白物語 作:ネコ
ヤマトと別れた後の、アカデミーへの帰り道。
日向家から出て、違う場所にて生活することの理由については、アカデミー到着までに考えていたので、ヒナタに説明するのは簡単だったのだが、それを納得させることが難しかった。
今までずっと一緒に生活してきただけに、突然出て行くことに対して驚くと共に、なぜ前もって教えてくれなかったのかと、問い詰められたのだ。
それを宥めすかしながら屋敷へと戻り、最終的には……
「詳細はヒアシ様に聞いて」
という、白としては情けなく、ヒナタには反論できない言葉を選ばざるをえなかった。
(このくらい、他の人に対しても強気でいければいいんだろうけど。なぜに俺だけ?)
ヒナタの中での、白の存在感と依存度が高いために起こっているのだが、そのことに白は全く気付くことはない。
ヒアシの元に行かないといけないと言って、ヒナタと別れヒアシの部屋へと訪れる。
一応、本日より暗部入りした旨を報告したが、既にヤマトより聞き及んでいたためだろう、返事は簡潔なものであった。特に言われたことと言えば、日向家の服については置いていくように言われ、代わりの服を準備してあるとのことくらいだろうか。
ヒアシの部屋を後にして自室へと戻る。特に生活に必要としない小物などを、買い揃えている訳では無かったので、そう言ったものは無かったのだが、本類に関しては結構な物量があった。取り敢えず、本以外を昔から持っている籠の中へと納めていく。それに加えて、もう一つの巻物から籠を呼び出して、入るだけの本を詰め込んでいった。
(巻物を買うか作るかしないといけないけど、買うと高いんだよなあ……作るには知識が足りないし……ヤマトさんにその辺り含めて聞いてみるか)
籠を巻物内に収めて、残りの本に関しては水分身にて運ぶことにした。ネジに関しては少々遅い時刻であったために、アカデミーにて後日話そうと後回しにしようとしたのだが、どこから聞きつけたのか、屋敷から出た際にネジに呼び止められた。
「俺に何も言わずに行くとはな」
「少し遅い時間だったから、言わなかったというより言えなかっただけ。理由については、明日アカデミーで伝えるつもりだったし」
「それなら今、聞いておこうか。アカデミーで話されて、以前のようなことになっては困るしな」
「結構根に持つね」
以前の告白して振られたという噂が広まった影響で、かなりネジは居心地の悪い思いをしたようだ。ネジもサスケと同じようなタイプで、周囲とは距離を置いているので、誤解を解く機会がなく、噂が沈静化するまで何もできずにいたのだった。
「元々僕は日向家の人間じゃないからね。分家の人たちには疎ましがられていたし……そこへ以前から探して貰っていた引き取り手が見つかったから、行くことになっただけ」
「確かに……分家の人が話していたのを聞いたから、この場に居る訳なんだがな」
「納得してもらえて良かったよ(ヒナタは納得してくれなかったみたいだし)」
「納得はするが、言わなかったことを許したわけでは無い」
「いや……許す許さないの問題は関係ないような」
「事前に一言くらいあるべきだろう?」
「いや……まあ……そうなんだけど……急に決まったことだし……」
「それは言い訳だ。今までの事を含めて、今週の休みの9時に分家の庭で手合せをしてもらう」
「今までとあんまり変わらないような気がするけど、それでいいならこっちはいいよ(ヤマトさんに言っとかないとな)」
「もちろん、いままでのような組み手ではなく、本気でやってもらうぞ」
どうやらネジには、今までこちらが抑えて鍛錬していたことが分かっていたようだった。結構な月日を共に鍛錬していれば、自ずと分かってしまうものかもしれない。
「……わかったよ。ただし、やるのは1度だけというのがこちらの条件」
「それで構わない」
「それでは行くよ」
「ああ。またな」
ネジに別れを告げて日向の屋敷を後にし、新しく住むこととなるアパートへと向かった。
(この世界では引っ越ししたら近隣の人に挨拶するものだろうか?)
