白物語 作:ネコ
アカデミー卒業後の進路に選択肢が増えたのはいい。その選択肢が暗部などの危険なところでなければだが……。
ヒナタへの言い訳はともかくとして、屋敷に戻った際に、ヒアシからの呼び出しがあったので、ヒアシの部屋へと向かった。
「失礼します」
「来たか。暗部の話は聞いているな?」
「本日お聞きしました」
「時期は問わんが、アカデミー卒業後を期限にして暗部にいってもらう」
「(拒否権なさそうだなあ)理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「少々取引をしてな。いずれ話すことになるだろう。それと暗部入りについては、アカデミーの者には話さずに、火影様に直接お伝えしろ。話は以上だ」
「分かりました……。失礼します」
ヒアシが話を打ち切ってしまったため、これ以上聞いても無駄と悟り、ヒアシの部屋を後にして自分の部屋へと戻る。
(ゆっくりと考えればいいとか言ってたけど、その期間で自分を納得させろってことじゃないか……)
その日は鍛錬どころではなく、今後のことを考えている内に、あっという間に時は過ぎ去ってしまっていた。
翌朝。結局寝ずに朝日を迎えてしまっていた。その間に如何にして、今の状況を自分に都合のいい方へと持っていくかを考え、それを実行に移すべく行動することにした。
(久しぶりに徹夜したな。いつ振りだろう?)
徹夜したにも関わらず眠気はなかった。それというのも、ランダム時計のお蔭で、毎日緊張という名の仮眠であったので、常に気を張り起きているのに近い状態でいたからである。
ヒナタと共に登校し、早速授業が始まる前に教員室へと向かう。
「失礼します。イルカ先生よろしいですか?」
「おお。おはよう白。どうかしたか?」
「昨日の件で、火影様とお話ししたいのですが、日程調整をしていただけませんか?」
「もう返事をしてしまうのか? もっと考えた方がよくないか?」
「こういったことはすぐに処理しておかないと気が済まないので、早ければ早いほどいいです」
「その考えには賛同するが……。わかった。話しておくよ」
「お願いします」
イルカは白が断ると思っているのだろう。とても残念そうな顔をして白の申し出を受けた。おそらく、取引の内容とやらについても聞いていないのだろう。そうでなければ、拒否権がこちらに無いことを知っているはずなのだから。
(元々イルカ先生が、候補に選んだせいで、こんなことになってるんだからな!)
早朝にイルカ先生に話をして、日程調整をしてほしいと言ったにも関わらず、その日の午後に行くこととなった。あまりの早さに、火影は暇なのかと思ったほどである。
通行証を手渡された時に、以前の物を返し忘れていたことを思い出したが、行った時に返せばいいかと思い直し火影の所へと向かった。
「失礼します」
今回は緊張することもなく、火影の前まで歩いていく。
「ほほ。遠慮が無くなってきたの」
「昨日の件ですが、拒否権が無さそうです。そこで、こちらも要望を出したいのですがよろしいですか?」
「拒否権うんぬんは一応あったぞ? 遅いか早いかの違いだけじゃが。それはそうと要望を聞こうかの」
「それは拒否権とは言いません。要望ですが、自分の自由となる時間が欲しいです。週一の休みでいいので」
「その辺は、お主の上司と相談することになると思うがの」
「そこを口添え願います。それと任務に就くのはいいのですが、上忍クラスと一緒に行動させてください」
「それは安心せい。暗部に入っておるものは、ほぼ全て上忍クラスじゃ」
「(上忍でもピンキリだから困るんだよな……)上忍でも強い人でお願いします」
「強さにも色々あるからの」
「ああもう! めんどくさい! 死にたくないんで、任務に就くのは俺を守れるくらいの人がいいってことですよ!」
あまりにも惚けた言い方をしてくる火影に、我慢が出来ずに素が出てきてしまう。それを見て火影は微笑むと、やっとかと言わんばかりに話し始めた。
