白物語   作:ネコ

83 / 115
83 病気?

 波の国は、冬が過ぎ去り暖かくなってきていた。

 

 冬の間に、水の国からの使者として、あの時の二人……青と長十郎が来た。それに対して、ガトーカンパニーというより、波の国代表として出たのは、再不斬と女忍者の2人だ。

 

 水の国から使者が来る前に、波の国の大名には話を通しており、内容としても、波の国に不利益を被るものではないため、大名たちは賛同していった。

 

 実際は、武力を持つことによって、他国から戦争の準備をしているなどと見られる可能性もあるのだが、大名たちは目先の安全に飛び付いてきたのだ。中には渋い顔をする者もいたが、交渉した結果、了解を得ている。その交渉が、恐喝に近い形になっていたのは、言うまでもない。

 

 同盟の条約については、双方ともに協力し合うという内容であり、水の国からは人材を、波の国からは資金を主に提供することが記されている。ただし、規模はそれほど大きなものではない。

 

 この内容では、波の国の情報が筒抜けなのでは、という意見もあったが、そもそも会社を運営しているだけであり、怪しいことをしていないため、不正をしない限り情報が漏れようと問題ないのだった。

 

 約1名の行動は別だったが、そもそも、その1名の行動についていけるほどの忍が、水の国から派遣できるはずもない。

 

 その1名は、今小さな小屋で患者を診ていた。その1名は言わずと知れた白のことである。白は医療の腕を落とさない目的で、定期的に診療所を開いていたのだった。

 

 ただ、その医療の腕が良かったために、波の国に静かに噂が広まっていく。

 

 白の格好は、頭には髪を押さえるための帽子を目深に被り、再不斬と同じ様に口を布で覆っている。眼鏡の代わりにサングラスを掛け、服は白衣を着ていた。

 

 そのような格好だったため、噂が広がっていることを把握してはいたが、白が気にすることはなかった。変化の術を使用してはいなかったが、見ただけでは、白であると分かるはずがないからである。しかし、その考えもある人物が現れるまでだった。

 

「次の人どうぞ~」

 

 この時、白は特に気にすることも無く、いつも通りの対応をしていた。医療の腕を落とさないことが目的なので、比較的安い金額であらゆる怪我や病気を診ていたし、医者自体が少ないこの国で、その医者を害するような輩は現れないという思いもあり、油断していたと言ってもいいだろう。

 

「失礼する」

 

 その人物を見てしまった瞬間、白は驚いた顔で呆然としてしまっていた。こんなところに来るなんて思いもよらなかったからである。白には、止まっていたのは数時間にも感じられるほどだったが、実際は数分にすぎない。

 

 その人物と言うのが――――

 

「<うちはイタチ>……」

「……なるほど。……そうだな、久しぶり……とでも言った方がいいか?」

 

 白の呟きが聞こえたのか、イタチが応えてきた。しかも、白にとっては聞き捨てならない言葉と共に。

 

「なぜここに? ……いえ、久しぶりというのはどういう意味ですか?」

「霧隠れの里で会っただろう? ……写輪眼はチャクラの質を見抜く。つまり、お前のチャクラと、霧隠れの里で会った影分身のチャクラが、一緒だったから久しぶりと言っただけだ。ここにいる理由はお前の今の立場を考えれば分かることだろう?」

 

 写輪眼と言われて、白は自分がイタチの目を見ていたことに気付き、慌てて視線を外した。しかし、イタチはそんな白を特に気にした様子もなく、話し続けてきた。

 

「もう幻術を掛ける気はない」

 

 イタチの言葉を全面的に信用できず、白は視線をはずしたままでいたが、イタチの『もう』という言葉に反応する。

 

 それは即ち――――

 

「既に幻術を掛けられた後……ということですか……」

「こちらも、色々と事情があってな……。保険が欲しかっただけだ。他意はない」

「保険……ですか?」

「俺の事を漏らされては困るからな。……木の葉にいた忍が、波の国にいるその理由を知った。これだけ言えば分かるな?」

 

 イタチは簡単に言ったが、白にとっては今後の命運を握られたに等しかった。それを知ってイタチはわざと言っているのだろう。一種の脅しだった。

 

「それで、なにが目的なんですか?」

「聞いてなかったのか? ……医者のところに来る用事と言えばひとつしかないだろう?」

 

