白物語   作:ネコ

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8 街中?

 団子屋での予想通り、四時間ほどで街まで到着することが出来た。街へと到着した時には辺りは夕方になっており、もうしばらくすれば、薄暗くなってくる時間だ。

 

 再不斬は街に到着するなり、立ち止まることなく進んでいく。迷いなく進んでいる姿を見るに、以前にも任務か何かで来たことがあるのだろう。

 

 その後を追いながらも、白の顔は前を向いたまま、街中へと視線だけを向ける。

 

 一応説明を受けてはいないが、再不斬が抜け忍の可能性が高いので、辺りを警戒しておいて損はないからだ。

 

 未だに探知系は完全に修得には至っていないのが辛いところではあるが、しないよりマシと思うことにしているのが現状である。

 

 周囲を見渡してはいるが、ここは霧がくれの里のように、忍びが彷徨いているわけではなく、一般人しか見当たらない。

 

 もしかしたら自分達と同じように、変化の術にて変わっているのかもしれないので、油断は出来ないが、この街は見るからに平和そうなところである。

 

 今通っている大通りには、色々な店があり、人通りも結構な数がいる。その大通りを抜けて、小脇の道へと入り、少し進んだところにある建物へと再不斬は入っていった。

 

(特に表には何も書かれてないけど、ここが今日の宿なのかな?)

 

 再不斬に続くようにして、戸をくぐり抜けると、戸の横に立っていた再不斬がすぐに戸を閉める。

 

「もっと行動を早くしろ」

「それなら事前に説明してくださいよ」

「後、警戒し過ぎだ。見なくても近くにいたら気付かれるぞ」

 

 再不斬から見ると、白の警戒の仕方は駄目だったようで、注意を受けた。余計なことをしたかと思いつつも、言い訳をする。

 

「気配を消すのはいいんですけど、気配を探るのはどうもコツが掴みにくいんです」

「気配をいきなり消すのも止めておけ。探るのもあまりここではするな」

「理由をお聞きしてもいいですか?」

「この国を出たら教えてやる」

「……分かりました」

 

 笠と背負っていた籠を下ろして、一息つく。入った建物は、一階建ての平屋で、建物の中には家具も最小限しかないが、炊事場があるだけ、前に住んでいた小屋よりも遥かに良いところだった。

 

 炊事場には一通りの道具が揃っており、材料さえあれば食事を作ることができるのが分かる。

 

(久しぶりに、まともな食事を食べたいな)

 

 霧隠れの里では、変化の術をしてもバレる恐れがあったため、外食もまともにできなかった。

 

「今日は外食ですか?」

「俺が弁当を買ってくる。もう変化は解いていいぞ」

「弁当ですか……」

「不満なのか?」

 

 少し残念そうな声を出す白に、再不斬は問いただしてきた。金を出し、下手な移動をされては困るのに加えて、食べ物にまで不満を言っては当然だろう。

 

「温かいものが食べたいなあと」

「贅沢を言うな」

「ですよね」

「お前が作れるというのなら、話は違ったかもしれんがな」

「っ!? 作れますよ!」

 

 再不斬の言葉に、食いつくようにして反応する。多少の自炊スキルくらいはある。しかし、再不斬がこの提案をするまで完全に自分で作るという事を忘れていたのだった。

 

「……作れるのか?」

「任せてください!!」

「……まあいい、やってみて駄目なら俺だけ外で食べればいいだけだ」

 

 全く信用していない事を如実に表し、自らは外で食べる事を事前に言ってきた。

 

 今まで作ったところを見たこともないし、里に居たときも弁当であったことを考えれば、再不斬の言葉も頷ける。

 

「全く信用してませんね」

「俺はお前が料理をしてるところを見たことがないから当然だな」

「その認識を覆してあげますよ。と言うことでお金をください」

「……現金なやつだ。商店街の場所は分かるか?」

「先程の大通りに幾つか店があったので、そこで買ってきます」

「好きにしろ」

 

