白物語 作:ネコ
それは、雨隠れの里からの帰還途中の出来事だった。
「巻物届けるだけでBランク任務なだけはありますね。普通だったらCランク程度なんでしょうけど」
「そうそう。任務で思い出したけど、ヒミトには今年中忍試験を受けてもらうよ」
「はい?」
「いい返事だ」
ヤマトは白の聞き返した言葉に対して頷く。それに慌てたようにして白は、言い返した。
「今のは返事ではないですよ! どういうことか説明してください! 中忍試験って、下忍にもなってないのになれるはずないでしょう!?」
「誰も白に受けろとは言ってないよ。ヒミトとして受けるんだ」
「どういうことですか?」
肩書上、白はアカデミーの生徒だが、ヒミトとしては下忍の扱いになっているとのことだった。中忍試験を受けるための任務件数については、医療での件数がカウントされているので、十分に要件を満たしているらしい。
「中忍試験にも種類があってね。君の場合は、後方支援としての中忍試験を受けてもらうよ」
「と言うと、医療に関してと言うことですか?」
「そうでないと、下忍同士のスリーマンセルで受験しないといけないからね。今回は君が医療忍術を学んでくれていて助かったよ」
「そんな裏ワザがあるとは思いもしなかったですよ」
知っている内容と言えば、情報収集や戦闘ばかりだと思っていたのである。実際に手伝ったことのある内容も、同じような物であったためそれしか無いのだと思い込んでいた。
「全員が前線で戦えるわけではないから、この試験分けは当然だと思うよ」
「確かにそうですね」
ヤマトの言葉は納得できるものだった。全員が同じ中忍試験を受けるのであれば、それなりに技量はあるはずだが、実際にはそこまでの技量はない。
その部署に特化したものが逆にいるくらいだ。
「それにアカデミーの6年生になれば、各自の進路を聞かれるはずだ。特に希望する場所が無ければ、そのまま一般的な下忍として育てられる。選んだとしても、その方面の才能が無ければ、すぐに違う場所に回されることもあるんだけどね」
「では、進路は医療方面で出しときますね!」
「まあ、君の場合はどこを希望しようと決まってるんだけどね」
「ですよね……」
任務から帰還した後に、詳細について伝えられた。
いくつかの書類をテーブルの上に広げられ、その中から一枚の写真の載った書類を渡される。
「まずは、その人物に変化して受験すること」
「この姿のままだと都合が悪いですもんね」
写真に載っている人物には全く心当たりは無かったが、受験するためだけの人物なので特に気にはならなかった。
「それと、一応報告は受けているけど、医療忍術についての知識と実技は大丈夫かい?」
「試験の内容にもよりますが、大丈夫だと思いますよ。色々と経験を積ませてもらってますし」
「下忍レベルの医療忍術だから落ちることはないと思うけどね」
試験の詳細内容については流石に教えてもらえなかったが、筆記試験と実技試験があることだけは教えて貰えた。ペーパーテストに関しては、最悪時のことを想定して準備はしておくことにし、実技だけがどのレベルなのかが少し心配であった。
秋休みに入り、中忍試験の会場である忍者アカデミーへと向かう。試験会場の入口は下忍たちで溢れており、入口が開くのを今か今かと待ち構えていた。
(少し早く来すぎたかな?)
時間より少し早めに来たのだが、扉が開いていないとは思わず、少し待たされることになった。扉が開かれるまでの間、受験者を眺めていると関わり合いになりたくない人物が目に留まる。
その人物は、色々な受験者に話し掛けたりしているが、白にとってはそれが情報収集のためだと分かった。その人物はあろうことか、こちらへと向かってきたのである。1人離れていたので目立ったのかもしれない。
「やあ。君も受験者かい?」
「ええ」
「僕は薬師カブトと言う。君の名前を聞いてもいいかな?」
「ヒミトと言います」
よりによって、薬師カブトが話し掛けてきたのである。大蛇丸の配下であることを知っているだけに、個人的に近づきたくない相手であった。
「ヒミトは初受験かい? 去年は見かけなかったけど」
「はい。今年が初めてです」
「僕は去年受けたんだけど落ちてしまってね。今年も懲りずに受けに来たのさ。それはそうと、君は1人のようだけど他のメンバーは何処に居るんだい?」
「医療忍術での受験なので1人です」
「ああ。そうなのか」
(俺に興味を持たずに、他のライバルに興味を持ってくれよ!)
