミクとテトに接近。ノブナガが刀を居合抜きの要領で抜きミクの首を狙い、フェイタンの手刀がテトの首筋を狙う。

 

 狙い違わず、二人の刃はミクとテトの首を切り落とした、ように見えた瞬間二人の姿が揺らいで消える。高速機動により一気に距離を取り建物の奥の方へ揃って現れた。

 

 そのあまりの速度に団員達は一瞬、完全に二人の動きを見失い驚愕の視線を送る。特に、ノブナガとフェイタンの驚愕はひときわ大きかった。

 

 なにせ、ノブナガもフェイタンも世界有数の戦闘者であり、その自負もあった。にもかかわらず、目の前の標的の動きをまるで追えなかったのである。それは、ミクとテトがやる気なら手痛い反撃を受けても気づけなかったということだ。

 

 ノブナガ達の蟀谷を冷や汗が流れる。やはり、ミク達からはオーラが感じられないという事実が団員達をして最大限の脅威を感じさせる。

 

 驚愕による停滞。その瞬間を狙ってイオリアも動いた。咄嗟にフランクリンが指先から念弾を撃ち、マチが念の糸を伸ばし、ヒソカがトランプを飛ばす。

 

 イオリアは、マチの糸を無視し、ヒソカのトランプをサックスケースで防御し、フランクリンの念弾をワザと食らった。

 

 もちろん、【圓明流:浮身】により衝撃を殺しつつ、小さなシールドをクロロ達には見えないよう張り威力を極力殺した状態で、だ。

 

 それでも念弾の威力に吹き飛びながら、ウボォーギンとフィンクスが急速に接近してきているのを確認する。その体格と相まって凄まじい迫力だ。

 

 イオリアは、空中でサックスを取り出すとヒュゴォという音を立てながら息を思いっきり吸った。連動して胸部がググッと膨らむ。

 

 嫌な予感がしたのかマチが咄嗟に叫ぶ。

 

「防いで!!」

 

 だが、折角の指示もイオリアの衝撃超音波の前には意味がない。固有振動と共鳴を利用したこの攻撃は、それこそ空気そのものを遮断でもしない限り、秒速340mで目標に到達し対象の脳髄を揺さぶり尽くす。

 

 イオリアは、肺に溜まった空気を余すことなくサックスに吹き込んだ。

 

 マチの忠告に従い防御姿勢をとった団員達だが、次の瞬間には音が物理的圧力を持って落ちてきたと錯覚するような凄まじい衝撃を受け、一人も余すことなく白目を向いて崩れ落ちた。

 

 吹き飛んでいたイオリアは、ミクとテトがキャッチし、直後、テトが準備していた転移魔法が発動、その場を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 暗く静寂が支配する森の中で、突如、光が幾何学模様とともに湧き上がる。光が収まると同時に人影が現れた。イオリア達だ。ここはベルカから転移した際、最初にイオリア達がいた場所だ。しばらく活動できないとは思うが、念能力者のスペックを未だ測りきれていないイオリア達は、念のため、街を出ることにしたのである。

 

「ふは~、怖えぇ~。戦場とはまた違った恐怖だ。何、あの殺気。旅団員は化物か?」

「いや、その化物を文字通り瞬殺したマスターは、一体何なのかと」

「え~と、殺っちゃったんですか?」

 

 イオリアの自分を棚上げした愚痴っぽい感想に、思わず突っ込みを入れるテト。

 

 事前の打ち合わせで、周囲に住民がいないことを確認し、ミクとテトが先に退避、イオリアが念攻撃を受けつつ攻性音楽で一撃いれ、転移魔法で離脱、と作戦を立てていたわけだが、転移直前に見た団員の様子が悲惨な感じだったので確認を入れるミク。

 

 テトの突っ込みを聞こえないふりをして、ミクに答える。

 

「いや、一応手加減はした。死なれたらこの先どんな影響があるか分からないからな。この世界に永住でもしない以上、無責……っと、こんな感じか?確か、【纏】だったな。予想通り魔力制御と似た感じだ」

 

 イオリアは、ミクに答えながら漏れ出すオーラを制御し、何とか【纏】をしようと奮闘する。もともと魔力制御は得意中の得意だったので、体内エネルギーという点では共通しているオーラもそうこうしている内に体に纏えたようである。

 

 あれでも手加減したというイオリアに若干呆れた視線を向けながらも、テトはイオリアの作業について質問した。

 

「それで、念には目覚めたということでいいの?ボク達には見えないんだけど……」

「事前に打ち合わせをしていたとはいえ、攻撃を受けたときは生きた心地がしませんでしたよ~」

 

