白物語   作:ネコ

81 / 115
81 交渉?

 部屋へと入ってきた女は、部屋を見渡してから再不斬へと目を付けると、襲い掛からんばかりの勢いで再不斬へと近付いていく。

 

「あんたが婚約者だね! ふんふん……なかなかいい身体をしてるじゃないか。これなら安心だ!」

 

 女は、再不斬をバシバシと叩きながらいい放つ。それに対して、再不斬は気にした様子もない。

 

「勘違いするな。俺は婚約者などではない」

「違うのかい? それじゃあ一体……?」

 

 再不斬の言葉に、女は再度部屋を見渡すと白へと目を付ける。

 

「ん? もしかしてあんたかい? まさか……同性愛者になったんじゃないだろうね!? ……見知らぬ男を連れ込んだというから期待したというのに……」

 

 女は白を見て心底がっかりしたような顔をする。これに白は少し苛立ち思わず言い返していた。

 

「あのですね、一応こんな見た目してますが男です(なんだこの人は?)」

「そうなのかい?」

 

 女は腕を組むと、値踏みするように上から下まで白を見ながら、白の周りを回り始めた。

 

 白は、助けを乞うべく再不斬へと視線を向けるが、明らかに面白そうなものでも見るかのような表情をしている。白は再不斬からの援護は無いと分かり、すぐさま諦め、今度は水影へと視線を向けるも、水影は俯いて小刻みに震えていた。続いて青と長十郎に視線を向けても、無理とばかりに顔と両手を振っている。

 

「うーん。なんかひ弱そうだね。こんなので大丈夫なのかい?」

「言ってる意味が分かりませんが……まさか、婚約者どうのという話じゃないですよね?」

「分かってるんじゃないか」

「婚約者では絶対にありません!」

 

 力強く否定した次の瞬間、白は壁に向けて吹き飛んでいた。白は壁を突き破り、その先へと飛んでいく。それを見て、青と長十郎は青ざめた表情をし、女は何が起こったのか分からないのか、穴の開いた壁をポカーンと見つめるばかりだ。

 

「長十郎」

「はいっ!?」

「わかってますね?」

「もちろんです!」

 

 いつの間に移動したのか、水影は白のいた場所におり、長十郎へと微笑んでいた。この笑顔を見て、青と長十郎は2人して固まってしまうが、長十郎だけは、声を掛けられたことにより動き出す。

 

 そして再び長十郎の手により、女は部屋の外へと出されていった……大声でわめき散らしながら……。

 

「あれはなんだ?」

「その……水影様の母親です……」

「気にしないで……それよりも返事を聞かせてもらえるかしら?」

 

 青はとても言い難そうにし、水影は再不斬に気にするなと言いつつも、水影自身が気にしているのが、その表情から分かる。顔は笑っているように見えるが、目だけが違ったからだ。

 

「死ぬかと思える衝撃が身体をはしりましたよ」

 

 壊れた壁から白が姿を現した。その姿は壁を突き破ったことによる土煙で、汚れてはいたが目立つところに傷は一切なかった。それを見て水影は少し驚いたような表情し、青に至っては驚愕していた。

 

「あら? 無事だったの? 見た目と違って意外と丈夫なようね」

「丈夫ではないんですが……」

 

 あの時、完全に油断していた白は、水影からの攻撃を受けて吹き飛ばされたが、壁に当たるまでに―――風遁・風鎧―――を展開して壁への衝突による衝撃を緩和していた。壁を簡単に突き破ったのは風遁によるためである。ただ、攻撃を受けた箇所については無事ではなく、治療のために少し時間をかけていたのだった。

 

「返事については少し時間を貰う。それと、この里についてだが、どこかと戦争でもしたのか?」

「いえ……それが……戦争ではないのですが、何者かが城壁を攻撃してきた上に、里内に起爆札を配置して爆破してきたのです。辛うじて死んだ者はいませんでしたが、負傷者は多数出ています。壁の外に出たものは、いつのまにか倒されていたり、操られていたりと、犯人の特定には至っていません。……ただ、内部犯の可能性もあります」

