白物語   作:ネコ

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76 お金?

 再不斬に会いに来てから数日。白は豪華な机の上に並べられた書類の処理に追われていた。

 

 あの日、再不斬への挨拶を済ませた白は、再不斬から話のあった女忍者へと挨拶をしに部屋を訪れた。

 

 部屋には幅広い机の上に書類の束が乱雑に置かれており、その書類を目の下に隈を作りながら処理している女が居た。その女は、誰が入ってきたのかと、疲れた表情を書類から上げて、白と目が合った瞬間に硬直する。しかし、それもすぐに解けると、親の仇と言わんばかりの表情で白へと迫り、その手を掴むと問答無用に白を椅子へと座らせた。そして、白の目の前に書類を置き始めたのである。

 

「いきなりなご挨拶ですね」

「いきなりはどっちよ! こっちはあれからずーっと1人でやってきたのよ!」

「事務処理できる人を雇えばいいだけでしょうに……」

「外部の人間を信用できるわけないでしょ! うちの奴らはこういったことには役に立たないし……」

「一応俺も外部の人間なわけなんですが……」

「あんたは逃がさないわよ!」

 

 女はヒステリー気味に叫びながら、今まで座っていた椅子を扉側へと移動させると、事務処理の続きを始めた。場所を移動したのは、白を部屋から逃がさないためだろう。実力的にいって、逃がさないことなど不可能なのだが……。

 

 完全に置いてきぼりを喰らった状態のハナビは、事の経緯が分かっていないため、部屋の入口で立ったままで困惑しており、心配そうに白を見詰めていた。そんなハナビの視線に気付いた白は、書類仕事をする前にハナビを招きよせて女へと自己紹介をする。

 

「紹介しますね。はい、自分で自己紹介をして」

 

 この時に、女は初めてハナビの存在に気付いたようで、ハナビを見て驚いたような表情をすると、慌てたように、目の前の書類を身体を覆うようにして隠した。そんなことはお構いなしに、白たちは自己紹介を始めていく。

 

「初めまして、ひゅう「はいストップ!」……?」

 

 白はハナビの言葉を遮り、顔をハナビへと寄せて耳打ちした。

 

「<日向の姓は名乗らない。今後はハナビだけで通すこと。日向姓なんて名乗ってたら狙ってくださいっていってるようなものだろ。情報を簡単に渡すのは自殺行為だってことを覚えとけ>」

「すいません……」

 

 女は2人のやり取りに不審げな表情を向けて、そんな2人を注視していた。

 

「ではもう一度改めて」

「はい。……初めまして。ハナビと言います。えっと……よろしくお願いします」

「……で? その子は信用できるわけ?」

 

 女にとっては、信用の有無。それだけが全てであり、それ以外は必要がなかった。

 

「素性は明かせませんが、信用はできます。一応、俺がついていますので問題ありませんよ」

「……それならいいけど……なんで、こんな子供連れてきたのよ?」

 

 何かあったら白が責任を持てばいいかと、女は書類を隠すために机に伏していた身体を上げて白へと尋ねた。

 

「まあ最初はこんな予定ではなかったんですが……タイミングが色々と重なったから……としか言いようがないですね」

「あんたが責任を持ちなさいよ」

「あなたの心配している会社に関しては、たぶん慣れてないので、内容を見ても分からないと思いますよ?」

「その内分かってくるでしょ!」

「はあ……分かりましたよ」

 

 その後、雑談を切り上げて事務処理へと手を付けていく。

 

 ハナビに関しては、読み書き計算が出来るだけのレベルであったため、回される仕事もそれ相応なものとなり、主に書類の整理・運搬がメインとなった。

 

 しかし、白の方はそうはいかない。女忍者からしたら、再不斬の下、気に食わない相手ではあったが、一緒にやっていくだろうと思い込んでいたのだ。そのような相手が、いきなり何も言わずに消えたのであれば、このような態度に出てしまったのも仕方ないだろう。実際には、再不斬に別れを告げてあったのだが、それを再不斬は女に伝えていなかったのだが、それを女が知るよしもない。

 

 白は、影分身を使用して、急ぎの件名を数日間で終わらせてから、現在の状況の把握に努めていた。ガトーカンパニーの状況だけではなく、これから向かう先である霧隠れの里の状況の確認を含めてである。そこ以外にも向かわせているが、取り敢えず現状で欲しい情報は水の国方面だけだった。

 

(一応数億両の資産はあるけど、使えるのは数千万両といったところかな……その後の経営を考えなければ、全部使えるけど……クーデターを起こすのに必要な人数や金額ってどれくらいなんだろう?)

