白物語 作:ネコ
1次試験が終わり、2次試験開始までの合間―――午後1時に、白は一楽にて昼食をとっていた。
(第44演習場か……すぐにヒナタたちは到着したはずだから、気を付けるのは自分の身の方だな。大蛇丸が居るはずだし……。それにしても自給自足か、飯でも買っていっておこう)
食事を終えて一楽の影分身を切り替えた後に、白は早速食材の調達に向かっていた。今回の任務の性質上、紅班―――特にヒナタから目を離すわけにはいかない。そのため、食事は持参しておかなければならなかった。
2次試験の開始時刻は午後の2時半。買い物を終えた段階で、時刻は1時半。
(そろそろ行かないと始まってしまうな。……それにしても、この任務内容ってどこまでの人に伝わってるんだ? アンコさんに話っていってるのか? いってなかったら説明面倒なんだけど……そうだ!)
思いついたら即実行とばかりに、白は移動を開始する。
第44演習場では、アンコから2次試験に関する説明が行われていた。その内容は、受験者同士による巻物争奪戦である。当然、争奪戦の過程で受験者同士の戦闘になる。それは、死ぬ可能性すらあることを示していた。そのため、アンコは死んだ際の責任を回避するために、同意書を取ることにしたのだ。
中忍試験の打つ合わせの場では、1次試験とのギャップの差に、当初はそこまでやるのかと意見が上がったが、内容については好きにしていいと議長から言われていたことと、意見を出してきた者に対してアンコが「じゃあ、あんたが責任とってくれんの?」と言ったことで、他の者も含めて何も言えずに、2次試験の内容はあっさりと決まってしまった。
アンコの説明が終わり、受験者に巻物が渡り終えた頃に、白は第44演習場へと到着した。
「各チームは、担当の者についてそれぞれの出発地点へ移動! これから30分後―――2時半に一斉スタートする!」
2次試験担当の試験官に連れられて、各チームは出発地点へと移動して行く。
(紅班はあっちの方向か。完全に内側に入る前に移動しないと、どのゲートか分からないな……)
今回の任務と2次試験会場への立ち入りについて、確認と同時に許可をもらう話をするため、白はアンコへと近付いていく。アンコも白(ヒミト)が近付いてきたことに気付き、話しかけてきた。
「あんた打合せの場にいたやつよね。一体何しに来たわけ? あんたは2次試験に関係ないでしょ? まさか……あいつのスパイじゃないでしょうね!?」
アンコは、白のヒミトとしての顔を覚えていたが、返事は素気ないものだった。しかも、後半部分のセリフから、明らかにヒミトを警戒しているのが分かる。
(これは任務について聞かされてないな。議長かイビキさんの差し金と思われてるみたいだし……)
少し考え事をしていると、その沈黙を肯定と受け取ったのか、アンコは段々と機嫌が悪くなり始めた。それを見て、慌てて白は話を進める。
「スパイとかではないですよ。ちょっと演習場の中に入りたいもので、その許可を頂きにきました」
「あんた確か医療忍者よね? この演習場は死の森って言われてるのを聞いたことないの? 医療忍者はただでさえ少ないんだから、そんな簡単に許可なんて出せるはずないでしょ。誰かが付いて行くならともかく……」
(死の森って言っても、それは下忍レベルの話であって、中忍以上の者にはただの食料の宝庫なんだけど……医療忍者だから、実力的に下忍レベルと思われてるのかな?)
ある程度予想されていた答えに対して、白は準備していたことを実行に移した。
「それについては私が付いていきます」
白の後ろに現れたのは、暗部の面を付けた白の影分身だ。はっきりいって白の自作自演である。しかし、それでもアンコは許可に対して渋っているようで、顔を顰めている。試験に対しての責任問題を回避した矢先に、今度は別件で責任を持つことになろうとしているのだから、責任を取りたくないアンコとしては、許可を出すのを渋るのは当然だった。それに対して暗部の面を付けた方の白が答えていく。
「この件については、既に火影様より許可を頂いておりますので安心してください」
「それを先に言いなさいよ! でも、なんで今から入ろうとしてるわけ? 医療忍者がやることなんてないわよ?」
「任務内容に触れてしまうので、お話しするわけにはいきません」
「ここは今、私が担当なんだから、私の許可なく入れるわけにはいかないわね。しかも、火影様から私の方には何も連絡来てないし……」
「急なことでしたので、後程ご確認ください」
「暗部を遣わせるくらいだから、そうなんだろうけどさ……」
暗部の方の白では、アンコの説得は難しいと判断したヒミトの方の白は、未だに何かを言いそうなアンコの説得をするべく、準備しておいた物を手渡す。
「アンコさん。お昼食べられましたか?」
「まだに決まってるでしょ。さっき説明が終わって受験者送り出したのに、そんな暇なかったわよ!」
お腹が空いたのを思い出したのか、不機嫌な表情へと変わっていく。
「でしたらどうぞこれを」
白が手渡したのは、木の葉の里で有名な甘味堂の串団子だった。それを見てアンコの態度は急変した。袋に書いてある店名と、その内容量に喜びを隠そうともしない。
「あんた分かってるじゃない! やっぱり疲れた時には甘いものに限るわよね!」
「喜んでもらえて何よりです。それで許可の方なのですが……」
アンコは受け取るや否や、串団子の入った包みを開けて早速食べ始める。それを見て、白は許可を取ろうとしたのだが、アンコはまだ若干渋っていた。
