白物語   作:ネコ

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36 仕込み?

 いま現在、忍者アカデミーの秋休みの期間中である。

 

 そこで当初の計画通り、とある人物に色々と教えてもらっているのだが、内容はかなり厳しいと言えるだろう。

 

 手始めに必要な量を調整からだ。ここで間違えると全てが無駄になるので、慎重にならざるを得ない。

 

「絶対に間違えるな。最初はゆっくりでいいからな」

 

 言われてしまっているが、この過程を成功させるために、慎重になりすぎていて、かなり速度が遅いことは自分でもよく分かっている。しかし、少しのミスが失敗に終わるかと思うと、慎重になってしまう。

 

 次に、必要な量を練り合わせる。これについては、加減が分からないのでなかなかに大変だった。口頭にて教えを受けているが、感覚的なものであるため、自分でそれを掴むしかない。

 

「これでどうです?」

「まだまだ足りない!」

 

 見ただけで分かるのかとも思ったが、文句ひとつ言うことなく集中して再度練り合わせる。教えを受けている身で文句など言えるはずもない。

 

 かなりの集中していた為だろう。額から汗が滴り落ち、それが頬を伝い顎に至る。それが溜まり下へと落下し、それに気を取られて集中を欠いてしまった。練り合わせることに集中しすぎて、完全に油断していた。

 

「何してやがる!」

「すいません!」

「もう今日のところは終いだ!」

「このままやらせてくれ!」

「いまからちんたらやってられん!終わりと言ったら終わりだ!」

「はい……」

 

 自分のせいで失敗したとはいえ、こうまでも厳しいと先が思いやられる。最初に、魂を込めろだのなんだのと色々と言われたが、訳が分からなかったので、要は集中してやればいいと思っていたが、そうすると今回のように、一部が疎かになることがある。

 

 この計画は初めは無かった。しかし、いずれは避けて通れなかっただろう。言われたときはすかさず返事をしてしまったが、早計だったかもしれない。

 

 

 

「そろそろ一年か……」

 

 それは、白が部屋にて勉強をしていた時に、聞こえてきたのである。気になったのでそちらへと耳を傾けた。

 

「どうかしました?」

「いやなに……。白が来てから月日が経つのが、早えと思っただけだ」

「まあ、あっという間でしたねえ」

「それに物覚えがいい」

「だから最初にいったじゃないですか、自信あるって」

「そうだったな」

 

 実際に言われたことは、素早くこなし手落ちなどほぼ無かったはずだ。始めは何度か怒られたが、同じ間違いはいまのところしていない。

 

「よし!」

「なんですか? いきなり大声出して」

「そろそろいいだろう。明日からは仕込みを教える!」

 

 その仕込みという言葉に、とうとう次の段階に来たか! と、テンションが上がってしまい、本体の方で即答してしまっていた。何事も、自分がやっていることで、次の過程に進めるとなると嬉しいものである。

 

「おお! やる気はあるんで任せてくれ!」

「よし! じゃあ、いつもより早めに起こすからな。後悔すんなよ!」

「オッケー! オッケー!」

 

 こうして次の日の朝3時起きて、遁甲術を使い、細心の注意を払って屋敷を抜け出す。そして朝の6時には、また帰ってくるという生活をしている。

 

 初日は覚えるのも大変だったが、それ以外にも大変なことはあった。

 

「昨日の夜遅く白の部屋に、誰か他の人居なかった?」

「1人だったよ?(もしかして聞かれてたか?)」

「気のせいなのかな?」

「気のせいだよ。うん。きっと鍛錬でヒナタは疲れてたんだよ。食事をしっかりとって、今日も鍛錬頑張ってね」

「うん。白に追いつけるように頑張るね」

 

(目標が俺ですか……。普通同門のネジとかじゃないの? そう言えば、ネジとヒナタって組み手してるところ見たことないな。もしかして、俺が居なかったら、本来はネジが組手の相手だったとか?)

 

 ヒナタの言葉には少し焦ったが、押しに弱いところを突いて、強引に話題を変えて追及を回避したのである。

 

 話は戻り、はっきり言って、麺の作成を馬鹿にしていたわけでは無いのだが、汗が入っただけで、駄目だと言われるとは思ってもみなかった。今までは、運搬や掃除などの準備を行っていたので、仕込みについてはノータッチだっただけに、そこまで気を使って作っているとは思っていなかったのである。

 

 スープの作成の仕方も覚えた頃には、既に秋休みは折り返しを過ぎていた。残りの秋休みは1週間もない。

 

「こんなに早く覚えちまうたあ、大したもんだ」

「まあ、何度か同じミスやっちゃいましたけどね」

「最初は誰でもそんなもんだ。俺もあの頃は若かったな……。これで満足せずに、日々精進しろよ」

「ここのラーメンは、この里のどこよりも旨いのに精進も何もないですよ」

「馬鹿野郎! 向上心が無けりゃ、旨いもんは作れないんだよ! それにもっと旨くなる!」

「旨くですか? ん~。これはこれで気に入ってるお客さんがいるんで、完成でいいと思うんですよね。なんで、他のを作ってみたらどうすか?」

「他のだと?」

 

 他という言葉に反応して、オヤジの眼がこちらをギラリと睨みつける。

 

「いやいや。ラーメン以外って意味じゃなくてですね。とんこつとか、しょうゆとか、みそとか単品はあっても、とんこつしょうゆとか合わせたものってのがないじゃないですか。なんで単品は完成として、他の味に挑戦してはどうかなあ、と……」

