白物語 作:ネコ
すき焼きを食べ終わり、片付けを水分身に任せて今後のことを確認するため再不斬に声をかけた。
「これから、どうするんですか?」
「次の街で船に乗って波の国に渡り、そこから陸路で火の国に入る」
「仕事ですか?」
「いや。辞めてきた」
「では、今はフリーなんですね(抜け忍確定っと)」
「……そういうことだな」
再不斬は何かを少し考えていたが、肯定した。
「波の国ってどんなところですか?」
「質問ばかりだな」
白の言葉に再不斬は少し呆れているようだ。
「気になることは確認したくはないですか?」
「知らなくてもいいことはある」
「波の国の情報もですか?」
「そうは言わない。しかし、俺もそこまで波の国について知っているわけではないからな」
「知ってる範囲で教えてください(波の国って、どこかで聞いたことあるような気がするけど、思い出せないんだよな……)」
再不斬は、少し考え込むような動作をしてから口を開いた。
「基本的に隠れ里が無い国で、金を持ってるやつが幅を利かせているところ……、というくらいしか知らんな」
「隠れ里が無いのなら、お金を稼ぐには良さそうなところですね」
「仕事があればな」
「なぜ私を連れていこうと思ったんですか?」
「ただの気まぐれだ」
再不斬は言い終わると、話は終わりとばかりに椅子から立ちあがり、奥に設置してあるベッドへと横になった。
こちらとしても、特にこれ以上聞いても仕方ないと思い、巻物を懐から取りだしてテーブル上に拡げて印を組む練習を行う。
(この移動方法って、普通の鏡でも出来るのかな?出来るならかなり応用の幅が広がるんだけど……。氷遁だと解ける可能性があるし。それを考えると、四代目火影の飛雷針の術って媒体がクナイとかだから便利だよなあ)
そんなことを考えつつ、ふと今日大通りに出る際に、ぶつかりかけた人物のことを思い出していた。
(あの人ってマダラっぽい顔してたなあ。……ってマダラ本人だったら、あそこで警戒心出した時点でアウトだったかも!? て言うかなんでこんなところにいるんだ? もしかして、鬼鮫の勧誘? 取り敢えず気付かれなくて良かった……)
もし気付かれていたらと冷や汗をかきつつ、自分の出会いの不運と、自分が気付かなかった幸運に溜め息をもらす。
「なに溜め息吐いてやがる」
「自分に運が有るのか、それとも無いのか、分からないと思っただけです」
「生きてるんだから、そんなこと気にするだけ無駄だ。死ぬときは死ぬし、生きるときは生きる、それだけだ」
「単純な考え方ですね」
「お前が複雑に考えすぎだ」
「再不斬さんのその考え方は羨ましい限りです」
「……馬鹿にしてないか?」
「全く、これっぽっちもしてませんよ」
印を組む手を止めて、右手の指で丸を作り右目を閉じてみせ、それを再不斬に見せ付ける。
「そういうことをすると、逆に思われることを知るべきだな」
再不斬が手を素早く動かすのが見え、そのすぐ後には、白の上から水が滝のように落ちてきた。
「これはひどくないですか?」
「頭を冷やすには丁度いいだろう?」
びしょ濡れになった服を晒しながら、言い返す白に、反省したか確認を込めた言い方で、再不斬は返してくる。
「代わりの服なんて持って無いんですけど……」
「そういやそうだな」
「なんか適当に服ありませんか?」
「そこの家具に入ってる分しかないな」
指差された家具に近付き引出しを開けてみると、確かに服は入っていた。ひとつひとつ見てみるが、どれも大人物ばかりであり、ひとつたりとも子供用の服は入っていない。ここでも溜め息を吐きつつも、服が乾くまでダブダブでもいいかと思い直す。
「明日すぐに出発ですか?」
「そのつもりだ。日の出とともに出ようと思っているから、白も早く寝ておけよ」
「出来れば幾つか代わりの服が欲しいんですけど」
