白物語   作:ネコ

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28 誕生?

 ヒアシとのマンツーマンによる指導になってからというもの、日が経つにつれて、ヒナタが精神的に少しずつ弱っていっているのが分かった。終わった後に、励ましの言葉や、次の日への負担を減らすための治療も行っているが、効果が薄い。

 

 気になって、どのような鍛練をしているのか聞いてみたが、教えてはくれなかった。教えたくないというよりも、思い出したくないが正解だろうか。

 

 毎日痣や擦り傷、切り傷はあるが、軽傷ばかりなところを見るに、手加減はされているのがわかる。その為、内容的には変わっていないのだろうと推測するしかない。

 

 性格を少しでも前向きにするために、現状ではヒナタに、このまま持ちこたえてもらうしか無いだろう。メンタルケアなどしたことはないし、もう少しすれば、妹が生まれるはずだ。それで、鍛練からは解放されるだろうから、そこから少しずつでも改善していけばいい。今は現状維持か、下がり幅を小さくすることだ。

 

 白の方は、晴れていれば午前中にネジのもとに行き、体術の鍛練を行っていた。チャクラ強化なしで、ネジの方も純粋に体術だけの組手だと、気の抜けない良い勝負になるので、双方ともに有意義なものとなっている。

 

 ネジの、宗家に対する想い、と言うか憎しみのようなものは変わらないようだが、白に対する対応が変わっただけでも、付き合い的に楽だ。ネジに本当のことを話そうかと何度か思ったが、もしそれを信じて、今のやる気を妨げると、それが悩みの元になり弱くなってしまうのでは?と思い、話してはいない。

 

 午後からは、鍛錬以外でも日向家にある本を読むことにしているのだが、目ぼしいものは一通り読んでしまっていた。約1年もいれば、十分に読める物量しかなかったとも言える。と言うよりも、知りたいと思っている、忍術や医療、薬学に関する本があまり無いのだ。別の場所に保管されているとは思うが、最初に案内されたときに、閲覧可能なのは、この部屋と言われたことから、白が見たいと思っている本や巻物のある部屋については、他者が見ることが出来ないものが置かれているのだろう。そこへ、興味があるので見せてほしいなど言えるはずもない。

 

 今は、忍術、肉体の鍛練、と覚えたことの復習を行っている。忍術の改良についても行いたいが、そこまでの具体的な案が出来てないうえに、部屋でやるには狭いということもある。

 

(当面はこの生活を続けるしかないか)

 

 日々の鍛練で強くなってきているのは分かるのだが、実戦でどこまで通用するのかが分からないのが、今のところの一番の不満な点だろう。ヒアシの、ヒナタに対する個人指導が始まってからというもの、ヒアシとの手合せを全く行っていない。たまに稽古場へと呼ばれて、ヒナタとの組手という名の模擬戦を行っている。しかし、白とヒナタの力量が、逆に差がひらいているようようだ。ヒナタ自身も進歩はしているのだが、どうやら白の方が進歩の幅が大きいようで、その日は一段と、午後からの鍛錬でボロボロになっているヒナタを介抱することになる。

 

 

 

 そのような日々が約2年過ぎた。

 

 ネジに関して言えば、体術で白はネジに負け越している。いくら日向一の天才といえど、そうそう離されないと思っていたのだが、その認識は甘かったようだ。言い訳かもしれないが、柔拳に日々を費やしているネジに対して、白の方は忍術などの他のものにも手を出しているので、差が徐々にひらいているのが分かった。チャクラを使用しようかと考えたこともあるくらいだ。

 

(ヒナタも僕に対してこんな感じで考えているのかな?)

