白物語   作:ネコ

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88 争い?

「作戦会議を始めます」

 

 部屋の中には3人。それぞれが自分専用の机で仕事をこなしていた。そこへ、突然その内の1人が言い放つ。その言葉に残りの2人は言った者へと顔を向けた。

 

「いきなりなんです?」

「なんの作戦ですか?」

 

 いきなり言ってきたのはナナだった。それに対して白は若干嫌そうな顔を、ハナビは純粋に疑問の顔をしてそれぞれ答える。

 

「決まっているでしょう。もうそろそろ、例の季節です。稼ぎ時です」

「ああ。クリスマスですね」

 

 時が進むのは早いもので、もうすぐ冬に突入しようとしていた。去年はクリスマス商戦(と言えるほど他に競争相手がいないため独占だった)があったことを白はナナの言葉で思い出した。

 

 クリスマスにて稼いだ分については、波の国の街をカンパニーの名の下に整備することに使用したりして、知名度などを高めると共に、影響力をより強固なものへと変えていった。

 

「去年と同じではいけないんですか? 稼げてるんですよね?」

「今回はそうはいきません」

「?」

 

 白の言葉に、ナナは少し怒りの混じったような苦々しい表情をしている。その表情を見て白は不思議そうに首を傾げる。

 

 別段、去年と同じでも利益に関して、大差はないと思っていたからだ。事実、まともな競争相手がいない今の独占状態で、わざわざ真新しいことをしなくとも、客は来るからである。

 

(また、思い付きだろうか? 提案するの毎回俺のような気がするんだけど……)

 

 白は溜め息をこっそりと吐きつつ、ナナに問いを投げる。

 

「なぜ、今回は駄目なんですか?」

「それは、ここから北にある島国で、紅州島という小国があるのだけど、そこがうちの商法を真似てきました」

「別に真似るくらいなら良いのでは?」

「甘い!」

 

 白は、特に深く考えずに、気軽に言ったのだが、ナナは違った。机を『ダンッ!』と叩くと、白を睨み付けながら、一枚の書類を白へと突き付ける。

 

 白は、その突き付けられた紙を受け取り内容に目を通した。

 

 そこには、その島国だけではなく、波の国に対しても、夏場などに似たようなことをしてきている。

 

 売り上げも、夏場に合ったものを使用しているためか、かなり荒稼ぎしていた。ガトーカンパニーとは違い、明らかに金を巻き上げているという報告も上がってきていた。

 

「つまり、競争相手ができたということですね」

「勝つための作戦会議なんですね」

「なにを言ってるんです! 商法を真似てくるどころか、波の国で商売をしようとしてるのです! しかも、やっと普通の暮らしができるようになってきている波の国からお金を毟り取ろうなどと! ここの国で、私の許可なく商売をするということが、どういうことになるのか、みっちりと教えてあげなければなりません」

 

 ナナは一瞬、般若のような顔をして、親の仇を見つけたかのようなに、白の持った紙を睨み付けている。

 

「つまり、2度と商売ができないようにしてしまおうというわけですね」

「……それは、可哀想かな……」

「ハナビ。騙されては駄目よ。この国の奴らは、波の国を昔の貧困な国に戻して、乗っ取ろうと企てているの。これはね、戦争を仕掛けられているのよ。戦争に負けた国は、ずっと搾取され続ける運命……波の国の人たちがそうなってはいけないでしょう? 私たちは波の国を守らねばいけないのよ!」

「戦争だったんですか!?」

「そうよ! これは第3次忍界大戦ならぬ第1次商界大戦なのよ! 絶対に負けてはならないの! 頑張るわよ!」

「はい!」

「…………」

 

 白はナナの演説を白けた目で聞きながらも、内容については納得できるものもあった。波の国のインフラがやっと整ってきたのである。そこへ、他国から出てきた店にお金を取られるうえに、その金が波の国で使われていないため、経済の循環ができていない。しかも、一部詐欺のようなやり方をしている店まであった。

 

「というわけで、あんたはこの店を処理してきて」

 

 明らかにハナビとの話し方のギャップを感じながらも、白はナナから店舗がいくつも記された紙を受け取る。そこには、店舗だけではなく、そこで働く人員まで記されていた。

 

「処理って……殺れってこと?」

「何を言ってるのよ。殺しはご法度よ」

 

 ナナは目で、あんたなら何をすればいいか分かるでしょう、と言わんばかりに見詰めてくる。しかし、波の国は意外と広い。これでは結構な日数が掛かってしまうだろう。そのことを考慮して思ったことをナナへと白は伝える。

 

「結構多いし、ハナビに幾つかやらせてみてもいいんじゃない?」

「ハナビにそんなことさせられるわけがないでしょ!」

「私では役に立たないんですか?」

 

