白物語 作:ネコ
火影邸を訪れた翌日。ナルトに変化の術を教える見返りとして、前払いで貰った本を片手に、白は朝食を摂っていた。
今回頼まれた内容は、無視していても勝手に達成されるものであったが、こうして欲しいものを貰った以上無視するわけにもいかない。
ただ、教えるのはいいのだが、現状ではナルトとそれほど親しい仲ではないのが問題だった。と言うよりも、男子生徒との繋がりが薄いのである。
いきなり、いつも話しかけないようなクラスメイトが、術を教えると言っても、ナルトの性格上教わったりはしないだろう。逆に意固地になって拒否してくる可能性の方が高い。
最近は、シカマルたちと一緒に怒られているので、むしろそちらの方に依頼したほうがよいとは思うが、素直に教えるような者がいない。
シカマルに頼んだところで、面倒くさがり。チョウジに頼んだところで、おやつを要求されたうえに、教えられるか不安がある。キバに至っては、笑うだけ笑って終わりそうだ。
結果的に、自分しかいないと考え直し、どうやって教えようかと思案していて思い付いた。
その思い付いたことを実行に移す。
その週の休みの日。一楽の店員として、働いているところに、昼間からナルトがやって来た。
「いらっしゃい」
「みそラーメン!」
「はいよ。みそいっちょう~」
ナルトが、みそラーメンを旨そうに食べているところへ話し掛けた。
通常のお客さんであれば、おやじに怒られるところだが、ナルトに関しては、食べている最中に話し掛けても怒られない。火影から言われているので、逆に話しかけろと推奨するくらいだ。
「午後から暇かい?」
「暇と言えば暇かな~」
「ちょっと教えて欲しいことがあるんだよ」
「なになに?」
「それは後で言うから今は食べてしまってよ。〈教えてくれたら、次回無料券付けちゃうからさ〉」
「任せとけってばよ!」
午後からは、店を途中で抜けるかもしれないと、事前に言っていた。なぜ抜けるのかまで言っていなかったが、ナルトとの会話後に、店のおやじに目線をやると、頷いてくれた。
何も言わずに、アイコンタクトで通じる辺り、長く付き合ってきただけはある。まあ、途中で抜けても、常時バイトのアヤメさんがいるというのが、抜けやすい理由でもある。
今回、教えて欲しいという言い方をしたのは、ナルトが内容をどれほど理解しているか確認するためであったりする。もし、理解していなければ、教えられる振りをしながら、わざとらしく教えればいいと考えていた。
ラーメンを食べ終えた後、ナルトと共に歩きながら、変化の術について教えて欲しいと言うと、ナルトがよく隠れて特訓する場所に連れてきてくれた。
「早速頼むよ」
「えっと。集中して印をこんな感じで組んで……」
ナルトにとっては真剣に教えているつもりなのだろう。しかし、ナルトのあまりの説明の仕方に、白は脱力してしまった。説明したところはいいのだが、それ以外で抜けている場所が多く、チャクラ自体についても、理解しているとは言い難い。
(時間が掛かりそうだなあ)
心のなかでぼやきながら、ナルトに言われた通りにやっても、出来ないことを分かっていながら、実際にやってみせる。
「出来ないね」
「なんでだってばよ?」
「集中って言っても、実際にはどうやっているのかな?」
「ん~。おれってば、こうやって葉っぱを額に乗せて集中してんだけど」
この日は結局、ナルトにやり方を少しずつ矯正させるだけに終わってしまった。出来るまで付き合うという約束のもと、次の週には基本的なことを覚えさせるところまできた。そして、更に次の週には、変化する相手をイメージするところまできているのだが、どうしても額の葉っぱの方へと集中してしまうようで、イメージの方に集中出来ていない。
そこで、ナルトのイタズラ心を利用することにした。
「この変化の術って、誰かに化けてイタズラしたらどうなるんだろうね? たとえば火影様とか」
