白物語 作:ネコ
94 帰省?
白から説明を受けた再不斬の行動は早かった。
だらしなく着崩した服から、忍び装束へと袖を通し、背に首切り包丁をぶら下げる。そして、不安気な顔をしている白を捕まえて走り出したのだ。
このとき白は、困惑していた。それというのも、再不斬の微妙な説得が影響しており、もしかしたらばれても大丈夫なのでは? というものと、ばれたらまずい、という2つの考えに挟まれていたからだった。
それにより、再不斬に捕まれたままズルズルと木の葉の里へと向かっている。
先に木の葉の里に着いた、影分身からの情報により、未だ木の葉の里が健在であることは分かった。
「再不斬さん。まだ、木の葉の里は襲われてないようです」
「それはいいことだ……。それよりも、さっき言ってたことは、木の葉の奴等は知ってるのか?」
「知らないと思いますよ。多分ですが、今頃必死に解読しているはずです」
再不斬から、敵となるペインの能力を聞かれた白は、記憶にある注意事項を伝えていた。それでも、その後の答えが白の予想を裏切るものとなる。
「ペインとやらの本体の位置については、木の葉の奴等には教えるな」
「えっ!?」
驚く白をそのままに、再不斬は続ける。
「本体は弱っているんだろう? そんなやつと遊んでも面白くない。……それに、好きなだけ暴れても、敵を討つためという大義名分まである。壊れるのは木の葉だ。殺るしかないだろうが」
「やるの文字が危険な言葉に聞こえたんですが……」
再不斬は、新しい玩具を得たかのように、嬉しそうに語りだす。余程楽しみなのだろう。
「自分が格上と思っている奴を殺るのは、いつ殺っても楽しいもんだ」
「ただ楽しみたいだけですね……」
そう日もかからずに、木の葉の里の目の前に来た白は、変化の術を使用するため、一旦立ち止まり木の影へと向かおうとしたところで、再不斬に呼び止められる。
「何処に行く気だ?」
「何処にも何も、このままだと流石にまずいので、変化の術を使用しておこうかと」
「このまま行くぞ」
「……意味がわかりません」
このまま入れば、即捕まるのは白にとって明白だった。木の葉の里での、白の扱いがどうかは分からないが、ナナとハナビが既に里に入っているのである。白についての情報が、流れていると見て間違いないだろう。
それでも、堂々と正面から入っていく再不斬に、襟首を捕まれたまま木の葉の里へと入る。
最悪時に備えて、片手を袖で隠しいつでも印を組めるようにしていたのだが、それは杞憂に終わってしまう。
里の入り口で手続きをして、普通に入れたのである。むしろ、怪しまれたのは再不斬の方だった。
片や忍び装束。片や普段着。確かに怪しむのであれば、忍び装束の方だろう。しかも、自里の者でなければ尚更だ。それに加えて、波の国から来たというのが大きかった。
どうやら、先に来たナナが、色々と問題を起こしたようで、再不斬の肩書きを知るや、火影のいる場所へ、来てもらえないかと言われたのである。
少し不機嫌になりながらも、再不斬と白は先に宿を取るということで、案内をするという言葉にも、耳を貸さずに里の中へと入る。
再不斬が不機嫌なのは、最初に怪しまれた上に、面倒な手続きをしなければならなかったからで、白の方は、完全に女と間違われたからだった。
(そんなに女に見えるだろうか……)
火影のいる場所への案内を断られても、そう簡単に諦めるわけにもいかない木の葉の忍びは、宿の案内を名乗り出て、今は再不斬と白を先導して歩いている。
「前に来た女は何処にいる?」
再不斬は、木の葉の忍びに尋ねる。
「今は火影邸に泊まっておられます」
(あの人何してるわけ?)
