白物語 作:ネコ
波の国と木の葉の里との交渉の場に、カツユを居させることで話を進めていたが、木の葉側の人数が多くなるという理由により、木の葉側が拒否してきた。
これにより、波の国からは再不斬とナナが。木の葉からはコハルとダンゾウが、交渉の場に出ることになった。
そのため、事前にカツユと白で考えたことを再不斬に伝えて、後は報告待ちの状態になっている。
ただ、交渉は意外と早かった。その日の内に終わり、再不斬は帰り支度をしているとカツユから情報提供があった。
「意外と早く終わったけど、中身分かる?」
「少ししか分かりませんが、再不斬さんは笑っているようでしたよ」
「嫌な予感しかしない……その少しって言うのは?」
「ナナさんの波の国での情報を木の葉の里に提供すると言うことと、波の国からの援助が私たちの話した内容とほとんど一緒ということですね。白さんのことは、答えていただけませんでした……」
「そうですか……」
申し訳なさそうに答えるカツユに、嫌な予感しかしない白は沈みこんだ声で返す。
「わしのことは何かいっとったか?」
「名前は出さないようにとのことだったので聞いていませんが、確認した方がいいですか?」
「いや……。やめておいてくれ」
自来也は、白と共に不安な気持ちで、ガックリと肩を落とす。
「そろそろ、旅に出る準備でもするかの、白よ」
「そうですね。ここは拠点としてとてもよかったんですが……」
白が言いかけたところで、カツユに止められる。
「白さん。再不斬さんから、待ってろとのことです。……それと、条件があるみたいですね。それについては戻ったときに話すそうですよ。良かったですね! 条件付きとは言え、抜け忍にはならないようです!」
「おおっ! ……って、条件というのが気になるんですけど?」
カツユの言葉に一旦喜んだものの、条件という言葉に我に返り、カツユに聞き返した。
「悪いようにはなっていない、としか答えていただけません……。すみません、お役に立てず……」
「いえ、気にしないでください。あの人が、悪いようにはなっていないとしか言うんだから、最悪なのは回避したんだろうけど……」
「しかし、よく考えてみよ。わしと一緒に旅に出た方が安全ではないか?」
自来也は白の傍に寄ると、不安を煽る様な言い方で、旅へ出ることを勧めてくる。余程白を旅に連れて行きたいのだろう。
「確かに、三忍とまで言われた人と一緒であれば、それなりに安全なんでしょうが……、逆に身の危険を感じるんですよね……。行先は妙木山になりませんか?」
「1ヶ所に停滞するのはよくないぞぉ。お主も新しい場所に向かっ!?」
片手で夕日を指差し、もう片方の手で白の肩を掴んだ瞬間、自来也は宙を舞い地面へと叩きつけられた。それは見事な一本背負いの形となって、宙に弧を描いた。
何が起きたか分からずに、叩きつけられた格好のまま自来也は白を見上げる。一瞬のことだった上に、完全に油断していた。それに加えて、身体も完全に回復していない時に投げられては、如何に自来也と言えども対応できなかった。
白はやってしまったと手を顔に当てていたが、自来也のにやけ顔を見ると、逆に開き直って自来也に言い捨てる。
自来也は、白の纏ったコートの中を、地面に倒れたのをいいことに覗こうとしていた。白がズボンを履いているにも関わらずである。
「気安く触らないでください。身の危険を感じて投げ飛ばしてしまいました」
「それは厳しすぎんかのぉ……」
自来也から少し距離を置くと、悲しそうな顔をする自来也を放って、白は再不斬が戻ってくるのを待つことにした。
次の日。再不斬が戻る少し前に、カツユが戻ることになった。元々少しのチャクラしかなかったので、数日とはいえ、よく持った方だったのである。
「今日は自来也さんをお見かけしてませんが、何処におられるんでしょう? ご挨拶したいのですが」
「きっと何処かで誰かの風呂場でも覗いているに違いないので気にしなくて良いですよ」
否定のできない白の言葉に微妙な空気が漂うが、気を取り直して別れの挨拶をする。
「それでは失礼しますね。また会いましょう」
「ええ。また」
白の言葉を最後に、カツユは煙と共に消えてしまう。
その後すぐに再不斬が戻ってきた。部屋へと戻っているところを捕まえて条件について急ぎ訊ねる。
「再不斬さん! 条件を教えてください!」
「そう慌てるな」
再不斬は自室へと行きソファーに深々と腰かけて、後をついて立ち尽くしている白へと、顔を向けて答える。
「後ろにいる奴は誰だ?」
「えっ?」
白は驚き、後ろを振り向くが誰も居なかった。しかし、感知結界で確認すると確かにチャクラを感知することができる。再不斬はソファーに座る前に、感知結界の地図へ視線を向けて確認し、白へと問いかけたのだった。