「さすが甘味堂ね。……許可だっけ? 出してやりたいのは山々なんだけど、普通暗部が護衛に付く場合って、最低でもツーマンセルなのよね。……ん~、それを1人っていうのはねえ……」
(しまった……そうだった……)
最近単独任務が多かったため、アンコの言った内容を白は失念していた。そこへ暗部の方の白が言い放つ。
「別段それほど危険な場所ではありません。私1人で十分です」
「普通の場合だったらそれでいいけど、今は中忍試験中。……予測できないことが起こっても不思議じゃない」
暗部の面を被った影分身の方が話すと、アンコの態度がどんどん悪化するのが分かったので、影分身へとアイコンタクトを送り、完全にやり方を切り替えることにした。
「アンコさん。団子ばかりでは喉が渇きませんか?」
「まあ、そうね」
突然話題が変わったことにアンコは、真意が分からないのだろう、曖昧に返事をして白(ヒミト)を見つめる。
「ここに、甘味堂のおしるこがあるんですが、演習場の中に入るのであれば、持ってはいけません。匂いが漂って他の受験者の邪魔になったり、動物を招きよせたりしてしまいますからね」
白が懐から出した缶を見て意図を汲み取ったのか、アンコは目の色を変えて頷いた。
「そうね!! 火影様も暗部1人で十分だと判断したんだろうし、行ってよし! おしるこは私が責任もって処分しておくわ!」
「ありがとうございます」
アンコへとおしるこの缶を手渡し、紅班の進んだ方向へ向けて走った。
到着した時に、担当の者がゲートの鍵を開けて、キバたちが中へと入っている最中だった。時刻を確認してみると、既に2時半になっている。担当の者は耳に付けている無線機で報告を受けているのだろう。キバたちに対して宣言した。
「時間だ。これより、中忍試験2次試験を開始する」
「よっしゃー!! いくぜ!」
「大声を出すな。……他に気付かれる」
「……シノ君の言うとおりだと思うよ……」
「はいはい。分かってるっての。取り敢えず進もうぜ」
紅班の3人は、そのまま真っ直ぐに森の中へと行ってしまった。そこから中へと入るべく、担当の試験官へと声をかける。
「中に入らせてもらいますね」
「えっ?」
「アンコさんには許可を貰ってますので、無線機で確認してください。少し急ぐのでそれでは」
「ちょっと!」
担当の者の声を振り切って、キバたちの後を追う。その途中で影分身と共に消臭しておくことも忘れない。
(シノの蟲の範囲も大体わかったし、気を付けるべきはヒナタの白眼だけだな)
一定の距離を保ちつつ様子を見ていると、キバたちは足を止めて罠を張り始めた。ここで他の受験者を待ち伏せする気なのだろう。
(こんな中途半端なところに張らないで、塔の近くに張ればいいのに……他の受験者が来るか分からないでしょ、こんなところじゃ……仕方ないな)
白は影分身へと目線を向けて合図を送ると、影分身は白に頷いてどこかへ行ってしまった。
しばらくは、ヒナタが白眼にて周囲を警戒し、その間にキバとシノが罠を設置していき、設置が終わってからは、周囲から見やすい位置で3人は立って話し合いをしていた。
「さて、罠も張ったし後は待つだけだな」
「ゲート間の距離的に、早ければもう接敵してもいい時間だ」
「今のところまだ来てないみたい」
この時、白は、地面に展開した魔鏡氷晶の中に入っていたので、ヒナタは発見することができずにいた。そうして待つこと約10分で他の受験者が近付いてくるのが分かる。白の居る位置の上空を、変化の術を使用している影分身が通った後に、それを追うようにして3人の受験者が通って行く。
それは木の葉の里の下忍だった。
(近くに居たのは木の葉の里の奴だったのか……まあ仕方ないな)
魔鏡氷晶から出て、一旦影分身を解除し、キバと追跡してきた受験者たちの様子を窺った。
追跡してきた受験者は、目立つところに居た3人を見て薄ら笑いを浮かべていたが、徐々に顔色が悪くなっていく。この演習場に棲んでいるトビヒルに吸血されているのだろう。1人の首の裏にトビヒルが取りついているのが見える。
それを見て他の2人がパニックを起こしたのか、大声を上げる。
「何だそりゃ!?」
急いで取りついているトビヒルを取ろうとしたのだろう。2人で慌てて近寄り、無理やり引き剥がしている。
慌てることなく落ち着いて対処すればよかったのだろうが、慌てていたせいで体温が上昇し、それにより発汗したことで、更なるトビヒルに襲われることになっていた。トビヒルの習性として、温度及び発汗による匂いを感知して、集団で襲いかかる生き物であることを知らなかったのだろう。
トビヒルの集団に襲われた受験者は、樹上から罠を仕掛けた場所へと落下してしまう。そこからは、張っていた網の罠に掛かり、樹上の方へと引き上げられてしまっていた。キバは勝ち誇ったように、トビヒルを脅しの道具として使用して、受験者から巻物を奪取していた。
そして、キバたちは巻物を手に入れると、中央の塔へ向けて移動を開始していく。巻物を奪った相手に関しては、罠に掛かったまま放置することにしたようだ。
白は影分身を再度使用して、キバたちの後を追わせた上で、十分に離れたのを見計らい、罠に掛かって気絶している受験者をゲート付近へと運んでいった。
(あの程度の罠を解除できない上に、トビヒル相手に必死になる時点で、中忍になるには早すぎる)
ゲート付近へと運び終えた白は、ゲートに誰もいないことを確認して、ゲートの所へ受験者3人を置き、キバたちの後を追った。運が良ければ、ゲートに置いてきた受験者は襲われずに済むだろう。白としても、流石にあれ以上のことまで面倒を見る気はなかった。