白は、溜め息をつきながらも、木の葉の忍びについていき、宿に向かって歩いていく。知り合いに会いませんようにと思いながら……。
結局誰に会うこともなく、宿へと到着した。白は安堵しつつも、どこか寂しそうな表情をする。
(前とほとんど変わらないな……)
木の葉の里は、砂隠れとの戦争前とほとんど変わることなかった。店や家の位置など当時のままだ。少し違う店ができているようだが、数年もいなければ、そういったことがあっても不思議ではなかった。
宿をとった白たちは、今度こそ火影の元へと向かう。
火影のいる建物内に入り、ある部屋へと通され、その部屋へ入ると既にナナが椅子に座って待っていた。
「何か進展はあったか?」
「いえ……特には……交渉は今からです……」
再不斬の問い掛けに対して、ナナは明らかに元気のない声で答える。いつも、再不斬を前にした時の態度を考えると信じられないものだった。
理由を聞こうと、白が口を開いたところで、火影である綱手姫とサクラが部屋へ入ってくる。サクラは両手にシズネの忍豚を抱えていた。
「お待たせした」
綱手姫はそう言うと、白たちとは対面の椅子に座り、簡単に自己紹介を済ませて、早速本題へと入っていく。
白は、内心何を言われるかと、ハラハラしていたのだが、サクラは全く白の事を覚えていないようで、視線は再不斬へと向かっている。
「先ず、日向家の子を、保護していただいていたことについては感謝しよう。しかしだ。何故もっと早くに情報をもらえなかったのかお聞きしたい。これまでも、波の国とは取り引きがあったはずだ。言う機会などいくらでもあっただろう?」
綱手姫は、責めるような形で問いかけてくる。それもそのはずで、ハナビについては、雲隠れの里に誘拐されたままの扱いになっており、責任の擦り付け合いで、両里の関係が悪化していた。
これに対して噛みついたのがナナである。先程までの元気のなさから一転し、再不斬の前にも関わらず、怒りの表情に変わると、忍びの世界の事など、全く考慮していない発言をし始めた。
「何を好き勝手なこと言ってるのよ! あんたたちがあの子を見捨てたんでしょうが! あの子はもううちの子よ! こんな環境で育てさせないから! 今回来たのだって、あの子が里のことを心配してるみたいだから連れてきたのよ! そもそも……」
延々と続きそうな話を遮るために、再不斬からアイコンタクトを受けた白は軽く頷き、ナナの後ろへと素早く回り込むと、速やかに気絶させた。
「この女は一体何を言ってるんだ?」
「気にする必要はない。少々妄想が激しいだけだ」
再不斬が、軽く溜め息を吐き、綱手姫の呆れたような問いに答える。呆れたようなと言うより完全に呆れていた。同じくサクラも呆れたように、気絶したナナを見ている
白はこの時驚いていた。再不斬が、溜め息を吐くところなど見たことがないからだ。それほどまでに再不斬も呆れていたのだろう。
「雲隠れの里との関係はどうだ?」
「最悪の一言に尽きるな」
綱手姫は、渋い顔をする。相当に悪化しているのだろう。以前のこともあり、それに拍車をかける形となっていた。
その後も、聞きたいことだけ聞いた再不斬は、白へと声をかける。
「ふん。……白」
再不斬は、お前が説明しろと目で合図を送ってきた。話すのが面倒になったのだろう。元々再不斬がここに来た目的は戦闘である。この対談に興味などほとんどないと言っていい。
「先ず、知らせなかったことについては謝罪します。しかし、我々は商人です。そこへ、忍びの世界の常識を持ち込まれても困ります」
「お前らも忍びだろうが! 事の重要性は分かるはずだぞ!」
綱手姫は、お前もこの女と同じようなことを言うのか、という意味合いを込めた言葉で責めてくる。その表情も少し苛立って見えた。
白の背中に冷や汗が流れる。表情はほとんど変わっていないが、綱手姫から殺気が漏れ出始めていた。
(なんか、ヤバイんですが……)
横目に再不斬を見ると、口許をにやけさせていた。久しぶりの殺気に笑みがこぼれているのだろう。実に楽しそうに綱手姫を見つめていた。
それでも、事前に再不斬と話し合っておいた方向で内容を進めていく。
「そこで、我々からは謝罪の意味を込めて、ある情報を提供します」
「ある情報だと?」
「ある暗号と被検体についての情報です」
この言葉で、部屋は凍りついた。綱手姫とサクラは凍りついたように固まる。約1名はそのままニヤニヤと笑っていたが……。
「すぐに教えろ!」
綱手姫は、机など無視して移動すると、白の胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げる。それに対して、綱手姫の行動は想定内とばかりに白は答えた。
「我々の謝罪を受け入れてくれるわけですね」
「それとこれとは話は別だ!」