 再不斬は、懐から小さめの袋を取り出すと、こちらへと投げ渡し、自らは外から見えないような位置へと移動すると、巻物を取りだして武器などの点検を始めた。

 

「では行ってきます」

 

 一声かけてから外へと出る。

 

 変化を解いているので、元の背の高さになっており、目線の高さが少しの間慣れなかった。むしろ、変化の術を使用したときの目線の高さの方が、前の人生の時と一緒のため違和感を感じなかったくらいだ。

 

 夕食の材料を購入するべく、大通りへと進んでいく。

 

 辺りはだいぶ暗くなってきているため、少し急ぎ目で向かっていると、大通りに出たところで誰かとぶつかりかけた。

 

(おっと。あぶない)

 

 ぶつかりかけた相手を見上げながら、目的の店へと進んでいく。

 

(さっきの人どこかでみたことあったような……。まあいいや、それよりも夕食だ!)

 

 後で思い出すことになるが、この時もし顔を思い出して警戒していたらと思うと、ぞっとするのはまた別の話である。

 

 大通りの店にて、一応材料の値段を気にしつつ購入していく。預けられた袋の中には、小さいながらも結構な額が入っていたが、これからの旅程のことを考えると節約しておいて損はないし、元々再不斬のお金であるので、使いすぎはよくないと考えた為だ。

 

 一通りの買い物を済ませて帰路につく。荷物は三歳児としては結構な量になってしまっており、端から見たら一生懸命両手で支えているかのようだが、実際は地面に袋がついてしまわないようにしているだけだったりする。

 

 宿に辿り着き、炊事場にて水を出す。その水を使って水分身を行い、更に変化の術にて大人となって調理を始めた。

 

(分身の術は楽でいいなあ)

 

 一人は材料を切りつつ、もう一人が火を着けてるなどの準備をしていく。

 

 材料を切り終わったら、鍋の中に放り込み、調味料で味を整えるだけの簡単な料理だが、こちらの世界に来てからの初のごちそうでもある。

 

 値段も自分で作ればそれほどかからないし、他にも食べたいものはあるが、それほど料理に精通していたわけではないので、自作できるものは限られてくる。

 

「なかなかいい匂いだな」

 

 お玉で味見をしつつ振り返ると、すぐ後ろに再不斬が立って鍋の中を覗いていた。

 

「気配を消して後ろに立つのは勘弁してください」

「それくらい把握しろ。それよりも、それはなんだ?」

 

 再不斬の反応から、見たことがないのだろうかと不思議に思う。材料自体はその辺りの店に売ってあるので、料理として存在していてもおかしくないはずである。

 

「すき焼きって知りません?」

「初めて聞く料理だな」

「結構お手軽な料理なんですけど」

「まあ旨ければなんでもいい。いつ出来るんだ?」

「もう少しで完成します。個人的にですけど旨いのは保証しますよ。椅子にでもかけて待っててください」

「味覚が一緒であるといいがな」

 

 再不斬は、一言余計なことを言いつつも、大人しく椅子へと座った。すき焼きの匂いだけでも十分に美味しいと思える物だったのだろう。

 

(素直じゃないなあ)

 

 水分身の一人に、テーブルの上の準備をさせて本体は鍋の中を確認する。

 

(そろそろいいかな?)

 

 出来上がりを持ってテーブルへと運び、鍋の蓋をとる。蓋を取った瞬間、再不斬がサッと中身をとっていった。

 

「(早い……)どうですか?」

「……悪くないな」

 

 そう言いつつも、箸を素早く動かし口へと持っていく。せっかく準備した皿を経由せず、鍋から直接口へと持っていくその姿に、行儀が悪いと注意しようかと思ったが、予想以上に旨かったのか、微妙に笑っているのを見て諦めた。

 

(美味しいから笑顔になるのは分かるけど、その微妙な笑顔は気持ち悪いです)

 

 こちらは、皿に取り分けて食べていく。二人しかいないなかで、片方が既に皿を使っていない時点で意味がないような気がするが、気にしないよう食べるのだった。

 


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