白物語   作:ネコ

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23 子守?

 白が日向家に入ってから数日の間に、色々と話し合いがあったようだ。立ち去り際に話していた内容からして、雲隠れの忍びを殺したことによる問題で、ネジの父親が、ヒナタの父親の身代わりになるという話だったはずだ。

 

 日数がかかっているのは、雲隠れの里とのやり取りでもしているせいだろう。そちらに、みんなの意識がいっているせいか、子供であるヒナタと一緒に、部屋で大人しくしているように言われただけで、放置されている。

 

 子供同士と言うこともあり、ヒナタも最初の日は恥ずかしそうにしていたが、本当に最初の日だけで、次の日には一緒に遊ぶようになった。遊ぶというよりも、白としては子守りをしている気分だったのだが……。ヒナタにしてみれば、同世代の子供が今まで周囲に居なかったこともあり、最初だけビクビクと接してきたが、慣れてしまったようだ。慣れた理由が、白にはよくわかっていない。

 

 その数日間のことだが、寝る時以外の行動が一緒である。風呂にまで一緒に入れられたときには、呆気にとられたが、子供ならこんなものかと無理やり納得している。

 

 こっちが男であることを、認識しているのか怪しいものだ。特に、髪を洗いたがるのを、なんとかならないかと思案中だったりする。まあ、結局最後には白自身で洗うことになるので、実際無駄もいいところだ。

 

 部屋の中でも髪を梳かして色々と弄ってくるのだが、まるで、人形扱いされているようだ。確かに、髪は伸ばしっぱなしなので、胸辺りまで伸びてきてしまっており、弄りやすいのだろう。ヒナタが、自分の髪を弄らないところを見るに、白よりも短いので、コンプレックスかなにか持ってるのだろうか?と思ってしまう。

 

 着るものについては、ヒナタとお揃いの和服のような物を貰えたのでよいが、ここで女物の服を用意されたならば、真剣に抗議しなければならないだろう。

 

 容姿のせいで、勘違いしている者たちみんなに対して……。

 

 それ以外では概ね不満はなかった。衣・食・住が揃っており、周囲をそこまで気にせずに、ほぼ安心して寝ることが出来るというのは、今までの生活から考えるとあまりにも平和すぎる場所だったからだ。行動範囲は狭いが、ヒナタと2人だけでの生活(見張りというか監視役の人が、近くに居る状態ではある)なので、意外と自由な時間を満喫出来ており、ヒナタの相手をしつつも、チャクラを使わずにこっそり体力作りをしていたりする。

 

 そんな平和な時が続くはずもなかった。突然、朝に部屋の戸が開けられたかと思うと、いきなり呼び出されたのである。隣に居るヒナタも、呼び出された理由を知らないようだが、日向ヒアシが呼んでいるというだけで、急ぐようにと言ってきた。

 

「白も呼ばれたの?」

「一緒みたいだね」

「早く行かないと怒られちゃうよ」

「場所が分からないんだけど?」

「一緒に行こう」

 

 ここ数日、最低限の場所しか案内されていないので、今から向かう場所に心当たりは全くなかった。朝に呼びに来た人に尋ねようとしても、言づけてすぐに何処かへと立ち去ってしまったのである。なので、同じように言われた(先にヒナタの部屋の方から声が聞こえてきた)であろう隣の部屋のヒナタの元に行くと、丁度ヒナタも部屋から出てきていた。そこで先ほどの会話になり、ヒナタに手を引かれて、ついていっている状況である。

 

(入っていいところと悪いところくらいは、案内して欲しいんだけど……。これって、教えられたところ以外は行くなっていう逆パターンなのかな? でも、教えられた場所にヒアシさんが居るはずないし……、居るとしても食堂くらいしか思いつかないな……)

 

 そんなことを考えているうちに、目的の部屋へと到着した。白の全く通ったことのない道を通って。ヒナタは白の手を離すと、引き戸を開けて中へと入っていく。それに倣い、白も中へと入って戸を閉めた。そこには、日向ヒアシが既に座って待っており、ヒナタは既に座っていたので、白もヒナタの横に同じように座る。

 

 目の前には、数日前に見た人物とは思えないほど、憔悴したように見える日向ヒアシがいた。

 

「父様、お待たせしました」

「おはようございます。お待たせして申し訳ありません。本日のご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あっ!おはようございます」

 

