白物語   作:ネコ

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66 2次試験?

 白は、アンコによって意識不明にされた試験官を医療室へと寝かせ、我愛羅たちが食べ終えた食器を片付けるため、休憩室である部屋へと向かった。そこで、無事に到着したキバたちが休んでいるのを見つけることになったが、キバたちは白に気付かず、部屋の隅の方で固まり話し合っていた。

 

 影分身の方は、休憩所前の廊下で壁に背を付けて待機している。ここにいるということは何事も無く来たのだろうと、影分身を解除したことで、キバたちが部屋の隅で話している理由が判明した。

 

(そう言えば、我愛羅たちと遭遇するんだったな。赤丸が怯えてるわけだ)

 

 いつもであれば、キバの頭の上にいる赤丸が、怯えたようにキバの懐に入って低い鳴き声を漏らしている。目の前で他の受験者を何の躊躇もなく殺った上に、その手が自分たちへと向けられたのであれば、あの状態も当然かもしれない。影分身の方は、風遁の準備をしていたようだが、未遂で終わっていた。我愛羅たちと接触した時点で、助かることを思い出していたのだ。

 

 声を掛けづらい状況だったため、我愛羅たちが残していった食器を回収して休憩所を後にした。

 

 

 

 翌朝。我愛羅にラーメンを催促されていたことを思い出し、影分身に材料の調達を任せたのだが、もう1人の影分身の存在をこの時まで、白はすっかり忘れていた。朝になったことで、影分身から連絡が入ったのである。

 

「受験者狩り飽きたんだけど」

「……忘れてた……取り敢えず、術を解除するよ」

「了解」

 

 影分身から入ってきた情報では、塔の周囲にいた受験者は、悉く狩り尽くしてしまっていた。人数的には、半数以上が影分身により脱落させられているようだ。みんな塔付近で待ち伏せをして巻物を手に入れる気だったのだろう。しかし、それが裏目に出たようで、白の影分身によりやられてしまっている。

 

 脱落させられた受験者は、ご丁寧にも影分身が1つの巻物を広げることによって、試験官を口寄せし回収させているようなので、その点はまだ良心的であると言えるだろう。余った巻物については、その辺りに投げ捨てているようだったが……。

 

 日を跨げば、キバたちも落ち着くだろうと白は思っていたが、そうはいかなかった。キバたちの様子を見ようにも、キバたちは与えられた部屋からほとんど出ることがなかったのである。3人で集まってはいるようだが、この塔内で我愛羅たちを見かけたのだろう、警戒しているようで、極力部屋から出ないようにしているようだった。

 

 そのため、食事を作ってあげることも出来ず、夕食は我愛羅たちに振る舞うことになってしまっていた。何のためにこの場にいるのかが、分からなくなっていた白だった……。

 

 

 

 2次試験開始から4日目にネジたちの班が塔へと入ってきた。昼間から既にラーメン作りをしていた白は、休憩所へと入ってきたネジたちへとラーメンを振る舞った。あからさまに怪しかったのだろう、ネジだけは最初は箸を付けずに白を見詰めていた。しかし、リーとテンテンはお腹が減っていたのか、すごい勢いで食べ始めてしまい、お替わりまで要求したところで、毒気を抜かれたのかゆっくりと食べ始めた。

 

「こんなところでまともに食事ができるなんて思わなかったわ」

「そうですね。外では食材はあっても器具がなかったですから」

「お前たちには、危機感というのがないのか?」

「ネジは頭が固すぎるのよ。塔に入って通過って言われたんだから、ここでこんな手の込んだことして脱落させても意味ないじゃない」

「その通りです。それに、外での修行もいいですが、屋内での修行もしておかないと、いざと言う時役立てません!」

「リーは身体を診てもらっておきなさいよ。頑丈なのは知ってるけど、この後もまだあるんだろうし」

「もう大丈夫です! この程度で音を上げるようでは、サクラさんに振り向いてもらえませんから!」

 

