白物語   作:ネコ

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86 水化の術?

 雲隠れの里から出発し、周囲に人気が無いことを確認した白は、手に入れた雷影の遺体の一部が入った巻物を、蛇を使ってカブトへ送った後に、蛇を口寄せする巻物自体を風遁で細かく引き裂き、紙片を風に乗せてばら撒いた。

 

 紙片が全て空へと消えていくのを確かめ、進路を再び南に取り進んでいく。

 

 今から向かう研究所で、研究の手伝いを行うということだが、実際の内容を聞かされていなかった。それでも、その研究所には大蛇丸が来ないとのことで、大蛇丸に白の情報を与えないという取り引き内容と合致するものであり、術や医療の研究ができる設備があるとのことだったので、白としては、そこで手伝うこともやぶさかではなかった。

 

 ただ、その場所と言うのが――――

 

(なんで、火の国内に研究所なんて作ってるんだ? あれか、灯台下暗しを素でやってる感じなのか? まあ、バレなければいいんだけど……。波の国に近いのもいいな)

 

 湯の国の南部から火の国へと入ったところに、その研究所はあった。研究所は地下の遺跡のような場所を改造したようで、地中に存在しているため、地上には木や岩が点々と存在している。その中の岩の1つが研究所へと繋がる入口になっていた。その中へ影分身を先行させながら入っていく。

 

 研究所内部は地下だけあって薄暗く、ところどころにあるケーブルが発光することで、視界を確保できていた。その通路を探知結界を張りながら慎重に進んでいく。入る前に大きなチャクラを持った者がいないことを把握していたが、それでも、カブトが嘘をつき罠を用意している可能性が無いわけではない。

 

 真っ直ぐに伸びる通路の先には、幾つもの培養槽とそれに繋がるケーブルの束が存在している広い空間になっていた。その広い空間に入る手前で白の歩みは止まる。白とまではいかないまでも、そこそこに大きなチャクラを持つ者がその広場にいるからだった。

 

 白はチャクラの存在する方向を見てみるが、そこには培養槽のみで誰もいない。不思議に思いつつも、白は警戒を解かずに進んでいく。そして、広間の中央に来たところで誰かが白へと語りかけてきた。

 

「君たちは誰だい? 新しく見る顔だね。1人は顔を隠しているようだから、もしかしたら知ってる人かもしれないけど……」

 

 白は周囲を見渡すが、周りには誰もいない。白は幻術の類を警戒して影分身に触らせて解除しようとしたが、特に幻術には掛かっていなかった。声の聞こえてくる場所へと目線を向けるが、大きなチャクラの感知できた培養槽があるのみである。

 

「僕が誰か分からないのかな? もしかして、たまたまここを見つけたとか? それだと嬉しいなあ。お願いがあるんだけど聞いてくれない?」

「ここを知ってるのは偶然じゃない。ここで研究の手伝いをするように言われて来た」

「ちぇっ。せっかくここから出られると思ったのになあ」

 

 声の主はかなり残念そうに、更に恨みがましく白へと言ってくる。そこで、白はやっとそれが誰なのかに思い至った。

 

「もしかして水月?」

「あれ? 僕の事知ってるの? ん~君みたいな子供に見覚えないんだけど……大体の奴は殺っちゃったからなあ……」

「まあ、知ってると言えば知ってるよ」

 

 最初は驚いたものの、その正体が分かれば何のことはない。水化の術で姿が確認できないだけなのだから。それでも確認したのは、確証を得るためだった。カブトであれば、実験と称して他にも同じような者を造りだしてもおかしくないからである。

 

「水月以外ここに人はいないの?」

「全く知らないんだね。どうしようかなあ……。そうだ! ここから出してくれたら教えてあげるよ」

「自分で調べるからいいよ」

 

 他の培養槽からも、ほんの僅かなチャクラを感知できているので確認したのだが、それこそ、ここに置いてある研究資料を読めば済むことであると思い直した白は、元来た通路を戻るべく踵を返した。

 

