白物語   作:ネコ

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43 観光?

 1日目は昼過ぎに木の葉の里を出発したせいもあり、木の葉の里から近くにある歓楽街で宿をとることになった。

 

「今日はここまでにしておこう」

「こんなにゆっくりでいいんですか?」

「最初に言った通り、君のための任務でもあるんだ。一通り街を見て回ってくるといい」

「ああ。それも含んでるんですね。了解です。適当に回ってきます」

「訓練の代わりであることを覚えておいてくれ」

「着替えた方が良いですかね?」

「そうだね。夜間に動くのであればその方が良いだろう。ただし、隠遁の術にて移動すること。大丈夫だとは思うけど、余計なトラブルは起こさないでくれよ」

「分かってますよ」

 

 宿にて食事を摂り、着替えてから歓楽街を回っていく。歓楽街と言うだけあって、色々な遊び場や酒場、果てや賭博場まで揃っていた。

 

 歓楽街は、木の葉の里に比べれば、規模として小さいが、その分密集していて迷路のように入り組んだ形になっている。そんな中を屋根伝いに一通り見て回った後に、今度は店の中へと変化の術を使用して入っていく。

 

 ゲームセンターやスロット店、賭博場などを冷やかし交じりで見学していく。

 

 ゲームセンターと言っても、前世のように豊富な種類がある訳でもなかった。スロット店では、落ちていたメダルを拾ってやってみたが、当たるはずもなく、早々に切り上げたのは言うまでもない。賭博場に至っては、スロット店でこの手の運は全くないと悟っただけに、どのようなものかを見ただけで終わった。

 

(所持金を使わないで正解だったな。ギャンブル運が全くないことだけはよくわかった)

 

 1人で遊んで面白いわけでもなく、ギャンブルにも運が無いと分かった為、店をある程度回ってからは、早々に宿屋へと帰った。

 

「戻りました」

「意外に早かったね」

「もっと面白いもんだと思ったんですけどね」

「ここは遊べるところが色々あってかなり人気なんだけど」

「訓練の方が良いということがよくわかったんで、今後はさっさと進みましょう」

「行きは昼間、帰りは夜間のつもりだから、そういうわけにはいかないんだよね」

「そうですか……(今後は終わったら鍛錬でもするかな)」

 

 その後も、街を巡りながらの移動を続け、砂の国に入ってからしばらくして、今回の任務の一番辛い状況に追い込まれていた。

 

「もう駄目です。引き返しましょう」

「駄目だ」

「このままではやられてしまいます!」

「そう簡単にやられはしないよ」

 

 白は、汗だくになりながらヤマトへと訴えかけるも、ヤマトはどこ吹く風と言わんばかりに、白の提案を却下する。

 

「せめて、どこかで休憩を」

「さっきからそればっかりだね」

「だって暑すぎるんですよ! それにこの風!」

 

 砂の国に入ってから、砂隠れの里に近付くにつれて、木々が無くなり、周囲の光景が石や砂へと変わっていった。それにより、気温が上がっている。その上、風が少々吹いてはいるが、その風には砂が混じっており、更なる不快感を白に与えていた。

 

 流石に、ここまでの事を予想していなかっただけに、夏の砂の国への立ち入りは、楽なんてものではなく、とても危険なものであると認識していた。

 

 岩陰にて休みながらも、やっとの思いで砂隠れの里への入口へと到着する。

 

「あの隙間を通った先が砂隠れの里だよ」

「早く……涼しいところへ行きましょう……。ちょっと、熱中症と脱水症状気味なんで……」

「かなり消耗してるのはよくわかるよ」

 

 途中途中で休んではいたが、それで周囲の気温が下がる訳でもなく、水遁で水を出してもすぐに温かくなり、風遁などは周りの砂を叩きつけられるという最悪な状況だった。氷遁を隠している以上、どうすることも出来ず、消耗したままここまで来たのである。

 

「そこで止まれ!」

 

 砂隠れの里への通路を通る前に、砂隠れの忍びより声を掛けられ、通行証の提示を求められる。

 

「木の葉の里の者か?」

「ええ」

「この時期と言うとアレのことか……通っていいぞ」

「それでは」

「すいません。もう無理です―――」

 

 通路の手前にて止められ、日差しのあまりの強さに、白はそこで意識を失った。白が倒れる前にヤマトが慌てて支え、倒れるのを防ぐ。

 

