白物語 作:ネコ
60 打合せ?
中忍試験の打ち合わせ。それは前年と同じ内容に決まろうとしていた。
前年度の中忍試験の1次予選の内容は、一定区域内におけるチーム同士の総当たり戦だった。決められた日数以内に、2チーム撃破したチームから抜けていく。その後に、2次試験として残ったチームで個人トーナメントを行う。そして3次試験で、本選までの間に期間を設け、そこで情報収集能力をみるというものだ。
(原作とは違うけど、まあいいか。ペーパーテストが無いから楽そうだ)
特に異論なく進められようとした時に、1人がおもむろに立ち上がり意見を述べる。
「拷問・尋問部のイビキだ。今回の試験についてだが、情報収集の重要性を分からせるためにも、先に1次試験にてペーパーテストを行いたい」
「情報収集であれば、予選から本選までの間に行う分で十分ではないか?」
「そもそも、中忍として十分な実力がなければ、情報収集などできんだろうし任されんだろうから、1次試験での必要性を感じないな」
「違うの考えるの面倒……」
イビキの意見に対して、疑問もあれば反対意見もあった。中には明らかに真面目に考えてない発言もあったが……。
周囲の言葉に動じることなくイビキは言い放った。いや、最後の言葉には微かに顔を顰めたがそれだけだ。
「それでは温過ぎる! 下忍であろうとも情報の重要性を知らなければ、仲間から、それだけではなく里から、ひいては国からも信用を失う! ……3次試験で情報収集能力をみるとはいっても、情報の重要性を説くわけではない。それを分からせる意味で1次試験で行うと言っているんだ。分かっていない者に、そもそも中忍試験を受ける資格すらない! それに……内容については既に考えている」
イビキは最後に、面倒と発言した人物へと視線を向けて言葉を締めくくった。既に内容を考えているのであればと、打ち合わせに参加した者たちは賛同の言葉を続々と囁きだす。その声を聞き、打ち合わせのまとめ役である議長が発言した。
「異論のある者はおるか? …………いないようであれば、イビキに1次試験の担当を任せよう。さて……では、2次試験については1次試験を持ってくるということになるが、これについて意見がある者はおるか?」
2次試験については誰も意見を出すことは無く沈黙が部屋を満たす。議長は部屋を見渡し、誰も意見が無いことを確認して頷いた。
「意見はなしと……。では担当を決めるか……そうだ、アンコお前がやれ」
議長は担当について少し考えていたようだが、何かを思いついたのか即決してしまった。指名された本人は驚きを隠せない。
「ええっ!? なんで私がやらないといけないんですか! そういうのは新米にやらせればいいでしょ!」
「最近の話なんだが……仕事中に団子屋である人物をよく見かけると聞いてな。まさか上忍にそのような輩がいるわけないと思い、見に行ったんだが……」
「ああもう! やればいいんでしょ! やれば!」
「なんだ。やる気があるのではないか。最初からそういえばいいんだよ」
「そのかわり、内容は私の好きにさせてもらいますからね!」
「チーム戦になるようであれば、内容は決めてもらって構わんよ。2次試験の担当はアンコで決定と……」
「私に任せたことを後悔するくらいに数を減らしてやるわ!」
「……と言っていることだし、3次試験は無くてもよいか……」
「一応ですが、設けといたほうがよくないですか?」
「もしかしたらってこともあるし、俺もその方がいいかと」
「3次試験は今回個人戦になるわけだし、特に決める内容もないから、あってもいいんじゃないでしょうか?」
「そうだな……。では担当に付きたい者は居るか?」
ここでまた沈黙になると思いきや、集合したメンバーの中の1人が意見を出した。
「ここに今日集合してない人物はどうでしょう?」
「誰か来てない者などいたか?」
「ハヤテのやつが風邪をひいたと言って来ていません」
明らかに自分に担当が回ってこないようにするための発言だが、周囲の者も同じ考えのようで、次々と後押しするように同意の意見をあげていく。
(こんな理由で今回の担当決まったのか……1次試験はまともだけど、2次試験は完全に八つ当たりの対象だな、これは……。3次試験のハヤテさん……風邪ひいて休むとか普通ありえない……なにか別件かな? 優秀な人は忙しそうだな……。誰かさんなんて団子屋でサボってるっていうのに……)
議長が最終的な採決を取り、反対意見が上がらなかったことで、その日の打ち合わせは終了となった。
次の日。試験ごとに担当者の振り分けが行われていく。その中で白は1次試験に割り当てられていた。
「昨日も言ったが、既に内容については考えている。後は、ペーパーテストの問題内容についてだけだ。問題数は10問とし、最後の1問は考えているので、他9問を考えてもらいたい。中忍以上でないと解けないような問題を、だ」
「実際の内容とはどのようなものですか?」
「そうだな。説明しておこう。ルールについてだが、まず第1に、受験者各自に持ち点10点を与えておき、減点方式で行う。先ほども言ったが、問題は全部で10問あり、各1点とする。不正解の数だけ持ち点から引いていくわけだ。第2は、チーム戦であることを意識させるために、チームの合計点数―――チーム単位で競う。第3は、分かりやすいカンニング行為が発覚した者から、1回のカンニングに対してその者の持ち点から2点の減点をしていく。0点になった者……及びそのチームはその場で退場という流れだな」
「それだと、ただの情報収集と変わらないのでは? 無様なカンニングをするなってことだけですよね?」
「一応チームにも影響を与えるからプレッシャーにはなるんじゃないか?」
「しかし、情報の重要性を知るのには少々物足りなくないか?」