 白の目から診ても、リーは普通に動いているように見えていたが、微かに他の人の言葉への反応が遅れていることから、聴覚に異常があるのが分かった。

 

「あまりこういうのを聞くのはよろしくないかもしれないが……リーと言ったか? 君、どちらかの耳が聞こえにくいといったことはないか?」

 

 突然、話に割り込んできた白をネジとテンテンは不審な目で一瞬見るが、リーが驚いたような顔をしていたため、その矛先はリーへと向く。

 

「リー……あなたまさか、あの時の傷が治ってなかったの!?」

「この程度問題ありません」

「程度の差の問題ではない。常に万全の状態でいるよう心掛けるべきだ」

「治るまで修業は休みね」

「そんなっ!?」

 

 修行はリーにとって生き甲斐に等しいのだろう。テンテンの一言で顔が見る見るうちに蒼白になっていく。

 

「よければ治療するがどうする?(リーには無意識とはいえ、以前蹴っ飛ばしてしまったからな。これくらいいいだろう)」

「いいんですか!? 是非お願いします! ほらリーも!」

「えーっと。いいんでしょうか?」

「気にする必要はない」

 

 白はリーへと近付き、手を両耳に当ててチャクラを流し始めた。

 

「左耳か……」

 

 元々の回復力が高かったためだろう。リーの耳の治療は数分で終わった。

 

「これで通常通り聞こえるはずだ」

「聞こえます! これでいつも通り修業ができそうです! ありがとうございます!」

「礼には及ばないが、このことは内密にな。本来認められていないんでな」

「わかりました!」

 

 リーは喜んで今にも修行を始めそうな勢いだった。

 

「暗部の人ってみんなこんなことできるんですか?」

「できる者もいればできない者もいる。人には得手不得手があるからな」

 

 それから、白は2次試験の過程などを聞かされていた。ネジたちは、天と地の両方の巻物を手に入れた後も、他の受験者を倒して巻物を回収していたようだ。その時の苦労話を愚痴のようにテンテンは話してきている。リーに至ってはよい修行になったと言っているが……。

 

「そろそろいくぞ」

「えー……もう?」

「ではテンテンだけ残れ、俺たちは行かせてもらう」

「冗談だって! 私も行くわよ! ご馳走様でした。それとリーのことありがとうございます」

「ありがとうございます」

「…………」

「いや。前にも言ったが気にしないでくれ」

 

 リーとテンテンは警戒心が無くなっていたが、ネジだけは警戒心を保ったままだった。会話にも混じらずに白をずっと観察していたのである。礼を述べてからネジたち3人は休憩所を出て行った。

 

(まあ、確かに怪しすぎるから、ネジの対応が正しいかな。他の2人は警戒心が低すぎるから、ネジが余計に気にかけてるだけかもしれないけど)

 

 その後は、ここ数日と同じように我愛羅たちに食べさせて、最終日を迎えることとなった。

 

 最終日の午前中に最初に来たのはイノたちで、話の内容から、塔の近くで他の受験者を待ち伏せしようとしていたところ、落ちていた巻物を拾い、それで巻物が揃ったために、すぐに塔へと入ってきたようだ。おそらく、落ちていた巻物は白の影分身が倒してしまった受験者の物だったのだろう。それを偶々見つけたようだった。

 

(なんて運がいいんだ……)

 

 その後に、音忍たちが到着し、昼過ぎになってやっとナルトやカブトたちも塔へと到着した。時間ぎりぎりである。それ以降に他の受験者が来ることもなく時間切れとなり、2次試験は終了となった。

 

 最終日は夜まで塔へと滞在しないので、ラーメン作りを免れたと思っていた白は、火影に会ったことで不機嫌になっていた。今、白が居る場所は、試験官用のモニター部屋である。それというのも、火影に会った際にモニターで塔内の監視を命じられたのである。監視と言っても、対象は大蛇丸であり、そんな人物が簡単にモニターに映るわけもなく、カブトたちが到着した時にも、誰かと話していたようだが、モニターの死角に現れたようで映ることはなかった。

