白物語   作:ネコ

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27 ネジ?

 ヒアシの任務内容は不明だが、しばらく空けると言っておきながら、結局1週間ほどで戻ってきてしまった。白としては、最低でも2週間は戻ってこないと思っていただけに、かなり短く感じてしまう。ヒナタにとっては、1週間といえど、束の間の精神的休憩になったかもしれないが……。

 

 その間のヒナタの成果と言えば、水分身2体での、前後からの攻撃であろうと、対応できるようになったことくらいだろうか。本来であれば、もっと数を増やしたいところだったが、手数が増えると、どうしても対応できなくなってしまっている。

 

 1週間前よりは成長しているのだが、如何せんネガティブ思考のせいか、自信を持てないでいるようだ。ヒナタ自身が、成長しているのを認識しているのにも関わらず、自信を持てないという、白にとっては理解しがたいことだった。

 

 ただ、ヒナタだけの鍛錬をするだけではなく、白自身もヒアシの居ぬ間に、柔拳についての対応策を試していた。白の脚に柔拳を使ってもらい、それを治療するというものだ。

 

 脚に触れられた瞬間、一気に力が入らなくなった。今までチャクラにて強化していた身体が、強化していたチャクラが無くなったことにより、素の状態になったのがよくわかった。脚と言っても太腿の部分だったのだが、そこから先へのチャクラ供給すら出来ないようだ。ただし、チャクラが供給できないだけで、筋力さえあれば普通に移動することは出来た。

 

 ヒナタに礼を言いって寝かしつけ、寝たのを確認してから自分の部屋へと戻り、医療忍術を使用する。今までは、外傷に対する治療は行ったことはあるが、このように、内部のことに関しては初めての試みであるので、うまくいくのかが分からない。原作では数日で治っていたようなので、もし治療出来なかったとしても、自然と治るだろうと、ヒアシの居ないこの時に実施することを決めたのである。どれくらい不在期間があるのかが不安だったが、その時の言い訳についても考慮してるので、大丈夫だろうと思っている。

 

 一応その日の内に、治療することは出来たが、無駄に時間とチャクラを使用してしまうため、受けないことを前提にした方がいいと再度認識する。今回は、治療できることが確認できただけでも十分だろう。ただ、これが腕などの、治療する際に必要な部位に、受けてしまった時をどうするかが問題だが、その時は逃げようと心に決めた。そこから無理に攻撃しても不利なだけで、最悪死ぬ可能性すらある。勝てる可能性が薄い時点で、結局は最初から逃げる気満々なのだが……。

 

 ヒアシが戻ってきて最初に行ったのは、どのような鍛錬を行ったのかを確認することだった。

 

 水分身の術を2体作りだし、ヒナタと双方ともに構えて、ヒアシの合図とともに開始する。この構えの段階で、ヒナタがかなり緊張しているのが分かったが、合図が発せられた以上、白には止めることは出来ない。水分身は二手に分かれて、手始めに左右から同時に攻撃を行う。

 

 ヒナタが、本来の実力を発揮できれば、この程度の攻撃は全く問題無いはずなのだが、緊張のせいか未だに動きが鈍く、回避するのが精一杯といった感じだ。しかも、少しではあるが、水分身の攻撃を受けている。

 

(父親が居ると居ないとで、こうも違いが出るとは思わなかったな)

 

 やっとのことで、ヒナタは1体目の水分身を倒した。それを確認し、再度水分身を作り出して攻撃をさせる。その後、少しだけ時間が経過したのちに、ヒアシは止めるように言ってきた。

 

「もうよい。やめよ」

 

 ヒアシの失望したようなその言葉で、水分身を下げさせる。多対一の経験を積ませるという意味では、1週間と言う短い間で、2人掛かりに対して対応できただけでも、良いとは思うのだが、ヒアシにはお気に召さなかったようだ。

 

(こんな予定じゃなかったんだけどなあ。分身でもいいから、変化したヒアシさんを置いておくべきだったか)

 

 それほど時間が立っていないにも関わらず、ヒナタは既に息を乱していた。昨日の時点であれば、この段階では息を乱すことなど無かったし、攻撃を受けることもなかった。今回見ている限りでは、緊張により動きが鈍くなり、それによって動作が後手に回ってしまう上に、その焦りによって防御が疎かになり、水分身の攻撃を受けるという悪循環が出来上がっていた。

