白物語 作:ネコ
いつまでも、ウジウジ悩んではいられないと、一楽の店主であるテウチにある程度の事情を説明することにした。
内容的には、親が経営するアパートに住むことになった、と言うものと、それに伴い親の手伝いをしないといけないので、突発的に店を休まねばならないと言うことで伝えた。
親の経営と言うより、暗部又は火影の金でアパートに住んでおり、その手伝い―――もとい任務をしないといけないと言うのは、一応合っていなくもない。
テウチは、今まで放っておいた親が、掌を返したような態度に怒ってくれていた。しかし、親がこちらを心配して言ってくれたことなので、無碍にはできないのと、親の体調があまり良くない、ということを伝えると、逆に「そういうことは早く言え!」と頭を軽くだが叩かれ「親を大事にしてやんな」と言ってきた。
テウチが良い人なだけに、嘘をつくのは心苦しいが、任務の関係上そうせざるを得ないだろう。ただ、新しいメニューであるとんこつしょうゆラーメンが出来上がり、店に来るお客さんが増えてきたので、ここで白が抜けると、おやじ1人で店を回さないといけないので、新しくバイトを雇った方が良いのは確かだった。
その事を相談すると、おやじはあっさりと解決策を言ってきた。
「元々お前さんが来たころにバイトを雇うつもりだったんだ」
「でも突発的に休むから、そんな急に来れるような人なんていんの?」
「ああ。俺の孫娘だ」
「えっ!? おやじさん結婚してたの!?」
「女房には先に逝かれちまったが、子供はいるぞ」
白は、おやじの言葉に一瞬唖然としてしまう。ずっと独り身だと思っていたのだ。部屋の中には他の人の居たような跡など無く、また写真なども飾られていなかったためでもある。
「ここに来て一度たりとも会ったことないんだけど?」
「たまに息子が来てたな」
「どの人かわからないけど、そんな会話全くなかったよね?」
「元気な姿を見れれば十分ってもんよ」
「そんなもんなのかなあ……」
「それに、何度か会いには行ってるしな」
「ああ。たまにある臨時休業はそういうことね」
「そういうこった」
「納得したよ」
その後の話し合いの結果、主に孫娘の方に店へ来てもらうことになり、白は来れるときに来たらいいと言うことで、話はまとまった。孫娘の年齢は十代後半らしく、器量もいいとのことで店の事は心配せずに、親の心配をしろと念押しされてしまったくらいである。
しかし、当初どうなることかと思ってはいたが、辞めなくていいうえに、来れる時に来たらいいと言うのは、非常に白としても助かる内容だった。
一楽の件が片付き、安心して日々を過ごしていたが、そんな日々が続くはずもなく、早速ヤマトより初任務が伝えられた。
「任務を命じられた。場所は砂隠れの里だ」
「もしかして、戦闘になるとか言わないですよね?」
「そんな大層なことじゃないよ。中忍試験の内容についての巻物を届けるだけさ」
「それを暗部が行う理由が分からないんですけど。忍鳥に任せればよくないですか?」
中忍試験は例年行われており、内容に関してそれほど変わり映えはない。そのため、忍鳥などに巻物を届けさせるか、中忍以上の者に任務として届けさせるのが一般的であった。
「はっきり言って、君のための任務みたいなものだね」
「どういうことです?」
「今のうちに火の国や砂の国を見ておけってことだよ。暗部として動き始めたら、自国だけではなく、他国の地理についても知っておかないと動きにくいからね」
「確かに、小さい頃に拾われてから、木の葉の里から出たことないですね」
ヤマトの説明は納得のできるものだった。早さを優先するような事態になった際に、地図を見ながら行くなど、行動が遅くなって仕方がない。それならば、事前に知ることによって、その無駄な行動が無くなり、より早く動けるようになるだろう。
「と言うわけだけど、暗部としてではなく、通常の任務として行くことになるから、君は砂隠れの里に着いたら、どこかの店か宿で待機してもらうよ。下忍でも無いわけだし」
「観光しててもいいですか?」
「任務だって聞いてたかい?」
「言い方が悪かったです。街の調査をしてもいいですか?」
「言い直しても駄目だ。指定した店で待機してもらうことに決めた」
「横暴すぎません?」
「これは命令だよ。まあ、お店くらいは選ばせてあげるよ。余程変なところでなければだけどね。それと砂隠れの里内については、同盟国とはいえ、他国の忍びが無暗に動くと非常にまずいことになりかねない」
「仮初の同盟ってことですね……。まあ、待機するところに、どんな店があるのか楽しみにしときます」
「出発は明後日だから、アカデミーの方には僕の方から言っておこう」
「お願いします。それと、どれくらい日にち掛かりますかね」
「往復で10日もみれば十分だと思うよ」
「意外と掛かるもんですね」
「地理を覚えるためにゆっくり歩いていくからね。ある意味、君の言った観光と変わらないさ」
この時は、観光しながらいけるし、気が楽だと思っていたが、実際に任務になってから間違いだと気付かされる。
任務前に、忍者アカデミーの同じ教室の女子生徒たちに、家の手伝いのため休むことを伝えて回り、一楽にもしばらく来れないと店のおやじに連絡をしておいた。