 

 再不斬は白をチラリと見やり答えると、それに対して硬直から復帰した青が答えてきた。

 

「目的は分かっているのか?」

「依然不明なままです。水影様がそれらしき者と交戦したようなのですが……」

「完全に逃げられました。ただ、この里の暗部の面をしていたので、少し油断していましたが、あのようなものは知りません。……おそらくは、この里の者ではないでしょうが……」

 

 水影は逃げられたことに対して不機嫌そうにしている。白と青は、水影がまた爆発するのではないかと、警戒心を高めてじわじわと後ずさっていた。

 

「ただ、忍びの1名が、この里の地下を通って来たところを考えると、この里の者ではないとは言い切れません。あの地下は、そこの封印されていた扉から行ける場所でした。今は地下内部の構造を把握させていますが、特にこれといった情報は上がっていません」

「……あの地下には忍び刀があるはずだが……前の水影がそのようなことを言っていた」

「「!?」」

 

(再不斬さーん。これ以上の情報をこの人たちに与えないで欲しいんですが……)

 

 白の向ける視線と心の叫びも虚しく、その想いは叶いそうになかった。話は更に続き、再不斬の言葉に水影と青は驚きつつも聞き返してきたのだ。

 

「それが本当であれば、地下に入った者の目的は忍び刀……ということに?」

「おそらくそうだろうな、単独で水影とやり合おうとは普通考えないだろう。それならば、物を回収するために動いたと見るのが自然だ……忍び刀の所在については何処まで把握している?」

「長十郎の所持している双刀・ヒラメカレイと貴方の所持している断刀・首切包丁。干柿鬼鮫の大刀・鮫肌に、雷牙と名乗る者が雷刀・牙を盗んだことまでは把握しています。それ以外の3つの忍び刀についての所在は不明です」

「……と言うことは、地下にあったのはその3つあたりか……」

「はい。鈍刀・兜割、長刀・縫い針、爆刀・飛沫が盗まれたとみて間違いないでしょう」

 

 その場の雰囲気は重苦しく静まり返っていた。しかし、1人だけ心の中で安堵している者がいる。

 

(危なかった……選んだのが雷刀じゃなかったら使えないところだった……)

 

 影分身にて選んだ一振りというのが、雷刀・牙であった。他の忍び刀については、取扱いに慣れるまでに時間がかかりそうであり、使い勝手が悪そうなために要らないと判断して、カブトに送ったのである。今回はそれが良い方向に進んでいた。

 

「明日の午前中にでも返事はしよう」

「それでしたら、宿の手配をいたします」

「……分かった」

 

 再不斬が返事をすると、青は水影に顔を向ける。それに対して水影が頷くと青は部屋を後にした。

 

「再不斬様は今までどこに居られたのですか?」

「いい加減様を付けなくてもいい。それと敬語もやめろ、曲がりなりにも水影だろうが」

 

 明らかに再不斬の態度の方が水影よりもデカいのだが、本人は全く気にしていないようだった。

 

「では、再不斬は今までどこに?」

「……目的が無くなってしまったから言うが、今は波の国にいる」

「波の国……意外と近くにいたのね」

「少しでも他国に目を向けていれば、すぐに分かりそうなものだがな」

「恥ずかしいことだけど、未だ自国を把握するだけで精一杯の状況なのよ。しかも、海で隔たれているから余計に情報を集めにくいわ」

 

 水影は溜息を吐きつつ、現在の状況を憂いていた。なかなか思うように進んでいないためだろう。そこへ、青が部屋へと戻ってくる。

 

「準備が整いましたのでご案内いたします」

 

 青の案内の元、宿へと到着した再不斬と白は、それぞれの部屋へと向かった後に、再不斬の部屋へと集まっていた。

 

「監視は何人だ?」

「……4人ですね。まあ妥当なところかと」

「まあいい。水影も見たしこの国にもう用は無いな」

「と言うことは、断るんですか?」

「今更、誰かの下に付く気にならないだけだ」

 

 暗部の頃と今の生活を比べているのだろう。再不斬は面倒臭げに答えた。

 

