白物語   作:ネコ

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アカデミー
31 入学?


 初めてのアカデミーへの登校日。その日はいつもより早くに目が覚めた。

 

 入学のために特に興奮していた訳でもなく、いつも通りの時間に寝たにも関わらず、辺りがまだまだ暗い時間に目覚めた。

 

 無意識に、柄にもなく、アカデミーへの入学を楽しみにしているのかと、起きた時には思った。時間を確認すると、時刻は4時だ。起きるにはまだまだ早い。なぜこんな時間に起きたのだろうと、思った瞬間に、ハッとして辺りを警戒した。

 

 こんな時間に起きるなど、昔であれば他者からの攻撃もしくは、誰かが近付いてきた時だからである。

 

 しかし、特に誰かが近くにいるようなことはないし、どこかから攻撃が来ている訳でもない。それに、加えて自分の身体に異常もなかった。そのことに白は安心したが、それと同時に自分の警戒心があまりにも薄くなっていると気付かされた。

 

 日向家に来てからというもの、安全であると安心しきっていたことに思い至る。鍛練にて強くはなっているが、肝心の危機感が無ければ、今後の事を考えるにいつ寝首をかかれるとも限らない。

 

(完全に平和ボケしてるな……。あの感覚を取り戻さないと……。始めに明日からの、目覚まし代わりのトラップを準備でもしよう)

 

 目覚ましを改良し、音がなる代わりに、避ける等の行為をしなければ、物が身体に当たるような仕掛けを作成する。始めは物が当たる程度で、徐々に危険度を上げていけばいいだろうとの考えだ。

 

 仕掛けを終えたところで、起きるにはしばらく時間があった。明日からにしようと思っていたが、時間があるのであれば、試しておいてもいいだろうと、二度寝に入る。

 

 結果的に、仕掛けが発動する前に起きてしまい、効果を確認出来なかったので、なんとも言えなかったが、明日からに期待することにしてその日は始まった。

 

 トントンと、ヒナタの部屋の扉をノックして声を掛ける。

 

「ヒナタ。時間だよ」

「もう少し待って」

 

 今日の返事はいつもと違うものだった。いつもであれば、相手を待たせることなど無いのに、この時ばかりは「待って」と言ったのだ。少し意外であったが、自分の意見があるのであれば、少しずつでも遠慮せずに出させるべきだろう。

 

 本当に少しの時間でヒナタは出てきた。

 

「おはよう」

「おはよう。待たせてごめんね」

「あれを待ったというなら、ほとんどの人が待ってることになるから気にしなくてもいいよ。それより何をしていたの?」

 

 ヒナタを頭から足まで順に見ていくが、見た目は特に変化が無いように白には見受けられた。何か道具を持っていくのだろうかと思っていたが、今日は特に必要な物は無かったはずだ。そう疑問に思って聞いてみたのだが、恥ずかしそうに指を合わせるだけで、なかなか何も言おうとはしない。

 

 そうしてやっと出てきた言葉は。

 

「えっと……。変じゃないかな?」

 

 色々と言葉を省略しすぎていて、一瞬何のことかと思ったが、どうやらアカデミーへ行くのに、おかしいところがないか確認していたのだろう。同じ年齢の子供たちが来るのだ、そんな中で周りと違うかもしれないと不安になって、服をきちんと着れているのか確認していたのだろう。

 

 服については、鍛錬時の黒い着物のような服ではなく、白を基調とした服を着ている。この服に関しては、ヒアシは気にしていなかったようなので、あまり乗り気ではなかったが、物言いが嫌な男、日向コウに頼むことにした。そして買ってきたのが、白を基調とした服である。白の方で買っても良かったが、変に委縮されても困るので、日向家として買ってもらったのである。

 

 コウは、白に対しては厳しいので、会話自体が好きではないが、ヒナタに対しては結構甘い部分があるので、ヒナタ関連については頼みやすい。

 

「いつも通り大丈夫だよ」

 

 白にとっては無難な返事をしたのだが、ヒナタはその言葉にホッとしたようだ。何度かこの服を着て、休みの日に街へと繰り出しているので、見慣れており、逆にどこが気になるのか、白としては聞きたいくらいだ。

 

 しかし、白にとっては、色気よりも食い気である。ヒナタの気持ちが一段落した所で、ヒナタに声を掛ける。

 

「朝食を食べに行こう」

「うん」

 

 朝食を摂るために歩いていると、ヒナタから聞いてきた。

 

「白はその格好で行くの?」

「そうだよ」

 