ヒナタに関しては、自分から他の輪に入ることは無いが、話を振られれば、普通に会話が出来るレベルには達していたので、それほど心配はしていない。アカデミー内での警護と言われても、先生たちがいる現状では、警護とは名ばかりのものであると分かるだけに、ただの意識付けであることは明白だった。
初任務当日。快晴であり、日がこれでもかと降り注いでいた。集合場所である、木の葉の里の入口にいるヤマトの元へと向かうと、白が挨拶を行う前に、ヤマトの方から開口一番に声を掛けられた。
「そんな恰好で行く気かい?」
「当たり前じゃないですか」
「雨は降ってないよ?」
「これは日傘と言うんです」
「……その格好……物凄く怪しいよ」
フード付き長袖の服に、長ズボン。そこにメガネを掛けており、片側は完全に曇っているようになっているので、片目しか窺えない。そこへ雨も降ってないのに傘まで持っており、背にはリュックというとても目立つ格好だった。
「日傘とリュック以外はこの季節の標準的な服ですよ。まあメガネは外してもいいんですけどね。それと、あまり夏って好きではないんですよね……」
「その恰好では目立って仕方ない」
「分かりました。では日傘を諦めますよ……」
「日傘というのは初めて聞いたけど、それは置いておくとしても、まず、その服装が怪しすぎる。相手に無用な警戒をさせてしまう可能性がある」
「アカデミーの同じ教室に、似たような恰好をしてる子がいるんですが……」
「その子が、今回の任務に行くわけじゃない」
「しかし、こういった服しか持ってません。後は訓練でよく使用している、頂いた忍び用の服くらいなんですが?」
「はあ。仕方ない。先に服を買いに行こう」
「えぇ~……。このままでいいじゃないですか」
「駄目だ。戻るよ」
ヤマトに腕を掴まれて、近くの服屋へと連れて行かれた。
「フードの変わりは帽子にするとして、やっぱり長袖なのかい?」
「それはもちろんですよ。本当は半袖が良いんですけど、日差しがきついと肌に不快感があるんで、こればっかりは仕方ないです」
「分かった。では待ってるから買ってくるといい」
「えっ!? 買ってくれるんじゃないんですか?」
「君が着る服だろう?」
「これって一応任務なわけですよね? 服装を変えろと言う命令ですよね? その辺り上司としてどうなんでしょう?」
「いや。しかし。君のその格好は怪しすぎると思うんだけど……」
白の言葉にヤマトは、少し怯み、言葉尻が自信なさげになってきていた。
「残念です。服装を変えろと言っておきながら、服屋の前まで無理やり連れてきて、無責任にも後は勝手にしろだなんて……。見捨てるんですね?」
「いや。見捨てるとかそんなことじゃなくてだね」
ヤマトは慌てたように言い訳をしようとしていたが、この時、思いもよらなかったのは、周囲の人が白の言葉を聞いてヒソヒソと話し始めたのである。
「彼氏が無理やりあんな恰好させてるみたいよ」「あのセンスは酷いわね」「最近の男は無責任みたい」「彼女が可哀想ね」「あんな男に無理やりですって」「見捨てて……」「相手は小さな子」「変態ね」
話の内容が白たちへと聞こえて来た時には、2人揃ってアイコンタクトを交わすと、すぐに服屋へと入っていった。そして店に入って開口一番―――
「精神的にもう駄目です。任務遂行に支障が出るレベルの攻撃を受けました」
「君はまだしも、僕の扱いの方が酷かったよ……。今後まともに、この道を通ることが出来ない……」
白は、長年同じような服を着ているせいか、今の服を気に入っており、センスが酷いと言われたことと、女と思われたこと、それに加えて小さいなどの言葉で、精神的なダメージを受けていた。
ヤマトに至っては、この近辺を通るたびに、さきほどの奥様たちに噂されることだろう。
先にショックから復帰した白は、ヤマトが店の扉の横にて座り込んで、ぶつぶつと何かを言っている間に服を選ぶことにした。しかし、センスが無いと言われた手前、一通り見たものの自信が持てなかったので、結局のところは、店の人に旅人用の服を選んでもらっていた。
「御代はあそこに居る人から貰ってください」
「はい。一緒に来られた方ですね。まいどあり!」
「ヤマトさん。先に里の入口に行っておきますね」
「<なぜ僕がこんな目に>」
ヤマトは、白の言葉が聞こえないのか、蹲ったままだったので、店主に伝言と御代請求を任せて、先に里の入口へと向かった。新しく着ているのは、浴衣のような恰好で、袖は長く、手の甲まで隠されており、足の方に関しても足首近くまでの長さがある。これにメガネを掛けてリュックを片手に門まで来たのだが、「逆に目立つのでは?」と慣れないせいもあって、落ち着きなくソワソワとして、ヤマトが来るのを待っていた。
待つことしばらくして、ヤマトがこちらへと走ってくるのが見えた。
「そんなに急いで来なくても逃げたりしませんよ」
「そんなことじゃなくてだね!」
「さあ。準備も出来たし行きましょう」
「あのね。僕があの後どんな目にあったと思ってるの!?」
「興味が無いです。それよりも任務が大事でしょう?」
「こんな時にそれを出すのかい……。はぁ……」
ヤマトはガックリと肩を落として項垂れている。
「大事な部下に、服を買ってあげただけじゃないですか」
「大事な部下って君が言う言葉じゃないよね?」
「さあ、お喋りはここまでです。出発時刻は過ぎてるので行きましょう」
「僕が一応上司なんだけど」
「細かいことを気にしない気にしない」
未だにぶつぶつ言っているヤマトと共に木の葉の里を後にした。