チャクラの感知された場所は地面……白の影からだった。そのことに気付いた白は、影の中に潜む術を自来也が持っていたことを思い出す。
白はわざとらしく気付かぬ振りをして、腰に取り付けた雷刀へ手を伸ばし両手に握る。それを素早く影へと刺し貫くべく振り下ろした。
貫く寸前。影が動き雷刀を素早く避ける。
「影操りの術ですか……操らずに潜むこともできるんですね」
「かなり自信があったんだがのぉ……」
「感知結界を張ってあるし、地図もありますからね……って、そうじゃなくて、なんでここに来たんですか?」
「わしも聞きたいことがあってな」
何を言っても無駄な気がした白は、自来也を居ない者として考えて、再び再不斬へと問いかける。
「この人はただの変人なので気にしないでください。それよりも条件をお願いします」
「変人か……。まあいいだろう、お前の知り合いのようだしな」
再不斬は白と自来也を交互に見て、先ほどのやり取りで納得したのか、条件について語り出した。
内容についても、白のことがメインであるため、その本人が許可を出したので、言っても構わないという判断でもあった。
「話は簡単だ。お前の代わりにあの女を渡してきた。あれでも肩書きは、この国の実質ナンバー2だからな。それのせいで、あまりお前たちの協議した内容は必要なかったがな」
「道理で一緒に帰って来なかったわけですね」
そこで、ナナがいないことに思い至った白は納得する。
再不斬の機嫌がよかったのは、どんどん駄目になっていくナナを、体よく厄介払いできたからだった。
ナナはハナビに付きっきりであったため、まともに仕事をしていたのは、白とハナビだけである。そのため、昔のことは知っていても、最新の情報など持ってはいなかった。
それに加えて、薬品と忍術により、ガトーカンパニートップの入れ代わりについては、初期の段階で記憶の改竄とプロテクトをかけているため、脳を覗かれても困ることはない。
そのせいで、自身が忍であることを早々に忘れてしまい、利益のことばかり考えるようになってしまっていたが……。
「あの女から情報を得ることと、物資と人材の援助で話は付いた。ただ、お前が血継限界と知れたからか、子を寄越せと言ってきたな」
「ああ……。まあ、それくらいならいいですけど……いずれは結婚とかしたいですし」
白は照れたような表情をすると、頭を軽く掻く。
「そう言うだろうと思って、俺も承諾しておいた」
「相手は誰とか分かりますか? 年がかけ離れていたりするのは、流石に勘弁してほしいんですけど」
木の葉に人はたくさん居るが、あまりにも年の離れた人は遠慮したいと思い訊ねると、白の知っている名が出てきた。
「ああ。年は近いらしいぞ、事前に向こうでも選んでおいたんだろうな。確か日向だったか……」
「日向ですか……(となると、近い歳でいくなら、ヒナタかハナビあたりかな? 他に居なかったはずだし)」
「そのような交渉に安易に乗ってはいかん! 身体は大事にせねば!」
勘違いしたまま、必死に白を思い留まらせようとする自来也を無視して、話は進んでいく。白は慣れたものだったが、再不斬は興味深そうに自来也を見ていた。
「名前はネジと言うらしい。まあ、後は当人同士で話し合え」
「はっ?」
再不斬は話は終わりとばかりに目を瞑ると、ソファーの背もたれに背中を預けて黙ってしまった。
「ネジと言えば、日向の天才児と言われとった子か……確かにわしほどではないにしろ、いい男と聞くが……」
顎に手をやり考え込む自来也を余所に、白はその場で凍りついたように立ち尽くす。
自来也は、小声でぶつぶつと呟いていたが、結論が出たのか、再不斬と白との話が終わったのを確認し、再不斬に訊ねた。
「わしのことは何か言っとったかの? 自来也と言うんじゃが」
「……本物か?」
再不斬は、自来也という名を聞くと、閉じていた目を開けて、自来也を見る。
木の葉の伝説の三忍については、閉鎖的な水の国にまで届いていたのである。その中の1人が、いきなり目の前に現れては、疑わずにはいられないのだろう。白に目を向けて訊ねるが、白は固まったままだった。
「わしを騙る者はそうおるまい。わしのような良い男を真似ることなど不可能よ!」
「…………」
白の変人という言葉を思い出した再不斬は、どうでもよさげに答えた。
「話題にすら出なかったな」
「そうか!! これで、自由に行動できるというものだ!」
自来也は、嬉しそうに腕を組んで頷くと、満足そうな表情を浮かべる。
「わしが聞きたいことはそれだけだ。では、お先に失礼するとしようかの」
そう言うと、自来也は部屋の外へと向けて歩きだす。余程自分が生きているということを知られるのが嫌だったのだろう。上機嫌で部屋を出ていった。