 そんな二人に、苦笑いをしながらイオリアは「悪い」と頭を下げ謝る。

 

 連行されている間、逃走方法を考えながら、どうせ攻撃されるだろうからついでに念修得できないかな? と考えていたイオリアは、そんな軽い気持ちで二人を心配させたことを反省した。

 

「とりあえず、【纏】はできた。オーラが漏れ出してないようだから成功と考えていいだろう。魔力制御に長けていれば問題ないと思ったが正解だったな。そんなに難しくない」

 

 そんなイオリアの言葉に、安堵した様子のミクとテト。折角の機会だからと説き伏せられ、マスターなら大丈夫と賛成したものの、やはり心配だったのだ。

 

「ならよかった。それで、マスター?これからどうするの?」

「取り敢えず、魔法文化がないことははっきりしましたよね……」

 

 ミクとテトは、困った様な表情でイオリアを見つめる。

 

 ハンターの世界には当然魔法の概念などない。魔法技術による帰還補助は不可能だ。イオリアは、腕を組み木にもたれ掛かかりながら考え込んだあと、二人に今後の方針に関する案を話してみた。

 

「念能力でどうにかならないか?とも考えてみたんだが……多分無理だ。長距離移動の念ですら厳しい制約と誓約が必要なのに、次元の壁を超える能力の制約なんてな……魔法を補助する念能力なら可能かもしれないが、それがどの程度の効果を持つかは分からない。あまり期待しない方がいいだろう。最終手段だな」

 

 イオリアの言葉に、確かにと頷くミクとテト。

 

「で、だ。一つ帰還に役立ちそう、というかハンター世界のストーリー知識が少ないせいでこれしか思いつかないんだが、グリードアイランドのクリア報酬で役立つものはないかな? っと考えたんだが……どう思う?」

 

 イオリアのアイデアに、顔を見合わせるミクとテト。

 

 グリードアイランドとは、念能力者のみがプレイをすることが可能なフルダイブ型ゲームのことで、ゲーム内にある指定カードを全種集めることでクリアとなる。

 

 そして、クリアの際、ゲーム内のカードをクリア報酬として3枚だけ持ち出すことができるのだ。ゲームというだけあって、その効果は現実離れしたものが多い。

 

 イオリアは、曖昧な知識の中で使えるものがあるのでは? と考えたのだ。

 

「確かに、可能性はありますね」

「マスターの知識は曖昧だけど、強力なカードが多数あるのは確かだね。うん、いいんじゃないかな?」

 

 イオリアは前世において、ハンター世界の原作を読んでいない。そのため、笑顔動画でパロディー化されたものと、深夜アニメのチラ見くらいしか知識がない。いくら、前世の記憶が魂に刻まれていて忘れることがなくても、最初から曖昧な知識では確かなことは言えないのだ。

 

 もっとも、笑顔動画のうp主達は揃って凝り性なので、ハンター世界の設定に関してはそれなりに詳しくはあるのだが。

 

「よし、それじゃあ、当面の目標はグリードアイランドのプレイと使えそうなカードの選別だな。」

「でも、マスター。グリードアイランドって、ものすごく高価なんじゃ……」

「路上ライブで稼げる限度を超えていたと思うよ?」

 

 ミクとテトの懸念も最もだった。グリードアイランドは世界で100本しか存在せず、オークションなどに出品された折には優に数百億単位で取引されるのだ。それこそ、イオリア達でも、プロデビューして何年も働かなければ稼げない額だ。

 

 心配するミクとテトに、イオリアは打開策なら考えてあると自信ありげに微笑んだ。

 

「わかってる。それについては考えがある。いいか? 俺達はグリードアイランドを手に入れる前に、ハンター試験を受けるんだ」

「ハンター試験?」

「……ああ、なるほど。」

 

 イオリアの全く関係なそうな話しに、ミクは首を傾げ、テトは少し考えた後、イオリアの意図に思い当たったのか若干呆れるような表情を見せた。

 

「そうだ。ハンターライセンスを取得したら即行で売る。確か、ハンターライセンスは売れば7代は一生遊んで暮らせる額になるって話しだったはずだ。ライセンスを取れば調べ物も一気に楽になる。高値で買ってくれる好事家も、グリードアイランドの所在・持ち主もな」

 

 ミクも納得したのか「なるほど」と頷いた。テトが一通り予定が立った事を察して、まとめに入る。

 

「じゃあ、ちょっとまとめようか。まず、ハンター試験を受けて、ライセンスを手に入れる。好事家とグリードアイランドをハンター権限で調べて、その後、売る。売ったお金でグリードアイランドを購入して、プレイ。帰還に役立ちそうなカードを探しつつ、あればクリアを目指す。なければ、念能力が頼みの綱。って感じかな?」