 

 差がひらいていくと言うのは、あまりいい気分ではない。しかも、ヒナタに関してはネジと同じように、おそらく柔拳のみを鍛錬しているはずだ。このような思いや考えは白よりも更に上だろう。

 

 そのヒナタだが、性格はなかなか変わらない。むしろ、白との模擬戦にて自信を失っていると言ってもいいだろう。ただし、最近では体力がついてきているのか、怪我の程度については以前のままだが、自分の足にて部屋へと戻れるくらいにはなっている。今ではヒナタの部屋にて話が出来るくらいだ。白が読んだ本の内容を話して、それに対しての使い方や考え方の意見交換のようなものだが、ヒナタに鍛錬の事を忘れるには良い気分転換になっているだろうと、今まで読んでいなかった物語の本なども読むようになっていた。

 

 ある日、ヒナタの方から先に話してきた。いつもであれば、白の方から話すのに、ヒナタからと言うのは珍しいことだ。その話の内容は、ヒナタがいま抱えている悩みだった。

 

 その内容を聞いて白は、ヒナタの考え方に対して、自分の思い違いであることに気が付いた。ヒナタは、鍛錬が嫌なのではなく、父親に認められたい、褒められたいという思いがあり、自分の成長が、父親の期待に応えられていないことに自己嫌悪に陥っている、というものだったのだ。そのことで、日々の鍛錬に対して、後ろ向きな考えになっていってしまっているようだろう。

 

(内容的には強くなればいいだけなんだけど、それはもうすぐ叶わなくなってしまう。いっその事割り切ってもらうしかないけど、これはマズイかも……。取り敢えず今は無難に声を掛けるしか思いつかない)

 

「今は、自分に出来る最大限の事をやればいいと思うよ。ただ、無理をして身体を壊しては意味が無いから気を付けてね」

「……うん」

 

 現状でもヒナタは、精一杯頑張ってはいるのだろう。それが報われないと、白には分かっているだけに、いまは単純な励ましの言葉しか出すことが出来ない。

 

 そして、とうとうその日がやってきた。

 

 ヒナタの妹が生まれたのである。

 

 その日は鍛錬もなく、日向家は盛大に祝っていた。新しく生まれた家族に対して祝うのは当然かもしれない。この日ばかりはヒアシも険しい顔を嬉しそうに笑顔にしていた。ここにきてから、初めて見た顔だ。

 

 みんなが嬉しそうに笑顔で祝っている席の中。ネジは欠席のようで来ていなかったし、ヒナタの方を見ると、微妙な笑顔を浮かべている。笑顔なのだが、少し引き攣っているような感じと言うべきだろうか。

 

 ヒナタの視線の先を追うとヒアシの姿が目に映った。ヒアシのあのような顔を見るのは久しぶりなのだろう。しかも、その笑顔は、自分に向けられたものではなく、他の者―――自分の妹に向けられているのである。祝ってあげたいが祝いたくない、嫉妬のようなものだろう。

 

 その次の日から、鍛錬の内容が変わってきたようだ。いつもであれば、ヒナタ自身にて歩く体力が辛うじて残るくらいなのだが、昔と同じように床へと倒れてしまっていた。そして時には、いままで軽傷の打ち身で済んでいたものが、骨が折れていたりと様々だった。

 

 極めつけは、夕方に迎えに行ってみれば、稽古場には誰も居らず、部屋へと戻ったのかと思いヒナタの部屋へと行ってみるも居なかったので、仕方なくヒアシの部屋へと訪れたのだが、その時に、ヒナタが入院していたことが分かった。

 

「失礼いたします。少々よろしいでしょうか」

「なんだ?」

「ヒナタ様は何処でしょうか?」

「木ノ葉病院に運んである。数日もすれば、すぐに退院してくるだろう」

 

 ヒアシが最初何を言っているのかすぐに分からなかった。ここ最近の鍛錬がおかしいとは思っていたが、入院までいくとなると、明らかに今までの鍛錬に比べてやりすぎである。どのような内容をしていたのか聞きたくなり、我慢できずに訊ねてしまっていた。

 

「何をされていたのかお聞きしても構いませんか?」

「話すことはない」

 

 ヒアシには、鍛錬の内容を話す気は無いようで、対応自体も素気ない。これ以上聞いても、機嫌が悪くなるだけだろうと判断し話題を変える。

 