「では、この対応はなんでしょうか? 波の国の代表として来ている者の、胸を掴んでの話し合いが木の葉の里のやり方ですか?」
この言葉でばつが悪そうに白を下ろすと、綱手姫は謝罪してきた。
「すまない……。最近色々とあって気が立っていたようだ。……それにしても、何故波の国がその事を知っている? ほんの数日前の事なんだぞ?」
一旦冷静になったのか、綱手姫は疑問をぶつけてくる。
「商人は、情報も売り買いしますから……。それに、人の口に戸は立てられません」
サクラが白をじっと見つめてくる。何か記憶に引っ掛かるものがあったのだろう。それでも、話は止まることなく進んでいく。
「取り敢えず、内容を聞かせてもらおうか、判断するのはそれからだ」
「分かりました。先ずは暗号の方ですが、本物はいません。つまり、いくら倒しても復活するので無駄と言うことですね」
「…………」
綱手姫とサクラは黙ったまま、白を見つめてくる。
「次に被検体についてですが、あれは死魂の術みたいなものです。黒い金属がチャクラの受信機となって、それで操っています」
綱出姫はサクラへ目配せすると、サクラはそれに頷き返す。真偽のほどを確かめるためだろう。サクラはすぐさま部屋を出ていった。
「有益な情報提供には感謝する。……ただ、どうやってその情報を掴んだ?」
言うまで逃がさない気満々のようで、綱手姫からチャクラが練られていくのが分かる。少しでもおかしな真似をすればただでは済まないだろう。
それに対して答えたのは再不斬だった。
「そんなことはどうでもいい」
「そんなことだと?」
チャクラで身体能力を上げていたのだろう。机に乗せていた手を軽く振っただけで、机がいともたやすく壊れてしまった。それでも、表情を変えずに再不斬は答える。
「もうすぐそのペインとやらがここに来るようなんでな」
「何!?」
再不斬の言葉に驚きを隠せない綱手姫は、しばらく固まっていたが、ハッとして再不斬を睨みつける。
「木の葉の里で戦闘になるだろう。……それも大規模な戦闘にな」
再不斬は心底嬉しそうに笑いながら言うと、それまで見ていなかった綱手姫へと顔を向けて話し出す。
「この情報はかなり有益だと思うがどうだ? もし、情報源について聞かないのであれば、俺たちがその戦闘に参加しても構わん。間に合うなら、同盟を組んでいる霧隠れに増援を頼んでもいいぞ」
「俺たちって……もしかして俺のこと含んでますか? そっちにいるナナさんのことですよね?」
「どうだ?」
白の言葉を無視して綱手姫へと条件を提示する。綱手姫は事の真偽が不明なため迷っていた。しかし、次の再不斬の言葉で真だと決定づけられる。
「ここに九尾の人柱力がいるんだろう? そいつを狙ってペインとやらが来る。暁の目的は尾獣を集めるためのようなんでな」
「……分かった。ただ、霧隠れの里の増援はいらん。あいつらは何を考えているか分からんからな。お前たちとは、一応取り引きなどをしていて知ってはいるがな……」
綱手姫は、再不斬を見ながら言い放つ。言外にお前も含むと言っているようだった。
「ただし、日向のことに関してはまた別問題だ。それについてはきっちりと……」
綱手姫が話をしているところに、慌てたようにして人が入ってきた。
「なんだ、騒々しい! 今は対談中だぞ!」
「申し訳ありません! 何者かが結界を突き破り木の葉の里に侵入してきました! しかも、口寄せされた巨大生物が里内を襲っています!」
「なんだと!?」
その言葉を合図にしたかのようにして、地響きが届く。窓の外を見ると、牛のような巨大な生き物が、建物を破壊していた。それに驚く綱手姫に対して再不斬は立ち上がると、部屋を出て行く際に言い捨てる。
「契約は守れよ。いくぞ白」
「なんというタイミング……。逃げる暇が……」
未だに逃げようと画策している白に、再不斬から止めの一言がもたらされる。
「ここで、あの火影がお前の言うとおり倒れでもしたら、そのダンゾウとか言うのが火影になるんじゃないのか?」
「!?」
「そうなると、お前の立場はなかなか面白いことになりそうだな」
尚も楽しそうに語る再不斬に、白は縋るような気持ちで問いかける。
「えーっと、でもですね。波の国の実質3番目に偉いんですよね? 手出しはなかなかできませんよね?」
「俺とあの女は別にして、お前の顔は広まっている訳ではないからな。どうなるんだろうな?」
再不斬の言葉に絶句している白を余所に、再不斬は言葉を続ける。
「それが嫌ならさっさとそのペインとやらをやりに行くぞ」
「はめられた……だまされた……」
「いつまでも女々しい奴だ」
「<……そうだ……全部ペインが悪いんだ……殲滅だ……瞬殺だ……>」
再不斬の女々しいという言葉に我を忘れた白は、ぶつぶつと呟くと外に向けて飛び出した。