 

「ああ、そういうことだな。ハンター試験は確か応募カードを出す必要があったと思う。……今期の試験に間に合えばいいが……どっちにしろ一度街に行って情報を集めないとな」

 

 イオリア達は顔を見合わせ頷きあった。

 

「それと、ミクとテトも念の修得にチャレンジな」

 

 イオリアは、突然、そんなことを言った。ミクとテトは困惑したようにイオリアに質問した。

 

「でも、マスター。ボク達は、デバイスだよ?」

「念って、生命エネルギーなんですよね? 私達では……」

 

 当然の疑問に、イオリアは、「まぁ可能性の話だよ」と苦笑いする。

 

「確かに、そうなんだが……覚えてるか? あの時、クロロはこう言ったんだ。纏すらできてないということはお前達は(・・・・)一般人だろう、ってさ。オーラを垂れ流している人間にミクとテトも含めていた。それで、俺もさっきから注視してるんだけど……うん、確かに二人ともオーラがあるっぽい。オーラ自体は誰でも持ってるものだしな。それに、道教では、魂魄の魂は精神エネルギーを、魄は肉体を支えるエネルギーを指すと言われている……と思う。二人は確かにユニゾンデバイスだが、俺の魂を分けた与えられた特別製だ。魂があるならオーラがあっても不思議じゃない……かな?」

 

「思うとか、かな?とか微妙ですね~」

「でも、取り敢えず使えるなら修得したいね」

 

 イオリアの微妙な推測に苦笑いしながらも、ミクとテトは念が使えるという事実に喜んだ。自分達がただの機械などではないことは十二分に自覚しているが、それでも人間と同じと言われたことがイオリアとより近しい存在と言われたようで嬉しかったのだ。

 

 また、さらに強くなれることで、よりイオリアの力になれることも二人を喜ばせた要因だ。

 

「よし、それじゃ、早速やってみるか」

 

 その言葉とともに、イオリアは魔力弾を放つ場合と同様の制御方法でミクとテトにオーラを流し込む。まだ不慣れなせいで、一気に目覚めさせることは出来なかったが、それでも最終的にミクとテトもオーラに目覚め【纏】をすることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 その後、旅団の襲撃を警戒しつつ一夜を明かし、オプティックハイドを発動しながら街に戻り無事ハンター試験の応募を果たした。

 

 ハンター試験まではまだ1ヶ月ほどあるようなので、イオリア達は森の中で念の修行をすることにした。

 

 念修行の基本四大行である纏・練・絶・発の修行だ。イオリア達は【纏】に関しては類まれなる魔力制御能力を持っているので問題なかった。【練】についても少しづつ総量が増えており問題ない。

 

 ハンター試験まで後20日、イオリアは、木の根元で座禅を組み、目を閉じて【絶】の修得に励んでいた。

 

 ……ミクが【纏】の応用技【周】で石を豆腐のようにスパスパ斬り、テトが念弾をバカスカ連射している横で。

 

 そう、ミクとテトは既に念の修行を応用技まで全て修得しているのだ。

 

 というのも、ミクとテトはユニゾンデバイスであるため精孔がなく、イオリアの推測通りなら魂から直接オーラを引き出すことができており、コツを掴めば操作することも難しくないと、二人共最初から自分の手足のように制御できたのである。

 

 実は、念に目覚めた次の日には全ての念法を習得していた。

 

 これを聞いてイオリアは、かつての様に崩れ落ちた。自分が未だ四大行を修得していないのに、パートナー達は既に修行を終えてしまったのだ。涙目になりながら【練】と【絶】の修行をするイオリアを、ミクとテトは必死に慰めた。

 

 ちなみに、イオリアの修得速度は天才級である。それは才能があるからというだけでなく、過酷な武術と魔法の訓練を幼少の時より続けていたため念修得の下地が出来上がっていたからだ。

 

 特に魔法の制御・運用は念法のそれと似通っており、念の修行を初めて10日程度で、既にイオリアの【纏】や【練】、【絶】に関しては上位者レベルに達していた。

 

 しかし、ミク達の「修行?何それ、おいしいの?」と言わんばかりの所業に、自分のすごさを自覚できないイオリア。この世界のハンター達がこれを知ったら発狂ものである。あと、水見式の結果、三人とも特質系だったのは、その貴重さから言ってもやはり発狂ものだろう。

 

 これより、さらに15日後、ミク達に負けてなるものか! と奮闘したイオリアは、未だ拙さは残るものの全ての念法の修得に成功した。

 

