白物語 作:ネコ
立ち入り禁止区域から出て、自由行動になってからは、迅速に行動した。急いで暗部の面を取り、服を着替えて日向家へと向かう。
結果を知ったところで、それが覆ることは無いが、気になって仕方がないのだった。
宗家に直接行ったところで、また門前払いされては敵わないと、分家の方へ行ってネジに確認することにした。日数的には、既に情報が分家にいってもおかしくは無いだろう。そう思い、分家の方を伺いネジを呼び出してもらう。
「ネジに聞きたいことがあるんだけど」
「いきなりだな」
「たぶん聞いたら機嫌が悪くなるのを承知で単刀直入に聞くんだけど、宗家の2人の勝負どうなったか聞いてる?」
「そのことか……」
宗家という言葉にネジは顔をしかめるが、少し考えてから白の質問に答えた。
「ヒナタ様が勝ったとは聞いているが、その内容までは知らない」
「その後の事までは知らないよね?」
「知らないな」
「だよね」
「なぜそんな事を気にするんだ?」
「ちょっと手伝ったからね」
「手伝う?」
「点穴をちょっとね」
「何?」
「いや、なんでもないよ。教えてくれてありがとう。久しぶりの休みだから帰って寝るよ。また!」
「おい。話はまだ―――」
ネジはまだ何か言いたさげにしていたが、白としてもここ数日、中忍試験の関係で、寝ずの番が続いており、寝るためにアパートへとそのまま帰った。
(これで安心して眠れる)
心配事が無くなったことで、残りの2日間(正確には1日と少しだが……)を休養に充てることにした。
秋休みも終わり、アカデミーへの登校日。白は少し早めにアカデミーへと向かった。登校してきたヒナタへ、一応の結果確認と、おめでとうの言葉を送るためである。
登校してきたヒナタはいつもと変わりなく、普段通りの挨拶をしてきた。それに加えて、試合に勝てたことを喜び、お礼を言ってきたのはいい。しかし、後継者争いの勝負に勝ったので、その後にヒアシから今後の事についての説明があったはずなのに、いつもと変化がないことを不思議に思い聞いてみることにした。
「ねえヒナタ」
「どうかした?」
「ヒアシ様から今後どうするとかの話って何かあった?」
「しばらく様子を見るって言われただけだよ」
「え?」
てっきり、今回の勝敗によって、宗家の後継者を決めると思っていた白にとっては想定外なことだった。恐らくは、ヒアシにとっても、ヒナタが勝つとは思ってもいなかったのだろう。見切りをつけるための試合で、ヒナタが勝ってしまったので、見切りの期間を先送りにしたようだ。ヒアシは、ヒナタとハナビの才能の差と実力を、この時点で見極めていたに違いない。それが、予想しないことにヒナタが勝ったので、今回のようなことになったのだろう。
「えっと。しばらく様子を見るって言われたの」
「と言うことは、また今回みたいな試合が組まれるってことだね」
「そうなのかな?」
「すぐには試合をしないとは思うけど、気を付けておいて。それと試合前に日にちが分かったら教えて」
「うん。分かったら教えるね」
取り敢えずの危機を脱したが、油断はできない状況であることには違いない。確か、中忍試験終了後には、ヒアシとネジとの仲も改善していたはずなので、もし負けて落ち込む期間があったとしても、その期間は短い方がいいだろう。
白は自分を無理やり納得させて、ヒナタと雑談しつつ授業が始まるのを待っていた。
日にちと言うのはあっという間に過ぎるもので、今は4年の最終試験を迎えていた。最終試験の内容は分身の術で、授業で何度も行っており、失敗する生徒はいない。
ナルトに関しても、分身体がいきなり倒れた状態と言うままなのだが、分身の術には違いない。評価としては最低だろうが、それは仕方がないだろう。後、昨年と違うのは、試験官にミズキという先生が加わったことくらいだ。
爽やかな外見なため、密かに女子生徒に人気がある先生だ。性格も至って優しく、親身になって対応してくれるから余計にそう思わせるのだろう。ナルトに対しても見た目の対応は、他の生徒と変わることは無く接している。これが、本性で無いと分かっていなければ、今後の事を予見できる者など誰も居ない。しかし、そのお蔭でナルトが多重影分身を覚えるので、ミズキに関しては放っておくことにしている。
忍者アカデミーも5年ともなると、本格的な演習が開始され始めた。