挨拶するべきであれば、何か渡さないといけないのかと考えながら、鍵を開けて部屋の中へと入っていく。そして、早速荷物を整理するかと籠を呼び出したところで、横の部屋から何かを殴るような音が聞こえてきた。
何事かと思い、壁に顔を近付けて耳を澄ませると、『ボスッ!ボスッ!』と何かを殴っているような音と共に、掛け声まで聞こえ始めてきた。その声の主は集中し始めたのか、段々と声が大きくなると共に殴るような音も早くなっていき、終いには近隣の方々から苦情が入った。
どうやら思っていたよりも、聞こえてくる音のしている部屋とは、かなり壁が薄いようで、隣の住人との境だけかもしれないが、音がよく通るようだ。
(同じアパートって言ってたけど、まさか隣とは……)
声の主はナルトであり、どうやら今日の実習にて、またサスケにやられたようだ。それを想定してなにやら格闘しているようだが、既に夜であることを考えるとかなりの迷惑行為だろう。この事が続くようであれば、対策を考えないといけない。
そう考えていると、案の定苦情が入ったようで、窓や玄関の方から怒鳴り声が聞こえてくる。
苦情が入った後は大人しくしているのか、その後は静かになった。溜息交じりに、荷物の整理を終わらせて、部屋内にトラップを仕掛けていく。そして寝る前に、起床時用のランダム目覚ましの仕掛けも忘れずに設置した。
次の日。いつもの起床時間になってから、朝食の事をすっかり忘れていたことに気付いた。冷蔵庫を開ける時に何かあることを祈ってはみたものの、見事に中身は空であることに酷く落ち込む。
アカデミーへと通う時に、途中で買ってから食べることにして、折角だからと鍛錬を行うことにした。
時間まで鍛錬した後に、軽くシャワーを浴びてからアカデミーへと登校する。少しいつもより出る時間は遅いが、どうもナルトはこの時間にアパートを出ているようで、いつものナルトの登校時間にアカデミーへと到着した。ナルトの真後ろに付くような形で教室へと入る。
(真後ろ歩いてるのにナルトは気付いてないのか?)
教室へ入ると、ヒナタは既に登校しており、こちらを向いて、未だに機嫌が悪そうな顔をしている。どう納得してもらおうかと、考えながらヒナタの隣へと座ると、少しばかりじと目で見つめてきた。
「おはようヒナタ」
「おはよう白」
「昨日の件なら何度も謝ったんだから、そろそろ機嫌を直してほしいんだけど?」
「そのことはいいんだけど……」
ヒナタは言いづらそうにしているが、昨日の件以外にて、何か機嫌を損ねるようなことをした覚えのない白は、それならば何のことだろう?と考えていくが思い浮かばない。
「えーっと。なんで機嫌が悪そうなの?」
「機嫌が悪いわけじゃないんだよ。ただ……ちょっと、その……」
「言ってくれないと分からないんだけど?」
「えっとね。なんでナルトくんと一緒に来たのかな? と思って」
確かに、ほぼ一緒というか、ナルトの真後ろについて教室へと入ったが、そんなことで機嫌が悪くなるのかと思いもしなかった。しかし、ヒナタのナルトへの想いと、ナルトの登校する時間帯に、ヒナタが教室の扉をよく見ていたのを思い出し、だから今の状態になったのかと納得した。
「それは住んでる場所が近いみたいでね。たまたま登校の時間帯が一緒になっただけ」
「本当?」
「本当だよ」
取り敢えずは納得してくれたのか、イルカが来たことで授業が始まり、話は打ち切りとなった。
(監視は一応アカデミー内だけで、ヒナタの警護の方を優先していいって話だし、明日からは気を付けよう)
1日の授業が無事終了し、ヒナタと共にアカデミーを出ると、日向コウが待っていた。どうやら、白の代わりとして送迎を行うようだ。ヒナタは寂しそうに挨拶を交わすと、コウと共に屋敷の方へと帰っていった。
白は、これからの訓練のために1度アパートへと戻った。途中で食材を購入しておくことも忘れない。
訓練のための場所は、夜間と言うこともあり暗かったが、白には月明かりにて視界は十分に確保できていた。地形としては木が疎らに生えており、近くに小川が流れているのが見える。そのような中、平地部分の中央にてヤマトは待っていた。
「待ちました?」
「いや。まだ時間ではないし気にしなくていいよ。僕の元上司なんて遅刻が当たり前だったからね」
「それはどうかと思いますが(カカシさんのことかな)、それにしても、これからも夜間に訓練ですか?」
「たまにアカデミーを休んで、昼間も訓練することにはなるけど、基本は夜間だね」
「了解です」
今までは、アカデミーにて隠れながら鍛錬していただけに、堂々とアカデミーを休んで鍛錬に打ち込めるという条件は、白にとって魅力的なものだった。その間のヒナタへの警護については、他の者にて行うとのことで、そこまでの頻度ではないようだ。
「その前に暗部での君の名前を決めておこうと思う」
「やっぱり変えないと駄目なんですか?」
「と言うわけで、候補を考えていた訳なんだけど、ヒミコなんてどうだい?」
「こちらの話を無視な上に、既に候補があるんですか。ちなみに何故女の名前なんですか?」
「別にそういう意図があるわけでは無くて、秘密の子供ということからヒミコって取ったんだ」
「それなら秘密の人ということから、ヒミトでもいいですよね? いつまでも子供な訳ではないんですし」
「……それもそうだね」
名前についてはかなりの時間を使って真剣に考えたのだろう。白の言葉により落胆しているのが、雰囲気でよくわかった。
「ではそれで登録しておくけど、正式に暗部として1人で動くことになるのは、君に実力がついてからだ」
「それはその通りだと思いますし、そうでないと困ります」
「なので、君の実力を知りたいと思うから、まずはこの演習場で模擬戦をやろう」
「分かりました」
その返事をした瞬間に、瞬身の術にて距離をおき、小川の近くに移動し、霧隠れの術を使用する。
「なかなか早いね」
徐々に霧が濃くなっていく中、ヤマトは未だに元の位置から動く気は無いようで、余裕があるのが声からよく分かる。
(―――水分身の術―――)
霧にて辺りの視界が十分に効かなくなったところで、水分身を5体作りだし、水分身に攻撃を仕掛けさせている合間に、隠遁にて周囲へとトラップを仕掛けていく。
ほどなくして、水分身がやられたところへ、再度ヤマトから声が掛けられた。
「この霧の中で相手の場所が分かるなんて大したものだね」
(どうやって防いでるんだ?)