それに対して白は、未だに立ち尽くして固まったままである。それを見た再不斬は不審に思い、首切り包丁を握ると、それを白の頭へと振り下ろした。
白は呆然としたままだったが、日頃の鍛練の賜物だろう。身体が反射的に動き、首切り包丁を避ける。
身体が反射的にでも動いたことで、意識を取り戻した白は、首切り包丁で攻撃を受けたことなど気にもせずに再不斬へと詰め寄った。
「どういうことですか!? 何故ネジなんですか!?」
「何か問題でもあるのか?」
白の言いたいことが分からずに、再不斬は眉間にシワを寄せて不審気に聞き返す。
「あのですね。ネジというのは男なんですよ! あり得ないでしょう!?」
「…………」
再不斬も、まさか相手が男だったとは思わずに押し黙り、白が固まっていた理由を納得した。
「何を考えているんだろうな、木の葉は……」
呆れたような物言いで、天井へと目を向けた。木の葉側の情報では、暗部リストにも、そしてアカデミーにも女として登録してあったので仕方ないと言えばそれまでだった。
ヒアシへの説明についても、血継限界の血を入れると言うことと、相手が女であるという説明しかしておらず、ダンゾウが強行して話を進めていたのである。
ただ、ヒアシも黙っていたわけではなく、本人がよければという条件を出した。ここまではよかったのだが、この時ネジは不在だったために、別途火影のところに行くことになったのである。
ネジは話を聞いて、最初は断ったが、渡された資料を見て、ダンゾウの言葉に思わず頷いてしまった。
「それが相手の女だ。日向家にいたというのだから面識くらいはあろう。木の葉の為にも協力してくれるな?」
こうして、この話はセッティングされたのである。
期限については特に無かったが、定期的に木の葉へと行かねばならなかった。
再不斬は、交渉時の会話を思い出し、白へと指示を出す。
「取り敢えず、支援の手配ついでに、そのことを伝えておけばいいだろう。さっさと動くことだ」
「そうですね……」
意気消沈し、とぼとぼと部屋を出ていく白を、再不斬は不憫そうに見送った。
更に数日後。水影が波の国を訪問してきた。お供には青と長十郎がついて来ている。
「久しぶりですね」
「ああ。今日来たのは五影会談についてか?」
「話が早くて助かるわ。長十郎こちらへ」
「はいっ」
長十郎は、呼ばれてすぐに照美の隣へと立つ。
「五影会談から戻るまでの間、この子に忍び刀での戦い方を教えてあげて欲しいのよ。まともに教えることができるのは、あなたくらいでしょうし。仕事についても、教えれば真面目にやる子だから、それほど足手まといにはならないわ」
「再不斬先輩よろしくお願いします」
長十郎は、照美の話が終わってすぐに、再不斬へと頭を下げて懇願する。再不斬も、他の忍び刀使いに興味があるのか、承諾した。
「いいだろう。今の霧隠れの実力を知るいい機会でもあるしな」
「良かったわね、長十郎」
「はい! ありがとうございます」
長十郎は、何度も照美と再不斬に向けて頭を下げる。
今回のことは、長十郎が照美へと願い出たのだろう。霧隠れの里で会った当初から、尊敬のような眼差しを再不斬に向けていた。
「代わりに、あの子を連れて行きたいのだけどいいかしら? 護衛には、それなりの実力者を連れて行きたいし、なにより雷刀を持っているわよね」
雷刀と言われて、思い付くのは1人しかいない。
今回連れていける護衛は2人と決まっているため、ここで、長十郎が抜けた場合、もう1人を補充しておきたい、そこで目をつけたのが白だった。
しかも、忍び刀まで持っており、実力もある程度はあると照美も見ていたため、長十郎の願いをきいたのである。
波の国側からしても、同盟国としての範囲内に十分に収まるものだった。忍び刀所持者の期間限定での交代。多少波の国に不利な条件ではあるが、白が影分身を使えることを考慮すれば、波の国にとっては、それほど理不尽なものではなかった。白にとっては違ったが……。
「隣の部屋にいるはずだ。もしくは街の治療小屋か。どちらかだな」
再不斬は立ち上がり、地図へと目をやると、照美に答える。
それを見て青は感心したように、再不斬へ話しかけた。
「このような物があるとは……これは、チャクラの大小を顕しているのですな。素晴らしい」
「青。そういったことは後になさい。今は五影会談に行かねばなりません」
「はっ! 失礼しました」
「では、失礼しますね。長十郎は体に気を付けるのですよ。再不斬さんよろしくお願いしますね」
「ああ」
再不斬の返事に満足した照美は、長十郎に微笑むと、部屋を出ていった。それに続き青も出ていく。
隣にいる白の部屋へと向けて。