白物語   作:ネコ

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59 達成?

 荷物運びの任務。その終着点である木の葉の里が見えてきた。

 

 任務が、あの木の葉の里の門を潜れば終わるという喜びから、キバは赤丸と共に門へ向けて競うように走り出した。その光景を見て、紅と白は溜息を漏らす。初のCランク任務。それも、戦闘を伴うものだったためなのか、門を潜った後もキバは興奮しているようだ。

 

「ご苦労さま。私は報告書を提出してくるから、あなたたちは、今日のところは解散にするから休みなさい。白は悪いけど、その馬を返してきて頂戴」

「ひゃっほーい!! 久しぶりの休みだ! 赤丸、散歩に行こうぜ!」

「では、俺は虫集めにでも行くか」

「白はどうするの?」

「取り敢えず家に帰ってから考えるよ」

 

 キバと赤丸は、疲れた様子すら見せずに、赤丸と走り去ってしまった。シノも一旦帰るのか、歩いて行ってしまう。白とヒナタは、馬を返しに依頼人の元へと向かった。

 

 それぞれが、その場から立ち去ったのを確認して、紅は溜息を漏らした。紅は上忍に成り立て、しかも今回が初の下忍の受け持ちである。そこへ更に初のCランク任務。班メンバーでの連携は、そこそこできるようになってはきていたが、課題がないわけではなく、悩みの種は尽きなかった。

 

 今回はたまたま相手が弱く、数も少なかったので助かったに過ぎない。この経験で自分は強いなどという思い上がりがないように、湯の国を出る朝に説教をしたのだが、それがどこまで伝わっているのか、紅には分からなかった。

 

 班員全体に言えることだが、あの日の任務に対する指示の無視。キバは独断専行の傾向が強く、シノは寡黙に過ぎる。ヒナタは性格上仕方ないかもしれないが周りに流されやすく、白に至っては何を考えているのか分からない。それらの事柄を考えて、紅は再度溜息を漏らすと、報告を上げるために気持ちを切り替えて依頼所へと向かうのだった。

 

 

 

 白たちが馬を返却し、アパートへと戻ったそこには、扉に封筒が挟まっていた。

 

「どうかしたの?」

 

 挟まった封筒の内容を見て固まっている白へと、不思議そうな顔でヒナタが声をかける。ヒナタから見た白の顔は、若干ではあるが引き攣っているように見えたからだ。ヒナタにとって白は、いつも落ち着いていて、色々なアドバイスをくれて、更には自分を励ましてくれる存在であった。時に困ったような顔をすることもあるが、このような顔を見たことがほとんどなかったのである。

 

「ちょっと用事ができたから、ヒナタは好きにしてて」

「えっ?」

 

 その場から一瞬で立ち去った白を探すために、キョロキョロと周囲を見渡してみるが、近くには既に白の姿はなかった。

 

 白が向かった先はヤマトの所である。挟まっていた封筒には暗号で、帰ってきたらすぐに来るよう記載されていた。何かあったのかと思い、急いでヤマトの元へと向かったのである。内容が記載されていないことがより不安をかきたてていた。

 

「ヤマトさん。戻りました。何か火急の用件ですか?」

「おかえり。用件についてだけど……、火急と言うほどのことではないんだ。ただ君に、決めてもらいたいことがあってね」

 

 ヤマトは意味深な答えを返してきた。それを聞いて白の不安は更に高まっていく。そのため、用件を聞くのを躊躇ってしまっていた。そして、沈黙を保っていると、ヤマトの方から切り出してくる。

 

「用件と言うのはだね……中忍試験についてなんだ」

「中忍試験ですか? それがどう決めることに繋がるのかが分からないんですが?」

「君には選択肢が2つある。砂の国へ使者として行くか、それとも中忍試験の打ち合わせに参加するか」

「また、選択肢があってないようなものですね……」

 

 以前の出来事を考えるならば、砂の国に行くという選択肢は、白の中には存在しなかった。夜間に移動すればなんとかなるとはいえ、そこまでして行きたいと思えるほどではなかったのである。それに比べれば、部屋に缶詰にされるとはいえ、屋内での作業の方が遥かにマシであった。

 

「おそらく、そう言うとは思ったんだけどね……君がいない間に他の件名は埋まってしまったんだよ……。というわけで、僕と君で別れてどちらかを選ばないといけないわけなんだけど……君の中では決まってるだろう?」

「ヤマトさんまで巻き込んでしまったみたいで申し訳ないです。そうですね……。すいませんが中忍試験の方でお願いします」

「謝る必要はないさ。……では僕が砂の国の方へ行こう」

「ありがとうございます。それにしても、なぜ今回も暗部を使うようなことになってるんですか? 以前は地理を知るためということで納得できましたが……」

 

 今回も砂の国へ暗部を使いに出す理由が分からなかったので、確認のために聞いたのだが、ヤマトは言い難そうに少し考える素振りを見せると意を決したように語り出した。

 

