白物語 作:ネコ
影分身からの情報が届いたのは次の日の昼頃だった。
その日は久しぶりの休みと言うこともあり、白はヒナタと共に居間で寛いでいた。寛いでいるとは言っても、白は忍術書を読み、ヒナタは押し花作りをしている。
「<こちら2号。応答求む>」
「<こちら本体。少し待ってくれ>」
白はヒナタから離れて自室へと戻っていく。ヒナタの近くでボソボソと呟いていては怪しまれるからだ。自室へと辿り着いた白は交信を再開する。
「それでどうかしたか?」
「例のブツが出来た」
「出来栄えは?」
「中々いい」
「では向かう」
白は、影分身との交信を終えて、ヒナタの元へ行き出かけるために声を掛けた。
「ヒナタ。これから出かけない?」
「どこにいくの?」
「まあ、それは着いたらわかるよ」
「???」
白は未だに困惑しているヒナタを連れて家を出た。道すがら、どこに行くのかと白を見詰めるヒナタを余所に先へと進む。
そうして向かった先にあったのは一軒の店であった。
「えっと。ここがどうしたの?」
「この店の新メニューを食べに来たんだ」
「新メニュー?」
「そう。今日からだからね。ヒナタも食べてみて、それを話題にナルト君に話し掛けてみるといいよ」
「っ!?」
着いた先にあった店の名前は一楽。そこで本日から『とんこつみそ』という新しいラーメンが出ることになっている。店先には特に宣伝らしきものは無いが、常連客がいるので、新メニューの話が広まるのはあっという間だろう。
この新メニューの味見を影分身がしていたため、本体である白は影分身を解くことが出来ずにいた。影分身を解いてしまえば、味見をした経験までもが戻ってきてしまい、楽しみが減ってしまうからだ。
そんな訳もあり、新メニューを食べるためと、影分身の切り替えを行うために、一楽へと来たのだった。
暖簾を潜ると、そこには黄色い頭に渦巻き模様の入った橙の服を着た人物がいた。ナルトである。良く考えていれば分かったことだが、基本的にナルトは、家でカップラーメンを食べるか、一楽でラーメンを食べるのか2択しかない。今日は一楽の日だったのだろう。
ナルトは堂々と真ん中の席に座っているので、白は一番端の席に座った。ヒナタは立ったまま固まっている。白の隣に座ればナルトの隣となり、かと言って反対側の端に座れば、避けているように見えるからだろう。ヒナタの中で葛藤しているところで、白がヒナタへ声を掛けて選択肢を無くしてしまう。
「ヒナタ。早くここに座りなよ」
白はにこやかに笑いながら、隣の席をヒナタへと勧める。明らかに確信犯であった。
白の「ヒナタ」と言う単語にナルトが反応を示し、白たちの方を振り向いたことで存在に気付いたようだ。
「やあ。久しぶり」
「久しぶりだってばよ」
「ほら、ヒナタも早く座って」
ヒナタの腕を掴み、席に座らせると早速と言わんばかりに注文をした。既にナルトの前にはとんこつラーメンが来ており、それをナルトは食べようと、割り箸を伸ばしているところだった。
「とんこつみそ2つね」
この時まだとんこつみそは、メニュー表に並んでおらず、ナルトは存在を知らなかったようだ。注文の内容に目を見開き、訊いてきた。
「とんこつみそってなんだってばよ!」
「新メニューだよ」
「そういやメニュー表に載せてなかったな。おいっ! 今のうちに載せとけ!」
「りょーかーい」
白の影分身はマジック片手に、メニュー表の一番下へと追記していく。
「そういや値段決めてなかったけどどうします?」
「う~む。とんこつしょうゆと同じ値段にしとくか」
「はいよっと」
メニュー表へと値段を書き込まれる。それを見てナルトは食べる気満々のようだ。……ようだではなく実際に注文した。
「とんこつの次にそれを頼むってばよ!」
「よく2杯も食べれるね……」
「すごいね」
ナルトの注文の仕方に、白は呆れ、ヒナタは羨望の眼差しを向けていた。一楽のおやじは笑顔で注文を受けると、3つ一気に作り始める。なぜ3つ一気にかと言うと、ナルトのラーメンを食べる速度にあった。
ナルトは既に半分ほどを平らげていたのだ。この調子で行くならば、次のラーメンが出来た頃には食べ終わっていることだろう。
そう待つことも無く3人の前に注文したラーメンが届いた。ナルトは残りスープがもう少し、といったところまで食べ終えている。
「ではお先に」
「いただきます」
(言われた通り、味はなかなかだけど、前作のとんこつしょうゆには及ばないな。人の味覚はそれぞれだからあれだけど)
スープまで食べ終えた白は、代金を2人分カウンターの上に置いて席を立った。
「ちょっと席を外すよ」
「ええっ!?」
まだ食べている途中のヒナタに声を掛けて、店の外に行き裏手へと回る。そこで先に待っていた影分身を再度入れ替えた。
(影分身の無駄遣いのような気がしないでもないな……)
その後、一楽の入口の方へと回り、店内の様子を隠れて見ていたが、ヒナタからナルトへ声を掛けることも無く、また逆もなかった。ナルトはラーメンに夢中。ヒナタは恥ずかしがって食事中断。白は溜息を漏らしながら店内へと戻った。
(今はあれだけど、将来有望株なんだしヒナタは一応人を見る目があるのかな?)