 白個人としては、特におかしいところなど見当たらない。元々そこまで服にこだわりは無いし、動きやすければ良いと思ってるくらいだ。なので、安い服を見繕って購入し、そのままそれを着ている。

 

「いつも、休みの日に出かけてる服なんだけど、何か問題ある?」

 

 薄い青を基調とした服で、下は黒のズボンにしている。別段サスケをイメージしたわけでは無いが、色的には青が好きなのと、値段が安かったからである。確かに女としてアカデミーに申請されてはいるが、服まで女物を着たいとは思わない。今のところ選ぶ基準が、安い、着易さ、色、なわけだが。

 

「ううん。何でもないよ」

 

 その後は、アカデミーへと向けて行く前に、部屋にて髪を梳かされた。切らずに放置しており、特に手入れをしているわけでは無いのだが、髪は綺麗なままだ。

 

 小さいころに髪をヒナタが弄っていたので、そのままにしていたが、鍛錬が厳しくなってからというものそれも無くなった。あの頃に切っておけばよかったかもしれないが、そんなことを気にしてもいなかったので、そのままだったのである。それが、鍛錬の休みの日が出来てからというもの、時折こうしてヒナタが白の髪を弄ることが増えてきた。もしかしたら、あの頃を懐かしんでいるのかもしれない。

 

 ヒナタも満足したようなので、アカデミーへと3人で向かった。3人と言っても、白、ヒナタ、ネジではなく、もう1人は日向コウだ。初日と言うことで付き添として通学に限りついてきている。

 

 ネジにも一緒に行こうと思い誘ってみたのだが――――――

 

「ねえねえネジ。アカデミーに一緒に通わない? ここから出るのは一緒なんだし」

「それは構わないが、……ヒナタ様はどうするんだ?」

「一緒に行くよ。ヒアシ様からお世話をするように言われてるからね」

「……すまないが、2人で行ってくれ。よく考えたら、朝は鍛錬をするから時間が不規則になり待たせてしまう」

 

 ネジのそれは遠回しの拒絶だった。今の段階で、ヒナタと一緒と言うのは我慢できるものではないのだろう。しつこく食い下がっても、ネジは困るだけだろうと思い返事をする。

 

「気が向いたら声を掛けてね。大体8時ごろに出るつもりだから」

「ああ。分かった」

 

 極力、出る時間が被らないようにと、アカデミーへの出発時間を伝えておく。これで朝に気まずい状態の鉢合わせは回避できるだろう。

 

 そのようなやり取りがあり、結局は2人+付き人1人でアカデミーへと行くことになったのである。

 

 アカデミーへの道を通るにしたがって、どんどん子供たちが増えてきていた。保護者である大人も一緒にいるのだが、休みの日の特訓?の成果もあってか、ヒナタが白の背後に隠れるようなことは、ほとんどなくなっている。

 

 アカデミーへ着くと、アカデミーへの出入り口の扉の前に、人だかりが出来ていた。おそらくはあそこにいる人たちが今回の保護者なのだろう。ほとんどが女性のようで、世間話でもしているのか、いくつかのグループになって話し込んでいる。

 

 子供たちの方はと言うと、みんなバラバラだ。保護者の近くに居たり、グループで遊んでいたりと、これからこの子供たちと、付き合うことになるのかと思うと溜息が出そうになる。

 

「ではヒナタ様。本日のアカデミーへの入学式が終わりましたら迎えに上がります。<白はそれまでヒナタ様のお世話だ。分かっているな>」

「<もちろんです>」

「それではヒナタ様、失礼します」

 

 白へと、ヒナタへは聞き取れないようにして、小声で伝えてくると、ヒナタへと挨拶をして早々に屋敷へと戻っていった。

 

「ここで立っていてもなんだし、中に入ろう」

 

 ヒナタの手を引いてアカデミー内に入る。今年のアカデミーへの入学人数は40人のようで、2クラスに別れるのだが、白はヒナタと同じクラスに配属されていたし、席についてもお隣同士になっている。

 

 ここまで露骨にされると、裏でアカデミーに対して、日向家が掛けあったとしか思えない。

 

 教室内には既に数名が座っており、その中にうちはサスケもいた。後ろからしか分からないが、1人物静かに座っているところを見るに、格好つけてるつもりなのだろう。

 

 この段階で、白はサスケがどの程度動けるのか見てみたくなり、何かないかと教室内を探すが、目ぼしいものは見当たらなかった。

 

 分からないように机の下にて印を組み、小さな氷の粒を作成する。それを上に放り投げた。小さな氷の粒は、放物線を描くようにサスケの頭へと向かい当たる。

 