「白」

 

 突然、口調を変えて再不斬が白へと呼び掛けた。

 

「何ですか?」

「忍び刀を今いくつ持っている?」

 

 再不斬の言った言葉に一瞬白は頭が真っ白になってしまう。しかし、よく考えれば分かることで、以前に忍び刀が欲しいと言ったことと、地下にそういったものがあると言うことを、再不斬から聞いていたことを考えると、タイミング的に白が疑われるのは当然だろう。

 

「(誤魔化すのは無理かな)雷刀・牙だけですね」

「それだけか……まあいい。それにしても、雷刀というのは都合がいいな。どこぞのやつが持っていったことになってるんだ。お前が手に入れたとしても問題ないだろう。元々忍び刀の何れかをお前に持たせようと思っていたしな。……同盟を結ぶまでは隠しておけ」

「分かりました」

 

 白は返事を返したものの、複雑な表情をしていた。その理由は、特に危険なことをせずとも、忍び刀が手に入ったかもしれないのだ。

 

 白のそのような表情を読み取ってか、再不斬は忠告する。

 

「今後俺の楽しみを奪うような真似をするな」

「危険を回避しただけですよ。おそらく再不斬さんでは今の水影には勝てません」

「なぜそう思う?」

 

 再不斬は白の言葉に怒るでもなく問い返してきた。

 

「水影の性質は水、火、土。しかも血継限界2つ持ちです。近付いたらその内のひとつで身体を溶かされるし、離れればおそらく忍術でくるでしょう。再不斬さんの性質は水ですから、相性を考えると……」

「……なるほどな」

 

 再不斬は自分の中でもシュミレーションしてみたのだろう。白の説明に納得いったのか、軽く頷いた。

 

「それはそうと、再不斬さんは水影になる気はないんですか? 水影と結婚すれば、水影になれそうな感じでしたが?」

「水影のやってることを考えるとやる気にはならんな」

「クーデター成功してたらどうするつもりだったんですか?」

「その時は、適当にまとめられそうなやつを置いとけばいいだろう」

「……その辺りは適当なんですね……」

「過ぎたことを掘り返すな。明日は朝食後すぐに水影のところに行くぞ」

「分かりました」

 

 その後、白は自室へと戻り、雷刀・牙を持った影分身を監視の目を掻い潜らせて白の元へと来させ、雷刀・牙を受け取った。それをすぐさま巻物へと収めて懐に仕舞い込み、影分身を解除した。

 

(断った場合忍び刀を返せとか言われそうだけど、再不斬さんどうする気だろう?)

 

 白は横になりながら、夕食までの間休憩するのだった。

 

 

 

 翌日。朝食を食べ終えた再不斬と白は、水影の元へと来ていた。建物に入って行って、何かを言おうとしている受付を素通りし、水影の執務室へと足を運び、何も言わずに扉を開け放った。

 

「再不斬さん。さすがにこれは如何なものかと」

「昨日既に言ったはずだ。午前中には行くと」

「それはそうですけどね……」

 

 再不斬は然も当然とばかりに部屋の中へと入っていく。部屋の中には水影と青が居り、入ってくるのが分かっていたかのように、驚くことも無く白たちを見ている。

 

「おはようございます。……返事をお聞かせ願えるということでしたが、早速ですが結論をお聞かせ願えますか?」

「ここに戻るつもりは無い」

「……そうですか。しかし、それですとこちらとしても困ります。ですので「最後まで話を聞け」……?」

 

 青は事前に水影と話し合っていたのだろう。断られた場合の条件を再不斬へと言おうとした矢先に、再不斬によって阻まれる。

 

「昨日も水影には言ったが、俺は今波の国にいる」

「はい。それはお聞きしました」

「ガトーカンパニーと言う言葉に聞き覚えはないか?」

「水の国と波の国の運輸を請け負っている会社、という程度の知識はありますが……それがなにか?」

「実質波の国は、ガトーカンパニーの支配下に置かれていると言ってもいいだろう。その会社を運営しているのが俺の部下だ」

 