 

 ヒナタにとって悪いことは続くもので、ヒアシの次の言葉でヒナタは硬直してしまう。

 

「明日より私が鍛錬を行う。白は定期的に鍛錬に呼ぶので、その心積りをしておけ」

 

 以前よりも動きが鈍くなっているように感じたのだろう。ヒアシ自ら徹底的に鍛えるようだ。ただそうなると、白はその間どうすればいいのかが不明である。

 

「私はその間どうすればよろしいでしょうか?」

「以前と同様でも構わぬが、もし鍛錬したいのであれば、分家にネジと言う者がいるので、そちらと鍛錬せよ。話は通しておく。ただし、午前と午後の終わりの時刻にはここへ参れ」

「分かりました。ありがとうございます(ネジと鍛錬かあ、あんまり気が進まないなあ……。ネジの父親の関係で、ネジを鍛えろってことなのかな? まあ、一度会ってみないとなんとも言えないか。でも点穴は受けてみたいな、現状で天穴なんて突けないだろうけど……)」

 

 少々考えごとをしながらも、ヒアシの居た時と同じ通常の鍛錬に戻った。今までの速度と違うためだろう。ヒナタは、水分身の方の速度に慣れてしまっていたせいか、全く白の攻撃に対応できていなかった。

 

 それを見ていたヒアシは、更に表情を険しくしているように見える。ヒナタはその表情を見る余裕さえ無く、最初の緊張は無くなったが、いまは攻撃を避けるだけで必死なようだ。結局は避けれずに攻撃を受けている訳なのだが、ここで手加減をすれば、ヒアシから叱責を言われるのは目に見えているので、そうすることすら出来ない。

 

 この日は、いつもより早めに終わることとなったが、内容としては、気を失っても無理に起こして続けさせ、立ち上がることさえ出来なくなるまで行われた。

 

 次の日。いつもより更に元気のないヒナタを稽古場へと送り出し、早速分家の屋敷の方へと向かう。ヒアシが話を通しておくと言った以上、早めに会っておくに限る。

 

 屋敷を繋ぐ橋を渡り、分家の方へと向かう。今回は誰に咎められることなく通ることが出来た。

 

 ネジの捜索をするべく外周の廊下を回っていると、庭にて子供が鍛錬しているのが見えた。この歳で日向家にいるのは、ヒナタとネジくらいのはずなので、あそこで鍛錬しているのはネジで間違いないだろう。

 

 そこへ近づいていくが、ネジはこちらの存在に気付いていないのか、鍛錬を止める気配が無い。

 

 折角集中して頑張っているようなので、ひと段落つくまで廊下に座り、その鍛錬の光景を眺めることにした。ヒナタよりも年上ということもあるのだろうが、型の速度は早く、仮想敵?に対して攻撃しているように見える。相手は大人であったり、子供であったりと様々だ。

 

 一通り倒し終えたのか、それとも休憩のためか、鍛錬を終えたようなので声を掛けた。

 

「こんにちは」

「っ!?……誰だ?」

 

 ネジは声を掛けられたことで驚き、警戒心剥き出しのままこちらへと聞き返してきた。誰もいないと思っていたところに、いきなり声を掛けられたのだから、驚くのも無理はないかもしれない。

 

「僕の名前は白と言います。宗家の方から話を聞いてると思うけど、一緒に鍛錬するように言われてきました。あなたはネジさんで間違いないですか?」

「言いたくない。それに相手はいらない」

 

 素気なく即答される。白としては予想の範囲内の返答であるため、特に気分を害したりはしない。今のネジにとって、宗家は憎しみの対象でしかないのだから、その宗家から送り込まれたような人物を相手にはしないだろう。

 

「では、もし相手が必要になったら言ってください。それでは失礼しますね」

 

 立ち上がって部屋へと戻ることにした。これで、義理と言うか義務は果たしたし、ネジの相手をしなくていいのであれば、自己鍛錬や勉強に充てることが出来る時間が増える。そのことに少しうれしくなりながら去ろうとしたのだが、ネジからの声掛けで足を止めざるをえなかった。

