白物語   作:ネコ

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26 自信?

 少し早いが、今では白の方から、ヒナタを呼びに行くと言う流れが出てきていた。どうやらヒナタは、鍛錬自体に苦手意識、というよりも嫌悪感が強いのかもしれない。毎日褒められることは一切なく、叱られるのみでは、そのような考え方になっても仕方ないかもしれないだろう。それまでの、ヒアシのヒナタへの対応がどのようなものかは分からないが、性格が急変したのであれば、この歳ではトラウマものだろう。もしも、あのような事件が無ければ、もう少し接し方が変わったはずだ。

 

 所詮もしもの話ではあるのだが……。

 

「ヒナタ起きてる?」

 

 扉をノックし中に居るヒナタへと声を掛ける。いつもヒナタは、この時間には既に起きているので、この問いかけは迎えに来たという合図のようなものだ。これもまたいつも通りだが、返事はすぐにこないうえに、その声自体も弱弱しい。

 

「……うん」

「朝食を食べに行こう」

 

 ゆっくりとだが扉が開き、元気のないヒナタが現れる。性格が既にこの時点で、小心者のような感じになってしまっているのは間違いないだろう。そんなヒナタを少しでも元気づけるため、朝食を摂るべく向かう途中に言葉を掛ける。例えそれが少しの期間かもしれないが、精神的にもよいだろう。

 

「ヒナタは、今日からの鍛錬のことは聞いてる?」

「……聞いてない」

「今日から僕とヒナタの2人で鍛錬をしておきなさいだって」

「?」

 

 白が言っていることの意味が、ヒナタには分からなかったのだろう。いつも2人で組手をやっているのだから、ヒナタにはその違いが分からなかった。ヒナタの顔を見て、そのことに白は思い至り、言葉を変える。

 

「ヒアシ様は忙しいから、鍛錬には来れないらしいよ(どれくらいの期間か分からないけど)」

「本当?」

「うん」

 

 ヒナタは白の言葉に、明らかにホッとしたような顔をしている。白にとって、ヒアシのヒナタへの鍛錬は、ヒナタがどう思っているか分からないが、再不斬の鍛錬に比べて、大怪我や命の危険がないだけ遥かに生ぬるく感じる。それに、ヒナタを強くしようと鍛錬してくれているヒアシを、白自身は嫌ってはいなかった。むしろ熱心に指導しているとも思えるくらいの良い父親だ。

 

 この世界に来てからいきな殴られ、しかもそれが理不尽な理由。そのうえ父親は働かずに、子供に働かせるという環境に放り込まれたのだ。それに比べると、ここは天と地ほども差がある。

 

 朝食を食べ終わり、少し早いが稽古場へと向かう。朝食前に、今日はヒアシが不在であることを伝えたにも関わらず、未だにヒナタの足取りは重かった。そんなヒナタの手を引っ張って行き、稽古場へと入っていく。そして、稽古場へと入ったことで、いつもの場所に、いつも居るべき存在が居ないことを見てやっと信じたようだ。

 

「これで信じてくれたかな?」

「うん」

「でも鍛錬はするよ。昨日ヒアシ様に言われて、いつも通り加減はするなって言われてるから」

「!?」

 

 その言葉に、ヒナタの顔色は悪くなっていった。これまでの付き合いで、白はヒアシに言われたことは違えたことは無いし、鍛錬を楽しんでいるようにも見えたからだ。それに加えて、もしかしたら今日からは、鍛錬がきつくなくなるかも、という考えもあった。

 

(言い方が悪かったかなあ。上げといて落とす感じになったけど、内容はいつもよりまだマシだと思うし)

 

「ただし、いつもとやり方は違うからね」

「?」

「こういうことだよ」

 

 白は水分身の術を行い、2人になる。水の無いところで水分身を作り出すのは、今の白でもかなりきつい。しかし、日々の鍛練で出来るようにはなっていた。それを見てヒナタは驚く。

 

「分身の術が使えるの?」

「ただの分身じゃないよ。実体があるからね」

「分身の術じゃないの?」

 

 ヒナタの不思議そうな顔を見て、3歳児にそこまでの知識がないのは普通かもと思い直す。それに加えて、肉体的な鍛錬ばかりで、勉強に費やしている姿を見たことが無い。白は、ヒナタを寝かしつけてから、この世界の知識を集めるべく、自己鍛錬に加えて、日向家にある本を読んで学んでいるが、それにヒナタを加えようかと少し考えて諦める。

 

(今、この鍛錬に勉強なんて加えたら、たぶんついてこれなくなってしまうだろうし、やめとこう。確かヒナタは賢かったから、アカデミーの授業でも十分でしょ。その前に確かめたいことを先にやっておこうかな)

 

「まあ。その辺はあまり気にしないで。その前に白眼でどっちが本物か分かるか教えて」

 

 ヒナタに後ろを向かせて素早く入れ替わり、こちらを向いてもらうよう声を掛ける。影分身は、チャクラを平等に分けてしまうので、白眼でも見切れないようだが、水分身は本体よりも遥かに弱いので、白眼を使えば本体が分かるかもしれない。ヒアシとの実力確認のための模擬戦の時に、聞ければよかったのだが、なかなかそこまで図々しく言うことが出来ずに、ヒナタに見てもらうことにしたのだ。

 

「どう?」

「えっと……。たぶんこっちかな?」

 

 ヒナタは、悩んだ挙句に水分身の方を指差してきた。全く自信がないのが、その表情や仕草からよくわかる。

 

「分からないなら分からないで教えてほしいかな(現状ではヒナタは白眼を完全に使いこなしてないのかな? この件は保留にしとこう)」

「ごめんなさい」

「いやいや。謝らなくてもいいよ。それよりも、そろそろ時間だし鍛錬を始めよう」

「うん……」

 