 ここで、イタチが病に侵されていたことを白は思い出した。今がどの程度進行していて、それがどのような病なのか……白に興味を抱かせるものだった。白は早速イタチを診ることにする。確かに、病に侵されていることなど、他の者に知られれば自分の弱点を晒しているようなものだ。保険が欲しいと言うのはそういうことなのだろう。

 

「取り合えず、自覚症状を教えてください」

 

 イタチに服を脱いでもらい、椅子に座って貰って診察するが、痩せていること以外では外見上特に異常は見られない。しかし、次の瞬間にいきなりイタチが苦しい表情をする。

 

「っ!?」

 

 イタチの病状はかなり危険な所まできているようで、両手で口元を覆って、上半身を前倒しにしている。その手の隙間からは血が滴り落ちていた。

 

 その後の診察で白が出した結論は――――

 

「イタチさん……もう、今後はあまり動かず療養してください」

「それはできない。……それに手遅れなのだろう? 確認したいのは、後どれくらい保つのかだ」

 

 寝台の上に座りながら、イタチは白を見詰めている。ここまできてはと、白もイタチから視線を外さずに目を合わせ、溜息を付きながらも、本当の事を答える。

 

「このままだと保って1年というところでしょうか……。薬で多少延命できるかもしれませんが、根本的な解決にはなりません」

「薬だとどれくらい保つ?」

「じっと療養したと仮定するならば……多分5年はいけると思いますが、それ以上は分かりません。どんどん病が身体を侵食していく訳ですから……。今の俺の知識では、薬である程度抑えるだけで精一杯です。それでも病が止まるわけではありません」

「…………」

 

 自分の病状をある程度は把握していたのだろう。実際の年数を知らされて、イタチは目を閉じ考え込んだ。おそらくは今後の事を考えているのだろう。イタチとサスケの絡みを考えると、残り約3年。これから色々と動くことを考えれば、病の進捗と残りの年数との辻褄は合う。その事を考えて、イタチが意思を曲げるつもりがないことを確信した白は、止まらないことを前提に話を進めていく。

 

「……療養する気は無いようですね。薬を処方します。恐らくたまに激痛がはしっていると思いますが、それを和らげることができるものと、病状の進行を遅らせるものです。……後、この近くにいる場合は薬をお渡しできますが、一応薬の成分表をお渡ししておきます。ここに来れない場合は自作してください」

「すまないな」

「しばらくお待ちください」

 

 イタチの目の前で、薬草を煎じて解説をしながら薬を作っていく。成分表を渡そうとしたのだが、覚えるから構わないと言われたためだ。確かに、成分表という物を残すことにより、その内容が分かる者が見れば、その所持者の病が分かる恐れがある。懸念材料は少しでも減らしておきたいのだろう。

 

「痛み止めはすぐに効くわけではありません。それと、痛みは止まりますが、それに伴い身体の動きも鈍くなりますから注意してください」

「分かった」

 

 白の言葉に、イタチは頷く。そんなイタチへと白は薬を手渡してから、少し目線を外し、再度戻した時には既にイタチの姿は無かった。

 

(行ったか……。それにしてもあそこまで酷いとはね。サスケとの対決を考えると本当にギリギリだな……。というか写輪眼甘く見過ぎてた。幻術対策の修行やり直そう……)

 

 今回白にとって一番のショックは、イタチの幻術にいとも容易くかかってしまったことだった。これまで、一応幻術対策をしてきたつもりではあったが、全く抵抗すらできていない。イタチが言ったことが、ブラフである可能性も無いとは言い切れないが、楽観視はできなかった。

 

 その日の内から幻術対策を重点的に行うと共に、張っている逆探知妨害用の結界の補強を行った。今いる場所は木の葉の里よりも小さな島だ。それを白1人で維持していた。維持といっても、島の端に結界用の札を風雨に晒されない位置に貼り付けただけで、定期的に見回っているだけだった。

 

 今回補強を行う理由は、イタチの件が原因である。白は、居場所などバレないと過信していた。それを反省して、今は強いチャクラを持った者が侵入したら、知らせる仕組みを追加している。どこまで効果があるか分からないが、一定以上のチャクラを持っていれば引っ掛かるであろうものだ。それに加えて、島内であれば、そのチャクラの持ち主の居場所が分かる。これは再不斬やハナビにて実証済みだ。その結界の補強には数日掛かった。

 

 それ以外にも変化は訪れている。ハナビにひと通りの常識を教えたと息巻いて、女忍者がハナビを連れて戻ってきたのである。

 

