白物語   作:ネコ

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44 点穴?

 季節は夏から秋に変わり、もうすぐアカデミーは秋休みに入る。白にとっての辛い時期が過ぎ去ったところだ。そんな折に、珍しくヒナタから相談を受けた。

 

「白ちょっといい?」

「何?」

「今度の秋休みなんだけど」

「うん?」

「妹のハナビちゃんと試合をすることになったの」

「試合って言うと組手だよね?」

「そうなんだけど、その試合で今後の事を決めるから、お互い全力で行うようにって……。全力って言われても、今までもそうしてたんだけど……。どうすればいいのかな?」

 

 ヒナタはヒアシの言葉に困惑しているようだが、今後の事という言葉で白には理解できてしまっていた。

 

(まさかこの時期とは思ってなかった。そう言えばそんなイベントがあったけど、まだ先だと思ってたな……)

 

 今更慌てても、出来ることが少ないことを理解してしまう。秋休みに入るまで日数もなく、今から鍛えたところで付け焼刃にしかならない。今出来ることを頭に思い浮かべて、直ぐに実行へと移すべく、試合を行う日を確認する。

 

「それはいつやるの?」

「えっと秋休みに入って直ぐだけど……?」

「もう日が無い!?」

「えっと。どうしたの?そんなに慌てて」

「逆に聞きたいよ。なんでヒナタはそんなに落ち着いてるの?」

「今後の鍛錬が変わるだけじゃないの? 最近はハナビちゃんとの組手で、引き分けが多くなってきたから」

 

 ヒナタは、ヒアシの意図を違う風に捉えていることが分かり、白としては顔を引き攣らせてしまっていた。

 

「昼休みに屋上いくよ!」

「えっ?」

 

(ヒナタが全力を出して互角ということは、相手が全力を出した場合、負ける可能性が……)

 

 アカデミーに入ってからというもの、ヒナタの実力がどれほど上がっているかが、ほとんど分からないのと、ハナビの実力が完全に未知数なため、ヒナタの実力を調べたうえで作戦を練ることにした。

 

 昼休みに屋上へとヒナタを連れて行く。屋上には誰も居なかったが、後続が来ては面倒であるため階段の扉を閉鎖しておく。無理やり開けようと思えば開けれるが、無理に通ってくるような生徒は居ないだろう。屋上に用があると言うのは早々あるものではない。

 

 一応、目立ちにくい場所を選び、ヒナタと一定距離をとる。

 

「今の実力を見せてもらうよ。先に攻撃してきて。もちろん柔拳と白眼を使用して」

「え?でもそれだと、もしも当たった時危ないよ」

「対策は出来てるから遠慮はいらない」

「……そこまで言うなら行くからね」

 

 ヒナタの攻撃は以前よりも速度は上がってはいたが、身体の成長分であると考えると、成長しているとは言い難い。しかも、攻撃に関しては、素直なせいか単調であるため分かりやすかった。

 

(これは柔拳対策を使うまでもないか……)

 

 医療忍術を学んでいる時に、色々と工夫を凝らした結果、あることが出来るようになったのだが、ヒナタとの実力差があまりにも開いているので、使う必要性がなかった。

 

「ここまででいいよ」

「やっぱり白は強いね」

「次は防御の方を見るよ。今回は昔とは違って、寸止めと言うより軽く当てるからね」

「うん」

 

 再度ヒナタから一定距離を置いて、一気に距離を詰める。始めは様子見でゆっくりと攻撃していき、対応できているのを確認しながら徐々に速度を上げていく。

 

 ヒナタは防御の方を、あれからも重点的に鍛えていたのか、攻撃の方はさっぱりだったが、防御の方はかなり成長していた。

 

「大体わかったよ」

 

 唐突に切り上げて、終わりであることを示す。ヒナタは安心した表情をしたが、次の瞬間には落ち込んでいた。

 

「白に追いつくどころか、どんどん離されている気がする」

「言ったはずだよ。簡単には追いつかせないって。それはそうと、ヒナタが現時点でハナビちゃんに勝ってると自信を持って言えるのは何?」

「えーっと。体力かな?」

「ちょっと待ってね。最初に引き分けが多くなったって言うけど、まだハナビちゃんには負けてないってことでいい?」

「うん。お姉ちゃんとして負けるわけにはいかないよ」

「その考えは、試合の時は捨てて挑んで。妹してではなく敵として考えること。それがヒアシ様の言っていた全力ってことだよ」

「そうなんだ……」

 

