白物語   作:ネコ

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24 午後?

 午後の1時手前になり、白はヒナタと別れた。ヒナタは別れ際に、物凄く不安そうな顔をして白を見ていたが、白にはどうしようもないので、笑顔で手を振りながら見送るだけだった。

 

(さて、午後は自由にしていいみたいだし、屋敷内の探索をしておこうかな)

 

 まさか、明るいうちに自由時間が得られるとは、思ってもいなかったことなので、ヒアシの言葉には驚いた。折角の機会なので、明るいうちに正確な屋敷の配置を覚えておこうと移動を開始する。

 

 宗家と言われるだけあって、屋敷は広かったが、その構造自体は意外と単純なもので、とても覚えやすかった。子供の視点から見ると広いと思うが、慣れてしまえばそれほどでもないだろう。部屋の数が多いので広く見えるだけのようだ。部屋の中を確認していきたいところではあったが、無暗やたらに開いて、余計ないざこざに巻き込まれたくは無いので、開いてまでは確認していない。

 

(これで大体屋敷内は見て回ったかな……。ん? あそこに架け橋がついてる。しかも壁の向こう側につながってるみたいだ)

 

 そこには壁の一部が無く、その間を通すように渡り廊下のような橋が架かっていた。壁の近くには小川が流れており、屋敷をつなぐものとしては少し長めの橋に見える。

 

 こちら側の屋敷については、一通り見終えたので、続いて向こう側の屋敷を見るために、橋を半ばあたりまで進んだところで、進んできた方の屋敷に居た人に声を掛けられる。

 

「おい。確か白だったか? 何をしている?」

 

 振り向いた先に居たのは、目覚めた部屋にヒアシと一緒に来た男だった。

 

「ヒアシ様より、午後からは自由にしてよいと言われましたので、屋敷の探索を行ってました(あんたが案内してくれなかったから、自分で確認してるんですよ!)」

「いくら自由にしていいとは言っても、屋敷内をウロチョロとしていい訳では無い。部屋にて大人しくしておけ」

 

(それをあんたが言うのか……。それは自由とは言わないし、それって軟禁って言うんですよ? 知ってますか?)

 

 相手は日向家の者であり、ヒアシがあの場に連れてきたということは、それなりに信頼しているのだろう。そのような人物に文句でも言おうものなら、どんなことになるか分からない。しかし、ただ単に、自由を束縛されるのは勘弁して欲しいところだったので、少しばかり融通が利くように方向性を変えてもらうことにした。

 

「でしたら、部屋には何もないので、出来れば色々な本などを読みたいのですが構いませんか?」

「……まあ、本くらいならばよかろう」

 

 白の部屋の中に、特に目ぼしいものが無いことを思い出したのだろう。部屋にて大人しくしておけと言った手前、何もなしと言うのは、子供に対して思うところがあったのか、許可が出た。話は終わりとばかりに、進みだそうとする男を引き留める。

 

「お待ちください。出来ればでいいのですが、本の置いてある部屋を教えてほしいのです。お屋敷が広くて、ここがどこだか分からないので」

「ならばついてこい」

 

 男はそう言うと、スタスタと進み始めた。白も橋の向こう側に興味はあったが、見つかった上に部屋に戻るよう言われた以上、ここを通ることは出来ない。後ろ髪を引かれる思いで、白は男の後を追った。

 

 着いた場所は意外にも、白の部屋の近くだった。ある意味灯台下暗しである。さして部屋の広さは無かったが、本棚には本がびっしりと詰まっており、暇つぶしには丁度よい物量だろう。

 

「この部屋の物は閲覧可能な本だ。まずは、この辺りだな」

 

 男が手渡してきたのは、日向家に関する歴史書と木の葉の里の歴史書だった。

 

「日向家に居る以上、最低限の知識くらいは詰め込んでおけ」

「分かりました。それと先ほどの橋の向こうにも、お屋敷があったように見えたのですが、あそこは行ってはいけない場所なのですか?」

「宗家と分家、その違いだ。詳しくは渡した本に書いてあるから読め」

「ありがとうございました」

 

