白物語   作:ネコ

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74 木の葉崩し?

 雲隠れの忍び2人は、木から木へと飛び渡りながら進んでいく。その表情からは笑みが絶えない。それはそうだろう過去に忍び頭が失敗した件を、中忍である自分たちが達成できたのだから。しかも、肝心の奪ってきた場所は、現在砂隠れの忍びたちにより混乱している。そのため、追手がかかったとしても、その時には遅すぎるという認識でいた。

 

 雲隠れの忍びの1人の脇には、日向ハナビがぐったりとした状態で抱えられている。その状態には特に外傷は無く、ただ気絶しているだけだということが分かった。

 

「まさか、こんなことが起こるとはな。来てみて正解だった」

「あれだけ来るのを嫌がっておいて、今更何を言う」

「そんな昔の事は忘れたな」

「……まあいい。追手がいつ来るか分からんから、一応罠を張っておくぞ」

「俺はこの先の河原で待ってる」

「分かった」

 

 2人は別れ、1人はそのまま先へと進み、もう1人は罠を張るためにその場に残った。

 

 既に追跡者の視認範囲に入っているとも知らずに……。

 

(さて、丁度二手に別れてくれたことだしさっさと終わらせよう……―――氷遁秘術・魔鏡氷晶―――)

 

 白がクナイを片手に持つと、白から見て雲隠れの忍びの反対側に氷の鏡ができていく。雲隠れの忍びは、罠を張ろうとした矢先に、すぐ傍にできた鏡に驚愕し、すぐさまそこから離れようと、鏡を向いて後ろに跳び退った。

 

 それが、その忍びの最後であり、地面へと着地した時には首を掻き斬られた状態で、声すらまともに出せぬまま、着地と同時にそのまま崩れ落ちていく。

 

 白は、その倒れ伏した死体に見向きもせずに、先に向かったもう1人の忍びの後を追った。

 

 すぐに追ってくるはずがないという油断があったのだろう。もう1人の雲隠れの忍びは、特に急いだ様子も無く移動していく。そして、河原まで到着したところで、一旦脇に抱えたハナビを降ろすと、忍び装束のポケットから縄を取り出した。

 

 そして、その取り出した縄をハナビに巻きつけようとしたところで、雲隠れの忍びの動きが止まる。

 

 原因は2つ。

 

 その内の1つは首に突き刺さった千本。そして、もう1つは胸に触れられた掌打だった。

 

 首の千本は白が放ったものであり、胸の方の掌打はハナビである。ハナビは、途中で意識を取り戻して隙を窺っていたのだろう。一旦離れたところを狙ったが、それが白と同じタイミングでの攻撃となった。

 

 ハナビは上半身を起こしたが、意識がまだ朦朧としているのか、ふらふらと頭を振っている。

 

 白はゆっくりとハナビに近付いていく。頭を振ったことで意識を覚醒させたハナビは、急に顔面蒼白になりながら、すぐに周囲の状況を確認しだした。自らが誘拐されたことを思い出したのだろう。雲隠れの忍びと、ゆっくりと近付いてくる白を見て、その表情も幾分ましになっていった。

 

「助けていただきありがとうございます」

「まあ、手助けはいらなかったようだし、それに知らない間柄ではないからね」

「?」

 

 白は、未だに木の葉の暗部の面を付けたままであることに気付き苦笑する。ハナビは暗部の面をしているのが、白であると気付いていないのだろう、不思議そうな顔をして白を見詰めている。そのことに白は気付いて苦笑したのだった。

 

「もう大丈夫かい?」

「……はい」

 

 ハナビには特に外傷はないようだったが、その表情は冴えないものへと変わっていった。

 

「そろそろ戻ろう。日向の人も心配しているはずだ」

「……いえ……してないでしょう」

「?」

 

 今度は白が、ハナビの言葉に疑問を覚えることとなった。白は、日向家の者に頼まれて来たのである。それにも関わらず、攫われた本人は心配してないと言うのだから、白の疑問は当然だった。