 白の言葉でヒナタは、朝の挨拶をしてないことを思い出し、すぐに挨拶を行った。しかし、そんな些細なことにヒアシは拘るつもりも無いようで、やることのみを言ってきた。

 

「本日よりお前たちを本格的に鍛えることとする。特にヒナタ。お前は宗家としての自覚を持って取り組まねばならん。分かっておるな?」

「は、はい……」

 

 今までのヒナタに対してのヒアシの態度が違ったためだろう。ヒナタは怒られていると思っているのか、泣きそうな顔で返事をしている。言われた内容を理解しているのか不明なところだ。

 

(しかし、本格的にと言うことは、基本的なことはしてきていた……と、いうことかな? こっちは確かにしてきたけど、それを見抜かれた? でも、ヒナタは、基本的なことをしてたようには見えないんだけど……)

 

 そのようなことを考えつつも、余計なことに口出ししないように、ヒアシの次の言葉を待つ。

 

「では双方立って構えよ」

 

 そのヒアシ言葉に、ヒナタは構えた。両手を前に出し、左足を少し前へとすり足気味に出していく。恐らく基本的なことと言うのは、型の練習か何かをしていたのだろう。それを横目に、白は重心を落として、どちらの方向に対しても対応できるようにしておく。

 

 ヒアシは、こちらの構えには興味がないのか、ヒナタの構えを見て頷くと、急に白へと向かってきた。白が反応できたのは、ヒアシが速度を抑えていたからだろう。チャクラを練らずにいたせいで身体の動きは遅かったが、初動が早かったおかげで、ヒナタとは反対側へと転がるようにして回避し、すぐに元の体勢へと戻す。流石に、力量差がありすぎるため、追撃は無いだろうと思いながら2人を視界に収めた。

 

 しかし、実際に狙われていたのはヒナタの方で、ヒナタはヒアシの拳を同じような動作で弾き、時には打っている。ボクシングのスパーリングみたいだなあと、白は他人事のように見ていたが、その組手は一定の型をしたのか、終わってしまった。

 

「一応は覚えているようだが、動作が遅い。次は2人でやってみよ」

 

 その言葉に、白は構えを解かないままで、その場に留まった。やってみよと言うのは、柔拳を使えと言うことではなく、組手をしろと言う意味だろうと分かったからだ。それに対して酷く狼狽したのはヒナタだ。まさか白とやりあうことになるとは、思っても居なかったのだろう。構えすら取らずに、どうしていいか分からないと言った状態だ。白としては、ここにいる存在理由でもある訳なので、当たり前という意識があり、このことに関しては躊躇いなど一切ない。

 

 しかし、狼狽した相手を倒すのは簡単過ぎて、こちらにメリットが全くない。そのため、相手が落ち着くまで待つつもりでいたが、そうはいかなかった。

 

「最初に言ったことを忘れたか!」

 

 その声で、ヒナタはすぐに構えをとるが、未だに狼狽しているのは明らかだった。

 

(荒療治といくしかなさそうな感じかな? というか、怒られてばかりだから伸びなかったんじゃないの? ヒナタって褒めて伸ばすタイプなんじゃ……。まあいいけど)

 

 ヒナタは、構えたまま動きそうになかったため、白から動くことにした。チャクラなしで、どこまでいけるのかも図っておきたいところだからだ。

 

 先ほど見た感じでは、手技のみでの応酬をしていたし、ヒナタ自身の動きは型をなぞるようなもので、とても遅いものだった。そこで、左手の掌底を放つことで、左手を犠牲にし、右手の本命を打つつもりだったのだが、ヒナタは全く反応しなかった。危うく左手をそのまま顔に当てる手前で気付き、寸止めすることが出来たのは、白が最初から止められると思って放った為に、力がそこまで入っていなかったからだ。

 

 呆然とその寸止めされた光景を、ヒナタは固まったまま見ていたが、白が手を引いて下がったことにより、ハッとして、今がどういう状況だったのか理解したようだ。

 

「もう一度だ。白は寸止めなどするな。始めよ」

 

 その後の組手では、白が一方的に攻撃することが多かった。最初は様子見のつもりで軽く当てていたのだが、それすらもヒアシにはお気に召さなかったようで、更に攻撃するように命じてきた。はっきり言って実戦経験が皆無のヒナタと白では、チャクラの有無にかかわらず、実力差が有りすぎたのは言うまでもない。

 

