白物語   作:ネコ

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33 手紙?

 夏も終わりに近づき、秋になってきた頃、遅めの夏休みというよりも秋休みが始まった。

 

 この世界にも夏休みのようなものがあるのかと思っていたが、先生の話を聞くに、秋休みと言っても、実際には、忍者アカデミーが中忍試験の会場となるため、一定期間は立ち入り禁止というだけで、そのため、アカデミー自体が休みとなっただけだ。

 

(そう言えば確かに中忍試験があったな。すっかり忘れてた)

 

 期間は2週間ほどの短い休みだが、色々と試すにはよい機会だろう。秋休みについては当然ヒアシも知っており、その間は、アカデミー入学前と同じようにヒナタの鍛錬に当てるようだ。

 

 白の日向家での扱いだが、最初はヒナタの組み手の相手だったが、途中から完全にヒナタの世話役になっており、日向家の大多数からは疎まれているような状況だ。数年間いるのに未だに両者の間には溝がある。しかし、白としても別段その溝を埋める気はない。その内に日向家を出ようと考えていたからだ。

 

 そのための足掛かりとして、この休みの間に働き先を見つけることにした。身元が不十分でも、雇ってもらえそうなところを探すのに苦労しそうだが、2週間もあれば見つかるだろうと思っている。求人広告については既に情報収集済みだ。

 

 働くのは秘術を併用した水分身に行わせる。水分身を長時間維持することが出来るのは、今のところ3体が限界だ。精神エネルギーはともかく、肉体エネルギーが足りないのだろう。身体がまだまだ出来上がっていないので仕方がないが、それでも長時間維持できるということは、チャクラとしてはかなりの量を保有していることになる。

 

 その内の2体にて仕事をしてお金を稼ぐつもりだ。ヒナタはどうか分からないが、白は日向家からおこづかいを貰ったことは無い。衣類(鍛錬時のヒナタと同じもの)と食事と住むところを提供してもらっているだけでもありがたいのに、こづかいまで求めるわけにはいかないだろう。初めに籠の中を確認して、お金を持っていると判断されているかもしれないが、そこまでは不明だった。

 

(多分、本とかを購入するのにお金を要求しなかったから、持ってるとは思われてるんだろうな……)

 

 仕事の間、本体は基本的に日向家にて行動するつもりだ。そうしないと、白眼にていつ見破られるか分かったものではない。なので、本体が自由に行動できるのは午後のみとなる。その時間は、事前に里外れの近い場所にて、自己鍛錬にはよさそうな場所を見つけていたので、そこで鍛錬を行うつもりだ。

 

 途中アクシデントがあったものの、やっと秋休みに入り、午前中はネジとの組み手を行っていた。当然と言えば当然だが、上級生も秋休みだ。そのため、アカデミー内で秋休みに組み手をしないかと、手紙を通して伝えてきた。こちらとしては、体術のよい鍛錬になるのでいいのだが、伝える方法がこの場合は最悪だった。もうちょっと考えて行動をして欲しかった。

 

 その最悪というのが――――――

 

「ねぇねぇ白。さっき上級生の人から手紙を渡すように言われたんだけど。はいこれ」

 

 そう言って、女生徒から手紙を受け取り、さっと目を通す。手紙はネジからのものだった。

 

 内容は簡潔に、

 

 『秋休みの午前中に一緒に組手をしないか?』

 

 と、いうもので、返答は今日のお昼に屋上で返事を聞かせてほしいというものだ。

 

 手紙という手段を選んだのは、ネジは宗家に近づきたくは無いし、白が分家に疎まれていることを知っているので、宗家に出入りしている分家の人に頼むのも気が引けたのだろう。それに加えて、アカデミー内では白が、ヒナタと常に一緒に行動しているので、話をかけづらかったに違いない。

 

 素早く読み終わり、手紙を封筒に仕舞い直し机の下へと隠すと、それを覗こうとしていた女生徒から声をかけられた。

 

「もしかしてラブレター?」

「違うよ。ちょっとした用件が書いてあっただけ」

「そんなこと言って、実はそうなんでしょ? ちょっと見えたけど、返事をしてくれって書いてあるのが見えたんだから!」

 

 なにやら興奮し始めて大きな声を出し始めた女生徒に、教室内に居た周りの生徒も気になったのか、何事かとこちらへと顔を向けてきた。

 

(勘弁してくれ)

 

 白としては、そう思わずにはいられない状況だ。変に目立つような行為は避けたかったのにこれである。

 

「本当に些細な用件だから」

「それだったら、その手紙ちょっと見せてよ」

 

(これを見せると、尚更変な風に捉えられなくもないし、かと言って見せないと誤解が広がるし。どうしよう……)

 

 しばらく悩んでいたが、人の噂もすぐに消え去るだろうと思い、後者の考えを選択することにした。それに、手紙の中にはネジと差出人の名前が入っている。ヒナタも、ネジのヒナタに対する視線には気づいているはずなので、迂闊にここで名前を出されるのもまずい。

 

「ちょっと、この手紙の内容を見せることは出来ないかな」

「やっぱりラブレターなんじゃない! みんなに教えてあげなくちゃ!」

 

 そう言うと、その女生徒は、白が何かを言う前に、他の女生徒へと手紙について話に行ってしまった。それに合わせて、教室内は、またざわざわと騒がしい元の状態に戻ったが、聞こえてくる内容のほとんどは、先ほどの会話の内容だった。心の中でこんなことをしてきた、相手―――ネジに対して怒りがわいてくる。

 

(おのれネジの奴め! いつか絶対仕返ししてやる!)