 

「取り敢えず戻らないか?」

「戻ったところで、私の居場所はありません……」

「……何故?」

「……日向家は強いものが代々後を継いでいきます。……そして、中忍試験にてはっきりと父上は言われました。……日向で一番才能があるのは、ネジ兄上であると……」

 

 ハナビは宗家と分家の関係を、日々鍛練ばかり行っていたせいで、碌に聞かされていないのだろう。宗家を継ぐのがネジであると勘違いしていた。

 

(ハナビの勘違いだから、戻ればなんとかなるだろう)

 

 白がハナビを里へと戻そうと考え、言葉を発する前に、ハナビから提案してきた。

 

「そうです! 私を暗部に入れていただけませんか?」

「はっ?」

 

 ハナビの突然の言葉に、理解が追いつかなかった白は、しばし唖然としてしまう。日向家の人間がいきなり暗部に入れてくれと言われても、白にはそこに行きついた理由が分からなかった。

 

「駄目でしょうか……?」

「駄目以前に、俺が決めることじゃない。それにこの後、ある場所に長期間の任務で行かねばならないから、無理だな」

「その後であれば紹介くらいはしていただけるということでしょうか?」

「暗部に入りたければ、親の許可を取った方が早いだろう(許可は下りないだろうけど)」

「……では、その任務に同行してもいいでしょうか?」

 

 この時、ハナビは日向家には自分の居場所は無いと思い込んでおり、他に自分の居場所を作ろうと必死だった。姉であるヒナタが、ハナビに負けたことで、日向家を出たように見えたことも、その思いに拍車をかけていたのである。

 

 白に着いてくることに関して再度確認を行う。

 

「しばらく戻って来れない上に、死ぬかもしれないが……それでも同行すると?」

「はい。……忍びの世界はどちらにしても、死と隣り合わせです。それが早いか遅いかの違いでしかありません」

「……まあ、覚悟が決まってるならいいんだけどね」

 

 白はここで、暗部の面を取り外し素顔を晒す。

 

「あなたは……」

「一応久しぶりってことになるのかな? 日向家で会うことなんてほとんどなかったけどね」

「お久しぶりです。……まさかあなたが暗部に入っているとは思いませんでした……」

「色々とあってね。……話は移動しながら行おう。っとその前に処理しておかないと」

「えっ?」

 

 白は、暗部の面を再度取り付けてから、仮死状態に陥っている雲隠れの忍びに止めを刺して川へと流した。

 

「雲隠れの里との交渉などには使わないのですか?」

「こんな下っ端を交渉に使えるわけがない。逆に、向こうの都合がいいように言って来るだけだ。昔の話を聞いたことはない?」

「そうなのですか……昔の話は聞いたことがありません」

「そう……まあその内話してあげるよ。……ではいくよ」

「はい」

 

 白の影分身はハナビと共に本体と合流するべく移動を開始した。

 

 

 

 火影の家にて、ひと通り物色をし終えた白とカブトは、部屋を出て結界の修復を行っていた。

 

「結界の再度張り直しではなく修復できるとはすごいですね」

「完全とは言い難いけどね……火影以外には、ほぼ分からないだろうね」

「火影が生きていたらどうするんです?」

「それは無い。四紫炎陣が完成した時点で、火影が死ぬことは確定してるんだよ」

「そんなものですかね」

 

 自信満々に答えるカブトに対して、白は素気なく返事をする。少しだけだが、白が関わることでイレギュラー的なことも起こっているので、火影が生き残る可能性もゼロではない。ただ、白としては、火影に善戦してもらい、大蛇丸の術を確実に封じて欲しいがために、火影へと忠告したに過ぎなかった。

 

「……それよりも、君の方が気になるね。僕が誘っておいて言うのは何だけど、あっさりと木の葉の里を捨てられるなんてね」

「こっちのことを調べてあるのではないんですか? 元々この里の生まれではないですよ?」

「知ってるよ。だからこそ、医療を教えている時に声を掛けてみたんだ。……暗部の時の姿を見たときは、どこかの密偵とも思ったけどね」

「密偵ではありませんよ。……下忍になるくらいまでは、木の葉の里が安全だと思ったから来たんです。それがいつの間にやら強制的に暗部入りですからね……こっちも思うところは色々とありますよ……」

