白物語   作:ネコ

30 / 115
30 休み?

 退院してからというもの、日々の鍛錬にてヒナタが大怪我をすることは無くなった。

 

 いつも疲れ果ててはいるが、特に目立った外傷も見当たらないことが増えてきている。きっと入院したことで少し元気になっていたことから、よい息抜きが出来て、成長しているのだろうと思い、鍛錬が終わった後、いつも通りヒナタの話し相手をしている。入院してからというもの、押し花が好きになったのか、屋敷内の庭に咲いている花を押し花にして、よく見せてくる。趣味が出来るのはいいことなので、相槌をうちながら、もっと色々な花を押し花にしてみてはと薦めていた。

 

 それが出来るような余裕が生まれたのも、今まで毎日鍛錬に費やしてきていたのものが、週に1度だけ、鍛錬に休みの日が挟まれるようになったからだ。

 

 白と同じで、午後だけという条件付きで、しかも最低でも白と一緒というものだったが、外出の許可も下りている。ヒナタが入院をしたことで、ヒアシに心境の変化でもあったのだろうか、それとも何か幻術でも掛けられているのかと疑ってしまう。ヒアシに幻術を掛けれるような者がこの屋敷内にいるとは思えないが……。

 

 退院後、定期的に呼ばれていた日にちよりも、少し早い日程でヒアシに呼ばれて、ヒナタと組手を行った。そこで初めて、ヒナタの日々の怪我の度合いが少ない原因が分かった。

 

 入院時のような怪我を恐れてなのか、ヒナタの方から攻撃をしてくることが、少なくなっていたのである。前はこちらの打ち込みに対しても、少しは反撃しようとしていたのだが、それがほとんどなくなり、攻撃を捌く防御の方に重点をおいたものとなっていた。これならば確かに、攻撃時の隙も少ないので、怪我をするリスクは低くなるだろうが、自らが攻撃しないといけないような場面に遭遇したときに、困ることになるだろうことは目に見えている。

 

 途中途中でヒアシはどう考えているのだろうかと思い顔を見るが、その表情に変化はない。ただ2人の組手を見ているだけだ。今までであれば、あれこれと指摘、指導をしていたと思うのだが、今回はそれもない。訝しみながらも、組手をやり終え、その後はいつもと同じように過ごした。

 

 初めてのヒナタの休みの日の前日に、ヒアシからヒナタ共々呼び出されて、週に1度鍛錬を取りやめて、休みとする旨が伝えられた。本来であれば、毎日鍛錬するのではなく、休息を入れることが大事なことなので白としては今更感が強かったのだが、ヒナタはそうではないようで困惑しているようだった。

 

 話はそれだけだということで、ヒナタだけ先に部屋へと戻るように言われて、白のみ部屋に残される。

 

「4月よりアカデミーにヒナタと共に入学してもらう。それに伴う書類などは、こちらで作成して提出してある」

「(アカデミーには通えるみたいだ)ありがとうございます。できればでいいのですが、その書類を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「そうだな生年月日など不明部分は、こちらで埋めてあるので、その辺りを覚えておく必要があるだろう」

 

 そう言って、1枚の資料を執務机の上から取り出すと、こちらへと渡される。そこには、名前、住所、生年月日など些細な事柄しか記入されておらず、最後にアカデミー入学に関する説明文の下に、責任者の署名が記されているだけだった。署名の欄には日向ヒアシと記入されている。

 

 ただ、この書類にて納得できないことが1つあった。生年月日については、これを記入した日なのだろう。1月9日と記されており、別段いままで気にもしてなかったのでいいのだが、その次の項目に問題があった。

 

「1つだけお聞きしたいことがあります」

「なんだ?」

「私の性別は男です。しかし、ここには女として記入してありますが、理由があるのでしょうか?」

「…………。ヒナタの世話をするには丁度よかろう。何か問題はあるか?」

「いえ……。ありません(最初の沈黙と取ってつけたような言い訳……絶対男だと思ってなかったな!?)」

「話は以上だ」

「失礼いたします……」

 

 白は、アカデミーに通わせてもらえることに関しては、嬉しく思っていた。元々そういうつもりでいたが、金銭面などの事もあり、なかなか言いだすタイミングが取れずにいただけに、ヒアシの方から言ってくるとは思ってもいなかったのである。

 