担当者の間からは口々に疑問の声が上がるが、イビキに堪えた様子はない。それどころかニヤリと笑う。顔の傷と相まって不気味な印象を担当者たちに与えていた。
「言いたいことは色々あるだろうが、これまで説明したのはただのルールで、1次試験の前座にすぎない。一番重要なところは問題の最後……10問目に設定する。10問目は試験開始から45分後に出題し、ここで精神的な揺さぶりをかけて、甘い覚悟を持った者を落とす予定だ。10問目は受けるか受けないかという2択だが、受けるを選び間違えた場合には、永久に中忍試験受験を剥奪するという偽の情報を流す。つまり、説明したルールは、受験者に精神的プレッシャーを与える為にあるようなものだ。もちろんそれまでに持ち点0となった者と、そのチーム及び最後の問題で答えられない者とそのチームには退場してもらう。簡単にいうと、最後の問題で受けるを選んだ者のみを合格とするという話なだけだ」
最後の言葉を聞いた担当者たちは、試験内容に特に異論を挟むことはなかった。
「異論がないようであれば、問題作成に取り掛かってもらいたい。下忍程度の知識では解けない問題で頼む」
「ああ。それなんですが、最後の問題以外関係ないとは言え、カンニングによる情報収集能力もみるんですよね? 下忍に分からない問題を出してもカンニングに意味がないんじゃ?」
「説明不足だったな。1チームだけ答えを知っている中忍の者を入れる。それを見抜いてカンニングするもよし、その見抜いた相手のものをカンニングするもよしといったところだ」
「そういうことですか」
「忍具……例えばですが忍獣などの使用については?」
「それは別に構わんだろう。それも個人の能力として取り扱う」
「分かりました(これで、キバの赤丸やシノの蟲は使えるってことだな)」
「他に意見がなければ早速問題作成に取り掛かってくれ。議長に試験内容の説明を求められているからいってくる」
イビキはそう言うと、議長の元へと向かっていった。残されたメンバーで問題の作成を行っていく。
(これって俺が出たらカンニング以前の問題だよな……)
数日かけて問題を作り終えた。その内容は、中忍クラスでも難しいレベルにまで達していた。しかし、そもそも自力で解くようには設定しなくてもいいため、どうせなら……ということで決まってしまったのだった。
「やっと終わったな」
「なかなか問題作りもきついもんだ」
「お前のやつは暗号だったからいいじゃねえか。俺なんて、地形から敵戦力の規模と方角を割り出せっていうやつだったぜ? 条件をシビアにするのにどれだけ悩んだか……」
「気分転換に、終わったことだし飲みに行くか」
「よし行こう!」
最終的な確認を終えてそれぞれが帰っていく。白も帰るべく席を立った時にイビキから声をかけられた。
「あー。ヒミトといったか? 火影様から呼び出しがかかっているからすぐに向かってくれ」
「分かりました(また任務か? 人手不足も深刻だな)」
そのまま、白は火影の元へ向かう。執務室の扉をノックし、相手の返事を待たずして中へと入っていった。その態度に中にいた火影は、どこか諦めたような顔をして溜息を吐く。
「呼ばれたんできました」
「もう少し……いや、なんでもない。それはそうと、今回呼んだのは中忍試験についてじゃ」
「中忍試験の打ち合わせなら終わったから、今更変更しようとしても無理じゃない?」
「打合せではなく、お主の処遇についてじゃが、今回お主は中忍試験には参加できん」
「ええー!? 紅上忍の班で参加できないの?」
中忍試験を楽しみにしていた白としては、火影の言葉に愕然とする。
「お主が参加したら色々と均衡が崩れてしまうわ! ……それにスリーマンセルでの試験じゃからの。ついでに言うならば、お主は医療忍者としての試験を受けることになるから土台無理な話じゃな」
「試験内容知ってるから楽勝だと思ったのに……」
「分かっとると思うが、試験内容は同じ班員と言えども言ってはならぬぞ」
「もちろん言わないよ。言わなくても余裕だと思うからね……」
ヒナタの白眼、キバの赤丸、シノの蟲。どれも情報収集である1次試験や、戦闘を含む探索の2次試験では十分すぎる能力ばかりだ。ここに白が加われば、確かにほぼ盤石の体制となるだろう。
気落ちしながらも火影へと返事をして帰ろうとしたところで、火影が呼び止める。
「ちょっと待て。まだ話は終わっとらん」
「まだなんかあるの?」
不機嫌そうな声を隠しもせずに白は応えた。
「2次試験についてじゃが、暗部として白眼持ちに付いてもらう。ただし、手出しは無用じゃ。もし、死んだ場合は他里に調べられる前に回収することを任務とする」
「中忍試験でもそのことが付いて回るなんてね……」
「そういう決め事じゃったからの」
「あれ? でも中忍試験って医療忍者も同じ日にやるんじゃ?」
中忍試験の1次試験については同じ日にされるため、白の疑問は当然だった。打合せの場においても、日を変えるなどといった話はなかった。そのため、今回も同じ日になると思っていたのだ。
「お主は今回の医療忍者としての中忍試験も諦めてもらうしかないの」
「ああ、そうなるのか……別にいいけどね。どうせ簡単な内容だし、来年の春のやつで受ければいいんでしょ?」
「そうじゃの」
「はあ……それにしても嫌な任務だよなあ……」
そんな白の様子を見て火影は白から身体ごと背けて、前置きを置いたうえで話し出した。
「ここからは独り言じゃが……暗部の者が、食料調達のために攻撃した余波が稀に……突拍子もないことになることもあるから困るのぉ。今年はどうなることやら」
白は火影の言葉に表情を和らげ、軽くお辞儀をすると静かに執務室を出て行った。
「全くもって、まだまだ精神が鍛えられておらんの……。わしは……あの時は何もできなんだ。あやつには悔いを残さんで欲しいの……」
火影はキセルを加え、外の景色を見ながら回想に浸るのだった。