 これまで、ヒアシの元で一緒に鍛錬していたことと、ハナビが妹であることから、怪我をさせないようになどと考えていたのだろう。そのため、攻撃面に関しては伸びが無いに等しかったが、防御面では十分に成長していた。

 

(防御はいいけど、攻撃が駄目ってことは、どうしても持久戦に頼らざるを得ないけど、それでヒアシさんが納得するとは思えないな……)

 

「ヒナタは人の身体に点穴って言うのがあるのは知ってるよね?」

「あるのは知ってるけど、私の白眼では見えないよ?」

「でも、白眼を使えば、線は見えてるんだよね?」

「それは見えるけど」

「試合まで時間がないから、今から点穴を見えるようにするよ」

「それは……難しいよ。それに正確に突かないといけないんだよね? 相手は動くから、そんなに簡単にはいかないと思う」

「誰も相手に使うとは言ってないから」

「え?」

 

 点穴は、ネジならば習得することは出来るかもしれないが、ヒナタには難しいだろう。それに、誰も試合相手に使用するなど一言も言ってはいない。ヒナタは勘違いしているようだったが……。

 

「取り敢えず始めよう。まずは、利き足を足首から膝あたりまで出して、白眼で線を見たらこの筆で辿って見せて」

 

 白は筆を取り出し、ヒナタに手渡した。ヒナタは言われた通り、線をなぞるようにして筆をはしらせていく。線を描いた後に、白は左手に千本を持ち、右手に意識を集中させてチャクラを練り上げていった。手にチャクラが十分に集まり終えたところで、そのチャクラを針のように指先へと更に集中させる。

 

「ヒナタ。今から線沿いにチャクラを流し込むから、チャクラに動きがあったら教えて」

 

 困惑しているヒナタを余所に、意識を集中したまま、ヒナタの脚の線沿いにチャクラを流し込み、刺激を与えていく。

 

「あっ。チャクラが増えたよ」

 

 その言葉に左手に持っていた千本にて、ヒナタから指摘のあった場所に小さな傷をつける。それを両脚へと順に施していった。

 

「これは何?」

「ここがヒナタの脚の点穴の場所だよ」

「でも点穴を突いたら流れが止まってしまうって聞いたけど……」

「それは攻撃を目的とした時の話。逆に増幅することも可能なんだよ。これでも一応医療忍術を勉強してるからね」

「それは分ったけど、自分の点穴が分かっても試合では使えないよ?」

「試合のある当日に、ここを僕が突かせてもらうよ」

「それって……いいのかな?」

「ヒアシ様には全力を出すようにって言われてるんだよね?これはあくまでヒナタ自身の力を増幅するものだから問題ないよ(一種のドーピングだけどね!)」

 

 ヒナタはあまり納得していなかったようだが、この試合に勝たないと、この後が大変なことになるのが分かっているだけに、妥協は許されない。

 

「それじゃ、増幅したチャクラの扱いに慣れてもらうためにも、明日からはここで組手をするよ。もう昼休みも終わるから戻ろう」

 

 本来ならば、利き足だけではなく、他の部位についても増幅したいところではあるが、試合までの日が無い。それならばと思いついたのが、この点穴を利用したチャクラの増幅であった。白眼を持っていない白だけでは不可能なことだが、ヒナタ自身が白眼を持っているので、後は点穴を探しだし、医療の知識を生かしてチャクラの流れをコントロールするだけである。

 

 本来はチャクラメスを、道具を使わずに使用できるように訓練していたのだが、今は指先から針程度のチャクラを出すのが精一杯だった。今回はそれを応用出来たので、結果的には良かったと言える。

 

 効果はそれほど長い時間続かなかったようで、1時間程で通常の状態に戻ってしまったようだ。

 

 

 

 それから3日間と、短い期間あっと言う間に過ぎてしまった。

 

 ヒナタは、チャクラの増幅分にもなんとか慣れたようで、劇的とまではいかないが、移動速度は以前よりも十分に上がっている。技量に関してはこのまま行くしかないのが心残りだが、今更変えることは出来ない。

 

「最初はいつも通り防御をして、ヒナタが攻撃するまで、今の速度を相手に知られてはいけないよ。もし攻撃に失敗した場合は、持久戦に持ち込むしかないことを覚えておいて。後は中途半端に攻撃しないこと!いいね?」

 

 作戦を伝え終わり、秋休み当日を迎えた。日向家に向かうと、門前にてヒナタが既に待っていた。

 

「おはよう」

「おはよう。準備はいい?」

「うん」

 