 ハナビが落ち込む姿を見て、ナナが慌てたように言い繕う。

 

「そんなことないのよ。こんな雑用はこいつに任せて、私たちはいつものお仕事をしないといけないの。通常のお仕事を蔑ろには出来ないのよ。ハナビちゃんには更に上のお仕事をこいつがいない間任せることになるわ」

「先生の代わり……ですか? 私に務まるでしょうか?」

「大丈夫よ。少しずつ慣れていけばいいの」

 

 ハナビの不安そうな言葉に対して、ナナは他の人には絶対に見せないような笑顔をハナビへと向けて、不安を取り除こうとしていた。

 

 白のしている物量を、一気にハナビが持つには負担が大きすぎるのは確かだろう。その分ナナが受け持つと言うことだが……。

 

「と言うか、これってナナさんでもできますよね? 一応霧隠れの里の忍びだったわけだし」

 

 ナナはハナビへと顔を向けたまま、白の言葉に驚愕しているようで、笑顔を引くつかせて固まってしまっていた。自らが忍びであることを忘れていたのだろう。頬のあたりがピクピクと痙攣している。

 

「ナナさんは忍びだったんですか?」

「そんなこともあったような気がするわね……」

 

 ハナビが純粋に好奇心でナナへと尋ねる。

 

 ハナビはナナに色々と教えてもらえると思っているのだろう。しかし、残念ながら既にハナビの忍びとしての技量はナナの遥か上にあった。ナナの実力は、波の国へと来た当初は中忍程度はあったのだろうが、今では下忍程度あればいい方だった。

 

 ハナビの目を見て、何か教えを乞う時と一緒だと見抜いたナナは、自分が不利になる前に、無理やり話題を変える。

 

「本命の作戦会議を始めるわよ!」

「……作戦会議って実際何するんです? このリストの店を処理して終了じゃないんですか?」

「これは、紅州島と波の国の戦争よ。店だけなんてありえない。やるならば徹底的に。それこそ2度と同じことを起こす気が無いくらいに殺らないと」

「なんか、やる……という言葉に不穏なものを感じるんですが……」

「気のせいよ。それでは、早速だけど提案を受け付けます」

「またですか……」

 

 白は以前のクリスマスの時のことを思い出して、溜息を吐く。ナナは提案を募集するだけで、自ら提案など毎回しないのである。ただ、アレンジなどはするが……。

 

「そろそろ、自分で考えることも必要だと思います。俺はこれから、このリストのところに行かないといけないみたいですし」

「駄目よ」

「何故です?」

 

 ナナは特に慌てることなく、悪巧みを考え付いたような表情で、白へと答える。

 

「相手も私たちと同じように、クリスマス擬きをするとの情報を得ているわ」

「それと何の関係が?」

「それが開かれる前日に一斉にやってほしいのよ。人については、最近海賊や山賊も出なくて、暇そうにしているやつらが沢山いるから、そいつらを使ってちょうだい」

「(鬼だ……)分かりましたよ」

 

 白は、毒草や痺れ草などの事前準備をするために、ナナの言う部下たちへと会いに行くのだが、この時は未だ気付いていなかった。採取する植物の説明からしなければならないことに……。

 

 

 

 七草島での依頼を終えて、休息を取り、身体を万全に整えた白はどうするべきか迷っていた。

 

 行くべき方向は決まったのだが、船が無いのである。一旦火の国の港へ海の上を走って行くという手もあるのだが、またカジキもどきに襲われてはたまらないと、その案を却下していた。

 

(仕方ない。どれくらい距離があるか分からないけど、走りますかね……)

 

 白が七草島から出て走り出した方向は南。決めた理由は至って簡単で、波の国―――それもガトーカンパニーの拠点に近いからと言う理由だった。

 

 その島は、外からの見た目では大きな岩の塊のように見えるが、その内側は森林で生い茂っている。研究所はその中央にあった。

 

 半日ほどかけて辿り着いた白は、研究所の所在を探していた。簡単に中央にあると言われても、正確な場所が分からないためである。ただ、しばらく歩いていると、何者かが近付いてくるのが分かった。

 

「お前がカブトの言ってた白ってやつか?」

 

 近付いてきていたのは香燐だった。この段階で、既に香燐の探知能力が白より上であることを思い知る。近付いてきて分かった白とは違い、香燐の方は、迷うことなく白のところへと来たのである。白よりも探知範囲が広い証拠だった。

 

「個人情報ダダ漏れ……それであってるけどさ……。まあいいや、色々と研究や鍛錬ができそうだし」

 

 白は周囲の環境を見ながら、思ったことを口にした。周囲を気にする必要も無く鍛錬できる。また、カブトが研究所と言うくらいであれば、水月のいた場所と同程度の設備と資料が期待できるからである。