 いつものように2人は定位置に着き構えをとる。しかし、もう1人の白が、部屋から出て行こうとしたことで、ヒナタは困惑しているようだった。

 

「こちらは気にせずに、そちらの相手をしてみてね。たぶんヒナタなら倒せるはずだよ」

 

 ヒナタは、倒せるという言葉に反応し、目を見開いて驚いている。今までまともに、白へと攻撃を当てたこともないのに、倒せるとその白が言うのだ。驚くのも無理ないかもしれない。

 

「僕はちょっと次の準備をしてくるから、いつも通り組手をしてて。ちなみにそっちは分身だから、思い切りやっていいよ」

 

 ヒナタに言葉を残して、稽古場を後にした。

 

 積極的に攻めるように水分身には指示している。手加減はしないようにしているが、ヒナタがそれをどう捉えるかによって、倒す時間も変わるだろう。最初は様子見で、倒すのに時間が掛かるかもしれないが、一度倒してしまえば、次からは倒すまでにそれほど時間は掛からないはずだ。そのため、複数の水分身を作るべく台所へと向かっている。

 

 更に2人分の水分身を作りだし、稽古場へ戻ると、完全に受けに回っているヒナタがいた。倒せるという言葉が信じられなかったのか、それとも未だに様子見をしているのか分からない。しばらく様子を見ておこうと、壁際に行こうとして部屋に入った時にそれは起こった。

 

 それまでヒナタは、攻撃を捌けていたようだったのに、こちらに気を取られたのか、入ってきた白を見て硬直してしまい、水分身の攻撃をまともに受けてしまったのである。一応すぐにヒナタは立ち上がったが、ショックを受けていることには変わりない。

 

(折角いい感じで捌けていたのに、何で攻撃を受けたのかな?)

 

 白には理由が分からなかったが、ヒナタから見れば、突如部屋へと入ってきたうえに、人数が更に増えていたことで驚いてしまったのである。そのため組手中であるにも関わらず、固まってしまい、まともに水分身の攻撃を受けてしまっていた。

 

「もう一度構えて。すぐにその分身を倒してしまおう」

「倒せるのかな……」

「倒せるよ。さっきまでは、攻撃を防げてたみたいだし、後は隙をついて攻撃するだけだよ」

「うん……」

 

(倒して自信を付けさせるつもりだったけど、もしかしたらこのままだと、あまり効果が見込めないかも)

 

 結局は倒すのに昼頃まで掛かってしまい、そのまま昼食となった。いつもとは違い、疲労困憊といった風にはなってはいないが、水分身を倒しても、ヒナタに自信は付いていないようだ。手加減されてわざと勝たされたとでも思っているのだろう。

 

 水分身が、いくら本体より弱いとは言っても、多少の強度がある。しかし、柔拳を受けてしまえば簡単にやられてしまうのだ。ヒナタ自身が教わり、身につけようとしている技術が、どのようなものかを理解させないと先へは進めなさそうだった。

 

 午後から増やそうと思っていた水分身を取りやめて、先に柔拳について説明しておく。一撃でも当てれば分身が消えることも説明し、分身自体も強くは無いことを説明したうえで、再度組手をさせた。

 

 今度も、最初は受けに回っていたが、突きを放ってきた腕に対して、偶々かもしれないが、掌でその突きを払った。突如として水になった分身に対して、ヒナタは唖然としていた。自ら攻撃をしてないのに、何が起こったのか分からなかったのだろう。

 

「これで分かってくれた?」

「なんで消えたの?」

「さっきのは、手を払う時にヒナタの掌が分身に触れたからだよ。ヒナタの攻撃は、少し相手に当てるだけでも倒せるんだ。分かってくれた?」

「…………」

 

 何も言わないヒナタに、理解したのか分からなかったが、今回は更に短い時間で倒したことには変わりない。そのため、次のステップに進むことにした。

 

「次は2人同時に相手をしてみよう。取り敢えず今日は3人くらいを目標ね」

 

 そういって、水分身2体との組手をさせる。さすがに白眼があるとはいえ、始めから前後での攻撃はさせずに、同一方向からの攻撃のみとして、1体を倒したらすぐさまもう1体を送りだし、徐々に方向を広げていくことにする。

 

 延々と続く水分身からの攻撃に、ヒナタは途中から疲労のためか、攻撃を受ける回数が増えていき、最後にはいつものように、立ち上がれないまで疲労していた。

 

(さすがに2体で少し方向が離れただけでも対応が出来ないか……。でも倒せてるんだから、これで手ごたえなり、何かを掴んでくれればいいんだけど……)

 

 いつも通りに、まともに動けないヒナタを連れていく。夕食まで済ませ、部屋へと戻ってからヒナタに今日の事を聞いてみることにした。

 

「今日の鍛錬で自信は付いた?」

「分からない」

「え?」

 

 ヒナタの言葉は、白にとっては予想だにしていなかった。水分身とはいえ、2体を同時に相手にしているのだから、多少なりとも自信くらいはついていると思ったのだ。

 

「えっと。2人同時に相手が出来るんだから強くなってるよ。自信を持っていいと思うよ」

「……そうなのかな?」

 

(既にここまでネガティブ思考になっていたなんて……。ヒアシさん戻ってくるまでになんとかなるかなあ)

 

 ヒナタに少しは自信をつけてもらおうと言葉をかけるも、あまり変わることは無かった。いつもと違い、父親からの指摘(ヒナタにとっては叱責かもしれない)が無かった分だけ、精神的に参ってないだけだった。

 


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