 

「待て! 今、相手をしてもらう」

 

 いきなり気が変わったのか、ネジはそう言ってきた。その眼は明らかに白を敵視しているようで、恐らくは、ここで完膚なきまでにやっつけてしまおうとでも思っているのだろう。

 

(宗家の人間ではないんだけどなあ。そんなに敵視しなくてもいいと思うんだけど)

 

 呼び止められたからには相手をせざるを得ず、近くにあった草履を履き庭へと出る。

 

「ルールはあるんでしょうか? 昼までには戻らないといけないのです」

「倒したら終わりだ。すぐ終わる!」

 

 その言葉を言い終わると同時に、こちらへと走り寄ってきた。一撃で終わらせるつもりなのか、純粋に掌底の一突きを身体に当てるつもりのようだ。フェイントなども無く、恐らく今のネジの最速の一撃なのだろう。ただ、あまりにもその攻撃は直線的に過ぎた。

 

(これを胸に受けたらさすがにまずいなあ。わざと負けるつもりだったけど予定変更。一度負けることを覚えてもらおう)

 

 相手との力量差をまだ見抜くことが出来ないのだろう。ネジは当たると確信した表情をした瞬間に、白は素早く屈んでネジの足を引っ掛ける。

 

 ネジは、目の前で急に白が消えたことで、足を引っ掛けられたことに対応出来ず、その勢いのまま倒れてしまうが、すぐに起き上がった。その表情からは信じられないといったものから、怒りの顔へと変わっていく。

 

「では失礼します(さて、終わったし帰ろう)」

「待て! まだだ!」

「倒したら終わりとお聞きしました」

「倒されてない!」

 

(子供の屁理屈か……)

 

 はっきり言って、相手にするのが面倒になりそうな感じがしている。この調子ではネジが納得するまで続きそうだった。

 

「どうすればいいの?」

「倒すまでだ!」

 

 そう言うと、今度は構えをしっかりととり、じわじわとこちらへと近づいてきた。もう先ほどの油断は無いようだ。相手の全体を捉えて、すぐに対応できるように警戒しているのが分かる。一定の距離まできた時に、ネジは一気に間合いを詰め、連続で攻撃を仕掛けてきた。

 

 白はそれを冷静に対応していたが、このままでは終わらないと、途中でネジの両手首を掴み取り、一本背負いの要領で投げ飛ばす。その後はさすがネジと言うべきか、投げ飛ばされたにも関わらず、体操選手のような形で前宙をして、綺麗に着地をやってのけた。そして、すぐさまこちらへと向き直り構えをとる。

 

(これは本格的に面倒かも)

 

 手加減をしているとはいえ、この調子ではいつまでも終わりそうにない。ただ、この時の救いは時間が有限であったことだろう。

 

「すいませんが、そろそろ時間なので戻らねばなりません」

「勝ち逃げする気か!」

 

(別に勝った負けたはどうでもいいけど、このままだとなかなか引きそうにないし。憎しみ増えるかもだけどあの言葉を使おう)

 

「ヒアシ様から、時間になったら来るように言われているんです。当主に逆らったらどうなるか、あなたは知ってますよね?」

「…………」

 

 ネジは、父親とヒアシとの稽古場でのやり取りを思い出したのだろう。そのまま黙ってしまった。これで、今後は何も言ってこないだろうと、白は稽古場へと行くため廊下へと向かう。

 

「では失礼します」

 

 ネジの横を通り過ぎる際に、ネジへと声を掛けていったのだが、意外にも返事があった。

 

「お前は宗家の者なのか?」

「……いえ違います。ある事情で宗家に住まわせていただいているだけです(まあ、宗家には助けてもらった恩があるから言うこと聞いてるんだけどね)」

「そうか」

「ではあまり時間も無いので行かせていただきます」

 

 そう言って廊下へと上がり、宗家の屋敷へと向かおうとしたところで、ネジから声が掛けられた。

 

「俺の名前はネジだ。明日も来いよ」

「時間がありましたらまた来ます」

 

 そう言い残して、今度こそ白は稽古場へと向かって行った。

 


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