「……これはあまり知るべきではないんだが……暗部は2つあるのは知ってるかい?」

「ええ。火影であるヒルゼンの爺さん直轄とダンゾウ様の根の2つです」

「その通り。今回ダンゾウ様……根の方が怪しい動きをしているんだ。その1つに砂の国への働きかけも入っている。だから、極力色々な場所へ、火影様直轄の暗部を配置しているんだ」

「そして売れ残ったのが砂の国と中忍試験ですか……」

「売れ残ったというよりも、後に回して問題ない用件だったと言うべきだろうね。既に他の暗部の人たちは動いている訳だから」

 

(この段階で既に木の葉の里の改革でも狙っていたのか? 今の火影とダンゾウは、上手くやっていると思ってたんだけど……)

 

 今考えていても仕方ないと、思考を切り替えてヤマトへ質問する。

 

「打ち合わせはいつからでしょう?」

「まだ先だよ。君も以前したことあるから大体の期間は分かるだろう? 約半月ほど先の話になる」

「結構前から他の人も動いてるんですね」

「これでも遅いくらいさ。僕は砂の国から帰ってきたら、火の国の大名様の警護に入る。君への指示はいつも通りの方法で行うから、気にかけておくこと。それと他の国への依頼は極力受けないように、紅上忍には話しを通しておくけど、君の方からも注意しておいてくれ。さすがにそちらにまで、気を割く余裕がなさそうなんだ」

「分かりました」

 

 白は思い返していた。暗部へと入ったころに聞かされていた内容と、火影とヒアシとの取引内容を……。

 

 

 

 それは、木の葉の里にとっては当然のことだった。その内容とは、日向家――――白眼についてのものだ。白眼を他里に奪われてはならないのは分かる。それが宗家の者となれば尚のことだ。そのため、宗家であるヒナタが、里外に出る時には暗部の者が付くようになっている。その役割を白に任せようというものが、火影との話し合いに含まれていた。ヒナタが里外に出るなど、下忍になるまでそう頻繁にあることではない。そのため、白に卒業までに暗部へと入るよう期限が設けられていたというわけだ。

 

 そこまではよかった。白にとってはいい迷惑だったが、最後の内容を聞いて更に嫌な顔をしてしまう。それは……ヒナタの処遇についてだった。処遇と言っても特に何かをするわけではない。ヒナタは宗家であるため、分家には施されている呪印術――――死んだ際に白眼の能力を封印する術式が刻まれていないのだ。そのため、遺体だとしても他国へと持ち去られるわけにはいかなかった。そして、白へと伝えられたその続きは……

 

「ヒナタ君については、遺体だとしても基本的に持っ……連れて帰ってきてくれ」

 

 ヤマトは白からの視線を受けて言い直す。遺体とはいえ物扱いをするというのは失礼だと思ったのだろう。

 

「……基本的にと言うと、他にもあるということですか?」

「君が運べない、もしくは敵に奪われると判断した場合は、生死を問わず処分するんだ。……特に頭に関しては確実に」

「……それがメインであの班に配属されたんですね」

「そういうことだよ。これが君に課せられている本来の暗部としての任務だ」

「死んでいるならともかく、生きている時もと言うのが……」

「君も分かっているだろう? 日向家の跡取りに目されているのはヒナタ君ではない」

「…………」

 

 理解はできるが、納得できるものではない。それを表情から読み取ったのか、ヤマトは元気づけるように続ける。

 

「悪い方にばかり考えないで前向きに考えればいい。君が守れるくらいに強くなればいいんだよ」

「まあ……そうなんですけどね」

 

 ヤマトの励ましの言葉も、白にはあまり効果は無かった。ヤマトも心の整理が必要だろうと、この日はこれ以上、他のことを何も説明せずに終えたのだった。

 

 

 

 Cランク任務が終わってから、キバはCランク任務もいけると自信を付けたのだろう。毎回Cランク任務を要求してきていた。そして、その度に紅に叱られているのだが、諦めるつもりはないようだ。結果として、任務を受けずに訓練に割り当てられることが多くなる。紅なりに考え方を改めさせるためだろう。それでも……上忍と下忍の力の差を見せつけられても、キバの考えが変わることはなかった。

 

 一応力の差を理解はしたようだが、Cランク任務を受ける受けないとは別という考え方のようだ。それが分かってからは、訓練よりも任務の重要性を講義することになった。これにはさすがのキバも堪えたようで、何度か受ける内に、不満ながらもDランク任務に対して何も言わなくなった。言ったら講義が待ってるからだろう……。

 

 中忍試験の打ち合わせが近付いてきた頃に、影分身から短く連絡があり、影分身が解除された。それにともない、波の国での経験が一気に白の頭の中に入ってくる。

 

(なるほど、ガトーの処理に手間取っていた訳か……。首切り包丁欲しかったけど、再不斬さんが生きてるなら仕方ない諦めよう。それにしても、再不斬さんの部下って中忍以下しかいないのか……。まあ、情報収集が今後メインになってくるみたいだし問題ないな。あの女も忍者の能力はともかく、事務処理能力は優れてるみたいだし……。それにしても、あれからカカシさんとは殺らずにあんなことになるとはね)