ヤマトがいる場所は分かるのだが、この霧の中で防いだ方法が分からない。視覚だけでも共有しておくべきだったかと思ったが、仕掛けは十分に設置し終えたので、霧隠れの術を解除する。
「おや? もうかくれんぼはいいのかい?」
「意味が無いようなので」
霧が晴れたそこには、恐らく木遁にて作ったであろう格子状の壁と、ヤマトの分身体が存在していた。
(氷遁は使う気は無いし、かといって今覚えているのは、ほとんどが身を守るためのものだから、攻撃って言ったら体術か忍具しかないんだよなあ……)
「今度はこちらから行かせてもらうよ」
そう宣言すると、木遁の壁を解除し、一直線にこちらへと分身体が向かってきた。
「―――土遁・土流城壁―――」
ヤマトの術の効力により、地面が揺れたかと思うと、さながらドーム状のような形で、地面が壁のように聳え立ち、それが広範囲にわたって闘技場のように囲んでしまった。折角仕掛けたトラップのほとんどが意味を成さなくなってしまったのは言うまでもない。
(―――風遁・大突破―――)
その間にも、近付いてきていた分身へと風遁にて足止めを行う。1体ずつ相手取ろうとしたが、足止め出来たのはほんの僅かな間だけだったため、すぐに他の分身体も復帰しこちらへと向かってきた。
(―――水遁・水陣壁―――)
水遁にて、ヤマトの他の分身が来るまでに、その内の1体と一対一になるよう囲み、接近戦にて挑むが、ほぼ体術の技量が互角な上に、他の分身体からの攻撃で簡単に水陣壁は破られてしまった。破られた後には、分身体に周囲を囲まれていた挙句に、いつの間にか木遁によって、分身体と共に檻の中に居る状態だった。
「これで終わりかな」
「ちょっと大人げなくないですか?(木遁分身って思ったより強いな)」
「今の実力だとギリギリ中忍レベルだね。その歳でそれだけやれれば十分だと思うけど」
「中忍ギリギリと言われても、素直に喜べないんですが」
「忍術の速度は大したものだ。それに体術に関してもそれなりのようだし、鍛え甲斐がありそうでよかったよ」
「鍛錬は欠かさず行ってきましたから。主に自衛のために」
「既に自分の属性について知ってるようだからあれだけど、忍術については水遁と風遁を今後は重点的に鍛えていくよ。もちろん他にもやるけどね」
「そこに、医療忍術を追加して欲しいんですが」
ここで更に、鍛錬の追加を言い出すとは思ってもみなかったヤマトは、逆に心配そうにこちらに確認してきた。
「それはいいけど、やれるのかい?」
「前に休みの日が欲しいと言ったのを聞いていたと思うんですけど、医療忍術とか他のことを覚える為の時間が欲しかったからなんですよ」
「そういうことだったのか。それなら紹介をするのはいいけど……医療忍術には向き不向きがあるから出来るとは限らないよ?」
「その辺りは心配しないでいいです。掌仙術なら既に使えますんで」
「なるほどね。では今週の休みからでもいけるようにしておくよ」
「あっ。すいません。行くのはもしかしたら来週になるかもしれません」
ここで、ネジとの約束を思い出し、行けないかもしれないことを伝えておくことにした。
「わかった。話をしておくから、相手が決まったら休み前までに連絡するよ」
「お願いします」
「と言うわけで今日のところは終わりとしよう。明日からはビシバシとやっていくからそのつもりで」
「鍛錬なら喜んで<任務はお断りですが>」
「何か言ったかい?」
「何でもないです!それでは失礼します」
既に時刻はいつの間にか真夜中となっているため、急いでアパートへ向けて走っていった。
「あの歳で、あのレベルの忍術にチャクラ量。印スピードに至っては上忍クラス。戦闘に対してどうも実戦経験がありそうだけど、術自体は消極的な術ばかり。経歴はどこかの里の忍びの子供か……波の国って話からすると、親は霧隠れの里の忍びかな? 彼は僕に監視されてるなんて思ってもみないんだろうけど……火影様も人が悪い」
その後ヤマトは、今日の報告のために火影の元へと行くのだった。