白物語   作:ネコ

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6 巻物?

 小屋が破壊されてから翌日。

 

 身体に纏わりつくような感覚に目覚めると、周囲は明るい薄い霧に覆われていた。

 

 この時、自分が不用心に寝ていたことに焦り、懐に手を入れて巻物の確認を行う。巻物自体は、ちゃんと懐に入っており、それを掴むことで白は安心できた。

 

(さて、わざわざあの小屋の床下にあったくらいだから、それなりに大事な物のはず……)

 

 巻物を読む前に、隠蔽結界である札を使い、洞窟への入り口を隠す。そして、洞窟内へは遮音結界を貼った。本来なら、探知結界も貼っておきたいところだが、迂闊に外に出て見付かりたくはない。

 

 あの戦いがあって、昨日の今日なのだから、ここら一体まで探索の手が伸びていてもおかしくないからである。

 

(もう仕事には行けないな。これからの飯はどうするか……)

 

 巻物を紐解きながら、これからのことについても考えていく。サバイバル技術については、簡単にではあるが、再不斬に教えてもらっているので、数日は大丈夫かもしれない。しかし、主に獲物の狩り方や捌き方ばかりだったので、山菜や薬草の類いがさっぱりなのである。

 

(食事が片寄るのはなあ……。っと、解けた。中身は何が書いてるかな?)

 

 そこに書いてあるのは、雪一族について少し記入されており、氷遁の術について色々と記入はされていたが、血継限界についてはどこにも載っていなかった。

 

(やっぱりそんなに甘くはないか。取り敢えず、ここに載っている印の練習でもしますかね。……早く再不斬さん来ないかなあ。飯持って……)

 

 腹の虫の音を無視しながら、印を素早く組んでいく。両手に馴れたら、今度は片手と続けていき、印を完全に覚えたことを確認してから、ごく少量のチャクラを使い術を行使する。

 

(氷遁、氷牢の術)

 

 目の前に、鳥籠程度の氷の固まりが出来たことを確認し、それを軽く叩いてみるが、意外と固いようだったので、近くの大きめの石を投擲してみる。

 

 結果として、氷牢には傷ひとつ付くことはなかった。

 

(チャクラを纏わせた物だったらどうなるだろう? 後は起爆札に対して、どれくらい持つかも確認したいな)

 

 氷牢の術を解き、影響の無さそうな術については試していく。

 

 そうこうしているうちに、霧が晴れていることに気付き、術の練習を一旦取り止めて、外の様子を確認する。

 

 見た感じでは異常は見受けられなかった。だがだからと言って油断は出来ない。気配を消してゆっくりと移動しようとした時に、真上から声がかかった。

 

「何処に行く気だ?」

 

 尋ねられた声に、一瞬ビクリと身体が硬直してしまう。しかし、それがいつも聞いている声だったため、振り返りながら返答した。

 

「いきなり気配を消して声をかけるなんて、人が悪いですよ再不斬さん」

「昨日のは災難だったな」

「全くですよ。気付くのが遅れていたら、死亡確定だったかもしれません。ところで何か食べ物持ってませんか? 朝からなにも食べてないので腹が減ってしまって、今から食糧を調達しようと思ってたんです」

「兵糧丸ならあるが、飯はないな」

「この際文句言わないので、それください」

「かなり図々しいな……。まあいい、ほらよ」

 

 再不斬は、懐から小さな袋を取り出すと、その中から一粒取りだし、こちらへと放ってきた。

 

 放られたそれをキャッチし、口のなかに入れる。使用している材料のせいなのか、あまり美味しくなかった。むしろ不味いと言えるだろう。

 

「好き好んでは食べたくないですね」

「それでも、栄養とチャクラ回復にはうってつけだ。後、何度も言うが、俺が敵だった時のことを考えろ」

「再不斬さんはそんなことしませんよ」

「……まあいい、それより今後どうする気だ?」

「行ってみたいところならあります。その前に完成させたい術もあるんですが……。そうだ! この巻物をあの小屋から見付けたんですけど、氷遁以外に何か書かれてないか見てもらえませんか?」

 

 再不斬へと巻物を手渡して、中身を確認してもらうこと暫し、再不斬は口を開いた。

 

「何も書かれていないぞ」

「えっ?」

 

 再不斬の横に回り込み巻物の中身を見てみるが、そこにはきちんと文字が羅列してあった。その後すぐに、再不斬の顔を見てみるが、冗談で言っているようには見えない。

 

(もしかして一族の者しか見れないとか?)

 

「私の目には見えるんですけど、再不斬さんには見えないんですね……」

「はっきり落胆したような声で言われるとムカつくな」

「かなり期待していたので……」

 

 白はガッカリと肩を落とし落ち込む。この巻物からでは、簡単な術しか使用することはできないからだ。それでも、血継限界である氷遁の術が使えるだけマシなのだが、それでも、落胆は隠せない。

 

「氷遁以外で何が知りたかったんだ?」

「血継限界……それの秘術についてです」

「……この里で、その言葉を出さない方が身のためだ」

「分かりました。知りたいのは、それについての術なんです。ひとつは知ってはいても、印の組み方も分からなければチャクラの必要量も分かりません。この巻物には氷遁ばかりしか書かれてないので、暗号か何かで書かれてないかなあと思ってたんですけどね」

「知ってるのに知らないとはな……。その巻物に解印はあるか?」

「解印?」

「大体こんな形のものだ」

 

 再不斬は地面に、棒を使って模様を描いていく。それを見ながら、巻物を広げて似たようなものがないかを探していくと、巻物の最後のところに、形は違うが複雑な模様を記入してあった。

 

「形は違いますけどありますね」

「そこに自分の血を付けてみろ」

「? はい」

 

 再不斬の言っていることの意味が分からないまま、親指に歯で傷を付け、血を解印と思わしきものの中央へと押し当てる。すると、それ以降空白だった部分に文字が浮かんできた。

 

(こういうカラクリもあるのか)

 

「出たみたいだな」

「はい。これで完成させることが出来るかもしれません」

 

 いましがた巻物に浮かんだ文字を確認していく。そこには、思っていた通りの術と、他にも幾つか他の術について書かれていた。

 

 それらの術をゆっくりと、両手を使い印を組んでいると、再不斬から声をかけられる。

 

「もう一度確認するが、白が行ってみたいと言うのはどこだ?」

「火の国に行ってみたいですね」

「理由はなんだ?」

「ここよりは平和そうなので……。それに、さすがにあの小屋が破壊されたところに住んでた子供が、当然のように生きてたら疑う人が多そうですからね」

 

 こちらの返答に再不斬は少し考え込んでいたが、結論が出たのか頷くと言葉を続ける。

 

「では、霧隠れの里を出るぞ」

「あ、はい」

 

 巻物を読んでいたため、反応が遅れてしまった。しかし、内容は聞いており、返事も既に決まっていたのである。

 

 巻物を片付けて懐に仕舞いこみ、身体の柔軟を行う。再不斬の急な提案には慣れたもので、この発言が出たということから、すぐに、発つと言うことが分かった。

 

「準備はいつでもいいです」

「その前に念を入れて変化の術をしておけ」

「変化の術ですか……。ん~(入り口のおっさんでいいか。変化の術)」

 

 変化の術にて里の入口に居た男へと変化する。変化したあとに、自分の身形を確認しおかしいところがないかチェックを行う。

 

「……まあいい……少し急ぐぞ。ついてこい」

「はい」

 

 こうして二人はその日、霧隠れの里から出ていくこととなった。

 


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