 ここまで再不斬が言ったところで、水影と青はある程度のことを察したのか、先ほどまで難しい表情をしていたが、驚いたような表情へと変わり、話しの続きを促してくる。

 

「つまり何が言いたいのですか?」

「同盟と言う形ではどうだ? 波の国には大名もいるが、金の無い大名などなんの力もない。早い話が、ガトーカンパニーが波の国のトップにいるから、これは波の国の総意と取ってもいいということだ」

「「…………」」

 

 再不斬の言葉に水影と青は考え込む。途中から予想はしていたが、そう簡単に決めれることではない。この時代で同盟などしてもあってないようなものだ。しかし、相手は再不斬であり、霧隠れの里の英雄でもある。その相手からの条件―――内容は悪いものではなかった。

 

 ガトーカンパニーは水の国と波の国との運搬をほぼ取り仕切っている。これを敵に回せば、情報や物が遮断されるのは間違いない。しかし、逆に同盟ともなれば関係は今まで通りな上に、こちらが何かしら譲歩すれば多少の便宜は図ってもらえるだろう。しかも、他の4大国の情報も入りやすくなる。水の国にとってはメリットの大きな話であった。

 

「それはとても魅力的な提案ですが、こちらのメリットが大きすぎます。あなたの狙いはなんですか?」

 

 それはそうだろう。明らかに波の国としてはメリットが少なすぎた。水の国を敵に回さないというのも大きいかもしれないが、ただそれだけだ。ガトーカンパニーに攻撃を加えることで損をするのは水の国なのである。敵対したからといっても、そう簡単に手が出せるものではなかった。

 

「最近だが、木の葉の里に対して砂隠れの里と音隠れの里が手を組み戦争を仕掛けた。結果は木の葉の里が勝ったようだが、人的被害はともかく、物的被害は木の葉の里しか被っていない。しかも、その戦いで火影が死んだようだ」

「っ!? しかし、それだと、砂隠れの里は木の葉の里との同盟を破棄したということ?」

 

 再不斬の言った内容は、初耳だったのだろう水影と青を驚かせるに十分なものだった。しかも、同盟を破棄したという事実で、再不斬の先ほど話した内容が矛盾してくる。これでは、いつでも裏切ると言っているようなものだ。

 

「正確には破棄ではない。風影が大蛇丸により殺され操られていたと公式に発表されている」

「そのようなことがあったのですね」

「本題はここからだ。……早い話が、いつ襲撃を受けるとも分からんからな、それなりの武力が欲しいと言うわけだ」

「その為の同盟と言うわけですね。確かに水の国への大規模な侵攻は難しいでしょうが、波の国は陸続き……襲撃されればひと溜りもないでしょう」

「ああ。どちらにとってもメリットのある話だと思うが?」

「そうですね。その話が本当であれば、この話は受けましょう。先ずは事実確認をするから、それが終わり次第、後日そちらへと伺います。詳細はその時に決めましょう」

「ああ。それで問題ない」

 

 水影は少し考えはしたが、既に同盟に関しては受ける気があるようで、顔を綻ばせている。青も話の成り行きから渋い顔をしていたが、最後には安堵の表情をしていた。

 

「それでは帰る。いくぞ白」

「はあ……俺ってなんのために来たのか分かりませんね。これじゃ殴られにきただけですよ……」

「波の国と言っても広いです。場所はどこになるのでしょう?」

「……白、お前の出番だ、説明してやれ」

「……そんな出番はいらないです……」

 

 ぶつぶつと文句を言いつつも、白は青に紙と書くものを用意してもらい、簡易な地図を書くと共に紹介状を認めた。

 

「これを見せればアポなしでも通してもらえます。くれぐれも無くさないでください」

「分かっている。<それにしても、昨日水影様に殴られたようだが大丈夫だったのか?>」

「<大丈夫なわけないですよ。術が間に合わなければもっと酷い目に遭ってました>」

「<あの一瞬で術を使えたのか!?>」

「<ええ。まあ> それではこれで失礼しますね」

 

 紹介状と地図を手渡すと、再不斬と共に白は波の国へと戻っていった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。