始めは、スリーマンセルで班を組み、リーダーを決めて生徒同士で巻物の奪い合いを行うというものだった。みんな腕に巻物を取り付けられ、それが奪われた者は死亡扱いとし、リーダーが巻物を奪われた場合は、その班自体が負けいうものだ。
「ヒナタ。リーダー頑張って!」
「ヒナタより白の方がいいんじゃない?」
「私もそう思う」
「じゃんけんで決まったんだから文句を言わない」
「まあ、ヒナタも結構強いから、私がリーダーじゃなければどっちでもいいけどね。これで成績上がるのは間違いないんだし」
スリーマンセルの班として、女子生徒を1人誘い今回の演習に挑んでいた。男子生徒を入れてしまうと、ヒナタが恐縮してしまうからである。結果的にサスケのいる班には負けたものの、他の班には勝った。と言うよりも、サスケ1人でリーダーを悉く狙って倒してしまっているので、他のメンバーとの協調性など無いに等しい。しかも、サスケがリーダーなのでみんなどうしようもないようだった。白としても、わざわざ争いの火種を作りたくは無いので、巻物取り合い合戦にはそれほど真剣に取り組んではいない。
他にも、フォーマンセルで班を組み、拠点を決めて、そこに巻物をおいて奪い合いをしたりと、授業内容としては、生徒同士の直接的な戦闘は少なくなるように配慮してあるようだった。
くノ一の授業の場合の一例を挙げるとすれば、スパイを割り出すというもので、先生からそれぞれ違う内容が書かれた紙を渡された。生徒は、その情報を収集し、かつ分析しなければならない。そこまではいいのだが、白がスパイに選らばれる確率が異常に高かった。後になればなるほど、スパイでもないのに、スパイとして見られてしまったくらいだ。
アカデミーに関しては、演習がより実践的になってきたということくらいだろう。白としては、それよりも、アカデミー以外での訓練などの方が重要だった。
ヤマトには未だに勝てないが、実力が上がっていっていることは実感できている。水が周囲にあれば、木分身相手に負けはほぼない。
最近では、本体であるヤマト相手に模擬戦をしているのだが、ヤマトが相手だと、水遁系主体で戦っているせいか、土遁により簡単に防がれ、更にその防いだ土遁の壁で周囲を囲み、接近戦にて追い討ちを仕掛けてくるのでたまったものではなかった。氷遁系を見られないようにしているだけに、毎回、最終的には同じようなパターンで負けることが多い。
「中距離や遠距離の戦闘はいいとしても、接近戦がまだまだだね」
「相手が強いと分かってるのに、接近戦に挑むなんてありえなくないですか?」
「時と場合による。……時間稼ぎやチャクラの温存、相手の実力を確かめるため。理由を挙げたらいっぱいあるけど、接近戦の技術があって困ることは無いよ」
「それはそうなんですけどね」
「今後は接近戦の訓練に切り替えていこう」
「分かりました」
この日から接近戦主体の訓練になるのだが、環境の変化はそれだけではなかった。医療方面に関しても変わったのである。
今までは、分からないところを聞くといったやり方で進めていたのだが、何を思ったのか、医療担当の忍者が、結構な頻度で、実技を含めて教えてくれるようになったのである。
最初は道具を使用してのチャクラメスも、道具を使わずに出来るようになり、それが出来るようになれば、薬の調合までさせてくれるようになってきた。調合と言っても手伝いではあるのだが、どのような効果があるのか、材料は何かなどを教えてくれるので、机上では分かりにくかった部分も補完出来て、とても充実した内容だった。
最近では、手術にまで同席させてもらっているので、医療技術の向上としてはかなりのものになってきている。
(ヤマトさん辺りが報告受けているみたいだし、医療関係も力を入れてくれるように言ってくれたのかな? こっそり気遣ってくれる辺りさすがヤマトさん。それともまさかの火影? いや……。ないな……)
白は、ヤマトへ心の中で感謝しつつ医療技術の向上にも努めていた。
そんなある日、訓練後にヤマトから火影の言伝を聞かされた。聞いてみると内容としては、ナルトの監視に対する報告書の中身の詳細を聞きたいというものだった。しかも、火影の執務室ではなく、訓練後に家に来てほしいというものだ。