「……君の事情はある程度調べたけど、利用され続けているみたいだね。そして、それは今も続いている」

「……まあ、カブトさんの過去よりはマシかもしれません。自分の意思で親を殺して、ここに来たわけですし……」

 

 白は続く言葉を飲み込み押し黙った。カブトが作業を一時中断して、白をじっと見詰めて、先ほどまでとは違い冷淡な声へと変えて問いただしてきたからだ。

 

「どこで知った?」

「(やばっ!)……暗部に居たんですから……ダンゾウがしたことを調べることも可能ですよ」

 

 カブトはしばらく白を見ていたが、納得したのか結界を張る作業へと戻っていく。白は、静まり返った空気を変えるべく、違う話題を出す。

 

「結界の修復はあとどれくらいで終わりそうですか?」

「もうすぐ終わる…………これで終わりだ」

 

 部屋全体に、白から見て来た当初と同じ結界が展開されていた。

 

「違いが全く判りませんよ」

「始めに掛かっていたものより強度が弱い。この辺りはさすが火影と言うべきだろうね」

「では予定通り、向かいますが、集めた物はどうしましょう?」

「集めるのに時間はかかるだろうから……そうだね、この巻物を渡しておこう」

 

 白はカブトから巻物を幾つか手渡され、それを懐へと仕舞い込んだ。

 

「収集用の巻物と連絡用の巻物だ。連絡用の巻物を使用した時には蛇が出てくる。その蛇に収集用の巻物、もしくは情報を渡してくれればいい」

「分かりました。では行きます」

「ああ。僕も会場の方に戻るけど……本当にできるんだろうね?」

「ええ。それに1人でやるわけではありませんから」

「僕たちの情報を漏らさずにできるのかい?」

「もちろんですよ。そちらも、情報の漏えいはしないでくださいね。特にあなたの上の方には」

「分かってるよ」

 

 その後、2人は言葉を交わすことなく火影の家から別々の方向へと立ち去っていった。

 

 

 

 本体である白が、集合場所である演習場へとたどり着くと、本来居るはずのない人物が居ることで、人数が合わなかった。

 

「はい。みんな集合!」

 

 本体である白は、影分身3人を集めて輪を作り、ハナビから少し離れて話し合いを始めた。

 

「なぜその子を連れてきたの?」

「いや、着いてくるって言うからなんだが……」

「俺の事を木の葉の里の連中に知られたらまずいでしょ」

「だから、このまま連れて行くんだって」

「技量はどれくらいなんだ? 場合によってはすぐ死んでしまうぞ?」

「ヒナタ以上ネジ未満らしい。才能はネジ程ではないにしろあるはずだから、鍛えればそこそこ強くなるんじゃないか?」

「白眼ってだけで狙われる要素あるのに連れて行くか?」

「暗部の面を被らせるとか、変化の術使用するとか……色々方法はあるだろ」

 

 白たちの議論がなかなか進まない中、1人が重大なことを言い放った。

 

「なあ……影分身解いて1人で決めた方がよくないか?」

「「「!!!」」」

 

 その1人の言葉によって、すぐさま影分身を解いたことで、今までの経緯を含めて本体である白に情報が入ってくる。

 

(誘拐されてそのまま着いてきたのか……ちょっと待てよ……ハナビを連れて行けば、日向家に対する意趣返しにもなるし、ハナビが居なくなると、必然的にヒナタが大事されるわけで……)

 

「今のは一体なんですか……?」

「ただの影分身だよ」

「影分身?」

「それは追々説明するとして、取り敢えず移動しよう」

「はい」

 

 白はハナビを連れて行くことを決め、木の葉の里を出て行く。これからある人物に会いにいくために……。

 


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