ヒナタの将来を憂いつつ席へと座り直す。
「ただいま」
「おかえり。どこに行ってたの?」
「ちょっとね。それより食べてしまわないと伸びるよ」
「もう。お腹いっぱいかな」
口に合わなかったのか、それとも横にいるナルトのせいか、ラーメンは半分ほどが残されていた。それを見て口を開く人物がいた。
「こんなに美味いのに残すのか?」
「お腹いっぱいで……」
「じゃあさ! じゃあさ! 俺が食ってもいいか!?」
「え? うん。どうぞ」
ヒナタはナルトへラーメンを差し出すと、ナルトは喜んで食べ始めた。
「ばびばどな! びばた(ありがとな! ヒナタ)」
お礼を言っているつもりなのだろう。ラーメンを啜りながら言っているので、正確に何を言っているのか分からないが、ヒナタには伝わったようだ。ヒナタは頬を染めながら照れているように見える。
(ラーメン3杯目とか……どこにそんな入っていくんだ?)
ナルトが食べ終えるまで待った後に、店を離れて白はヒナタと共にアパートへと戻っていた。ナルトは用があるようで、一楽からは別行動を取っている。1人で特訓でもするのだろう。一緒に帰れると思っていたヒナタは残念そうな顔をしていた。
「今から1人で鍛錬でもするんじゃないのかな」
「休みの日まで凄いね」
「班によって休みはバラバラみたいだけど、ヒナタは下忍になるまで休みなんてほとんど無かったんだし、休める時に休む癖をつけといた方がいいよ」
「白はいつ休んでるの?今日も忍術書を読んでたし、夜もたまに居ないよね?」
「そうだね。休むにも色々あるんだよ。ヒナタの押し花と一緒で、趣味に近いものかな」
「忍術書を読むのが趣味?」
「まあそんな感じかな?」
その後、白は医療を学びに行き、それが終わってアパートへと帰ってきた時に、白が昼間に言ったセリフをそのままヒナタから返されていた。
任務と訓練をある程度消化した頃、Cランク任務のリストに波の国への依頼が記載されていた。
(とうとう来たか)
影分身へと連絡を取り、状況を伝えていた。向こうでは、術については習得しており、残りは実戦の方だけとなっているようだ。計画が順調に進んでいることに白は安堵していた。
(再不斬さんには忠告はしたけど、後はどうするかはあちら次第かな……。流石にそこまで口出しできないし)
翌日には記載されていた依頼が受諾になっていたこと、そしてナルトが家に居ないことから、カカシ班が依頼を受けたことは間違いなかった。
ただ、どこから聞きつけたのか、キバが任務を受けに依頼所へと行った時に、紅へと喰って掛かったのである。
「紅先生! ナルト達がCランク任務受けたんだ! 俺たちにも受けさせてくれよ!」
「まだDランク任務数回しか受けてもいないのに、Cランク任務は早いわ」
「じゃあナルト達はいいってのかよ!」
「そういうわけでは無いわよ。ただ、物事には順番があってね」
「俺がナルトに負けてるはずがねえ!」
キバはナルトに何か言われたのだろう。キバにとってはナルトは下だという思いもあり、それが自分よりも上のランクを受けたことで、キバのプライドを傷つけていたようだ。対抗意識を燃やしていることを理解した紅は係りの者へと目線を向ける。こうなっては、いつまで経ってもキバは言い続けるからだ。
「Cランク任務の内容を見せてもらって構わないかしら?」
「お見せできるのはこちらになります」
「ありがとう」
紅は、係の者が示した広げられた巻物を手に取り中身を見ていく。途中その目線が止まり、吟味するように内容を確認していた。そしておもむろに頷く。
「この任務を引き受けます」
「荷の護送ですね。隣国の湯の国までとなりますがよろしいですか?」
「ええ。構いません」
「それでは手続きをしますので、しばらくお待ちください」
それを聞いたキバは喜びを露わにして、赤丸の両脇に手を入れてぐるぐると回っている。シノは特に変化は無く、ヒナタは不安そうにしていた。
(これはある意味休暇に等しい! 一応任務だし! しかもCランクで荷の護送とか美味しすぎる!)