 たまにヒナタも反撃してくるが、動作が遅いうえに、攻撃の起点が掌なのだろう。そこで触ろうと必死なのが伝わってくる。しかし、それに当たりにいけば、ヒアシの手前、わざと当たったのだと見抜かれてしまう恐れがあるので、躱すしかない。そのような組手が昼頃まで続いた。

 

 昼になり、終わりを告げられると、ヒナタはその場にしゃがみ込み、ハーハーと汗だくになりながら頭を垂れていた。同年代の相手に対して、全く攻撃が当てられなかったことを悔やんでいるのか、それともヒアシに無様な姿を見られたことに対してなのか、その辺りは分からないが、落ち込んでいるのは確かだろう。

 

 白は、息がそれほど上がったりまではしていないが、汗を掻いているのは一緒である。さすがにチャクラ補助なしというのはきついものがあった。

 

「午前はここまでとする。汗を流し、午後1時からヒナタは柔拳の型の訓練だ」

 

 話は終わりとばかりに、ヒアシが稽古場を出ようとしたところで、白は慌てて声を掛ける。

 

「ヒアシ様お待ちください。私はこの後どうしたらよいのでしょう?」

「午後は好きにしたらよい。但し、屋敷からは出るな」

 

 そう言うと、ヒアシは稽古場を出て行ってしまった。

 

(はあ……。かなり性格が厳しくなってるなあ……。しかも、組手の途中から怒りの形相になったりするし。っていうかあれが白眼なのかな? 目の周りが筋立ってて、怒ってるようにしか見えなかったけど。あっ! そんなことよりヒナタだ)

 

 白はヒナタへと駆けよる。ヒナタは未だに頭を垂れたままだったが、息自体は整ってきたようだ。

 

「ヒナタ立てる?」

「…………」

 

 ヒナタはこちらの声が聞こえていないのか、下を向いたまま何も答えようとしなかった。

 

(このままだと、午後からのことで精神的にやられてしまうんじゃ? 自分のせいっていうのは嫌だな……)

 

 喋る気力すらないヒナタへ声をかける。

 

「取り敢えず、汗を流してお昼を食べよう」

 

 白は、チャクラにて身体を強化し、動かないヒナタに肩を貸すような感じで、ひとまず風呂場へと向かう。風呂場に到着して、ヒナタの服を脱がす。午後からと言うことは、恐らくそれほど時間はないだろう。白は服を着たまま取り合えず先にヒナタを優先することにした。

 

 お湯をかけると痣に沁みたのか、痛そうな表情をしたが、白は構わずに全体にお湯をかけ汗を洗い流す。洗い流したところで、ヒナタから声が掛けられた。

 

「白は強いね」

「経験の差だよ」

「私も強くなれるかな?」

「今よりは強くなれるよ」

 

 ヒナタは明らかに自信喪失しているようだった。今までは相手が父親だったからという考えがあったのだろう。それをこうも、同年代の子供にあしらわれては、自信を無くすというものだ。

 

「それよりも、午後からも鍛錬でしょ?」

「……うん」

 

 憂鬱そうに返事をしている。午後からはもっと厳しいと思っているのだろう。実際、これまでの稽古よりも厳しくなるのは間違いないはずだ。精神的ダメージに、先ほどの肉体的ダメージが加わっては、かなりの弱気になってしまうのではないかと白は考えた。そのため、白が関わったこと少しでも軽減することにした。

 

「今からやることは、誰にも言わないでね」

「?」

「秘密ってこと」

「秘密?」

「ん~。他の人に知られると、僕が困るんだよね」

「わかったよ。誰にも言わないね」

「分かってくれてなによりだよ。ちょっと痣になってる部分見せてね」

 

 痣や内出血しているような箇所に手を当てていき、治療していく。身体に関しては、白が付けたものなので極力治しておきたいと思ったからだ。

 

 痣や内出血がひいていき、それに伴う痛みが無くなったことに、ヒナタは驚きの表情をしていた。服にて隠すことが出来ない部分については、怪しまれぬように治療しなかったが、その他については、これでいいだろう。白は、一通り治療し終わり、声をかけた。

 

「これで、痛む場所はほとんどないよね?」

「すごいね! ありがとう!」

 

 ヒナタは物凄く喜んでいたが、次の白の言葉で元に戻ってしまった。

 

「午後からの鍛錬頑張ってね」

「……うん」

 

 落ち込んだヒナタを後押しして着替えさせて、食堂へ行くように言ったが、手を離さなかったために、そのまま一緒に食堂へと行くことになってしまった。汗を流せぬままに……。

 


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