この時、時間になりアカデミーの入口の扉が開放された。それに合わせて受験者がアカデミー内へと入っていく。ここが好機とばかりに、白も向かうことにした。
「アカデミーの扉が開いたようなので行きますね」
「そうだね。またの機会があれば会おう」
「ええ。また(そんな機会が来ないことを祈りますよ)」
扉を通って指定された教室へと入っていく。教室内には数名しかまだ来ていなかった。座席表を確認して割り当てられた席へと座り、試験の為の準備を行っておく。
ほどなくして、受験者が続々と教室へと入ってきた。みんな医療関係の本を持ち込んでおり、机の上に広げて時間ギリギリまで覚える気のようだった。
そんな中、そういった書物を持ってきていない白は、ある意味目立っていたと言っていいが、他の者は自分の事で精一杯なのか、気にかける者はいない。
時間となり、そこへ試験官が数名ほど教室へ入ってきた。
「これより医療忍者としての中忍試験を行う。流れとしては、始めに筆記試験を行い、その後実技試験となる。合否については、明日の昼に、アカデミー入口にある掲示板に貼り出す。ああ、それと、筆記試験については1時間後に用紙を回収する。何か質問はあるか?」
特に誰からも質問はなく、それを見て試験官は頷いた。
「では用紙を配る。始めの合図とともに始めるから、それまでは裏を向けておけ」
全員に配られたのを確認すると、試験官から「始め」の合図が出た。用紙を捲り問題内容を確認する。全部で20問その内10問は選択式だった。
(これは楽勝過ぎないか?)
試験問題の内容は、各臓器の応急処置方法、それに伴う経絡系に関するもの、他にも毒草や薬草の見分け方などで、知識としては広く浅く知っていればいいといったものだ。
この手のことに関しては、医療忍術を習い始めた当初の内容であり、白にとっては中忍試験とは到底思えなかった。
(もっと難しいと思って、カンニング用に水分身をアパートに待機させてたのに、完璧に無駄だった)
出題される内容として、手術の方法や注意点、薬に関しては調合などを含んでいると考えていただけに、拍子抜けされたのだった。
1時間後。用紙を回収された後、受験者は試験官に連れられて別室へと移動していく。辿り着いた先の教室には、人形5体とその手前の台座に箱が置かれていた。
「実技の試験は至って簡単だ。ここにある医療用人形を掌仙術にて目覚めさせる、それだけだ。時間は30分とし、5人同時に行っていく。出来た者から隣の部屋に移動だ。出来なかった者についても時間経過後に隣の部屋に移動しろ。順番については、箱の中に番号の書かれた紙が入っているので、手近な者から引いていけ」
そう言い終わると試験官は椅子に座ると、他の試験官と話し始めた。聞こえてくる内容は、誰が受かるかというもので、どうやら試験を賭けの対象にしているようだ。しかも、試験官は医療忍者ではなく、通常の中忍のようで、「楽な試験の方で助かった」などと言っている。
一番楽なのは情報部の暗号解読班の試験のようで、そこは筆記試験のみで終わるそうだ。
そんなことを聞いていると、ほとんどの受験者が箱から紙を引いたようなので、白も紙を引いた。
(残り物には福があるっていうけど、この数字って一番最後の方なんじゃ?先に引いておけばよかったかな?)