「おい。大丈夫なのか?」

「どうも、この暑さにやられてしまったようですね」

「慣れない者には大変だと聞いていたが、ここまで酷いとはな」

「ええ。倒れるとは思いもしませんでした」

「取り敢えず、医療設備のあるところへ案内しよう」

「助かります」

 

 ヤマトは白を背負い、砂の忍びに案内されて砂隠れの里へと入っていった。

 

 白が目を覚ましたのは夕暮れになってからだった。部屋の壁は石で出来ており、隅の方で水が流れていた。その水で風の入れ替えでもしているのだろう。部屋の中は今までの暑さが全くない。

 

(ここ何処だ? 最後どうなったっけ? 確か、砂隠れの里に着いたのは覚えてるんだけど、そこから記憶が無いな……)

 

 思い出そうと考え込んでいると、ヤマトが部屋へと入ってきた。

 

「全く。心配したよ」

「ここは何処です?」

「砂隠れの里の病院だよ。今日……というより明日の夕暮れまで休んで、今度は夜間に移動だ」

「お手数おかけします」

「ここまで耐性がないとは思わなかったね」

「こっちも倒れたのは初めてですよ。砂の国恐るべし」

「今後はこれも課題としようか」

「そんな拷問酷すぎます!」

「慣れてもらわないとね」

 

 ヤマトを見ても、笑顔でニコニコとしているため、本気で言っているのかいないのか判断がつきにくかった。そんなことはお構いなしとばかりに話を続けていく。

 

「さて、君はここで明日の夕暮れまで待機だ」

「仕方ないですね」

「僕は美味しい物でも食べてくるよ」

「嫌がらせですか?」

「他意は無いよ。それではゆっくりと病院食でも食べててね。くれぐれも大人しくしているように」

「はぁ……」

 

 それから、大人しく横になっていたが、それまで寝ていただけに眠気がくることはなかった。あまりの暇さ加減に、せっかく砂隠れの里に来たのだからと、周囲の気配を探り、誰も居ないことを確認して、水分身を作り出す。そして、変化させて砂隠れの里内を散策させに行かせた。後は、メガネを装着してリアルタイムで里内の様子を窺うだけである。

 

 本体は、ヤマトに言われた通りに、ここで待機して大人しくしているので、言われたことは一応守っている。もし、突然帰って来られても対応できるだろう。

 

 砂隠れの里の建物は、石作りばかりで、木で出来たような建物がほとんどない。里内でも、時折風が吹き砂が舞い上がっているのだが、住民が気にした様子もなく、たまに目に入った人が、目を擦っているくらいだった。

 

 そんなことで、里内を散策していたのだが、何が怪しかったのか、砂の忍びに呼び止められてしまった。

 

「そこの者止まれ!」

 

 言葉を発せられた方へ振り返ると、2人の忍びがいるのが目に入る。

 

「何か?」

「この先は風影様の居られるところだ。何用で来た?」

 

 どうやら知らない間に、一般人が来てはならないところへと来てしまっていたようだった。2人の忍びは明らかにこちらを警戒しているのが分かる。穏便に済ませるべく、話をすることとした。

 

「この里には来たばかりで、色々と見て回っていたのです。この先に風影様が居られるとは知りませんでした。どうやら近付いては駄目なようなので戻ります」

「その前に色々と聞きたいことがあるので、ついてきてもらうぞ」

「……分かりました」

 

 怪しいとは思われても、忍びかどうかまで判断できないようで、拘束こそされなかったが、前後に挟むような形で連行されていった。

 

(このままだと、ちょっとまずいかな?)

 

 連行されている途中に、少し細い道を通る機会があったので、その脇道へと入り込みすぐさま術を解く。

 

 ここまで大人しくついてきていた人物が、いきなり横へと飛んだことで意表を突かれたのか、前を歩く忍びは仕方ないにしても、後ろの忍びは一瞬の硬直後、後を追うもそこには誰も居なかった。

 

(術は解いたけど、あの場に水が残る以上、忍びだと思われただろうなあ……。ヤマトさんには、バレないようにしよう)

 

 その後しばらく経ってから、ヤマトが食事を終えて戻ってくると、手には土産と思わしきものを持っていた。袋には饅頭の文字が見える。

 

「大人しく待っていたようだね。お土産を買ってきたよ」

「いい匂いしてますね」

「ここでは有名らしい。それにしても、砂隠れの里の内で何かあったようだね」

 

 白は、ヤマトから袋を受け取り、中身の饅頭に伸ばしていた手をピタリと止めてヤマトを見る。

 