 サスケは頭を触り、周囲へと目を向けるが、こちらはヒナタを見ている振りをしているため、気付かなかったようだ。

 

(現時点ではネジの方が実力が上かな? まあ、アカデミー内で気を張ってる生徒なんていないかもだけど……)

 

 そんなことを考えていると、どんどんと生徒が増えてきた。しかし、まともに席についているのは少数で、他は教室内にて遊んでいる。ヒナタはと言うと、緊張の為か、下を向いて大人しくしている。

 

 白としては、周りの生徒に大人しくしていてもらいたかったのだが、言ったところで無駄だろうし、変に目立つ真似もしたくは無かったので、時間になるまで、他の生徒の観察を行うことにした。

 

 結局のところ、原作の主要メンバーは同じ教室になったのだが、時間になってもナルトは来なかった。時間になり、先生が入ってきて出席をとっていた頃に、廊下をドタドタと走る音が響き渡る。

 

 そして、この教室の扉を盛大に開いて、大声での第一声が。

 

「うずまきナルト参上だってばよ!」

 

 遅刻した上に堂々と名乗りを上げる勇気はさすがだと思うが、周りは誰も反応せずに沈黙が流れている。先生は忌避の目を隠そうともせずに、席を指示して座るように言った。

 

 それでもナルトは何やら、文句というか、みんな自分に恐れをなしてるなどと喚き散らしながら自分の席へと座った。そこで、一安心したのか本音がボソリと漏れたのが聞こえた。

 

「<いきなり寝坊しちまったってばよ>」

 

 白の位置は、上り階段を挟んで反対側の机の一番近い側に居る為、その声が辛うじて聞こえたのである。いきなりの言葉に笑いそうになるが、それを堪える。寝坊を誤魔化すためにしたのか、それとも自分を印象付けるためにしたのか分からないが、お笑いとしてみる分には面白いだろう。こちらに被害が及ばなければだが……。

 

 先生からは軽く話があり、そこから自己紹介を行った。自己紹介でも簡単に済ませる子もいれば、長々と話し出す子もいる。

 

 簡単に済ませたのは言うまでもなくサスケで、名前だけしか言ってない。逆に長々と話していたのはナルトで、途中先生に席に戻るように言われるまで続いた。流石に自分の好き嫌いまでならいいが、何故か誇らしげに、自分がいままでしてきたことを話し始めた上に、その内容がイタズラに関することばかりだったのである。

 

 どこが誇らしいのか全く分からないが、ナルトのこの頃はこんなものかと思い直す。話の途中で遮られたのが不満なのか、文句を言いながら席へと戻っていった。

 

 それからは入学者全員が集まり、その前で3代目火影の挨拶が行われた。なにやら良いことを長々と言いそうだったが、そこでやってくれたのがナルトだった。話の途中で声を出してぶった切ってくれたのである。この時ばかりは、ナルトに拍手したい気分でいっぱいだった。こういう場面での長い話は苦手である。

 

 その後、ナルトは先生に取り押さえられるも、火影の一言で離され、火影の話は手短に終わった。

 

 内容は簡単に言えば、頑張って立派な忍びになるように、といったようなものだ。意思とかその辺の事を言ってくるかとも思ったが、この年の子供に言っても、理解できるか怪しいところだから言わなかったのかもしれない。

 

 話は終わり、該当の教室へと戻り、明日からの注意事項を話してから、その日のアカデミーの入学式は終了となった。

 

「ヒナタ。終わったし帰ろう。コウさんが待ってるよ」

「うん」

 

 ヒナタの生返事におかしいと思い、ヒナタの視線を追うと、そこにはナルトが黒板に落書きしているところだった。

 

「ナルトっていう名前みたいだね」

「うん」

 

 相変わらずの生返事に、このままでは駄目だと思い、顔の前で猫騙しをして正気に戻らせ再度伝える。

 

「外でコウさんが待ってるから行くよ」

「あっ! ごめんね」

 

 それからヒナタを連れてアカデミーを出ると、日向コウが待っていた。

 

「ではヒナタ様帰りましょう」

「はい」

 

 いつも通り、コウはこちらを一切気にせずに、ヒナタにしか声をかけない。こちらへの声かけは、注意するか、ヒナタ関係のことばかりであった。白としては、こちらへの干渉さえしてこなければ、いい人なのだが、干渉してくるので、好きではない。

 

 この日からやっとアカデミーへの入学が出来た。白としては、本屋にて売られていないような内容の本が置いてあることを願うばかりだった。

 


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