 白は礼をしたが、男はそれに見向きもせず、さりとて何も言わないまま、部屋を出て行ってしまった。

 

(さて、歴史書を見るのはいいんだけど、その他に何が置いてあるかくらいは把握しておかないとね)

 

 本はこの部屋の管理者の性格が反映されているのか、棚ごとに本の種類を分けてあり、とても探しやすいものだった。一通り本棚の配置を覚えたうえで、取り敢えずは手渡された本を読むべく部屋へと戻った。

 

 歴史書の方は、木の葉の里の成り立ちから、初代火影である千手柱間の功績に始まり、四代目火影までの功績が記述してあった。そこには、第一次忍界大戦についても記載されていたが、所々注釈が入れてあり、その注釈が、あまりにも木の葉の里側からの視点だったので、どこまでを信用していいものか分からないものだった。

 

 歴史書とは別の、他の本を捲ってみると日向家の家系図的なものが記入されていた。それをパラパラと読んでいく。そこには、正しいかどうかは不明だが、木の葉の里の地図なども記載されていた。

 

(地図の整合性は兎も角として、大体の位置くらいは把握しておきたいけど、火影岩があそこに見えてるから、この屋敷は地図で言うとこの辺りか。忍者アカデミーってどこにあるんだろう? ここの場所は、この地図全体からいうと端の方だから、多分遠いんだろうな……)

 

 ひと通りパラパラと読み進めて行くうちに、先ほどの橋の意味を理解した。ただ単純に線引きしているだけで、こちら側の屋敷が宗家。壁を隔てた向こう側が分家。と、なっているようだ。

 

 分家にいるネジに会ってみたかったが、現状では父親が死んだばかりの為、宗家側の人間を恨んでいるだろう。白が宗家側の人間として見られるかは微妙なところだが、住んでいる場所が場所だけに、巻き込まれて恨まれる可能性は高い。中忍試験が終わるまでは、積極的には関わらない方向でいくことにした。

 

(この悔しさをバネにしてネジって強くなるはずだから、そっとしておこう。陰ながら応援しておくよネジ!)

 

 本を大体読み終えた頃、外は既に日が傾き、夕方になっていた。時計を確認すると既に5時を過ぎている。5時には部屋に居るように言われたため、てっきり誰かが呼びに来ると思っていたが、そうではなかったようだ。言われた時間を過ぎても、誰も来ないところを考えるに、また忘れられているのでは?という疑問が沸き起こってしまう。

 

 本を再度読み直す気にもなれず、体力作りの為に筋トレを行っていると、6時頃になって、ヒアシ本人が部屋の扉を開け、その場にて言ってきた。

 

「ヒナタは稽古場にいるので連れて行き、一緒に風呂と食事を済ませておけ」

 

 一瞬だけ呆気にとられるが、言葉の内容を理解して返事をする。

 

「分かりました(こういうことって、普通大人がやるものなんじゃ……)」

 

 ヒアシは言うだけ言うと、そのまま立ち去ってしまった。

 

 白が稽古場へ向かうと、そこには倒れているヒナタがいた。荒い息さえしてないので、まさかと思い駆け寄ってみると、どうやら気絶しているようだ。

 

 それを確認してひと安心し、ヒナタを部屋へと連れて行く。部屋にて横にして、ざっと診てみるが、特に外傷はなかった。おそらくは、疲労によるものだろう。しかし、これから毎日この調子では、いつか壊れてしまうのではないかと思ってしまうほどだった。

 

(6歳のアカデミー入学まで保つのかな? まあ、現状では跡継ぎだし、壊すようなことはしないとは思うけど……)

 

 ヒナタが目覚めるまで、その横で筋トレの続きをしていると、ヒナタは7時頃に目が覚めた。身体を起こそうとして、体力が無いのか、途中まで起きていた体勢を崩し、また、寝た状態へと戻る。

 

「(さて、どう切り出そうかな)立てる?」

「…………<無理>……」

「動けそうになったら教えて。あと食事は出来そう?」

「……<食べたくない>」

 