「さっさと本音を言わんからそうなるんじゃ。一楽ではそれでやっとったじゃろ?」
「やっぱりバレてたのか。まあ薄々そうかもとは思ってたけど」
「今後はトイレの中でも注意するんじゃな」
「プライバシーって言葉知ってる?」
「知っとるよ。それはそうと、暗部入りを納得してもらっといてあれじゃが、今後の事について話すぞ」
「納得はしてないけど了解」
「お主には、このままアカデミーへと通ってもらう」
「すぐに卒業じゃなくて?」
火影の言葉は意外であった。すぐにでも卒業して、暗部入りするための訓練に入ると思っていたからである。
「その辺りはちとあってな。住む場所についてはこちらにて用意するので、日向家からは出てもらうことになるがの」
「ん? 結局今の生活と変わるのは住む場所くらいってこと?」
「違いについては、お主に上司を1人付けるから、そちらに任せることになっとるから聞くといい」
「はあ……」
「なんじゃ覇気がないの。一楽の時とは大違いじゃ」
「必死にひっそり生き残ろうと頑張ってるのに、全部台無しにされたらそりゃへこみますよ」
「ふむ。それはすまなんだな。ではお主の上司を呼ぶとするかの」
「それって、今、天井に居る人?」
ここまで来たら遠慮は要らないとばかりに、部屋へと入る前から感じていた気配の方へと、指差しながら尋ねる。
「なるほど。優秀じゃの」
火影は白の言葉に納得すると、手を打ち鳴らすと、面をした暗部の者が部屋内に現れた。
「お主の隠遁はまだまだのようじゃの」
「悟られるとは思っていませんでした」
「誰であろうとも侮ってはいかん。教育が足りんかったのが原因じゃな。お主の前上司に言っておこうかの」
「やめてください! 割と真面目に!」
「まあよい。こっちがお主の部下になる白じゃ」
声からして若い男であることは分かったが、面をしているので誰かが分からない。面を取ったところで分からない可能性の方が高いが……。
「よろしく」
「えっと。よろしくお願いします」
「面を取って挨拶せんと分からんじゃろ。それと名乗らんか」
「ああっと。失礼」
男は面を取り外して改めて挨拶を行った。
「初めまして、ようこそ暗部へ。僕の名前はヤマトと言う。君の上司になる者だ。よろしく」
「(ヤマトって見た目あのヤマトだ。確か優秀だったはず? この頃はどうなんだろ?)よろしくお願いします」
「見た目が若いからって、そんな疑惑の目をするようではまだまだだね」
「そうですね」
「なんか可愛げがないなあ。見た目だけかい?」
「勘違いされる前に言っておきますが、女ではなく男です」
「えっ!?」
「なにっ?」
ヤマトが勘違いしていそうな発言をしたために、その勘違いを正そうと思い言ったのだが、火影まで反応するとは思ってもみなかった。
「なぜ火影様まで、いま知ったみたいな顔をしてるんですか? トイレを覗くような人が……」
「いや、なに……。もちろん知っておったとも……」
火影は目を泳がせながら答えるが、その姿には説得力が全くなかった。
「確かにトイレを覗くのはどうかと思いますね」
そこへ白への援護射撃がヤマトから入った。それにより、更に火影は慌てふためきはじめる。
「いや。ちと本人に会ってみて、そう、おかしいと感じての、見てみたら分かっただけで、一回しか見とらん! それに見ていた時は男じゃったし!」
「そうやって、いろんな人を覗いてるんですね」
「これだから弟子の自来也様も……」
「ええい! うるさい! これより先の事は他のところで相談せい! わしは忙しいんじゃ!」
「怒ると身体に悪いらしいですよ」
「もうお歳なんですから、身体には気を付けてください」
「早く出て行け!」
火影は顔を真っ赤にすると立ち上がって大声を上げて捲し立ててきたため、白はヤマトと共に急いで部屋を出た。
「ふう、あんなに怒るなんてね。さて、まずは説明するためにも、今後君の住むことになる場所まで案内しよう」