 

 いつもの笑顔を保ちつつも、思わず机の下に仕舞った手紙を握りつぶしてしまっていた。そんなことを白が考えているとはつゆ知らず、ヒナタから声を掛けられる。

 

「上級生に知り合いがいるなんて、白は凄いね」

「そうでもないんだけどね(知り合いと言ってもネジしか居ないんだけど)」

「えっと……。さっきの手紙だけど、やっぱりラブレターだったの?<白は綺麗だしね>」

 

 ヒナタもやはり気になっていたようだ。まあ、あれだけ横で騒がれれば気になって仕方ないかもしれない。しかし、ヒナタから言われるとは心外だった。ヒナタは白が男であると知っているはずである。鍛錬の組手の時に、受けが重点的になるようになってからは、一緒に風呂には入っていないが、分かっているはずである。最後のヒナタがボソリと言った言葉がとても気にはなるが……。

 

「それは絶対に違うと言い切れるんだけど、内容をここで言うわけにはいかないのが、つらいところかな」

「いつでも相談してね。私に応えられるかわからないけど……」

「そんなことはないよ。悩みっていうのは、1人で抱え込むより、誰かに言うことで楽になることもあるんだから。例え答えが返ってこなくてもね。<内容次第だけど>」

 

 そんなことで昼休みに、ヒナタには水分身を付けて、ネジへと文句を言うべく屋上へと向かう。この時には既に仕返し内容を決めていた。

 

 屋上では手すり付近にてネジが待っていた。そこへと近付いていくとネジの方から声を掛けてくる。

 

「思っていたよりも早く来たな。いきなり呼び出してすまない」

「そんなことより、よくもやってくれたね、ネジ」

「何のことだ?」

「ネジはもう少し頭が良いと思っていたのに、考えなしであんなことをしてくるなんて思ってもみなかったよ」

「内容がさっぱりわからないんだが?」

 

 ネジは本当に理解できていないようで、首を傾げている。

 

「手紙についてだよ。伝え方が間違っているとは言えないけど、その方法が間違ってる」

「つまり?」

「つまり……、あの手紙がラブレターだと、同じ教室の人に思われてるってこと」

「な……なぜだ? 内容は鍛錬についてだったはずだが……」

 

 ネジは白から伝えられた内容に、かなり動揺しているようだ。そのような意図で手紙を渡したわけでは無いのに、その結果が自分の思っていたものとは、全く違うことに影響していたのだから当然かもしれない。

 

「手紙を渡すっていう行為を、人に見られるっていうことは、それなりのことを考えないといけないんだよ。しかも見られるなら未だしも、その手紙を同じ教室とはいえ、よくも知らない相手に頼むから、さっき言った結果になってるわけ」

「手紙の内容を見ればそんな考えはなくなるはずだ!」

 

 動揺から立ち直ったのか、ネジは自分の書いた内容におかしいことは無いので、そのように思われることはないと思ったようだ。

 

「どちらにしても一緒だよ。手紙の内容を簡潔に書きすぎてる。あれだと秋休みの間一緒に居ましょうと捉えられてもおかしくない」

「……それもそうだな。すまない」

 

 どうやら、自分の書いた内容を思い出して、どういう反応をするのか考えたようだ。ネジの教室でも、女生徒は同じような話題にて盛り上がっているのだろう。

 

「まあそれはいいよ、今後気を付けてくれれば。それよりも、鍛錬の話ならこちらこそ喜んで受けるよ」

「そうか! それは助かる」

「でも、分家の強い人に頼んだ方がよくない?」

 

 実力的にいって、チャクラを纏っていない基本体術では敵わないので、こちらにしかメリットはないのだが、その辺りをどう考えているのか、白は気になってはいたのだ。

 

「そちらについては、午後から鍛錬してもらえるように頼んだ。だから、そのための午前中なんだ」

「そう言うことね。わかった」

「呼び出してすまなかったな」

「まあ、ネジがこういう風にして伝えてくる理由も大体分かるから、呼び出しに“関しては”気にしないでいいよ」

「何か含みのある言い方に聞こえるけど……、気のせいか?」

「それじゃあ戻るから、また」

「おい!」

 

 ネジが、こちらへと手を差し伸べるような形で固まったのを、横目でチラリと確認し、足早にネジを置き去りにしてその場から去っていく。

 

 この返事に関して、わざと同じ教室の女生徒に後を追わせていた。いつもヒナタと2人で行動をしている白が、1人で行動しているのを見れば、返事をしに行くと予想するだろうと思ったが、実際にその通りになってついてきたのである。

 

 声については、離れていたため、ほぼ聞き取れないはずだし、この最後の状況を客観的に見れば、白がネジを振ったように見えるだろう。それにいつまでも、彼とはどうなっただの、どこまで進んだなどと聞かれるよりはいい。

 

 ネジについては、告白したけど振られた、という噂が立つかもしれないが、いい気味である。

 

 溜飲を少し下げて、未だに慣れない女子トイレにて、水分身と入れ替わり教室へと戻った。

 

 これが、秋休み前に起こったことであった。

 


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