白物語   作:ネコ

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72 中忍本選?

(とうとうこの日が来たか……)

 

 中忍試験当日。夜明け前に、木の葉の里に居る火影付きの暗部は、火影の執務室へと集合していた。それというのも、木の葉の里の警備についての話である。

 

 警備については、他の上忍や中忍なども行うことになっているが、木の葉の里全体に行き渡らせるには絶対数が足りなかった。そのため、要所要所に配置していくしかなく、中忍試験会場に至っては上忍、中忍を除き暗部は8人でカバーしなければならない。

 

 現在執務室に集合している暗部の数は20名、その内の約半数を1箇所に集中しているということは、それだけその場所が、重要であるということの証でもある。

 

 残りの12名の内8名を木の葉の里の結界付近へ、他4名を里の内へと配置してあり、白は中忍試験会場の配置……4名体制のイ班となっていた。

 

「……以上で配置の説明を終わる。……散!」

 

 火影の説明が終わると、白以外の暗部は全員その場から立ち去っていった。火影は、配置に行くよう言ったにも関わらず、1人残った白に対して訝しむ。

 

「……言われた配置へ行け」

「……最後かもしれませんので言っておきたいことがあります」

「……最後……か……」

「はい」

 

 火影は、白の目を見て、最後と言うのが自分の事だと認識した。白は火影から目を背けずに、周囲に誰もいないことを丹念に確認を行った。そして、誰もいないことを確認してから火影へと忠告を行う。

 

「だいぶ体力とか衰えてるとは思うけど、忍び装束で中忍試験会場へと行った方がいい。風影が偽物の可能性が高い。……トーナメントで、サスケの力を見るまでは動かないと思うけど、実際はどうなるか分からないし……。それと、情報としていってると思うけど、少し前に歴代火影の墓が暴かれてる。あなたの気にしている人の開発していた術を考えると……完成したとみていいだろうね」

「……終わりか?」

「まあ、恨み言とか他にも色々とあるんだけど、追い討ちをかけるみたいで、少しだけ後味悪いから止めとくよ」

「少しか……」

「少数を殺して多数を生かすやり方は、上に立つ者としては当然かもしれないけどさ、その少数に入ってしまったら最悪だよね」

「…………」

「まあ、悪いことばかりではなかったけどさ……時間もないし行くよ……あと、自分の決断には悔いのないようにね」

 

 白は言い終えると、火影の返事を聞かずにその場を後にした。

 

 

 

 中忍試験会場では、夜明け前にも関わらず、既に入り口前に行列ができている。見るからに一般人と分かる姿の者たちばかりだ。盛大なイベントの少ないこの世界では、中忍試験のような年2回行われる行事といえども、それを見ようと前日から並ぶ者も少なくはなかった。

 

 そのような姿を尻目に白は会場内へと入っていった。夜明けが来るまでに、他に不審者がいないか確認し、夜明けとともに怪しい物が無いかの確認を行っていく。不審物などが無いことを確認した頃に、警備を担当する一般の忍者がやってきた。定刻になるまで一旦警備を上忍たちに任せて、白たちは会場周辺の警備に回っていく。

 

(ここでこうしてても何もおきないんだよな……暇だ……)

 

 特に何か起きるわけでもなく、時間になり会場への入口が開くと、我先にと人が入っていった。それに伴い、暗部である白たちも会場へと入っていく。

 

 一般人用の場所は決まっており、そこを逃せば立ち見をする羽目になる。そのため、徹夜してまで並んで、場所取りに躍起になっているのだろう。しかし、白には理解できない考えだった。

 

(中忍試験なんて見てなにか楽しいのかな? まだ、歓楽街で遊んだ方が面白いと思うんだけど……)

 

 一般人にとって、忍者とは恐ろしいと思われる一方で、忍術を使っての闘いというものは、できない者たちからしてみると、格闘技などの観戦と同じような感覚だった。しかも、自分たちに害が及ばないのであれば、尚更近くで見てみたいと思うのが心情なのだろう。最前列を取るために猛ダッシュをしている人が見受けられる。

 

 席取りが落ち着いて来た頃に外が騒がしくなってきた。時間的に大名たちが到着したのだろう。大名たちについていた暗部の者は、そのまま会場周辺の警備へと移っていき、一部はサスケの捜索へと向かっていった。

 

 ここ数日、サスケをカカシに預けたところ、そのまま行方が分からなかったからである。捜索はしているが見つからないため、早朝の時点で行方が分からない場合は、暗部も捜索に加わることになっていた。

 

 開始時間である8時手前頃になると、大名たちも席に着き始め、火影も会場内へと現れる。

 

(ヒナタに1人、一楽に1人、緊急時用に1人……ギリギリだな……)

 