受験者は、ぱっと見た感じ50名程度。そして白が引いた数字は45番だった。
数字の若い順番の者たちが人形の前にそれぞれ並び、他の者たちは教室の端にある椅子にて待つこととなった。
どうやらこの人形は、かなりの量のチャクラを供給しないと目が覚めない仕組みのようで、早い者で20分、遅い者だと制限時間を過ぎてしまうと言うものだった。しかも、人形ごとに指定された場所が異なっており、そこへ正確に掌仙術を使用しなければ目が覚めないと言うものだ。マーキングしてあるので優しくはあるが、今のところ半数近くの受験者が時間オーバーしていることを考えると、意外と難しいのだろう。
そうして数時間待たされた挙句、難しいと思っていた実技試験は、あっさりと終わってしまった。今までの待ち時間は一体なんだったのかと思われるほどだ。10分程度で試験を終えてしまったことを考えると、他の受験者の技量が不足しているのか、この試験が難しいのか微妙なところである。
隣の部屋へと入ると、人形の試験を通過した受験者たちが椅子に座って待っていた。どうやら、早くても遅くても待つことに変わりはなかったようだ。
次の試験は粉末の効果を調べるというものだった。一人ずつ先ほどの番号に合わせた粉末を渡される。
「ここにある器具を使って、今渡した物の名称と効果を試験官に伝えろ。それで試験は終わりだ。終わった者から帰っていい。それでは始めろ」
やっとそれらしくなってきたと思っていたが、開けた瞬間に裏切られたと思った。渡された袋を広げると、そこにあったのは、病院などから依頼があってたまに作っている薬草の粉末だったのである。開けた瞬間に漂ってきた匂いから、まさかと思ったらこれであった。
一応試しに少しだけ確認してみたが、間違いようが無く薬草の粉末である。溜息を漏らしながら試験官に名称と効果を伝えると、「運が良かったな」と言われてしまった。運も実力の内と言うならまだしも、それでいいのかと思ってしまう。
実際には、渡された物ごとに制限時間が設けられていて、それを基に採点されるのだが、それを白が知る由もない。
アカデミーを出てアパートへと帰宅しようとしたところで、ヤマトが待ち構えていた。
「待ってたよ」
「どうかしたんですか?」
「中忍合格おめでとう」
「まだ結果は出てないですよ」
気の早いヤマトに苦笑いをしながら答える。内容からして落ちることは無いだろうと、白自身も思っていたからだ。
「筆記試験の採点は既に終えているし、実技内容を聞いた限りでは、君が落ちるとは思えなかったんでね」
「かなり拍子抜けな内容でした。もっとレベルが高いものかと思って、カンニングの準備までしていたのに」
「使わなくて良かったね。カンニング行為は一発不合格だ」
「それはバレたらの話ですよ。そんなお粗末なことはしません」
「……君はやはり医療忍者には向いてないと思うよ」
何やらヤマトは溜息を吐いて白に言ってくる。
「ところで、合格祝いのために来てくれたんですか?」
「本題は別にあってね。明日から火の国の大名様の警護に入ってもらうよ。期間は中忍試験の予選が終わるまでだ」
「人使いが荒いですね」
暗部の活動をしてからと言うもの、白に休む時間はほとんどなくなっていた。
一部は白個人の趣味も混ざっているので、完全にないとは言えないが、それでも溜め息をつかずにはいられなかった。
「と言うわけで、今夜中に移動するから準備しておいて。夜7時に迎えに行くよ」
「分かりました。ただ、明日に合否判定が貼り出されるらしいんですが、結果はすぐに分かりますかね?」
「それは戻ってからでもいいだろう?結果が変わる訳でもないのだから」
「まあ、そうなんですけどね」
「では後で」
そう言い終えると、ヤマトだったものは木分身だったようで、道の端の方へと移動すると、最初からそこにあったかのように、自然な状態で木に変わってしまった。
白は、任務の準備をするべく、その場を後にしてアパートへと戻るのだった。