白物語   作:ネコ

89 / 115
89 南研究所?

 初めて香燐と白が研究所で会って以降、2人はほぼ接することなく日々を過ごしていた。香燐の方は、時折気にしたように、白へとサスケの事を聞きたくてしょうがないのか接触してきたが、白の方は関係ないとばかりに研究資料を読み漁っていた。

 

 実際に聞かれたとしても、サスケとの接点などほとんどなく、原作知識も途中までしかない。そのような状態で話したとしても、逆に失礼だろうと白は思っていた。香燐はただ、少しでもいいので、サスケの事を知りたいだけだったのだが……。

 

 それでも、月日が経てば変わってくるものもある。研究ばかりではなく、偶に話しに来る香燐の相手をする程度には、2人の関係も修復――――進んでいた。

 

 そしてそれは突然訪れる。

 

「おい! 聞いたか!?」

「部屋に入る時はノックくらいしたらどうなのさ」

 

 白の部屋へと、ノックもせず蹴り飛ばす勢いで入ってきた香燐に、白は呆れながら応える。ここまで慌てるのを見るのは久しぶりだった。研究データを基にこっそり実験した時以来である。

 

「それどころじゃねーって! あの大蛇丸が殺られたって情報が入ってきたんだよ!」

「ああ。もうそんな時期なのか……」

 

 白は感慨深げに思考を巡らせ、今の時系列を軽く整理していく。

 

(サスケが仲間集め始めたら、大体が動き出すんだよな。サスケ捜索が始まって……途中までは一緒に居ないと日付が分からないところが歯がゆいな)

 

 白は頭を軽く掻き毟りながら、頭を悩ませていると、香燐が問いただしてきた。

 

「そんな時期ってどういうことだよ! 白は何か知ってるのか!?」

「サスケ絡みだと熱くなり易いよね」

「やっぱり知ってるんだな? いいから話せっ!」

 

 いきなり白へと掴みかかろうとする香燐を、適度にあしらいながら、白は仕方ないとばかりに話していく。どうでもいいという思いで口を滑らせた結果という諦めと、このまま言わないと長時間言い寄られるという2つのことから、言うことを決めたのだった。

 

「サスケが大蛇丸を殺ったんでしょ。んで、目的のために仲間集めしてるところ」

「目的? それに仲間集め?」

 

 香燐は追い掛け回していた足を止めて白へと聞き返す。これにも白は答えていく。

 

「サスケの今の目的はうちはイタチを殺すことかな。そのための仲間集め。うちはイタチとの勝負に邪魔が入らないようにしたいみたいだね」

「ちょっと待てよ。そんな情報どこから手に入れたんだ? 白が大蛇丸との接点が無いことくらい、うちにも分かってる。……もしかしてあのいけ好かないカブトか? 白が来てから、あいつしかここには来ないけど、最近は全く来てないじゃないか。そこのところどうなんだ?」

「どうだろうね。まあ、そんなことはどうでもいいじゃない。しばらくしたらサスケがここに来るんだし」

「サスケが来るのか!」

 

 白の言葉で、香燐は止めていた足を再度動かし、白へと詰め寄っていく。しかし、近づくことはできても、香燐に白を掴まえることはできなかった。

 

「いつ来るかなんてのは知らないよ。それでも、香燐を勧誘しに来るのは間違いないから身嗜みでも整えてたら?」

「うちを勧誘しに!? でも身嗜みって……」

 

 白の言葉に、香燐は最初こそ驚きと嬉しさが混ざったような表情をするが、その後自分の姿を隅々まで見渡し、服の匂いを嗅いで困惑した表情をすると、白へ悲しそうな目線を向けてくる。

 

「うちどうすればいい? これしか服ないんだけど……」

「まあ、小奇麗にしてればいいんじゃない? 汚くなければサスケのことだし気にしないよ」

「アドバイスが適当過ぎないか……?」

「ソンナコトナイヨ」

「なんで片言なんだよ……まあいい。ここに来るっていうんなら準備しとかないとな。それじゃまたな」

 

 香燐は白の言葉に満足したのか、口元をにやけさせながら部屋の扉を開放したまま出て行った。その後ろ姿を見送りながら白は溜息をつくと、扉を閉め直してはじけ飛んだ閂を見やり、再度溜息をついて研究を再開した。

 

 

 

 サスケが訪れるまでの間、毎日のように来る香燐を適当に受け流しながら、白も準備を整えていた。

 

「いいのかよ。勝手に処分してしまって」

「いいのいいの。どうせここには戻ってこないんだし」

 

 白は研究所にある研究データを必要な物以外全て処理していた。まとめられるものはまとめ、巻物内に収めていく。それに伴い、研究所にあった道具についても持ち出していた。

 