 余程、午後からの鍛錬が堪えたのか、声が小さい上に元気もないようだ。まあ元々午後の鍛錬の前から元気についてはなかったが、ここで明日まで動かなければ、ヒアシ本人より言われたことを実行出来なかったということになる。自分の信頼確保も大事だが、ヒナタも汗を流して、食事を摂っておかないと、後々困ることになるのはヒナタ自身だ。その為、ヒナタが動かざるを得ない言葉を掛ける。

 

「ヒナタにお風呂と食事を済ませるように、ヒアシ様に言われてるんだけど。今日は寝ておく?」

「!? 起きる!っ!」

 

 ヒアシと言う言葉は効果てきめんのようで、ヒナタは必死になって起き上がろうとする。それを白は、ヒナタを支えて立ち上がらせた。

 

「お風呂と食事どっちからにする?」

「お風呂がいい」

「分かった。痛かったら言ってね」

 

 その後はゆっくりと移動し、風呂へと向かう。いつもは、髪を触りたがるがそんな元気もないようだ。逆に白がヒナタを洗い、次に食事を摂るべく移動する。食事については、既に用意されていたので、それを温め直し食べさせようとしたが、手もまともに上がらないようだったので、仕方なく食べさせる。少々吐きそうになりながらも食べさせて部屋へと連れ帰った。その際に何度も「ごめんなさい」と謝ってくる。

 

(変な謝り癖ついちゃったかな~)

 

「今日はゆっくり寝た方がいいよ」

「<ごめんなさい>」

 

 ヒナタは、ベッドに横になって安心したのか、ひと言つぶやくとそのままスヤスヤと寝入ってしまった。それを確認し、そっと明かりを消して部屋を出る。

 

「覗きは余り感心しないと思うのですが……」

 

 廊下は暗く、目だけでは誰も居ないように見えるが、白は部屋の中から廊下に人の気配を感じていた。部屋を出て、その気配の方向へと目線を向けて、その存在を確認した時に、わざと気配を隠さなかったのかと思い直す。

 

「今日は色々と調べていたようだな」

「はい。こちらに来た際に、ヒアシ様と一緒に居られた方に、木の葉の里などについて知っておくように言われました。私自身も、こちらに身を寄せさせていただいていますので、今後の事を考えて知っておくべきと思い、調べていたのです」

「なぜ、今日は手を抜いた?」

「(はっきり言った方がいいのかなあ)えーっと。それはですね……」

 

 なかなか答えようとしない白に対して、ヒアシの方から徐々に圧力が掛かってくる。

 

「どんな内容でも構わんはっきり言え」

「ヒナタ様と私とでは、戦闘に関する経験に差がありすぎると思われます。恐らくヒナタ様は、今まで型の稽古ばかりされてこられたのでは無いでしょうか?臨機応変に対応出来ていません」

「実戦経験か……」

 

 ヒアシはしばらく考え込んでいたが、思い出したように聞いてきた。

 

「お前はどこでそれを手に入れた?」

「(それって言うのは経験のことだろうなあ。再不斬さんの名前出すわけにはいかないし。ぼかしとこう)両親が死んでから一時期ではありますが、運よく旅人に教えてもらいました。その人とは波の国を出る際に別れたので、いまどこにいるのか分かりません」

「その者にどこまで教わった?」

「ひと通りの体術、忍術、幻術については教わりました」

「ひと通りか(ひと通りにしては、体術だけとっても目を見張るものがある。これに忍術と幻術までとなると……)」

 

 ヒアシはまた考え込んでしまったようで、辺りに沈黙が漂う。

 

(少し寒いから、早く話を切り上げて寝たいんだけどなあ)

 

 既に暦は1月に入っており、本来なら少し寒いではなく、肌に突き刺さるような寒さなのだが、白の一族の恩恵なのか、痛みに対して鈍いせいなのか、本人は全く気付いていない。

 

 考えが纏まったのか、ヒアシが声を掛けてきた。

 

「明日からは、お前も午後の鍛錬に参加せよ」

「分かりました(大切な自由時間が……)」

 

 ヒアシが立ち去った後に、白はガックリと肩を落として部屋へと戻っていった。

 


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