 今の白には長時間維持できる影分身は3人が限度だった。この後起こるであろうことを考えると、自分に近しい者を護るので精一杯の状態である。それに加えて、もしも自分の身に危険が迫った時のことを考えると、1人は安全な場所に待機する必要があった。

 

 出場者であるメンバーが会場内の広場中央へと並び、開始まで待っているところへ、風影が現れた。火影はそれ見てにこやかに対応しており、2人で話し合っていたが、途中で火影の方が立ち上がり前へと進み出た。

 

「えー。皆様、この度は中忍試験にお集まりいただき、誠にありがとうございます!! これより予選を通過した者たちによる本選を始めたいと思います!! どうぞ最後までご覧ください!!」

 

 火影の言葉に会場は盛大に沸き盛り上がっていく。それを火影は満足そうに見渡すと、自らの席へと戻っていった。

 

 ルールは3次試験と同じで、何でもありの死または降参、そして審判による判断に伴う中止である。

 

 1回戦の対戦者であるナルトとネジを除き、他の者たちは中央広場から出て行った。

 

 2人になり、会場が静かになってきたところで、審判からの合図があがる。

 

「では……第1回戦始め!」

 

 開始の合図後、少しの間、両者に動きは無かったが、突如ナルトの方から動き出した。ナルトは影分身の術を使い5人になり、その内の4体―――影分身がネジへと襲いかかっていく。

 

 ネジは、襲いかかってくる影分身を冷静に対処して、あっという間に撃退し構えをとったままナルトへと話し掛けていた。

 

「一応忠告しておく。大怪我を負う前に棄権をすることだ」

「始まってすぐに棄権なんかするかってんだ!」

 

 ネジの言葉が頭に来たのだろう。ナルトは再び影分身を使用し、今度は20数名へと増えると、ネジへ向かっていく。そして、一斉にネジを取り囲み攻撃を開始した。

 

 しばらく砂埃が舞い、視界が悪くなっていく。そして、晴れたそこに立っていたのはナルトだけだった。

 

「なんでも人数を増やせばいいというものではない」

 

 1人離れていたナルトへ、背後から攻撃したネジが言い放った言葉で、ネジへと襲いかかっていたナルトたちは一斉に振り返った。

 

「1人離れているから本体かと思ったが……影分身だったか……なるほど、油断していたら攻撃を喰らったかもしれないな」

 

 ネジからの攻撃を受けた1体は煙のように消え去っていく。

 

 呆然と立ち尽くしているナルトたちのいる中心へとネジは素早く移動し、そこで回天を使用して一気にナルトたちを攻撃した。

 

 攻撃を受けたナルトたちは弾き飛ばされ、本体を残し消えてしまう。

 

 そのナルト本体も弾き飛ばされたせいで座り込んだ状態になってしまっていた。それを好機と言わんばかりに、ネジは更に追撃していく。

 

「柔拳法八卦六十四掌……」

 

 ナルトは危険を感じとり、立ち上がってその場から脱出しようとしたのだろう。しかし、立ち上がった瞬間には、ネジが間近まで迫っており、立ち上がったことで、逆に全身の点穴へと攻撃を喰らうことになった。

 

「ぐっ!!」

 

 ナルトが倒れても、ネジは構えを崩すことなくナルトへ話し掛ける。

 

「全身64の点穴を突いた。……もうチャクラを練れまい……無駄なあがきは止めて棄権しろ。これ以上やっても結果は同じだ」

 

 ネジにとっては相手に情けをかけているつもりなのだろう。しかし、逆にナルトにはその言葉が癇に障ったようだ。

 

「さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって! 無駄かどうかなんてお前が決めることじゃねえ!」

 

 ナルトはそう言うとフラフラとだがゆっくりと立ち上がる。

 

「点穴への攻撃をまともに受けて立つとは……な」

「俺は諦めが悪いんだ!」

 

 ナルトは立ち上がってはいるが、脚は震えており立っているだけで精一杯であることが目に見えて分かる状態だった。強がりだということはネジも気付いていたのだろう。しかし、白眼は解いたが、構えを解くことなくナルトと対峙する。

 

「これ以上の攻撃はお前が死ぬ可能性もある。……それでもやるのか?」

「う……うるせぇってばよ! こっちにはやる理由があんだよ!」

「……それは最初に言っていた火影とかいう話か……夢物語は寝ている間だけにしておけ」

「それだけじゃねえ! 予選の時からそうだ! 棄権しろ棄権しろと上から目線で人を馬鹿にしやがって! そんなやつは俺がゆるさねー!!!」

「許さないからと言ってお前にどうこうできるとは思わないが……」

 

 ネジはナルトへと近付き掌底を胸へと叩きつける。柔拳を使ってないため、命に別状はないだろうが、十分な速度をもっていたため、ナルトには十分な攻撃だったようで、口から血を吐きながら倒れ込んだ。

 

「審判……これ以上は危険だと思うが?」

「…………」

 

