白物語   作:ネコ

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79 水影?

 再不斬たちが霧隠れの里へ到着する数日前。霧隠れの里は早朝から混乱に陥っていた。

 

 何者かの襲撃を受けているのは分かるのだが、その何者かの特定ができていない。

 

 襲撃者が単独なのか複数なのかも分からない。分かっているのは、里が襲撃を受けているという事実のみ。

 

 この季節は特に里の周囲を霧が覆うことが多い。そのため、最初は誰もそれが術であると気付かなかった。異常に気付いたのは、里の中までも濃い霧が覆い始めたからだ。少しであれば気付かなかったかもしれない。なぜなら、里の周りを壁で囲んでからは、霧が里内にまで入ってくることがほとんどなくなっていたからである。

 

 霧隠れの里の者が気付いてからの行動は迅速だった。この事態に対処するため、霧隠れの忍びが里の内外へと散っていく。しかし散っていったところで、今度は里内の至るところで爆発音が鳴り響いた。いつの間にか起爆札が里内の至るところに設置してあったのである。更に、その爆発に合わせるかのように、里の壁が外からの攻撃を受け始めていた。

 

 里の内に設置してある起爆札の場所に規則性は無く、色々な場所に設置してあるということしか分からない。また、里の外からの攻撃に関しては、忍びを放っているが、霧が里内よりも濃い上に戻ってくる気配はなく、状況を掴むことができずにいた。

 

 

 

 事が起こる当日の早朝。薄く霧が舞う中、白は霧隠れの里の外にいた。そこで今日、依頼をこなしてもらうための人物を待っていたのである。

 

「待たせましたか?」

「…………いえ、全く……それにしても、あなた方が来るとは思いませんでした」

「私たちを見てその程度の反応……気になりますねぇ」

「これでもびっくりしてるんですよ? いや、ほんとに」

 

 白の目の前にいる人物は、2人。イタチと鬼鮫だった。

 

 早朝、事前に決めておいた集合場所で待っていると、突然2人が現れたのである。白は声をかけられるまで、2人を見てしばらく硬直していたが、傭兵として雇った組織に、この2人が居るのは当然だと思い出していた。

 

「まあ、いいでしょう。それで? いつまで遊んでたらいいのか聞きたいんですが?」

「昼まででお願いします」

「いいでしょう。……イタチさんからは何かありますか?」

「……特に何も」

「まあ、楽な仕事で大金が手に入るんです。これで角都にも、しばらくは文句を言われないでしょう」

「そうだといいがな」

 

 イタチは終始興味がなさそうに受け答えをし、鬼鮫はどこか嬉しそうに話をしている。

 

「それとついでにお聞きしたいんですが、この里の地下について知っているのは、鬼鮫さん以外で誰かいますか?」

「どうでしょうねぇ。あそこは水影以外立ち入らないような場所ですから、普通なら知らないでしょうが……暗部であるあなたが知ってるくらいです。他にも知ってる人くらいいるでしょう」

「そうですか……それだけ聞ければ十分です。……ではよろしくお願いします(ほぼ知らないと見てよさそうだ)」

 

 白はそう言うと、霧が里内に入って来るまで、共同墓地にて待機すべくその場を立ち去っていった。

 

「それにしても、霧隠れの里も一枚岩ではないようですね。……暗部が造反しているようでは」

「霧隠れの里の者とは限らない。それに、あれは影分身だ」

「……霧隠れの里も恨みを色々と買っているようで……」

「始めるぞ」

「活きがいいのが来るといいんですが」

 

 鬼鮫は話しながら印を組む。そして言い終えると同時に、辺りの霧が段々と濃くなっていった。

 

 

 

 霧が里内を包んでいき、墓地にまでそれが来たところで、白は行動を開始した。共同墓地に居るのは通常通り2人だけ。その2人は段々濃くなっていく霧に対して異常を覚えたのか、2人でしばらく話し合ってから、すぐさま里の中央に向かって行ってしまう。