 

 再不斬がカカシに敗れて、その敗れた時の内容が原作と違うために、大幅に変わったと思ったのだがそうではなかった。

 

 再不斬の治癒力を高めるために薬草を採取しに行ったのだが、ナルトたちは木登りの修行をしていたのである。再不斬が生きていると仮定しての修行のはずが、死んだように見せかけてもされていたことに、白は驚いていた。それから、影分身はナルトたちを監視していたようだ。

 

 その後、再不斬がカカシに挑むことはなかったのだが、ガトーに雇われていたチンピラたちは違った。上からの指示がなかったせいだろう。今までも好き勝手やってきたうえに、橋の完成を邪魔をするという目的については、最初の契約で聞かされていたので、上からの指示なく数人のチンピラが橋の職人たちに怪我を負わせたのだ。それからは木登りの修行を中断して、橋の護衛をナルトたちに任せている。カカシは再不斬との戦闘による後遺症の回復に専念といったところか。

 

 そんな時に、また数名のチンピラが来たが、これをサスケが容易く撃退した。そこまでは良かったが、数日後に仲間を大勢連れてチンピラたちが戻ってきたのである。

 

 多勢に無勢の中、サスケが写輪眼に目覚めると共に、ナルトも影分身で応戦するが、相手の数があまりにも多すぎた。ナルトたちは橋職人を庇いながらである。しかも、相手を倒すだけに留め、殺さない。それがチンピラたちを調子づかせる一因にもなっていた。

 

 助力しようかと考えていた時に、再不斬とカカシが同時に現れたのである。カカシは驚きで大声を上げた。確実に死んでいたと思ったのだろう。

 

「再不斬!?」

「―――霧隠れの術―――」

 

 そこからはあっという間だった。再不斬が霧隠れの術を使用し、橋の上が霧に包まれたのと同時に悲鳴が、あちらこちらから響きわたる。そして、悲鳴がなくなり霧が晴れたそこに、生きて存在しているのは、再不斬とナルトたち、それに橋職人たちだけだった。

 

「何故生きている? それに、そいつらはお前の仲間じゃないのか?」

「仲間だと? そんなやつは始めから存在しないな」

「……お前はタズナさんを狙っていたはずだ。なぜ同じ目的である者を殺った?」

「ああ。そこにいるじじいか。……狙う理由がなくなったとだけ言っておこうか。こいつらを殺ったのは俺のリハビリのためだ。お前と殺る気は今のところない」

「それを信じろと?」

「信じる信じないはお前の勝手だ。それとついでだ。お前たちにとっていいことを教えておいてやろう。ガトーの方針が変わったようだぞ。今いる下っ端共に話がいっているかまでは知らないがな。早く橋を完成させることだ」

 

 カカシは再不斬の真意を見抜くことができないのだろう。再不斬の行動を見逃すまいと神経を張りつめていた。

 

 しかし、再不斬は言い終えると、その場から姿を消してしまう。しばらくは油断なく辺りを探っていたカカシは、肩透かしを喰らってはいた。しかし、ある物が目に入ったのか、カカシは造りかけの端の先端の方へと顔を向ける。何故なら、船が橋の先端へと近付いてきていたからである。

 

 少しして、その船は橋へと辿り着くと、乗っていた者たちが渡り板を掛けて橋へと上ってきた。その船に乗っていたのはガトーに雇われた者たちだったのだろう。増援として駆けつけたのだった。今度はカカシが戦うのかと見ていた矢先、カカシたち側にも増援が現れる。それは島の者たちだった。しかし、それだけだったならば船からきた者たちは戦いを挑んだだろう。それを見るまでは……。

 

 ナルトたちで見えにくいその先にあったのは、血を垂れ流し倒れている数多の人だった。中には見知った者もいたかもしれない。それに気付いた者たちが1人、また1人と後ずさり船へと戻っていく。残った者たちは訳が分からず立ち竦んでいた。これを好機と捉えたのか、カカシはナルトに影分身を解くように言って解かせ、仲間たちが倒れていることを見せつけたうえで、分身の術を使い、橋を塞ぐようにして人数を増やしたのである。これが船から上がってきた者たちには決定的だった。

 

 我先にと船へと逃げて行き、中にはそのまま海へと身を投げる者までいたのである。

 

 それを見届け影分身はその場を去ったようだ。それからしばらくは、ガトーカンパニーの仕事をしつつ、再不斬に鍛錬をしてもらってはいたが、チャクラが枯渇寸前になるまで粘ったようで、そこで終わりとなっている。

 

(最後まで鍛錬できていないのは残念だけど、目的は達成できたからよしとしよう。それにしても、一気に経験するのはきついな……)

 

 頭痛を堪えながら、目的を達成できたことに取り敢えず満足し、中忍試験打ち合わせの日まで、習得したことの反復練習を行うのだった。

 


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