「お願いします」
「それにしても、男とは思わなかったよ。情報では女として聞いていたからね」
「それはヒアシ様のせいですね。アカデミーへの申請を女として出したので、そのまま登録されたのだと思います」
「このことを知っているのはどれくらいいるのかな?」
「ほとんど知らないのではないでしょうか?日向家の方は知ってるとは思いますが……」
「そうか・・・」
その後は、住む場所と言われたところに案内されたが、高級感など全くない、何処にでもあるような普通のちょっと古いアパートだった。
「ここですか?」
「そうだよ。今日から君の住むところだ。中に入ろう」
アパートの内装自体も外見とそう変わりは無く、設備も一般的なものだ。1人で住むには十分と言えるだろう広さと、家具類も整っていた。
「家具も準備してあるということは、既に決まっていたということですね」
「いや……。そういうわけでもないよ。ここは違う用途で使用していたんだけど、ヒルゼン様のご要望で、ここを君の住む場所としたんだ」
「そこはかとなく嫌な予感しかしません」
「それも含めて説明するよ」
「お願いします」
始めに説明を受けたのは、今後のスケジュールだった。昼は忍者アカデミーにて警護及び監視、終業後に訓練を行うというものだった。
「ヒナタの警護についてはいいんですが、ナルトを監視する理由が不明なんですが?」
「情報収集が得意と聞いている。理由くらいは推察出来るんじゃないのかい?」
「九尾関係ですか?」
「そういうことだよ」
「もしかしてこのアパートって……」
火影と九尾の2つの単語から関連付けられる可能性を頭に浮かべ、それが言葉に出てしまう。
「そう。ナルト君の住んでいるアパートだ」
「流石に問題児の子守りまではしたくないんですが……(ナルトの面倒を見ろなんてマジで勘弁だよ!)」
「監視であって子守ではないよ。それに暗部に入ったら、任務に対して拒否は出来ない。文句くらいは言えるけどね」
「……暗部ってどれくらいで出られるものなんですかね」
机に頬杖をついて、ヤマトから窓の外の景色へと顔を移動させる。午前中は晴天だったにも関わらず、午後になってから曇り空になってきており、まるでこれからの白の人生を表しているかのようだった。
「そんなに遠くを見つめて現実逃避しても駄目だよ」
「まあ、危険が少なそうだというのには安心しましたけどね」
「ああ。もちろん通常の任務にも同行してもらうつもりだから、その時はアカデミーを休んでもらうよ」
「えーっと、そう言えば聞き忘れてましたが、休みってあるんですか?」
「君次第だけど、基本的にはアカデミーと同じにしようとは思っている」
「ありがたい話です」
「任務が入ったら簡単に潰れちゃうけどね」
「泣ける話です……」
その後も生活費から緊急時の連絡方法、注意事項など、最低限のことを伝えられているうちに、日は傾き、夕方となってしまっていた。
「そろそろアカデミーが終わる頃だから戻るといい。日向家の当主方には、僕の方から先に連絡しておこう。もう言わなくても分かってるとは思うけど、今回君は暗部入りを断った形を取ってもらうよ」
「分かってますよ(ヒナタとネジへの説明どうしようかな……)」
「それと通行証を1枚返してもらうよ」
「そう言えば返すの忘れてたんでした」
懐から2枚の通行証を取り出して、机の上に並べると、通行証に記された番号を確認して、ヤマトはその内の1枚を白へと手渡した。
「こちらについては、ここまま持っていてくれ。今後はこの番号が君の番号となるから、誰にも渡してはいけない。こちらについては回収させてもらうよ」
「分かりました」
「では、今日のところはこれで解散だ。荷物は今日中に移動して片付けておいて。明日から早速始めるよ」
「りょーかい」
ヤマトと別れアカデミーへと向かうが、ヒナタとネジへの説明をどうしようかと悩んでいたため、その足取りは非常に鈍いものだった。