「何かあったんですか?(もしかして大事になってる?)」

「どうも砂の暗部が動いてるみたいだ」

「どこも暗部は忙しそうですね」

「まあ。僕たちは関わり合いにならない方がいいさ。関係ないだろうからね」

「饅頭いただきます(きっと、さっきの件とは別件に違いない。そう思っておこう)」

 

 そのまま饅頭を食べていたが、ヤマトは宿の方へと戻るようで、明日また来ると言い残すと行ってしまった。白としては、暇ではあったが、砂の暗部が動いているとなれば、下手なことはできないため、仕方なく次の日まで待つことになる。

 

 

 

 次の日、朝日が入るまでに気配を探っていたが、病院であるにも関わらず、数名ほどこちらの様子を確認しに来る者がいた。里へ最近入った者についても、把握するために見に来ているのだろう。

 

 朝食後にヤマトがやってきた。

 

「全くひどい目にあったよ」

「どうかしたんですか?」

「君と別れた後に、砂の方から呼び出しを受けてね。昨日怪しい者が居たそうなんだが、そのことについて色々と聞かれたよ。知らないと言っても、この里に入った時期が悪かったせいか、なかなか信じてもらえないしで、大変だった」

「任務については向こうも知ってるんですよね?」

「もちろん知ってはいるけど、それは見逃す理由にはならないね。この機会にって思われたら何でも一緒だよ。小一時間ほどで済みはしたけど、あまり気分のいいものではないね」

「お疲れ様でした(ほんと申し訳ないです。ヤマトさん)」

「全くだよ」

「昨日、この部屋の近くにも数名来たんですが、その関係ですかね?」

「恐らくそうだろう。たぶん診断結果を見て、様子見だけに留めたんじゃないかな?」

「そういうことですか」

 

 どうやら、昨日の暗部の話は、白の水分身の事のようだ。その影響でヤマトにとばっちりがいったようだ。しかし、ここで白が犯人だと知られると、更に状況が悪化してしまうのは間違いない。そこで、白はこのまま話さずに砂隠れの里を出ることを決めた。

 

「夕暮れまで時間があるので、何かまた食べ物お願いします」

「少し厚かましくないかい?」

「この暑い中、外に出てまた倒れろということですか……」

 

 頭を垂れて溜息を漏らし上目づかいにヤマトを見上げる。

 

「こっちが溜息をつく方だと思うけど、分かったよ。昼食後にでも何か持って来よう」

「よろしくお願いします」

 

 この日は、体調を万全にすることに努め、夕暮れ時には十分に元に戻すことが出来た。夕暮れと言っても暑さはまだまだ残ってはいるが、直射日光がないだけ遥かにマシなものであった。帰りの準備についてはヤマトがしてしまっており、白がすることは特になく、何のために、ここまで来たのかが分からなくなるほどだった。

 

「砂隠れの里を見て回りたかったなあ」

「その前に、君の弱点を克服しておこうか」

「弱点ではなく体質です」

「それは余計悪いよ。まあパンフレットを見て回った気でいることだね」

 

 昼食後の土産と一緒に、ヤマトは砂隠れの里の簡易マップを持ってきてくれていたが、実際に見て回りたいというのが白の本音である。

 

 夕暮れ時に出ることについては、事前に言ってあったのか、特に怪しまれることなく里外へと出ることが出来た。話を聞いてみると、日中の移動に関して白の体調に影響が出るために、夕暮れ時に出発するということで話していたそうだ。ヤマトに感謝された時、白としては微妙なものだった。

 

「さて、後は帰るだけだ」

「早く砂の国を脱出しましょう」

「それだとまるで僕たちが逃亡者みたいじゃないか」

「それは被害妄想です。暑いから嫌だという以外の他意は、全く! これっぽっちもありませんよ!」

「そんな力説しなくてもいいよ。確かに日中は暑いからね。それに、道は来る時に十分見れたから、帰りについては急いでも問題ないよ」

 

 ヤマトからの許可が出たことで、急いで砂の国から出るために全力で駆けていた。急がないと、太陽という名の悪魔が顔を見せてしまう。この時ばかりは、ヤマトを置き去りにして、太陽が出るまでの間に出来る限り駆けて行く。

 

 それでも、なぜか見失わずに追いついてくるヤマトに感心しながら、2日後には木の葉の里に辿り着いた。辿り着いた時には、安堵と疲れのために、アカデミーへの申請した残りの日で休養をとったのは言うまでもない。

 


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