 

 白は唐突に思い出したように、女へと今後の計画について知っているか確認を行う。

 

「ひとつ聞きたいんだけど、再不斬さんから今後の計画聞いてる?」

「えっ? 今後の計画も何も、会社を任されてるんだから、どんどん大きくして稼ぐに決まってるじゃない」

「…………」

 

 余程今の仕事があっているのだろう。女は当初の目的を忘れて、会社経営にしか意識がいっていなかった。白は溜息を吐いて呆れたように女を見てから、諭すように語りかける。

 

「まず、再不斬さんの目的を思い出そうか。……ここにいるのは力を蓄えるためであって、この会社を経営するためじゃないんだけど……分かってる?」

「うっ……。け……決して忘れてなかった! ……力を蓄えるためにお金が必要だった……そう! そのために会社を大きくしてるのよ!」

「お金は十分稼いでると思うんだけど?」

「まだまだ足りないわ! 確実にいくにはもっと稼がないと!」

「再不斬さんは十分と見てるみたいなんだけど……」

「っ!?」

 

 白の言葉に女は驚愕の表情をすると、机の上の整理された書類の中から数枚抜き取り、部屋を出て行ってしまった。出て行った部屋の中は、女が書類を乱暴に抜き取ったことで、その上に積まれていた書類が飛んでしまい、散乱している。

 

「はあ……ハナビ、悪いけどまた整理しといて」

「はい!」

 

 ハナビは嫌な顔もせず、自分の仕事ができたとばかりに散乱した書類を集め始める。その間、白は通常の事務処理を続けて行っていった。

 

 しばらくすると、女が満足そうな顔をして部屋へと戻ってきた。

 

「やはり、まだまだ資金が必要なようだ。再不斬様にも納得していただいたわ」

「……具体的に後どれくらい必要なわけ?」

「今の倍ということで相談したから、まだまだ先は長くなりそうね」

「……その根拠が知りたい……」

「それは、今いる忍びへの給金と移動や武器の調達に伴う経費、それに日数を加味して計算してるからすぐに説明できるわ」

「……変なとこで優秀ですね。でも、今いるのって中忍レベルの忍びですよね? そんなのがある程度の数がいようと簡単に撃退されると思いますが?」

 

 女は白の言葉に、してやったりといったような顔をした。

 

「そうなのよね! だから、それ以上の忍びを雇うには更にお金が必要なわけ。……さあ、目標に向けて頑張るわよ!」

 

 女はそう言うと、書類を机の上に置いて椅子に座り、再び事務処理へと戻ろうとしたところで、机の上の状況に気が付いた。

 

「あんたね。もう少し綺麗に仕事をしようと思わないの?」

 

 地面へと散らばった書類は拾い上げてあったが、それを整理するために机の上へと書類を広げていたのである。それを見た女は、自分がやったとは思っておらず、白が散らかしたと思っていたのだった。

 

「お前が言うな!」

 

 さすがに女の言葉に突っ込まずにはいられない白だった。

 

 

 

 仕事が落ち着いたところで、後を影分身と女に任せて、ハナビの鍛錬に付き合っていた。日々の習慣なのだろう、朝と夜の仕事がない時間帯に、ハナビは独りで鍛錬を行っていたのである。白もそれは同じで、鍛錬をしていたのだが、途中からハナビにその光景を見られたため、ハナビの鍛錬に付き合うことになったのである。

 