詳細と言われても、日々の内容を綴っただけのものなので、詳細も何もあったものではない。そのため、呼び出す理由がよくわからなかった。ヤマトへその場で確認しても「僕も聞かされていない」と言っており、伝え終わったらすぐに帰ってしまった。
モヤモヤとした気分のまま火影の家を訪問すると、小さな子供が玄関を開けて出てきた。
「お前誰なんだなコレ?」
「白と言います。火影様に呼ばれてきたのですが、居られますか?」
「怪しいやつに教えることはないんだなコレ!!」
火影に呼ばれて家に来たはずなのに、この対応はどうなのだろうかと思わずにはいられなかった。このまま帰ろうかと真剣に考え始めたところで、奥から火影が現れた。
「これこれ木の葉丸。わしが呼んだんじゃ。怪しくは無いぞ。夜分にすまんなこっちじゃ」
「失礼します」
火影の家に上がったのはいいが、明らかに木の葉丸は白を警戒しており、後をつけてきていた。隠れもせずについてくるあたり、堂々としすぎて何も言う気が無くなってしまう。流石に部屋の中にまでは入ってこなかったが、扉の外で聞き耳を立てているのは分かる。
それに呆れていると、誰かに連れられてどこかへ行ったのが分かった。何やら叫んでいたので丸分かりである。それに対して火影は溜息をついたが、早く本題に入ってほしかったので、白の方から切り出した。
「報告書の詳細を知りたいとのことですが、その内容以上のものは特にありませんよ」
「報告書については問題ないんじゃ」
「それでは用件は何ですか?」
「ナルトのやつに、それとなく術の稽古をつけてやってくれんか?」
火影の全く予想だにしていなかった内容に、少し絶句してしまう。
「……それは命令ですか?」
「いや。お願いじゃよ」
「それなら断ります。それにそういうことはイルカ先生の役割でしょう? 筋違いもいいとこですよ。頼むのであればそちらへしてください」
「イルカには頼んでおるんじゃが、ナルトのやつはどうもイタズラの方に興味がいってしもうての。上からだけではなく、同じ年の方からもと思ったんじゃよ」
「それこそ、本人の意識が変わらない限り、同じ年の者が言ったところで変わらないですよ」
「駄目もとでいいんじゃ。頼む」
火影は頭を下げてまで白へと頼み込んできた。ナルトの事をかなり心配しているのだろう。
「条件を付けさせてもらっていいですか?」
「……内容によるの」
「1つ目は、教える術は変化の術だけと言うことです。これだけは他に比べてまだ素質がありそうなので(教えなくても勝手に出来るようにはなるだろうけど)」
「それで構わん。あと、1つ目と言うことは他にもあるんじゃろ?」
「2つ目に期限ですが、卒業までということにしてもらいたいですね。出来るようになるならない問わずに」
「期限を付けるのは当然じゃの。まあ、そこからは上忍をつけることになっとるから、その者に任せることになるし、問題ないの」
「では最後に、結界忍術と口寄せに関する書物があれば欲しいです」
「なぜその書物が欲しいのか聞いても構わんか?」
「結界忍術は身を守るため、口寄せはそのままの意味ですよ」
「結界忍術については、お主が前から言っておったから別として、何か口寄せしたい動物でもおるのか?」
「ええ。やはり、1人では出来ることに限りがありますからね」
「ふむ。……書物の内容について制限を付けて良いのであればよかろう」
火影は少し悩みながらも、白の要求を呑んだ。過去に大蛇丸のような者が居ただけに、少し考えさせられただろう。
「全く役に立たないとかいうのは無しですよ?」
「上忍レベルの物であれば文句は無かろう?」
「それでしたらいいんですが、いついただけますか?」
「いまから取ってくる。少し待っておれ」
「もしかして準備してたんですか?」
「そんな訳なかろう」
そう言うと火影は部屋を出て行ってしまった。そうして待っていると、2つの書物と1つの巻物を持って火影が帰ってきた。それらを机の上に置くと、腰を叩いて椅子に腰かける。
「少々古いが、内容の方は保証するぞ」
「書物は分かるんですが、こちらの巻物はなんですか?」
「巻物が無くば口寄せ契約も出来まい。それはそうと、ナルトのこと頼んだぞ」
「ここまで条件を呑んでいただいたんですから、任せてもらっていいですよ」
本当は、もっと欲しいものがあったのだが、余計な疑惑を抱かれては困るので、内容を絞って怪しまれないようにしていた。