「それ言い出したら、ここの監視ってどうなるんだ? うち、ここを任されてるんだけど?」

「大蛇丸が殺られた段階で終わってるから」

「はあっ!? そういうことは早く言えよ!」

「聞かれなかったし。それに普通気付くもんでしょ?」

「いや、だって、大蛇丸が死んだってのは情報だけで、確実な訳じゃないしさ……」

 

 香燐は言い難そうに、区切りながら答える。事実サスケに殺られているのだが、香燐はそれを完全には信じ切れていなかった。それは、小さい頃に連れて来られ、人体実験を幾度も受けてきたのだから、大蛇丸に対する恐怖感が大きいのだろう。そのため、死んだという情報が来ても未だに監視を続けているのだった。

 

 しかし、監視もその日で終わりを迎える。

 

「……!! これは!!」

「誰か来た?」

「2人この島に近付いてきてる。1人はサスケだけど、もう1人は……なんか嫌な感じだ」

「ああ。たぶん水月だよ」

「あいつかよ……」

 

 香燐は水月の名前を聞くと露骨に嫌そうな顔をする。白が来る前に何か水月との間であったのだろう。白は特に気にすることも無く、準備した物をまとめて装備していく。

 

「……こっちの感知にも入った。やっぱり香燐の感知範囲は広いね」

「当たり前だろ。うちを誰だと思ってるんだ」

「うずまき一族の末裔だね。<ナルトと結婚させたいくらいだよ>」

「……うちは出迎えの準備してくる」

「気を付けて……じゃないや、喧嘩腰にならないように気を付けて」

「それ言い直す意味ねーし!」

 

 いつも通り部屋の扉を閉めずに出て行った香燐を白は見送り、忘れ物が無いかを確認していく。ここで研究できたのは主に医療忍術と封印術及び結界術。結界術についてはオマケ程度ではあったが……。

 

 旅装束の準備を完了させて、今日の分の影分身を放つと、白は香燐たちの元へと向かって行った。

 

 香燐たちのいる部屋の前まで来ると、丁度水月が扉から出て来たところへと鉢合わせる。

 

「久しぶり水月」

「……その声と感じからいってもしかして白?」

「そうそう。思い出してもらえて嬉しいよ」

 

 水月は最初こそ不審そうな目で見ていたが、にやけ面になると白へと語りかけてくる。

 

「ククク……。相も変わらず女っぽいねっ!」

 

 その言葉に白は、チャクラを瞬時に溜めて水月の胸へと掌打を放った。完全に油断していた水月は、それをまともに受けて吹き飛ぶと、壁に当たる。壁は水を掛けられたかのようになっており、肝心の水月はと言うと、壁の下にたまっていく水から這い出てきた。

 

「今のどうやったわけ? ぼくの水化の術が効かないなんて……」

「今後言葉には注意しようね」

「教えてくれたら考えるよ」

「教えるのはいいけど、その前に服を着ようか」

 

 水化の術により、服から弾き出された水月は、裸の状態で立っていた。水月は見られ慣れているのか、特に気にすることも無く服を着直す。

 

(やっぱり首切り包丁は持ってないか……)

 

 水月の背には首切り包丁は無く、代わりにどこで調達したのか、大きめの野太刀を腰へと吊るしていた。着直したところで、水月は本来の目的を思い出したのか、白へと聞いてくる。

 

「思い出した。ここにいる囚人たちを解放するように言われてるんだけど、鍵の場所知らない?」

「知ってるよ」

「教えてよ」

「んじゃ、一緒に解放しに行こうか」

「なんか軽いね。通って来た時の囚人たちは暗い顔してたよ?」

「人は人。俺は俺」

「……中身はあまり変わってないみたいだね」

 

 白をジロジロと見詰めながら、白の後をついていく。その後鍵を持って囚人たちの場所へ向かう前に、白は顔を布で覆った。

 

「なんで顔を隠すのさ」

「恥ずかしがりやなんだ」

「……絶対ウソでしょ」

「そりゃもちろん」

「はぁ……鍵貰うよ。僕がサスケに解放するように言われてるんでね」

 

 平気で嘘をつく白に対して水月は大きく溜息をつくと、白から鍵を受けとり、囚人たちのいる牢へと近付いていく。

 

「囚われてる君たちに朗報だよ。ぼくが君たちを自由にしてあげよう」

「それってつまり、あの噂は本当だったってことか!」

「そうだよ」

 

 水月の言葉を聞いた囚人たちは喜びを露わにして、牢の扉付近に集まっていった。そして、その集まった囚人たちの視線は、水月の持つ鍵へと集まっている。

 

「ただし、自由にするに当たって条件がある」

「条件だと……?」

 