 

 それを見届けた白は、事前に準備していた起爆札を発動させていった。起爆札の場所は、偽物を含めて数十枚貼られてある。偽物は見つかりやすい場所。本物は見つかり難い場所。そうすることで、この墓地の方へと人が戻ってこないようにしたのである。

 

 その後は、水影の墓を暴いた時と同じように、墓地に埋められた肉体の一部を巻物へと収めていく。ただし、水影の時と違いがあった。それは、結界が無いことと、後のことを考えずに墓を開けていることである。

 

 結界が無いことは、忍びを配置していたことから予測できたことであり、後のことを考えていないのは、ここでも起爆札を使うからだ。

 

 ひと通りの作業を終えた白は、起爆札を設置して、霧隠れの里の地下へと向かった。この場所については、ほとんどの忍びが知ることはない。白が知ったのは、再不斬がたまたま知っていたからだ。クーデターの時に、水影との戦闘で知ったとのことだが、詳細は不明だった。再不斬の記憶を頼りに入口をやっとの思いで見つけたのはいいものの、再不斬自身が霧隠れの里に行くと言い出したので、調査する暇も無く、白はぶっつけ本番で内部へと入らざるをえなかった。

 

 地下へと入り、光の届かない中を白は音と匂いを頼りに、時折立ち止まりながら突き進んでいく。再不斬であれば、音だけですべてを把握できるため、わざわざ立ち止まることはないだろうが、この事に関しては白にそこまでの力量はない。そのため、ところどころで立ち止まっての確認が必要だった。

 

 いくつかの分岐を行き来しつつ、捜索していると大きな広間に行きついた。そこで、初めて白は明かりを灯して周囲を確認する。そこには、行方不明とされていた忍び刀が置かれていた。

 

(双振りの刀に、でかい刀……千本のでかい針みたいなやつと起爆札みたいなのがいっぱいついた斧……? 4本か。再不斬さんの首切包丁と鬼鮫さんが持ってるやつと……霧隠れの誰かが持ってたな。計7つで間違いなしと)

 

 白は忍び刀の内一つを除いて巻物へと収めると、再度カブトからの巻物で蛇を呼び出して、忍び刀の収まった巻物と、墓地から回収した物が入っている巻物とを蛇の前に置く。

 

 そうして、蛇が巻物を丸呑みにしてから消えたところで白は異常に気付いた。徐々にではあるが、霧が出てきていたのである。

 

(おかしい……こんなところにまで霧は入ってこないはず……っ!?)

 

 その霧が身体に触れたところで、微かに痛みを覚えてそちらを見てみると、その部分の服が溶けて肌にまで侵食していた。霧が危険であることに気付いた白は、まだ霧のない天井へとすぐさま飛び上がり、天井に取りつくと霧の発生源へと目を向ける。

 

「さすがに気付かれたようね……」

 

 その言葉を合図に一気に広間が明るくなっていった。

 

「……その面はこの里のもの? ……お前はどこの者です? それとここのことを誰に聞きました?」

「…………(非常にまずい相手に見つかってしまった……というかなぜここに居る?)」

「話す気はないようですね。……では、動かなくなった身体に直接聞くとしましょう」

 

 明るくなって現れたのは、今の水影である照美だった。照美は妖艶に微笑むと、口から霧を出して更に濃くしていく。それに対処するべく白も動き出した。

 

(―――水遁・水龍弾―――、―――霧隠れの術―――、―――水分身の術―――、―――氷遁秘術・魔鏡氷晶―――)

 

 白は素早く印を組み、放った水遁にて霧を洗い流した上で、その水龍弾の行先を水影に向けて放つ。水影は何事も無いかのように土遁にて壁を作り水龍弾を防いでくる。しかし、白はそれを見越したうえで、防がれた後に残るその水を使い霧を発生させていく。

 