 そして、ついにハンター試験の日がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 一方、旅団のその後。

 

 

「うっ、く、何が……」

 

 目を覚ましたクロロは、ガンガンと痛む頭を抑えながら辺りを見回す。

 

 しかし、どこかボンヤリとしてピントが合わず、今度は目頭を抑える。すると、その気配に気づいたのかウボォーギンの野太い声が響いた。

 

「あ~今の団長の声か? 団長? 生きてっか?」

「ウボォーか。ああ、何とかな。どうなってる? 他のヤツ等は無事か?」

 

 未だ、ピントの合わない視線で周囲を見やれば、ぼんやりと人らしきものがあちこちに倒れているのが分かる。団員達だろう。もぞもぞと動いている者もいることから死んではいないようだが、一足先に意識が覚醒したのであろうウボォーギンに尋ねる。

 

「いや、わかんねぇよ。少し前に目を覚ましたときは、ほとんど何も見えないわ、耳は聞こえないわで、袋にでも入れられて拉致されたのかと思ったくらいだ。しばらくボーとしてたら徐々に回復してきたみてぇだが……あの野郎っ! 一体何しやがったんだ!?」

 

 話しているうちに興奮してきたのか大声になるウボォーギン。そのビリビリと震えるような声に、他の団員達も意識を取り戻していく。そして、クロロと同じようにピントの合わない目と、どこか遠くに聞こえる耳に顔をしかめる。

 

 これは、イオリアの衝撃超音波の影響だ。許容量を超えた振動と音波が一時的に視力と聴覚を麻痺させているのである。

 

 しばらく現状確認をしていると、ようやく支障ないレベルまで回復し、団員全員でイオリア達の事を話し合った。

 

「結局、何だったんだ?野郎は何したんだ? 俺達を全員まとめて瞬殺とか洒落にならねぇぞ?」

「……音」

 

 フィンクスの最もな疑問に、ボノレノフが反応する。ボノレノフも戦闘演武曲という体に空いた穴で奏でた音楽を力とする能力者であることから、思うところがあったらしい。

 

「音? そういえば、あの衝撃が来る前、サックスを取り出して息を吹き込んでたね♠ まさか、それで?」

 

 ヒソカが心底楽しそうな、もとい興奮した様子で確認する。クロロも同様の結論に至ったのかヒソカの推論に同意する。

 

「そのようだな」

 

「だが、そうだとしたらとんでもない技だね。ボノみたいに、音楽で物を具現化させるんじゃなく、音そのものが凶器なんだろ? 察知するのが恐ろしく難しい。めちゃくちゃ暗殺向きだ」

 

 シャルナークの分析に、数名を除いて深刻そうな顔をする。もしかしたら、自分達はとんでもない相手を敵に回したのかもしれないのだ。

 

「あの男の技もやばいが、連れの女も相当だろ。俺とフェイタンが対応できない速度を予備動作なしでしたんだぞ? しかも、あの男と同じでオーラを感じなかった……」

 

 ノブナガの言葉に、フェイタンが不快そうな顔をする。

 

「ねぇ、団長。アイツ等にこれ以上関わるのは止めた方がいいんじゃない? 無防備なあたしらに何もしなかったということは向こうから関わる気はないってことでしょ?」

「それは勘か?」

「勘」

 

 団長に進言するマチ。マチの勘は的中率が高く、団員の中でもパクノダの次に信頼されている情報源である。また、その後の推測も妥当なものなので、クロロは暫く悩んだあと方針を決めた。

 

「マチの勘がそういうなら、関わらない方針でいく」

 

 クロロの言葉にウボォーやヒソカなど根っからの戦闘狂は不満そうな顔をするが、概ね賛成のようだ。やはり、念も使わずにあわや全滅させられそうになった上、まだ相手の手口が見えないという不気味さが団長の判断を後押ししたらしい。

 

 未だ、戦いたそうなウボォーギンなどは、

 

「なぁ、団長。団の方針はわかったけどよ、万一ばったり会ったりしたら個人的に戦うのはいいよな?」

「そうだね♠ 正当防衛とかも仕方ないよね♥」

 

 全くもってよくないのだがクロロは頷いた。この二人は我慢させたほうが、後々面倒になるのだ。それに、ヒソカはクロロを狙っているようなので、あわよくばイオリア達が始末してくれないかなぁとクロロは考えていた。

 

 始末とまでは行かずとも、将来それに近いことになるとは、このときのクロロは思いもしなかった。

 




いかがでしたか?

ミク達に念を使わせたいので辻褄合わせに魂の話をだしました。
苦しかったかな・・・

次回は、ハンター試験です。

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