 

 慌てて言い訳をして、新しい味への挑戦を勧めた。それというのも、このオヤジはラーメンに人生を掛けており、ラーメン関係以外は作ろうともしない。しかし、言っていて、どんどんとオヤジの眼が殺気を帯びたように鋭くなってきたので、白の言葉尻が段々と弱弱しいものになってきてしまっていた。

 

「お前というやつは!」

「すいません! 出しゃばりました!」

「なんでもっと早く言わねえ!」

「はっ?」

 

 オヤジがこぶしを握り締めたのを見て、怒られると思ってはいたが、怒られる内容が思っていたものと違った。

 

「そうだ。なんで気づかなかったんだ。色んなお客さんがいるんだ。それに対応してこその一楽ってもんだ。時間は掛かるかもしれんがやってやるぞ!」

 

 オヤジは1人で盛り上がり、店の前まで出て大きな声で「俺はやってやる!」などと叫んでいた。白としても、とんこつしょうゆは食べたかったので、心の中で応援しつつ、そろそろ夕方近くになってきたことを確認し、準備に取り掛かった。

 

 そうしている時に、オヤジが店に戻ってきたかと思うと、1人の子供と一緒に戻ってきていた。

 

「俺のやる気を分けてやる! そんな湿気た顔せずに食ってけ!」

「お金ないってばよ」

「今日は気分がいいんだ。ただで食わせてやるよ!」

「……おっちゃんは俺見てなんとも思わないのかよ」

「元気のないガキだと思ってるさ。うちのラーメン食えば元気になるってもんよ!」

 

 オヤジが連れてきた子供というのが、落ち込んだ表情をしたナルトだった。席に強引に座らせると、いつもの手際でラーメンを作っていく。白も一応、客という考えで水をだしたが、まさかこのタイミングでここに来るとは思ってもいなかった。

 

(そう言えば、ここで働き始めて来たことなかったな)

 

 オヤジはナルトにラーメンを出して食わせていたが、泣きながら食うナルトは、教室などで見るものと違い、かなり新鮮だった。それを見て、顔がにやけていたのだろう。オヤジに殴られてしまった。

 

「ニヤニヤしてんじゃねえ」

「いや。殴ることないんじゃないの?」

「うるせい。お客さんが食ってるときは邪魔するんじゃねえ!」

「<その大きな声の方が邪魔してると思うなあ>」

「なんか言ったか? ん?」

「何でもないでっす」

 

 再びこぶしを握り締め始めたので、手を顔の前で『ぶんぶん』と振り何も言ってませんよ……とアピールして、オヤジの視線をナルトに戻させる。

 

 ナルトが食べ終わるまで、オヤジは特に何も言わず静かに見守っていた。それを見て白は、1年前の自分の時もそうだったなあと思い返す。

 

「兄ちゃんも俺を見てなんとも思わないのか?」

「泣くほど旨そうに食うやつだとは思ったぜ?」

「おっちゃん達、変だってばよ」

「その言葉遣いの方が変だと思うけどな。ってまた殴る!」

「いつもは丁寧な対応する癖に、今日だけ素になるんじゃねえ。それにさっき言っただろうが、邪魔すんなと」

「いやいや。聞かれたから答えただけで、俺悪くないんじゃない? それに食べ終わってるし」

「ふん」

 

 そこで、時計が鳴り始めたので、いつもと同じように入れ替わり、屋敷へと戻った。この日から、ナルトはちょくちょくと店に来るようになっていた。

 

(この秋休み、なぜか一楽に通い続けてしまった……。しかも、まともに鍛錬できたのって、体術と遁甲術だけだし……。まあ遁甲術に関しては、かなりのものになったと思っておこう、そうしよう)

 

 

 

 そんなある日、一楽に三代目火影である猿飛ヒルゼンが来た。いきなりのことで白は驚いたが、オヤジの方は驚いていなかった。どうやら昔店に来たことがあるらしく、オヤジとはその時に知り合ったらしい。普通に雑談に興じていた。取り敢えず、お客さんになるのか?と思い、水は出したが、ラーメンを注文する気配はない。その際にオヤジの方から声を掛けられる。

 

「自己紹介くらいせんか」

「……白と言います。いきなり火影様が来られるとは思いませんでした」

「ちと色々あっての。ここ最近これなんだから来たんじゃ」

「それだけじゃないでしょう?ここに来たのはあの子のことですかい?」

「……そうじゃ。お主のあの子に対する態度が変わらんのが不思議でならん」

「これが俺の性格なもんでね。うちのラーメンをうまいと言うやつに、態度を変えることなんぞありませんな」

「そっちのもそうじゃろ?」

「こいつは、俺が見込んだんだ。そんな考え持ってる訳がねえ」

「そうか」

 

 火影はどことなく安心したような顔をすると、

 

「これからもよろしく頼む」

 

 と言って帰っていった。

 

(さっきの言い方からするに、水晶で見られていたってことだな。あれは感知出来ないから厄介なんだよな……。でも、ここで追及されなかったってことは、取り敢えず遁甲の術で上手くいっているのか? いや、楽観はできないな。泳がされてる可能性もある……。特に悪いことをしてるわけじゃないから、見つかったとしても言い訳は出来るけど、弱みを握られるのはな……。常に見てるわけじゃないから、いまのところ移動には更に注意して行くくらいしかないか)

 


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