「この程度で私をやろうと思っているのなら、勘違いも甚だしい……」

 

 照美は自身に向けられた水遁に対して顔を少し訝しむ。水気の無いこの空間で、これだけの威力の水遁を使用してくることには驚いていたが、照美は水・火・土の性質変化を持っているのである。しかも、血継限界についても2つ所持しているのだ。そんな相手に対して、ただの水遁で攻撃していくるのはおかしいと感じた照美は、先に逃げ場所を無くすために通路を塞ぎにかかった。

 

「―――溶遁・溶怪の術―――」

 

 照美は広間の中央へと素早く移動し、白の気配がまだ上にあることを確認した上で、この広間に繋がる通路2つを術を使って塞いでいった。

 

「これで2人きり……洗いざらい目的から全て教えてもらいましょうか」

「…………」

「だんまりですか……この通路は水影の部屋へと繋がるものだから、てっきり私の暗殺が目的かとも思いましたが……この程度の者を送るとは思えませんし……。それにしても、あの封印の先がこのような場所に繋がっているなんて……地下に何者かがいると言われなければ開きませんでしたよ」

 

 照美は既に勝負はついたと言わんばかりに、周囲の状態を確認しながら自分の考えていたことを話しだした。

 

「無駄話もお終いにしましょう」

 

 照美はにっこりとほほ笑むと、一瞬にして天井に居る白の元へと迫るとその首を掴む。そこで初めて照美は気が付いた。それが水分身であることに……。

 

 水分身はすぐさまただの水へと変わり果てて地面へと落ちていく。その中で、手鏡サイズの光る物だけが残っていた。怪しみながらも、照美は確認するために近付いていくと、そこから声が聞こえてくる。

 

「残念でしたね。始めから相手に逃げられないようにするべきでした。あなたはタイミングが遅すぎたんですよ。……それと、目的は達成しましたので、里内の起爆札はもう爆発させません。見つけにくい場所とかにもあると思いますが、安心して根気よく探してください。……それでは」

「……残念……逃げられる……遅すぎた…………婚期……」

 

 白が言い終えたところで、氷遁で出来た手鏡サイズの物は砕け散り、周囲の水に合わさって消えていく。

 

 そこへ、壁を破壊して2人の人物が入ってきた。

 

「大丈夫ですか!? 水影様!?」

「もっと綺麗に穴を開けることはできないのかお前は!?」

「うっ……すいません……」

 

 入ってきた人物は青と長十郎であり、長十郎のヒラメカレイにて壁を壊して入ってきたのだった。その壁を壊した際に土煙が舞ったことに、青が長十郎を叱りつけたことで、長十郎は落ち込んでしまう。

 

「……綺麗に……できない……」

「もういい! 水影様を発見したと伝えてこい!」

「分かりました! すぐに行ってきます!」

 

 長十郎はすぐさま開けた穴の中へと戻っていく。

 

「いやあ。いきなり居られなくなったのにはびっくりしましたよ」

 

 青は安堵したような表情をして照美へと近付いていくが、照美の方も、顔を俯けたまま青へと近付いていく。

 

「それはそうと、誰が居たんですか?」

「……黙れ、殺すぞ」

「ええっ!?」

 

 白は照美と会話することで時間を稼ごうとしていたが、白の意図とは別のところで、更に時間を稼ぐことになろうとは思いもしていなかった。

 

 

 

 その頃目的を果たした白は、元来た通路を戻り、外へと出ていた。

 

 照美と相対した時に、勝てないと判断した白は、すぐさま逃げるための作戦を実行に移した。水分身をその場に残して、影分身の方は隠遁で霧によって見えないことをいいことに、先に通路へと逃れていたのである。

 

 ただ、影分身とて無事ではなく、あの後も残っていた霧により身体の至るところが、服はもちろんのこと肌までボロボロになっていた。

 

(あまり長くはもたないな……)

 

 白は、霧の中を忍びに気付かれないように移動していった。

 


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