「どう? 私のセンスもなかなかのものでしょう? 全く、あんたときたら鍛錬ばっかりさせて、重要なことを教えないなんてどういうことよ。……まあ、私がみっちり教え込んだから安心していいわ!」

「そうですか(安心する要素が見当たらないんだが……)」

 

 そう言って、ハナビへと視線を向けると、ハナビは女忍者の背後に素早く隠れてしまい、顔の半分だけを出して、照れたように顔を赤くしながらこちらを見詰めてきた。

 

 それに対して白が考えていたことは――――

 

(ああ……そう言えば、くノ一の授業で、男の気を引き付ける授業か何かでこんな仕草あったな……)

 

 ハナビの仕草に対して、女忍者やハナビが考えていたような効果が、全く発揮されていなかった。逆に、白に昔を思い出させて、憂鬱な気分にさせていたのである。

 

「ほらっ! この子を見て何か言うなり思うことがあるでしょ!」

「……その服装だと戦いにくくないか? それとサングラスは?」 

 

 ハナビの服装は、一般的な女性の服であり、忍びが着るような服ではないため、巻物を入れておくポケットも無ければ、手裏剣やクナイのホルスターも付いていない。戦闘という行為を考えると、実用性からかけ離れたものだった。しかも、サングラスをしていないので、白眼である白い目が丸分かりである。

 

「違うわよ! そうじゃないでしょ!? このスカートは最近の流行なのよ! 今まではロングスカートだけだったけど、今からはショートの時代よね。男を魅了するにはこっちの方が確かにいいわ。これを考えた人は天才ね。いつまで隠れてるの? ほら、前に出て」

 

 女忍者に無理やり前に出されたハナビは、スカートの前と後ろを押さえながら、その場に立ち尽くしてしまっていた。どうやら、羞恥心というものを身に付けてきてはいるようだった。それに対してまたも白は見当違いなコメントをする。

 

「その格好寒くないか?」

 

 暖かくなってきたとはいえ、未だに寒いときは寒い。しかも、スカートが短い上に素足を晒しているのだ。白には丁度よい温度だが、他の者は違うと言う認識を持っていたので訊いてみたのだが、またしても女忍者の怒りをかってしまう。

 

「……あんたわざと言ってるでしょ?」

 

 額に青筋を立てながら鬼気迫る勢いで白へと詰め寄ってきた。そして、白の傍まで来ると人差し指を白へと付きつける。

 

「こういう時はね、見た目を褒めるものなのよ! それも服だけ褒めちゃだめよ。如何に相手の特徴にあっているかも合わせて言わないと……って聞いてるの!?」

「……いや。あまりそう言ったことに興味が無いと言うか……」

 

 この言葉にいきなり顔色を変えたのは女忍者である。突きつけていた指を震わせて、恐ろしいものを見たかのように震えだす。

 

「あんた……まさか……再不斬様を狙ってるんじゃないでしょうね!? 絶対に許さないわよ!!」

「いや。それはない」

 

 途中から女忍者が何を言いたいか分かった白は、即、否定の言葉を返す。それでも、まだ疑いの目は晴れずに女忍者は白を見ていた。白は溜息を漏らしながら、望まれているであろう言葉を言う。

 

「はあ……。可愛いんじゃないかな?」

「……なんで疑問形なのよ。まあ、あんたに期待した私がいけなかったわね」

「期待されてたなんて初耳だ……」

「それはもういいわ。……それよりも稼ぐわよ。今度は食品とか消耗品だけじゃなく服の方にも手をつけようかしらね」

「それは厳しいんじゃないかなぁ……」

 

 大国の間では服装に気を使う者も結構な数いるが、ここは波の国である。ガトーの圧政もあり、人々が貧しさからやっと脱却しようとしている時に、服飾にまで手を伸ばせるとは白には思えなかった。しかも、数年後には大規模な忍界大戦が待っているのである。波の国は戦場となる予定地から遠いとはいえ、イレギュラーが起こらないとも限らない。

 

「確かにそうね……。まずはこの波の国を豊かにして、そこから巻き上げないと駄目よね」

「いや……そういうことじゃ……」

「それでは早速だけど、経済大国を目指すべく作戦会議を始めます。ハナビちゃんも、いつまでも恥ずかしがってないで座りなさい」

「……はい、ナナさん」

 

 女忍者―――ナナとハナビがそれぞれの椅子に座ったことで、今後の方針を決めるための会議が始まった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。