 

「ん? 何を言ってるんだ? カブトからは、一緒にここの監視役をやるやつを送るって言われてるんだけど?」

「……。ああ! そう言う名目なのね」

「取り敢えず案内するから付いてきな」

「はいよ」

 

 香燐の後に続き入ったそこは、通路の両サイドに牢屋がいくつもあり、そこに人が何人も入っていた。

 

 2人は通路の奥にある部屋の中へと入っていく。

 

「んん~。それにしても良かったよ。あんたが来てくれて。ここって私しか女がいなくってさあ。ああ、言い忘れてたけど、私の名前は香燐っていうんだ。よろしく」

 

 香燐はソファーに座り背伸びをすると、先ほど通路を通っていた時とは違い、だらけきったような体勢をとる。完全に白を女と思い込んでいるのだろう。股を広げてソファーの肘掛け部分に腕を乗せるその姿は、まるでどこぞのオヤジそのものだった。

 

 白は癖になったような溜息を漏らしつつ、香燐の誤解を解くことにした。こういったことは最初に解いておかないと、後々面倒臭いことになることが多いからである。

 

「言っておくけど、俺男だから」

「…………はぁあ!?」

 

 香燐は白の言葉にしばらく呆然としていたが、白を再度凝視すると驚きの声を上げた。それほど、今の白は女にしか見えなかったのだろう。驚いた声を上げた後も香燐は固まったままだった。

 

 しかし、それも束の間。自分の体勢を思い出したのか、きっちりと座り直して白を睨みつけてきた。

 

「お前変化の術を使ってるな! この変態野郎!」

「使ってないんだけど……」

「どっから見ても女じゃねえか! 早く変化を解きやがれ!」

 

 香燐はイライラと怒りを隠そうともせずに、捲し立てる。

 

「変化なんて使ってないって言ってるだろ!」

「ちっ。<カブトのやつが、大蛇丸様のお気に入りの1人だから、丁重に扱えって言ってたのはこういうことか>」

 

 香燐は軽く舌打ちすると、小さく呟き違う方へと目線を向ける。

 

「もう、間違えられ慣れてるからいいけどさ……。それより、ここでの研究データってどこにあるの?」

「なんでお前なんかに教えないといけないんだよ!」

 

(これは言わなかった方が良かったかなあ……)

 

 香燐は最初とは態度が急変してしまっていた。それを見た白は、教える気が無いと判断し、研究データを探すついでに施設の構造を把握することにして、部屋を出るべく踵を返す。

 

「どこに行く気だ? 勝手な真似はするなよ!」

「それなら、香燐が教えてくれるのか?」

 

 白は顔だけを香燐へと向けて尋ねる。

 

「教える訳ないだろ! 馬鹿かお前は!」

「それならこっちで勝手にやるから。そんじゃ」

 

 白が部屋を出たところで、慌てたように香燐も部屋を出てくる。

 

「何か用?」

「お前が変なことをしないか監視だよ!」

「変な事って……研究所の構造の把握と研究データの閲覧くらいしかしないよ」

「そんなこと信じられるか!」

 

 白は、これ以上の会話は無駄だと悟り歩き出す。それに香燐も続いて白の後ろを歩き出した。

 

 ひとつ目の扉の前に着いて入ろうとした時に、それは白の後方から聞こえてきた。

 

「そこは、捕まえてるやつらの身体を調べるための部屋だ」

「…………」

 

 白は無言で、ノブに掛けた手を一瞬止めたが、中を確認すべく部屋へと入る。そこには香燐の言った通り、被検体を調べるための手術室となっていた。

 

 部屋の中をひと通り見回して、次の部屋へと向かう。香燐は尚も白の後ろに付いたままだった。

 

 次の扉を開こうとする前に再度白の後方から声が発せられる。

 

「そこはトイレだ」

「…………」

 

 開いてみると確かにトイレになっていた。その後も、扉を開ける前に香燐が扉の先の内容を簡単に言ってくる。

 

「教える気なかったんじゃないの?」

「誰がお前なんかに教えるか! 独り言に決まってるだろ! 変な妄想やめろよな!」

「ツンツンだけで、デレが無いとかどうなんだ……」

「はあ? 何言ってんのお前」

「サスケの前では確かデレてたような……」

「お前サスケのこと知ってるのか!! どうなんだ!? 教えろ!」

 

 サスケの名前を出した途端、香燐は白へと詰め寄ってきた。既にサスケに会っているのだろう。サスケの事を聞き出そうとする気が見て取れる。

 

「この言葉を香燐に返そう……教える訳ないだろ! 馬鹿かお前は!」

 

 白の言葉に、香燐はしばらく凍りついたままだった。それを白は、香燐が動き出すまで満足そうな顔をして鑑賞していた。

 


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