 しかし、まさか女として申請されているとは思っていなかった。確かにヒナタの近くに居る分には、女として申請しておいた方が都合がいいのは確かだろう。確かアカデミーでは、くノ一としての授業があったはずだ。ヒナタの性格からして、1人で行動していた可能性が高い。女友達でも作れば、多少は明るくなるだろう。そう思い込み、無理やりに自分を納得させながら、白は部屋へと戻った。

 

 次の日になり、最初の休日ということで、街中の案内をすることにした。鍛錬が無いということで、部屋にてどうしようかと悩んでいたようだ。もし、白が誘わなければもしかしたら、1人で鍛錬を行っていたかもしれない。

 

 そんなヒナタの気分転換もかねて、やや強引に連れだしたのだが、今までほとんど外に出たことのないヒナタにとって、街に恐ろしいイメージでもあるのか、人とすれ違うたびに、白の背後へと隠れて服を掴んでしまう。

 

 何故かと思い、ヒナタの顔を窺うと少し震えているのが分かる。よくよく考えれば、1度攫われたことを思い出した。もしかしたら攫われたことで、大人に対する対人恐怖症にでもなっているのかもしれない。こればかりは、このまま隠れてばかりではしょうがないが、その内に慣れてくることを祈るしかない。

 

 そうして人避けのようにして歩きながら、よく行く店舗などを回っていく。本屋などはもちろんのこと、押し花が好きそうだったので、ヒナタへの入院の見舞い用に、よく買いに行っていた花屋なども紹介していく。

 

 花屋には特に興味があったようで、少し長めにその店に居てしまっていた。結局、長時間いたにも関わらず、押し花用に1輪の花を購入しただけだった。お金を持ってきていないヒナタに、何度も謝られたが、安い上に1輪であるので、謝られると逆に白の居心地が悪くなってしまう。そのため、誕生日プレゼントということにして受け取って貰った。ヒナタは、不思議そうに首を傾げるばかりだ。なぜ誕生日が理由なのかが分からないようだった。

 

(そう言えば日向家に来てから、誕生日を祝ってるところを見たことないな。生まれた時は盛大に祝ってたのに。こちらの世界では誕生日は祝ったりしないのかな?)

 

 そんなことをして街を回っているうちに、1日という休日の時間はすぐに過ぎていった。

 

「1日ではさすがに全部は回りきれないから、また来週に行こう。そろそろ言われてる時間に近くなってきたし。今日の最後にどこか回っておきたいところはある?」

「ううん。特にないよ。ありがとう」

「それなら、最後に来年度から通う忍者アカデミーを見てから帰ろう」

「うん」

 

 これから通うことになるアカデミーをヒナタに見せておくのもいいだろう。そう思い、その日の最後にアカデミーへと向かった。

 

 そして、もうすぐアカデミーに到着するといったところで、まさかの人物―――ナルトがいた。ナルトは、木から吊るされたブランコに、1人でポツンと静かに座っていた。この時期から既に、周りの視線。忌避に気づいていたのだろう、覇気というものが全く感じられない。

 

 ヒナタもその姿が気になったのか、そちらの方を見ている。しかし、白が止まらずにアカデミーへと進んでしまっているので、止まれずにいるようだ。

 

(ここで関わってもなあ。ナルトには悪いけど、今はヒナタだけで精一杯なんだよね。アカデミー内なら多少はいいけど、休日まで関わると遊び相手で終わりそうだし……。それに、ここで変に関係もったりすると、我愛羅とか今後の関係で変なことになりそうだから放置確定っと)

 

 ヒナタが、ナルトの事を気になっているのは分かったが、そういったことを気にせずに、アカデミーの場所と、どのような施設があるのかの説明をヒナタへ行う。

 

「ということで、アカデミーについての説明はこんなところかな。後はここから、日向家までの道を覚えればいいだけだよ。何か質問はある?」

「ないよ。でも……、あの……」

 

 アカデミーに関する質問は無いようだが、ヒナタはチラチラとナルトの方を見ながら、言い淀んでいる。自分でも何をどう言ったらいいのか分からないのだろう。

 

 白としても、ただあそこにいるだけのナルトに、一体何が気になるのか分からなかった。なかなか続きを言い出さずに時間だけが過ぎていく。

 

「ヒナタが気になってるあそこの子もそろそろ帰るだろうし、見た感じ僕たちと同じ年くらいだから、アカデミーでその内会えるよ。それよりちょっと急いで帰ろう」

「うん。そうだよね。また会えるよね」

 

 そう言って急ぎ帰るが、人通りが少なくなったとはいえ、途中で服を掴んでくるので、仕方なくヒナタを背負い、急ぎ屋敷へと帰って行った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。