白物語 作:ネコ
中忍試験の最終打ち合わせが終わり、白は解放感に包まれていた。やっと、この環境から抜けられる……前回の時と同様に、部屋への缶詰め状態が続けば、終わった時のそれを強く思ってしまうのも仕方ないことだろう。
その後、数日間は、いつも通り紅班で訓練と任務を行っていた。
人探しに物探し、犬の散歩と任務をこなしていたのだが、この時、キバが任務に対して我が儘を言わなくなっていたのに白は驚いた。白が中忍試験の打ち合わせをしている間に何かあったのだろう。紅指導の下みっちりと任務の重要性について言い聞かされたのかもしれない。訓練に対してはいつも通りのやる気を見せているので、これで任務に対してもやる気を見せていけば、忍者としては良い方向に進んでいると言えるだろう。
中忍試験が近付いてきた頃。集合の合図である鳥の鳴き声が、『ピーヒョロロー』と聞こえてくる。今回は鳥の鳴き方から、下忍を指導している中忍以上の者が対象のようだ。この場合、白も医療忍者として下忍に対し、講義を行っているため対象に含まれていた。
(火影のところの広間に集合か……中忍試験のことだろうな)
紅もその鳥の鳴き声に気付き、白と同じように上空を窺っている。
「……あなたたち。……今日のところはこれで訓練を終わりとします。また明日いつもの時間にここへ集合するように」
「おう!」
「了解した」
「「分かりました」」
「では解散」
紅は言い終えると、その場から立ち去った。白も集合場所へと向かうために、ヒナタに呼びかけようとしたところで、キバが提案してきた。
「このまま訓練続けないか?」
「終わりって言われなかった?」
「続けちゃだめなんて言われてないだろ」
「俺は別に構わない」
「自主的にする分にはいいと思う……」
「まあ、こっちは、ちょっと行かないといけないところがあるから、ここで失礼させてもらうよ」
「やらないのかよ」
「医療忍者になにを求めてるのさ。取り敢えず怪我をしないように気を付けてね。それじゃ」
その場に留まっていれば、更に引き留められてしまうため、白は一方的に言い切ると集合場所である広間へと急いで向かった。
集合場所である広間に時間ぎりぎりに到着して落ち着ける場所を探す。広間には既に、ほとんどの者が集まっているようだった。特に整列している訳でもなく、人によって場所もまちまちだったため、白は隅の方へと向かいその集まりに加わる。
部屋の奥には、火影が柔らかそうな椅子に座り、キセルを吹かしながら、予定の時刻になるのを待っていた。
そして、予定通りの時刻になったのを確認すると、今回の集まった目的について話し出した。
「さて……目的は以上じゃ。ということで、今回行う中忍試験についてだが、新人の下忍を担当している者で、中忍試験に推したい下忍はおるか? おるのであれば、担当の者は前にでよ」
火影の言葉で、3人の上忍が集まりから離れ、火影の前へと出て行く。
「カカシに、紅に、アスマか……。言うまでもないことだが、形式上8任務以上こなしていることが条件となる。……通例としてはその倍が望ましいがの」
火影はそう言うと、手元にある書類を確認し、条件が達成されていることを確認した上で、再度前に出てきた3人に向けて確認する。
「8任務以上の条件はクリアしておるが……中忍試験に推薦することで間違いないか?」
「カカシ率いる第7班。うちはサスケ、うずまきナルト、春野サクラ……以上3名。はたけカカシの名をもって推薦します」
「紅率いる第8班。犬塚キバ、日向ヒナタ、油女シノ……以上3名。夕日紅の名をもって、左に同じ」
(やっぱり俺の名前は入らないか……)
事前に紅には白の取り扱いに関して話がいっているとはいえ、名前が出てこないことに白は少し気落ちする。
「アスマ率いる第10班。山中イノ、奈良シカマル、秋道チョウジ……以上3名。猿飛アスマの名をもって、左に同じ」
「ふむ。……では「ちょっ!ちょっとお待ちください!」……なんじゃ、イルカ?」
それまでの、火影とカカシたちとのやり取りを聞いて、驚きのため唖然とし固まっていたのだろう。話も纏まろうとしたところで、驚愕から立ち直ったイルカが、火影が言葉を締めくくる前に遮った。
「差し出がましいようですが、今、名を挙げた者たちはアカデミーで私の受け持ちでした。確かに皆才能ある生徒たちですが、下忍に成り立てです。中忍試験への受験は早すぎます! 通例通り、もっと場数を踏ませてからの方が……担当上忍の方々の推薦理由が分かりかねます!」
「私が中忍になったのは、更に6つも年下の頃ですが?」
「ナルトたちはあなたとは違う! 中忍試験は、試験とは名ばかりでかなり危険なものです! あなた方はあの子たちを潰すつもりですか!?」
「……大切な任務にあいつらはいつも愚痴ばかり。1度痛い目に合わせるのも一興……あなたの言うように潰してみるのも面白い……」
「なっ! 何だと!?」