「ああ! 待った待った! 言うよ」

「聞いといてあれだけど、よく考えれば聞く必要ないかなと」

「君がその気でも喋らせてもらう! ここはね、僕の水化の術を他の忍びにも適用できないかを実験しているところなんだよ」

「それで?」

 

 白は興味が無さそうに先を促す。

 

「結局は水化するに至って、身体が元に戻れずに、チャクラを含んだ水になってしまったみたいだ。やっぱり下忍レベルには難しいし、水遁の適性がないとそもそも無理なんだよね」

「ああ。だから他の培養槽から少しだけチャクラが感じられるわけか」

 

 白は納得いったのか、他の培養槽へと目線を配り、それぞれの中の様子をよく見てみると、身体の一部と思わしきものが浮かんでいたり、底へと沈んでいたりしていた。中に居た者は、その様子から既に死んでいるように見えるが、チャクラが感じられるあたり辛うじて生きているのだろう。これを生きていると言うのかは不明だが……。

 

「たぶん、しばらくお世話になるから、これからよろしく」

「結局行ってしまうんだね」

「この研究施設内にはいるよ」

「暇だから、毎日来てくれてもいいよ」

「……考えておくよ」

 

 白は、振り返らずにそのまま通路の方へと、通路に幾つかある部屋の中を調べるべく戻っていった。

 

 この研究所は、水月の水化の術を他者に付与できるかの研究ではなく、それを基にして医療や他の術に応用できないかを目的としていることが分かった。置いてある書類を漁りながら、白はどんどんと読み進めていく。

 

 水月に言われたからではないが、巻物を読みながら水月の話し相手をしていた。

 

「本当に君は読むのが好きだね。身体を動かそうとか思わないの?」

「身体は適度に動かしてるよ」

 

 実際に、体術や忍術の修行は本体がやっており、影分身に巻物などの書物を読ませていた。それというのも、影分身だと経験などは術を解除した際に、本体へと還元されるが、体力などは付かないため、その維持向上に伴い本体にて行っていたのである。

 

「全く。こんな陰湿なところに籠ってたらおかしくなりそうだよ」

「大丈夫。最初からおかしいから。問題ない」

「僕のどこがおかしいって言うのさ!」

「全部?」

「なぜ疑問形!?」

 

 水月はそんなことはないとばかりに言い切った上に、白に対して突込みを入れてくる。自分は普通であると思っているのだろう。いつからかは不明だが、水化の術のまま、特に何も食べることなく過ごせる段階で、本当に人なのかを白は疑っている。それを持ち出すと大蛇丸などはその典型だったが……。

 

「そんなことより、治活再生の術っていう医療忍術があるんだけど、誰か試す相手いない?」

 

 白が読んでいる巻物には、カブトが調べたであろう超高等忍術が色々と記載されていた。

 

「そんなことよりって……君自身で試せばいいじゃないか」

「術者だと難しいんだよね。集中出来なさそうだし」

「!! そうだ! 僕で実験したらいいよ」

「却下」

 

 白は水月の提案に即返答した。水月の考えがあまりにも見え透いていたためである。おそらくはこれ機に外へ出ようというのだろう。しかし、水月が水化の術をできる以上、部位欠損を修復する術は無意味だった。医療忍術の名称を聞いただけでは、何の術か分からないために水月は提案したのだろう。しかし、答えが分かっていたのか、それほど断られたことに対して落胆はしていなかった。

 

「はあ……。いつになったらここから出られるんだろうね」

「サスケっていう人が出してくれるよ」

「誰だい? そいつは」

「君をここに閉じ込めてる親玉のお気に入りだよ」

「大蛇丸の?」

「そう」

 

 水月は白の言葉に何かを考えているのか押し黙ってしまった。その間にも白は巻物を読み進めていく。元々、この研究所に水月と白以外にいないことは分かっていたことだった。ただ、間を持たせるためと話し相手をするために言ったに過ぎない。

 

 白としても、1人だけでずっと過ごすということに、例え影分身の情報が入ってきているとしても寂しいものを感じていた。そのため、水月に定期的に会っているのである。しかし、そうしたゆっくりできる時間もひと月ほどだけだった。

 

 唐突に探知結界内に入ってくる者がいたのである。それは、迷うことなく白たちのいる広間へと向かって来ていた。

 