合法的に休めることに白は内心喜んでいた。木の葉の里に居ると、暗部として駆り出されることが多いのである。そのため、短期的にとはいえ、木の葉の里の外への任務。しかも内容が楽で安全なものについては大歓迎であった。
準備を整えて再度集合することを伝えられて一度解散する。準備と言っても、それほど大した物を持っていくわけでは無い。白は医療忍者であるため、戦闘用の忍具の他にも、医療器具に加えて薬なども持たねばならないので別だったが……。その為、準備を先に終えたヒナタを集合場所へと送り出していた。
白が準備を整えて集合場所へ行くと、既に白以外のメンバーが待っていた。
「お待たせしました」
「準備に時間が掛かるのは仕方ないわ」
「さっさと行こうぜ」
「それほど待ってはいない。キバなど忘れ物を何度も取りに帰っている」
「いうなよシノ!」
「医療忍者だもんね。準備に時間掛かるよね」
白以外のメンバーの荷物は少なく、背中の方に襷掛けのような形で背負っていた。白は小さいとはいえ箱を背負っている状態だ。そのため、1人だけ浮いているように見える。
「揃ったわね。準備はいいかしら?」
「いつでもいける!」
「準備は万端だ」
「シノに同じく」
「準備は出来てます」
全員の声を確認すると紅は頷いた。
「ではこれから護送する荷物の場所へと向かいます。相手方に迷惑が掛からないように」
「それについてですが、護送というと僕たちが荷を牽く、または持たなければいけないんでしょうか?」
「その通りよ」
「ええっ!? そんなの聞いてねえぜ!」
紅の言った言葉にキバが騒ぎ始めた。護送と聞いて荷物を守ればいいとだけでも思っていたのだろう。
「キバ。あなたの望んだCランク任務よ。これ以上何か言うのであればこちらにも考えがあるわ」
任務の合間にある訓練で、度が過ぎれば痛い目に遭うということを思い知らされていたキバは、直感的にこれ以上逆らっては不味いと理解し、無言で上下に首を何度も振った。
「分かってくれて嬉しいわ」
紅はにこやかに笑うと先に進み始めた。それを他のメンバーは追いかけていく。
「よかったねキバ。あれ以上余計なこと言わなくて」
「ああ。分かってるよ」
「自業自得だ」
依頼人から渡された物は、既に荷車に乗せられていた。荷車には馬が取り付けられている。荷車を引く使役動物であるのだが、誰が馬の手綱を持つかで少し揉めた。
「俺は嫌だぜ」
「虫の知らせがあった。両手は開けておきたい」
「この中で一番荷物持ってるから遠慮<面倒くさい>」
「私はどちらでも……」
「駄目だよヒナタ。嫌なら嫌と自己主張しないと」
「それだと全員駄目じゃねえか」
「ではどうする?」
「ジャンケンなんてどう?」
「もうそれでいいや」
「異論は無い」
「私は何でも……」
ジャンケンの結果。言い出した者が当たるという言葉を白は実感していた。キバと最後まで争った結果、負けてしまったのである。そのため、現在、白が馬の手綱を引いて歩いていた。
「あーあ。どうしてこうなったんだか」
「白が言い出したんだろ」
「暇そうだね。換わってあげようか?」
「やなこった」
主に白とキバが話しながら、紅班は湯の国へ向けて進んでいった。