初めて担当し、アカデミーを卒業した生徒たち。イルカの生徒への思い入れは相当なものだろう。そのため、カカシのあまりの言いように、イルカは驚愕と共に怒りで顔を真っ赤にし、拳を握りしめた。それを見て、カカシは言い直す。
「……とまあ、冗談はここまでとして……イルカ先生。あなたの言いたいことも分かります。腹も立つでしょう。しかし……口出し無用! あいつらはもうあなたの生徒ではない。今は……私の部下です」
「ぐっ……」
カカシの最後の一言にイルカは何も言えなくなる。その様子を見て、それ以上の言い争いを避けるために紅が止めに入った。
「カカシ……もうやめときなって……」
少しの間、イルカはカカシを睨んでいたが、火影が先へと進めていく。
「イルカもうよいな? カカシ、紅、アスマは下がれ。次に3年以内の担当の者で、中忍試験に推す下忍がおる者は前へでよ」
そこからは数十名の上忍たちが、下忍を推薦していった。結果、約90名もの木の葉の里の下忍が、今回の中忍試験を受けることとなる。
中忍試験推薦の集会も終わり、帰ろうとしたところで、カカシとガイの声が白の耳へと聞こえて来た。
「カカシよ。今更だが、イルカ先生の話はもっともだぞ。俺の担当する子も、実力はあるが1年目は見送った……。もっと経験を積ませてからでもよかったのではないか?」
「それはガイの考えでしょ。うちはうちでやるから心配しないでちょうだい」
「しかしだな……」
「ま、その話は済んだことなんだし、蒸し返しても仕方ないでしょ」
「それはそうなんだが……」
カカシとガイは、そのまま話し合いながら部屋を出て行った。ガイはかなり不服そうに顔を顰めていたが、他の下忍の担当に対して強制することはできない。ガイはカカシをライバル視しているが、その反面カカシのことを心配しているので、余計にその思いは強いのだろう。
次の日。演習場へと集合した紅班のメンバーに、紅から中忍試験についての話があった。
「今日は訓練は休みとします」
「なんでなんだ?」
「説明を要求する」
「「…………」」
「昨日の話なのだけど、中忍試験にあなたたちを推薦しておきました」
「おぉ! 早くも中忍になれるのか!」
キバは既に中忍になった気で、赤丸と喜び勇み始めた。
「落ち着きなさいキバ。ただ、白については医療忍者であるため、別試験になるわ。だから、今回推薦した中忍試験を受けることができるのはキバ、シノ、ヒナタの3名よ」
「試験の内容ってどんなのなんだ?」
「3人か」
「白は別で試験があるんだ……」
「試験の内容は、私たちには知らされてないわ。……はい、これを渡しておきます」
紅はキバたち3人に中忍試験の志願書を手渡す。
「本当ならあと1年様子を見ようと思ったのだけど、キバも落ち着いてきたし、シノとヒナタを合わせた連携も上手くなってきたので、推薦したわ。もし落ちても、来年も受ければいいのだから無茶なことはしないように」
「今年で合格すりゃ問題ないな!」
「油断は禁物だ」
「大丈夫かな?」
「ヒナタなら最後の方までいけると思うよ」
「受ける受けないは強制ではないからよく話し合いなさい。……受けるのであれば、志願書にサインをしてアカデミーの301号室に、午後4時までに集合すること。……いいわね?」
「おっしゃー燃えてきた!」
「了解した」
「ヒナタ、中忍試験頑張ってね」
「白がそう言うなら……」
(ヒナタが受けないと他2人も受けれないんだよ……)
今回の中忍試験も前回と同様に、スリーマンセルでの行動となるため、1人でも受けなければその時点で残り2人も受験資格がなくなることになっていた。
全員が納得した所で解散となり、紅はどこかへ行ってしまった。
「よし! どうせなら一緒に教室へ行こうぜ! 2人も受けるんだろ?」
「そうだな。別々で行動するよりもいいだろう」
「うん」
「3人共頑張ってね(ナイス提案だよ! キバ!)」
「少し早めに行っとくか。どんな奴らがいるか見ときたいし」
「情報収集は重要だ。今回は白がいないからな」
「別に情報屋じゃないんだけど……」
未だにアカデミーでの話を引っ張られるのは、里内の任務において、ちょくちょくではあるが情報を流しているためであった。そのため、こういった場面では、医療忍者としてよりも情報屋として扱われてしまう。
「白は試験内容知ってるか?」
「ん~。特に言うべきことはないかな」
「どういうことだよ?」
「3人の実力なら十分、中忍試験に通用するってことだよ」
「あたりまえだろ!」
「ワンッ! ワンッ!」
「ああ。もちろん赤丸も含めてね」
「<はぐらかされているな>」
シノは白がはぐらかしたことに気付いていたが、白を見て何も言わなかった。いつまでも頼りきりではいけないと思ったのだろう。表情を変えずにキバへと確認する。
「それで、何時に何処へ集合するんだ?」
「3時にアカデミー前でいいだろ」
「わかった」
「うん」
「それじゃあ帰ろうか」
「そうだな」
その後、各自志願書を持って、キバとシノは自宅へ、ヒナタは白と共にアパートへと帰っていった。