 水月の言葉に喜んでいた囚人たちは、一斉に動きを止めて静かになると、鍵へ向けていた視線を水月へと向けて警戒し始めた。条件の内容によっては、今よりも酷いことになるかもしれないと緊張しているためだ。

 

 囚人たちの視線が集まったところで、水月は条件を提示した。

 

「簡単な事さ。大蛇丸を倒したのはうちはサスケだってことを……この世に安定と平和をもたらすと喧伝して欲しいんだよ」

「そんなことでいいのか?」

「色んな場所に行ってくれると嬉しいけどね。条件はこれだけだよ」

「そんなことならお安い御用だ。なあ、みんな!」

「もちろんだ!」

 

 水月から提示された内容に、みんな一様に安堵の表情をすると、盛大に喜び始めた。それを確認した水月は、笑いを堪えながら牢の扉を開けて、次の牢へと向かい、同じように訊ねていく。他の牢の中に入る囚人たちも、最初の条件が聞こえていた為、水月の提案に反対もせずに全員賛同した。

 

 囚人たちを見送ってから、水月は踵を返してサスケたちのいる部屋へと向かう。

 

「そう言えば、白はどうするのさ?」

「俺も途中までは付いていくよ」

「サスケがうんと言うかなぁ」

 

 サスケと白とのやり取りをシュミレーションしてみるが、サスケが素直に頷くとは水月には思えなかった。

 

「まあ、邪魔にはならないし、逆に役に立つから行けると思うよ? それに途中で抜けるし」

「途中で抜けられたら情報が筒抜けじゃないか」

「既に情報は筒抜けだから問題ないね」

「まあ、君もこっち側の人間だから、途中で抜けても、匿ってくれそうなところはないかもしれないけどさ」

 

 話しながらサスケたちのいる部屋へとたどり着いた。水月は取っ手を回して扉を開こうとするも、開く気配が無い。中から鍵を掛けているのだろう。

 

「あの女……鍵かけたな……」

 

 水月は腰に吊るした野立ちへと手を伸ばし、水化の術の応用で腕を太くし始めた。それに白は待ったをかける。

 

「ちょい待ち」

「何さ」

 

 明らかに機嫌が悪くなっている水月にポケットから取り出した鍵を見せる。

 

「文明人らしく、堂々と鍵を開けて入ればいいんだよ」

「持ってるなら最初から言ってくれればいいのに」

「だから、それを振り回す前に止めたんでしょ」

 

 白は取り出した鍵を使い扉を開けて中へと入った。それまで、サスケにくっ付いていたのだろう。香燐は素早い動きでサスケから離れると、眼鏡を触りながら言い訳を始めた。眼鏡を触るのは焦った時に見せる癖である。

 

「香燐鍵を掛けるなんて酷くない? サスケと2人っきりになりたいからって」

「なっ……誰が2人きりになりたいなんて言った! 鍵はそう、たまたまだ! 鍵を掛けるのが癖なんだよ!」

「いつも人の部屋の扉を全開放の香燐が?」

「うるさい! 白は何しに来たんだ!」

「白だと……?」

 

 白と言う言葉に聞き覚えがあったのだろう。サスケは白を見詰めてくるが、白はその眼を見返そうとはしなかった。

 

「久しぶりって言ったらいいかな? 木の葉の里以来だね。元気にしてた?」

「なぜお前がここにいる?」

「色々あったから……かな? 説明すると長くなるけどいい?」

「……いや、いい。どうでもいいことだ」

 

 サスケは、態々聞く必要が無いと思い直したのか、ソファーから立ち上がり、扉へ向けて歩き出す。

 

「そうそう。どうでもいいことついでに、俺を少しの間連れて行ってほしいんだ」

「お前に何ができる?」

 

 サスケは顔だけ白へと向けると、白へと問いただす。

 

「医療忍術とか封印術とか多才なところかな。自画自賛できるくらい」

「それは香燐で間に合っている。封印術はいらん」

「それなら情報というのはどうかな?」

「……そう言えばアカデミーでも情報屋をやっていたな」

 

 サスケは過去を思い出したのか、遠い目をしたかと思うと、苦々しい顔つきへと変わった。木の葉の里の事を思い出すにあたり、イタチの事を思い出したのだろう。それでも、白の提案に対する決断は早かった。

 

「分かった。付いてこい」

「いいの? サスケ」

「構わない。役に立たなければ捨てればいいだけだ」

 

 そう言うとサスケは部屋を出て行ってしまった。

 

 付いていくことができた白だったが、部屋へと残った水月と香燐の2人から、言葉の集中砲火を浴びることになる。水月からは白を心配するような内容を。香燐からは付いてくるなといった内容をそれぞれに受けることになった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。