その言葉にナルトは少しの間、固まってしまっていた。ナルトは最初の頃の失敗で、イタズラに忍術を使用するということを止めてしまっていたせいで、そのことを思いつきもしなかったのだろう。それを白の言葉によって、イタズラ心に火が付けられたようで、目が見る見るうちにやる気を漲らせていた。今なら残りはイメージだけである。
「ちょっとさ! ちょっとさ! やってみるから見ててくれよな!」
「ああ。もちろんだとも!」
そこからは、火影に似せるべく何度も変化の術を繰り返した。その結果、どこから見ても火影そっくりになることに成功したのである。
「もうどこから見ても立派な火影だ」
「へへ。おれってば今日から火影かあ」
「俺から言うことはもうないな」
「そういや、兄ちゃんはよかったのか?」
「ああ。もういいんだ。俺は一楽で頑張っていくよ」
「そうだよな。兄ちゃんにはラーメン屋が似合ってるってばよ」
ナルトからの励ましを受けて、変化の術についての特訓は本日で終わりとなった。
しかし、それから数日もしないうちに、火影からの呼び出しを受けることになる。
今回は火影の家ではなく、執務室の方への呼び出しであった。
「なぜ呼んだか分かっておるな?」
「いえ。分かりませんが」
「……ナルトに術を教えるよう頼んだのはワシじゃから、その点については礼を言おう」
「前払いで報酬を受け取っているのですから、当然のことをしたまでです」
「問題は、その変化の術でワシに変化しとることなんじゃ」
「やはり、身近な人には変化しやすいのでしょう」
敢えて火影になるようにナルトに言ったことは言わず、変化する対象を選んだ理由を告げる。
「ワシの姿でイタズラし始めてしもうての。ほとほと困っておるんじゃよ」
「そこまで責任は持てません。ここはナルト本人とじっくり話し合ってはどうですか?」
「話はしたんじゃが、なかなか止めんのじゃよ」
この後も、話を聞く限りでは、ナルトが忍術を使えることに対して嬉しそうに話をするのだが、イタズラにその忍術を使うので困っているという話が延々と繰り返して続いていた。
「それで結局呼ばれた理由はなんでしょう?愚痴を聞くだけであれば帰りたいのですが」
「単独任務をしてもらおうと思っての」
「まだ正式な暗部でもないのにですか?」
「このままでは、火影としての影響も少なからずあるからの。それにお主は今回の原因の一端でもあるんじゃ。速やかに解決出来るよう頼んだぞ」
「暗部の初任務がコレって、なんか情けないというかなんというか。面つけないと駄目ですか?」
「いや。取り敢えず解決してくれればいいだけじゃ。解決出来たら、お主の暗部としての任務達成記録に付けておくから、安心していいぞ」
「それはやめてください。恥にしかなりませんよ。お互いにとって……」
「それもそうじゃの……。では件数だけ計上しておくかの」
「そうしてください」
今回は、頼みではなく、暗部としての命令であるため、すぐにナルトを発見するべく移動を開始した。ナルトの監視をするために、ナルトのゴーグルの片方に秘術を使っている。そのため、ナルトがゴーグルを着用していれば、大体どこに居るのかが分かる。
ナルトがゴーグルを通常の目的で使用してしまうと、片方が見えないので不審がられてしまうが、ゴーグルを額当ての代わりに用いているだけなので、その心配もない。
掛けている眼鏡を使い、ナルトのゴーグルの視界を映す。
(全く。休みの日までイタズラに精を出すなっての。せっかくの医療忍術の時間が……。って今日は商店街か)
商店街にてナルトの居る場所まで行ってみると、ナルトは火影の姿を保ったまま、ペンキと思わしき物が入ったバケツを片手に商店街の壁にイタズラ書きをしていた。曲がりなりにも忍者アカデミーに通っているだけあって、一般人がナルトを捕まえられるはずもなく、そんなナルトを一生懸命追い掛け回していた。
追い掛け回している人たちは、中身がナルトであることを知っているのだろう。口々に「またやりやがった!」だのと言っているし、落書きの内容にも、『うずまきナルト』と堂々と書いているのだから。