 

(これって音忍の上忍が大蛇丸って言っといた方がいいのか? でも気付かれた時点で、誰かが身代わりにされて、大蛇丸じゃありませんでしたってオチになりそうなんだよな……)

 

 そんなことを白が考えていると、試験官がアンコへと報告を行い始めた。

 

「アンコ様! 2次試験通過者ですが、総勢21名となりました。中忍試験規定により3次試験を行います。以上で2次試験終了です」

「…………」

 

 試験官が報告したにも関わらず、アンコからの返答はなかった。報告した試験官は首を傾げて他の試験官を見始める。

 

「俺、何かまずいこと言ったか?」

「いや……。普通だったとおもうぞ?」

「機械の調子が悪いんじゃないのか?」

「昨日まではちゃんと繋がってたぞ」

「もう一回言ってみろよ」

 

 試験官たちは話し合いながら、機械の状態の確認などをしていたが、よく耳を澄ませば、アンコと火影のやり取りが聞こえていたのだった。さすがに、これ以上アンコ被害が拡大してはまずいと、白は注意を促す。

 

「向こうは聞こえているようなので、指示を仰ぐだけでいいのでは?」

 

 試験官たちは白へと視線を集中させた後に、次いで報告した試験官へと視線を移す。暗にお前が聞けと言っているようだった。

 

「えーっと。アンコ様聞こえてましたでしょうか?」

「聞こえてるわよ。それぞれの班の担当者は受験者を会場まで案内させなさい。それと、それぞれの班に最低でも2人は試験官がつくこと……いいわね?」

「分かりました」

「それと、そこに暗部のやつ1人いないかしら?」

「いますが……」

 

 再度、試験官の視線が白へと集中する。白は嫌な予感に身を包まれていた。

 

「そいつにはこの部屋に来るように言ってちょうだい。あとは速やかに移動させること! 今日中に3次試験終わらせるわよ!」

 

 アンコは言い終わると、通話回線を切ったようで、その後に言葉が流れてくることはなかった。

 

「そういうわけだから、アンコ様のところへ行ってもらいたい。……それとさっきはありがとう」

「別に構わない。……慣れてる(どうせ、また別なこと頼まれるんだろうな……)」

 

 試験官用のモニター部屋を出て、アンコのいる部屋へと行くと、アンコと火影が話し合っていた。部屋にはその他にも、アンコの後ろに試験官2人が立っている。

 

「取り敢えず、試験はこのまま実行する……。あやつの動きをみながらじゃが……」

「はい……」

「お呼びとのことでしたが」

 

 火影だけならばいざ知らず、他の者がいる手前、白はいつもの態度で火影に接することはなかった。

 

「来たか……。お主には、3次試験会場までサスケのいる班についてもらう」

「分かりました(大蛇丸対策か……どうせここではまだ襲われないだろうし問題ないな)」

 

 火影からの指示を受けて、ナルトたちの元へ行くと、イルカともう1人の試験官が待っていた。

 

「連絡がいっているとは思いますが、この班の担当の3人目です」

「3人目がまさか暗部の人とは……」

「それよりも早く行きましょう。アンコさん怒ると怖いですから」

 

 ナルトたち3人と合流し、第44演習場を抜けていく。影分身を先行させていたため、何かに襲われることもなく、無事に演習場を出た白たちは、そのまま次の試験会場へと向かう。

 

 意見会場はすぐ近くの建物であり、そこには下忍たちの担当である上忍たちが待っていた。既に連絡がいっていたのだろう、2次試験通過者の上忍のみが来ているようだ。広間の奥にある、寅の印のきった巨大な石造の前に上忍たちは並んでいた。

 

 白は案内はここまでとして、直ぐにその場を去った。

 

 あることを忠告するのを忘れていたため、暗部としてではなく、白としてこの場に来なければならなかったからだ。そのため、一時この場から去らなければならなかった。

 


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