「お客さんみたいだ」

「もしかして……大蛇丸?」

「いや。それにしてはチャクラ量がそれほどでもない……それにこの感じは……って来たか」

「やあ。久しぶりだね」

「そうですね。こちらとしては、このままずっと放置でも良かったんですが?」

「そうもいかない」

 

 ゆっくりと広場へと入ってきた来訪者はカブトだった。

 

 カブトは白の持っている巻物を見て満足そうに頷く。白の持っている巻物は、この研究所内にある術の中では一番難しいと思われる巻物だった。カブトはまるで、その巻物を読んでいることが当たり前のような反応を示す。

 

「君にこの場所に来てもらったのは、医療の知識を高めてもらうためだよ。君のことだからそろそろ読み終えた頃だろうと思ってね」

「確かに、ひと通りは読み終えましたよ。有意義だったのは認めます」

「それはよかった。そこで君に依頼をこなしてもらいたい」

「依頼?」

「簡単だよ。ある島に行って薬草などの採取してきてもらいたい。これがリストだ」

 

 白がカブトから受け取ったリストには多種多様な植物が記載されていた。それを見て白は訝しむ。

 

「これは明らかに一箇所に生息するような植物の類ではありませんよ」

 

 渡されたリストの植物は特定環境下や季節によって生えるものなどであり、とても一箇所で集められるようなものではなかった。それに、季節のものもあるとなれば、かなりの長期間そこに滞在することになってしまう。それらのことに対して白は訝しんでいたのである。

 

「大丈夫だよ。そこは、それらの植物が全て生息できる変わった島でね。まあ行けば分かる。以前の巻物を渡しておくから、集め終わったらすぐに送ってくれ。あまり時間がなさそうだからね。5日以内には最低頼むよ」

「……分かりました。そんな島があるとは俄かには信じられませんが、本当にあるのなら興味がありますね」

「君ならおそらく3日もあれば島に行くのは十分だろうけど、探すのに時間が掛かるだろうからね。その為の5日だ」

 

 急にカブトから作ったような笑顔が消え、真剣な表情で白を見詰めながら話してくる。本当に時間が無いのだろう。話し終えたカブトは、用件は終わりとばかりに外へ向けて歩いていくが、通路のところで立ち止まる。

 

「そうそう。この依頼が終わったら北か南どちらかの研究施設へと行ってくれ。どちらも実験材料には困らないだろう。ここには何もないからね。行く方向が決まったら、依頼品と一緒に送ってくれればいい」

 

 カブトはそう言うと、通路の奥へと進み姿を消してしまった。それ見送り白がどうしようかと考えていると、それまで黙っていた水月が白へと話し掛けてくる。

 

「君はカブトとどういう関係なの?」

「……どういう関係なんだろうね? 一応師弟関係ってことになるのかな?」

「ふーん。師弟ねえ……。これで最後みたいだし僕をここから「それはできないね」そう」

「出したら怒られるのは俺でしょ?」

「君なら大丈夫かなって思ったんだけど……。ところで俺って言ってるけど、もしかして君って男?」

「あー。みんな間違えるんだよね。こんな姿だと」

 

 今の白の姿は特に変装をしている訳でもなく、素の状態だった。誰も来ないため、姿を気にせずに過ごしていたのである。地下ということもあり、日の光にもほとんど当たっていないため、肌も白く、髪の毛も昔から切らずに伸ばしたままとなっている。顔立ちに関しては、相変わらず女性と見間違う状態のままだった。むしろ、女らしさが増したと言ってもいいだろう。

 

「男なら大丈夫かな……。もし、南に行くんなら香燐ってやつには注意した方がいいよ。いけ好かない奴だから、君を見たら嫉妬のあまり攻撃してくるかもね。まあ、北に行っても変な奴らしかいないけど」

「どっちに行っても一緒じゃないか……」

「まあそうかもね」

「……その辺は適当に決めるよ。それじゃあ、またどこかで」

「またね」

 

 白は渡されたリスト内にある地図を頼りに、該当する島へ向けて行くべく、旅立つ準備を始めた。

 


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