 日向家の前とはいえ、脚を出すのが恥ずかしいのか、ヒナタは顔を真っ赤にしていたが、そんなことはお構いなしとばかりに、白は手へと意識を集中させていく。

 

 点穴への処置を終えて、ヒナタに異常がないことを再度確認してから、再度作戦を念押しして送り出す。

 

「ここから先はヒナタ次第だよ」

「頑張って来るね」

「頑張るんじゃなく勝ってね。後悔したくなければ」

「うん」

 

 ヒナタが行ったのを見送ってから、自分の訓練へと向かう。秋休みと言うことで、朝からヤマトと訓練をすることになっていたのだが、この日ばかりは時間をずらしてもらっていた。その為、その日の訓練内容がいつもよりも厳しくなった。

 

 その日の訓練は夕暮れ時に終わり、疲れた身体に鞭打って日向家へと向かった。

 

 宗家への直接訪問は気が引けたが、結果が気になるので、ヒナタを訪ねることにした。しかし、対応として出てきたのは日向コウであった。

 

「ヒナタは居ますか?」

「今は誰とも合わせられん」

「ではいつであれば会えますか?」

「そんなことをいう必要はない。特に用事が無いようであれば早く帰れ」

「……分かりました」

 

 その後も分家の方にて、ネジにそれとなく聞いてみたが、まだ情報が来ていないようで知らなかった。

 

 仕方なくその日は家に帰ることになったのだが、この秋休みと言うのが、中忍試験のためであることを思い知ったのは次の日である。

 

「早速だけど、今日からの訓練は無しになった」

「何故ですか?」

「中忍試験があるのは知ってるよね?」

「それはもちろんです」

「その設営を僕たちも手伝うことになったんだよ」

「設営って、もう今日を合わせて3日くらいしかないですけど、何するんですか?」

「2次試験で立ち入り禁止区域を使用するんだけど、事前にトラップが仕掛けられてないかを確認する作業があるんだ。そこで、人手が欲しいという話が上がってね。一気に終わらせたいみたいだ」

「あそこ広いですもんね」

「そういうことだから今から行くよ。それと、一応この面を付けてもらう」

「わかりました」

 

 渡された暗部の面を被り立入禁止区域へと向かった。どうやら最終の班だったようで、通るゲートは既に決まっていた。その後は、言い渡されたゲートを通り、罠が仕掛けられていないことを確認しながら、中央の塔へと向かう。途中で危険な動物もいると聞かされていたが、それは下忍にとってであり、今の白には全く問題にはならなかった。逆に食料として捕獲しようとして止められたくらいである。

 

「トラップがあるかを探すのって結構大変ですね。全く見つかりません」

「一応見逃しが無いように、何班かに分かれて同じ場所を通ってるからね」

「これって徒労に終わる可能性大ですよね」

「まあ否定はしないよ」

 

 結局は、白の言葉通りに徒労と終わることになり、何事も無く中央の塔へと到着した。中央の塔へと入ると、他の上忍や暗部の面々が揃っていた。

 

「お前たちで最後だな。では報告をする。解散だ」

 

 やはりと言うべきか、白たちが最後だった。まとめ役と思わしき上忍が言った言葉で、その場に留まっていた者たちは、すぐさまその場を離れていく。しかし、そのすぐ後に暗部の人から声を掛けられた。

 

「テンゾウとヒミトはここで待機だ」

「分かりました」

「えっ?」

「どうかしたか?」

「いえいえ、何でもないです<ごめん。言い忘れてたけど、君はここで二次試験が終わるまで待機だから>」

「<聞いてないですよ! しかもテンゾウって誰ですか!?>」

 

 まさかの居残り発言に、待機指示を出した暗部が居なくなったのを確認してから、ヤマトへと詰め寄る。

 

「納得する説明を要求します」

「まあ話は簡単で、君の実力は中忍以上、上忍未満なわけなんだよね。だから下忍たちの試験の邪魔にならないように、ここを使用する期間はこの中央の塔で待機ってこと。他にも、中忍の人も待機だから、僕たちだけではないよ。ちなみにテンゾウっていうのは僕の事だね」

「そうですか……。名前の件はいいとして、つまり、実力的に不安なため外に出すわけにはいかないと?」

「そういうことだね。訓練はこの建物内でも出来るから安心していいよ」

「いえそっちのことではなく……。いえ、取り敢えず、待機命令が出た以上どうしようもないですからもういいです」

 

 結果的に、中忍試験の後始末を含めて、立ち入り禁止区域から出ることが出来たのは、秋休みが残り2日程になってからだった。

 


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