「……次の港街で買ってやる」
言われるまで気にしていなかったのか、こちらの服が実際には、ところどころ穴が開いていたりと、かなりぼろい見掛けなのに気付いたようで、少し哀れめいた目でこちらを見ながら言ってきた。
もともと住んでいた小屋にも、後二つほど代わりの服はあったが、何れも今着ているものと大差なく、本当にただの着替え以上の価値はなかった。
タオルで身体を拭き、しまってあった服へと着がえる。大人の上着だけで、足元まで簡単に届いてしまうので、腰ひもにて引きづらないように捲り上げて止めた。
(こんな時、幼い身体が恨めしいな。と言うか、普通はこの歳でこんな旅はしないだろうけど……)
自分の身体の小ささに、更に溜め息を吐いて脱いだ服を乾かすために、かまどの近くに椅子を持っていき、そこに濡れた服を掛けておく。
かまどには、料理を作った際の消えかけではあったが、その残り火があるので、その熱で乾くことに期待して、印を組む練習の続きをするべくテーブルへと戻った。
濡れていない椅子に座り直し印を組んでいると、再不斬から声をかけられる。
「白」
「なんですか?」
「そこまで熱心に忍術を覚える理由はなんだ?」
「もちろん生き残るためですよ」
「生き残るためか……。別にそれがなくても生きていけるとは思うがな」
再不斬は、何かを探るような目で白を見つめている。初めてあったときからだが、何かを知っているような動きが目立ってきたのだ。不審に思わない方がおかしい。
「無いよりあった方がいいのは間違いないです。これから先何が起こるか分かりません。事件に巻き込まれて死ぬかもしれないので、自衛目的って言うのが一番です(普通の一般人だったら巻き込まれた時点で死ぬ可能性大だし)」
「それがあるからこそ、巻き込まれるとは思わないのか?」
「そういう考え方もありますけど、もう今更ですね。知らなければ死にかけたわけですし、ここまできたらいけるとこまでいきます」
「納得してるならいいがな……」
再不斬の言う通り、一般人でいれば普通の生活が送れたかもしれないが、この世界に来てからのことを考えるに、里から離れた位置に住んでいて、親は働かずに酒浸りになっており、毎日暴力漬け、そのうえ通りがかった戦闘の余波で、住んでいた小屋も吹き飛んだことを思えば、あの時点でチャクラなどについて学んでいなければ、死んでいたのはほぼ間違いないだろう。
「俺は寝るから、白が寝るときに火は消しておけよ」
「もちろん分かってますよ」
再不斬の方へと光が届かぬように、天井から吊るされた器具に暗幕を掛けて、再度印を組む練習を行う。
(先ずは血継限界の印の練習、変化の術の完成、探知忍術、医療忍術……やること上げ始めたらきりがないなあ……。学校に入れればよかったかもしれないけど、霧がくれの里の学校は危険すぎるし。現状に満足するしかないかな)
再不斬の方を窺うと、起きているのか、寝ているのか目を閉じて横になっている。
小さな窓はと歩みより、そこからそとを見あげると、大きな満月が見えた。
(もうこんな時間か。今日のところは寝よう)
かまどの中に火が残っていないか確認し、残っているものは砕いて奥へと押し入れていく。
服については、未だに生乾きなので、かまど自体に張り付かせる。多分燃えたりはしないだろう。
そして、いざ寝ようというところで気が付いた。
(ベッドがひとつしかない……)
引出し内にあった服を取り出して布団代わりにする。その際に、寝心地が良くなるよう、かなりふかふかに服を敷き詰めてからその上に横になり、更にその上に服を重ねていく。見た目は悪いが、横になっている本人はとても満足そうだ。
(これをまともと言っていいかわからないけど、柔らかいところで寝るのは気持ちいいな)
このあとあっさりと、睡魔に負けて寝てしまうのだった。