「失礼しました。それではその数日間ですが、鍛錬は無いようですので、買い物をしてきてもよろしいでしょうか?」

「何を買う?」

「閲覧可能な本について一通り読み終えましたので、本などでも購入しようかと」

「その程度なら構わんが、日向家に泥を塗るような行為をすれば……分かっているな?」

「勿論です」

「話が以上なら下がれ」

「失礼いたしました」

 

 ヒアシの部屋を後にして、白は自室へと戻った。自室に戻ってからは本に載っていた地図を見直す。この屋敷から出たことが無いので、木ノ葉病院というのが何処にあるのかが分からない為だ。

 

 ヒアシには本などを買いに行くと言ったが、見舞いにも行く気だ。ただ、見舞いに行くと率直に言っても通じない可能性があったので、自分に必要なものを買いに行くと言う名分に変えた。実際に本は読み終えていたので、購入したいと思っていたし、忍具についても見ておきたいということもある。一番は早く屋敷の外へ出たいという考えかもしれないが……。

 

 次の日。朝食を食べ終えて、籠からお金を取り出し街中へと向かうべく玄関へと向かったのだが、玄関を出る際にまた例の煩い男にあってしまった。事前にヒアシへと話してあったので、渋々とだが認めた。ただし、またしても条件を付けられてしまった。出るのは昼以降からで、いつも鍛錬が終わる時刻である夕刻までに戻るように言われたのである。

 

 日向的には、一応白を保護しているので、屋敷内ならともかく、街中でなにかされれば日向の名に傷が付くというのは理解はできる。しかし、納得はできなかった。午前中ではなく午後なだけ、時間的にはマシだったかもしれないが、1日外で探索も含めているつもりだったのに、それをこうも潰されては、この男に殺意を抱かずにはいられない。

 

(こうも運が無いとは……、この男が居なくなれば多少マシになるのかな?)

 

 漏れ出そうとする殺意を抑えて、笑顔にて対応して部屋へと戻り、自分自身を落ち着かせる。

 

(こんな時はネジと組手しよう。確か今日はアカデミー休みのはずだし。それに身体を動かして気分転換したい……)

 

 それから、午前中にネジを見つけて組手をした。完全に負けはしたがすっきりし、モヤモヤとした気分は無くなっていた。

 

「今日は何かあったのか?」

「なぜそう思ったの?」

 

 ネジとの会話は、途中から敬語を使う必要はないということで、ネジに言われて、今では普通に年齢を気にせず話をしている。

 

「最近、白の方から来ることが少なかったのもそうだが、今日の組手で、始めの方の動きが雑だった」

「それはネジがアカデミーに入ったから誘いにくいんだ。今日の組手に関しては、ちょっと嫌なことがあってね。気分転換に身体を動かしたかったんだよ」

「俺は気分転換でしか誘われないのか……」

「そこまでは言わないよ。でも、この前もそうだけど、今日も明らかに手加減してるよね? 実力がひらきすぎると鍛錬にはならないし、むしろ個人でやった方がいいと思うよ」

 

 この手加減についてはすぐにわかった。ネジは、白の速度に合わせて組手を行っているのである。時期的には、忍者アカデミーに入学してしばらくしてからだろうか、それが顕著に表れ始めたのは。

 

 格下相手に合わせてやったところで、伸び代は小さいだろう。それよりも個人で鍛錬するか、実力が同程度、もしくはほんの僅かでも上の者とやった方が身になるはずだ。

 

「そんなことはない。俺の周りでついてこれているのは白だけだ。アカデミーにも少しは期待していたが、そんな奴はいない」

「ついていけてないから言ってるの。そろそろ時間だから行くよ。また誘うかもしれないけどよろしくね」

「ああ。またな」

 

 白は木の葉の里に来てから、初めての外出に再度気分を高揚させて、お昼ご飯を食べるべく宗家の屋敷へと戻っていった。

 


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