(白眼の透視で見つかるとか……考えてなかったな。結界張らない限り防ぎようがないし……まあ、油断していたこっちが悪いんだけど)

 

 ハナビとの鍛錬を行う前に、現在のハナビがどの程度の実力を持っているのか確認を行った。結果的に、この年齢としては、アカデミーでの内容と比較しても十分に強いと言い切れるものであり、柔拳の型についてもひと通りできていた。ただし、それ以外の忍術や幻術ができていないに等しかったが……。

 

「大体わかった。……まず体術は良いとして、それ以外が全くダメな状態みたいだし、そこからやっていこうか」

「お願いします、先生」

「……先生?」

「教える人の事を先生と言うのではないのですか? アカデミーではそうでした」

「いや……間違っては無いけどね……まあいいか。この紙にチャクラを流してみて」

 

 白は持ってきていたチャクラ紙をハナビへと手渡す。ハナビはそれを受けとり、不思議そうな顔をして白を見詰めた。

 

「それはチャクラ紙といって、自分のチャクラの属性を調べるための物なんだよ。チャクラ基本的な性質が5種類しかないのは分かる?」

「はい。それは分かります。火、風、水、土、雷です」

 

 ハナビはスラスラと答える。この程度であれば、アカデミーでも初期にて教える項目なので、知っていて当然でもあるが。

 

「正解。……んでその紙にチャクラを流せば、火だと燃えるし、風だと切れる。水は濡れて、土は崩れ、雷はシワが入る……だったかな?」

「そうなのですか……先生はどの属性なのですか?」

「忍びは簡単に情報を教えない」

「……はい……」

 

 白としては、怒っていったつもりはなく、一般的なことを言ったつもりだったのだが、ハナビは初日に注意されたことを思い出したのだろう、自分のやったことに落ち込んでいるようだった。その様子を見て、白はフォローを入れておく。

 

「別に聞くことは悪いことじゃない。ただ、信頼できる者以外に情報を渡さないこと。これは本当に重要だから」

「……私は先生に信頼されてないのでしょうか?」

 

 白はフォローで言ったつもりだったのだが、その内容で更にハナビは落ち込んでしまっていた。そんなこととは知らずに、白は思ったことを話してしまう。

 

「ここに来た初日に、しかも初対面の人に、知られてはまずいことを平気で言うようでは、信頼できないに決まってるじゃないか」

 

 白の言葉はハナビに追い討ちとなって心に突き刺さり、その表情が泣きそうなものへと変わっていこうとしていた。そこでやっとハナビの状態に気付いた白は、言い訳がましくハナビへと話し掛けた。

 

「まあ、あれだよ。人には信頼できる人であるからこそ、知られたくないこともあるんだよ。うん」

「……いえ……先生の仰られることは最もだと思います。……だから、先生に信頼していただけるように、これから頑張ります!」

「あー……うん。頑張って」

 

 ハナビの中で納得し、自己完結したのだろう。白を見詰める目には、先ほどまで泣きそうなものはなく、やる気を感じさせるものになっていた。いきなりの態度の変化に、白が逆に戸惑ってしまったほどだ。

 

「じゃあ早速、チャクラを流してみて」

「はい!」

 

 ハナビはチャクラ紙を両手に持ち目を瞑った。そして、次の瞬間にチャクラ紙に変化が起こる。

 

(俺と被らなかったか……)

 

「これは……」

 

 ハナビの持つチャクラ紙はクシャクシャにシワがよっていた。ハナビの性質変化は雷だったのである。チャクラ紙の状態を見て、ハナビは先ほどの会話を思い出していた。

 

「属性は雷と……。ちなみにそれは先天的なもので、後天的に属性を増やすこともできるから覚えておいて」

「分かりました。……雷ということは雷遁系の術を鍛えていけばいいんでしょうか?」

「基本はそうだけど、それ以前のことをやっていこうか」

「それ以前……ですか?」

「そう。チャクラコントロールからね」

 

 そう言うと、白はハナビを連れて、ナルトたちが修行していた場所へと赴くのだった。

 


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