丁度いいことに、ナルトはこちらへと向かってきていた。ナルトは余裕のつもりなのか、後ろを向きながら、追ってくる人たちを見て、何が嬉しいのか笑っている。
白は、商店街の路地の方へと入り、変化の術を使用した。そうして油断をしているナルトの前に立ち塞がり、一瞬でバケツを奪い取り、首筋に手刀を入れることでナルトの意識を刈り取る。それにより、変化の術が途切れて元のナルトの姿に戻った。
「おお。すまない。捕まえてくれてありがとう」「今日こそ嫌と言うほど痛めつけてやる!」「あんまり関わらない方がいいんじゃないか?」「ずっとやられっぱなしだったんだぞ?」「でも、例の子だから近寄るのもねえ」
追いかけていた面々は、追いついたことでそれぞれ話し合っていたが、なかなか結論が出そうになかった。追いかけたはいいものの、実際には手を出しにくいのだろう。それ以前に、関わり合いになりたくないというのが大きいのだろうが。
「みなさん落ち着いてください。私が皆さんの建物の落書きを消します」
「そんなことは、そいつにやらせればいいんだ」
「そうだ!そうだ!」
「消せと言われて正直に消すと思いますか?むしろ被害が増える可能性もあると思うのですが?」
白の言葉に、みんなは「それもそうだな」と不満ではあるが納得はしたようだった。
「それと、落書きをされた建物の前に水を撒いてください」
ナルトを小脇に抱えて、落書きをされた建物に行く前に、みんなに言っておく。みんな不思議に思いつつも、指示に従ってくれたお蔭で、チャクラを無駄に使わずに忍術を使用することが出来た。
(水遁・水龍鞭)
水龍鞭を使用して落書きを消していく。既にコントロールはマスターしており、細かい作業も出来るようになっていた。それにより、書かれて間もないせいもあるが、瞬く間に落書きを消していく。消し終わってからは、感謝の言葉を投げかけられるが、誰も近付いてこようとはしなかった。恐らく小脇に抱えるナルトの存在のせいだろう。
「では消し終わったようなので失礼します」
瞬身の術にて移動し、ナルトがよく利用している秘密の特訓場へと向かった。
変化の術を再度使用して一楽の店員になっておく。そして、未だに寝ているナルトの顔を叩きナルトを起こした。
「おい。大丈夫か?」
「ん~。まだまだ~」
起きたはいいが、寝ぼけているようだ。そこへ顔に水を掛ける。
「なんだってばよ!」
「起きたか?」
「どうしてにいちゃんがいんだ?」
「たまたまさ」
ナルトは周囲を見回して、なぜこんなところに居るのか、分からないといった風に首を傾げている。気絶している間に連れてきたのだから分からなくて当然なのだが、ナルトは一生懸命思い出そうとしているようだった。
「火影様に化けてイタズラばかりしてるみたいだな」
「やっと火影になれたんだ! これでみんなを見返してやるってばよ!」
(火影のじいさんに化けれたからと言って、火影になったわけじゃないから……)
ナルトの目標が、火影になることと、里のみんなに認めてもらいたいという考えは分かるが、現状では逆効果でしかない。一応そのことを確認する。
「ナルトは火影になりたいんだよな?」
「もう火影だってばよ!」
「そんな見た目よぼよぼの火影でいいと思うのか?」
「っ!?」
ナルトの心情を余所に、更に言いくるめていく。
「ナルトが本当に火影を目指すなら、そんな爺さん火影の恰好をするより、その火影を軽く超えるくらいにならないと駄目なんじゃないか? そうすれば里のみんなも認めてくれると思うぞ」
「それだ! やってやるってばよ!」
「頑張って立派な火影になれよ。じゃあな(これで火影の爺さんに変化することはないだろ)」
その日から、偽火影被害は無くなった。そして数日間ではあるが、ナルトのイタズラもなりを潜めていたのだが、結局は机上の授業の時などに抜け出しイタズラをし始めた。この事ばかりは、白としてもどうしようもなかった。ただ、意識だけは変わったようで、手裏剣術などについては上達し始めている。
その事を報告書として書いてはいるので、火影もそれを見て喜んでいることだろう。