 審判は横たわるナルトを確認して、手を上げようとしたところで、その動きを止めた。

 

「に……にげんじゃ……ねぇ……」

 

 ナルトは立つことすら困難なのだろう。辛うじて上半身を起こし、胸に両手を当てて座り込んだままネジへと声を掛けてくる。

 

「おれは……にげねぇ……自分の言葉は……曲げねぇ……」

「現実を受け入れろ。もう結果は決まっている」

「お前みたいに……何でもかんでも決めつけるような奴に……負けるわけにはいかねぇ……」

 

 ナルトは徐々に回復してきたのだろう。座り込んだ状態からゆっくりとまた立ち上がってきた。

 

「何も知らない上に、実力もない奴が偉そうに言うのはやめろ……人は生まれながらにして、逃げられぬ運命を決定づけられることがある。……お前には分からないだろうがな」

「……わかるってばよ」

「……なに?」

 

 ナルトの言葉にネジは険しい顔つきになり、殺気だってナルトを睨みつけた。

 

 この時に、会場へと来ていたヒナタの症状が急遽悪くなってくる。ネジの気配を感じ取って、無意識の時の状況であろうとも、あの3次試験の時のことを思い出したのだろう。

 

(まだ完治してないのに来るから……)

 

 白の影分身は、ヒナタを気絶させると抱き上げて席を離れ、観客席から遠ざかっていく。

 

 向かった先は会場内にある治療室。そこにはベッドが数台設置してあり、誰もいない状態だった。白はヒナタをゆっくりとベッドへと寝かせる。その後、ヒナタの呼吸が安定するのを確認してから、周囲へと結界を張り本体と通じて試合を観戦する。こうすることで、影分身を解いた際の負荷を軽減することができるからだ。

 

 試合はナルトが九尾の力を引き出したことによって、点穴を突いたことが無効になっていた。それに加えてナルトはチャクラを全身に纏いながら闘っている。ある意味、回天を使って闘っているネジのようなものだ。そのチャクラにより、一気に速度も上がったが、ネジはその速度に対応している。

 

 ネジは攻撃をナルトに当てようとするが、ナルトの纏うチャクラにより弾かれ、逆もまた同じで、双方ともに遠距離からの攻撃では決定打がない。

 

 痺れを切らしたナルトはネジが勝負を受けるように挑発すると、真正面から突撃した。

 

 九尾のチャクラを纏ったナルトと、回天を使用したネジは、双方ともに弾かれて飛んでいく。

 

(ネジって九尾のチャクラと拮抗してるんだから結構すごいことだよな……)

 

 ボロボロになりながらもネジは飛ばされた後も立ち上がり、構えをとるが、肩で激しく息をしている。九尾のチャクラを使用したナルトと、短い時間だが闘ったことで、かなり消耗しているのだろう。

 

 そんなナルトの方はというと、飛ばされたまま地面に横たわっていた。ネジはゆっくりとナルトへと近付いていき、眉を顰めた瞬間、ネジの居た地面からナルトが拳を握りしめて飛び出してくる。

 

 構えをとっていたのが功を奏したのか、辛うじて避けることができ、飛び上がってきたナルトの腹部へと、ネジは攻撃した。

 

「……白眼は……チャクラを見ることが……できる。……地中に居ようと……同じことだ……」

 

 この時点で終わりだと誰もが思ったが、ナルトへの攻撃が柔拳だったためだろう、ネジから離れることなくその場に膝をついただけに留まり、そこから最後とばかりにネジへとナルトは殴りかかった。しかし、その速度は先ほどとは見比べるべくもないほどに遅いものだ。

 

 ネジはこれに対応しているが、ネジの方もそれまでの消耗が激しく、緩慢な動きとなっている。

 

 2人の拳が交差した時、双方ともにクロスの形を取って相手の顔へと入り、そのまま2人とも倒れてしまった。

 

 ナルトの方は既に意識は無いようで、ピクリとも動かずに俯せに倒れている。ネジの方は意識はあり、仰向けに倒れているが、脳震盪を起こしているのだろう。呻くものの立ち上がれずにいた。

 

 審判は溜息を吐くと宣言する。

 

「第1回戦……双方ともに動けないため引き分け!」

 

 このまま待っていればネジが先に回復したのだろうが、時間がかかることは間違いない。そのようなことに時間を割けるはずもなく、審判は判断を下して医療忍者を呼び、第2回戦の対戦者を呼び出した。

 

(ん~勝てると思ったんだけど、ネジはまだ甘いなあ……最初から意識を刈り取ればよかったのに)

 

 少し待っていると、治療室にナルトが入ってきた。ネジも担架で運ばれたはずだが、一緒の部屋にしないのはそれなりの配慮があったのだろう。結界をヒナタの周囲だけに変更して、白はネジへと会いに部屋を出ていった。

 


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