白物語 作:ネコ
(なんで、こんなことになってんだ?)
色々と教えてくれた人に礼を言い、いつも行っていると言われた場所へ赴くと、そこには1人の女が待っていた。
「今日は遅かったね。何かあったのかい?」
「少し里の入り口にいる人と話してました」
「そうかい……今日の分は、ここにあるので全部だ」
女が目を向けた先には、洗濯物を入れた籠が幾つも置いてあった。すぐ横に川があることからも、この洗濯物の山を洗えと言うことだろう。
「終わったらどちらに伺えばいいですか?」
この言葉に女は不審に思ったのか、表情を少し変えたが、答えは返ってきた。
「私はあそこに居るよ。それと前駄賃は、そこに置いてある」
そう言って、女は小さな包みの方へと顎を動かすと、話は終わりとばかりに踵を返して、大きな建物の方へと去っていった。
入っていった扉を確認した後、駄賃と言われた包みの中を覗いてみると、そこには握り飯と竹筒が入っていた。
(そう言えば、朝から何も食べてなかったな)
食べ物を見るまで、その事を忘れていたことに気付き、握り飯を掴んで食べる。今まで、ただの握り飯がこんなに旨く感じたことはなかった。一度食べ始めたら止められず、一気に食べていく。
竹筒の方は普通の水だった。しかし、それでもその辺の川の水よりもマシだろうと飲み干す。
(これからどうするかね)
食べ終わり、頼まれた洗濯をしつつ、今後のことを考えていく。
この世界の死亡率はかなり高いのは間違いないだろう。現に、自分は親に毎日虐待を受けているくらいである。
親と言うのは、里の入り口の男から聞いただけなので、自分では親とは全く思っていなかった。むしろこの世界なので、殺っても問題ないと思っているくらいだ。
ただ、自分でも親を殺ってもいい、という考え方をするのかと不思議に思っているが、もしかしたらこの身体の前の持ち主の考えかもしれないと思い直していた。
この世界にいる以上、その手のことには事欠かないだろう。
洗濯も終わり、籠を持てるだけもって、指示された家へと運んでいく。
籠を全て建物の近くへと運び終えてから、女の入っていった扉をノックをしてみるが、何も返ってこないので扉を開けて中を見ると、女は料理をしていた。
部屋の様子から、どうやらここは厨房のようで、先ほどの女以外にも幾人かの人と料理を作っている。
「洗濯終わりました」
今度は聞こえるように、女の近くで声をかける。そこで女は、こちらに始めて気付いたようで、少し驚くも次の指示を出してきた。
「次は洗ったやつを上に干してきな」
「上に上がる場所は何処でしょう」
「いつも通り、その脇の階段から上ればいいじゃないか」
女の指差した方へ目を向けると、確かに階段があるのがわかった。入ってきた扉の位置からでは見えないが、女の立っている場所からは見えるところに階段はあった。
「わかりました」
「今日は変だね」
女は不審な表情を隠しもせずに呟き、遠慮なくじろじろと見てきた。
「そうですか?」
「無駄口はいいからさっさと行ってきな」
「はい」
色々と聞きたいことはあった。しかし、女も仕事中のため、満足に聞くことは出来ない。現に、話しかけてくるなと言わんばかりに、手で追い払うような動作をしてきていた。そのため、訊くことを諦めて、洗濯籠を取りに行く。
(そう言えば、この身体は一体何歳なんだ? 見た感じ、明らかに三歳程度だと思うんだけど、それに対してこの仕事をさせるとか……普通あり得ないだろ)
内心で愚痴をこぼしつつ、洗濯物を干していく。
既に霧は晴れており、遠くまで見渡すことが出来た。場所としては、山で囲まれた盆地と言ったところだろうか。大きな集落に見えていたのは一部だけだったようで、今では全体が見渡せる。
山には、未だに霧が残っており、その先までは見通すことができなかった。もしかしたら、これが由来で霧隠れの里と言われるのかもしれないが……。
洗濯物を干し終わり階段を降りると、料理をしていた人達は休憩中なのか、椅子に腰掛けてくつろいでいた。
「洗濯物を干してきました」
「そこの皿を洗っておきな。今日は始まりが遅かった分、昼まで余り時間はないからね」
女の視線の先には、皿や箸が乱雑に置かれていた。
返事をするのも少し億劫になってきていた。そのため、返事を碌にせず、皿の山へと近付き食器を洗っていく。食器を洗うのは水洗いではなく、意外にも専用の洗剤があり、更にスポンジのようなものまであった。それらがなかったらもっと時間がかかっただろう。すんなりと食器洗いを終わらせて再度女へと声をかける。
「終わりました」
「今日はえらく手際がいいね。そこに賄いあるから食べときな。昼からまた、皿を洗ってもらうよ」
「はい(いつもは、これよりも遅いのか……そりゃこの身体で今の物量をやろうと思ったら、普通無理だよな……この身体一体どうなってるんだ?)」
この時は分からなかったが、どうやら無意識の内に、体内のチャクラで身体を強化していることを後で知ることになる。
その日の仕事を終えて、家に帰ろうと里を出る際に、里の入り口の男から声をかけられた。
「酒とツマミを買って帰らねえのか?」
「いつもは、買ってるのですか?」
「買ってるな」
「何処で買っていたかわかりますか?」
さすがに、いつもと違う行動を取ることで、酷い目に遭うことを嫌ったため、男へと訊ねる。
「そこまでは知らねえが、商店で買ってんだろ」
「……ありがとうございます。行ってみます」
「ああ」
そんな風に思われているとは、露知らず商店街の方へ向けて歩いていった。
商店街自体は里に入って真っ直ぐの場所にあるため分かりやすい。そこには、一般人が大半だったが、時折忍び装束を纏った人を見ると、ほんとはどこかの時代劇用の村ではないかと思ってしまうほどだ。
今日の分と言われ貰った金で、酒とツマミを購入し、家路につく。その頃には、また霧が出始めて、周りも薄暗くなり始めていた。
今度は里の入り口の人に止められることなく、家まで帰ることが出来た。しかし、家に辿り着いて酒とつまみを渡したが、結局は殴られ、更に蹴られることになった。
理由は遅かったから―――ただそれだけ。
その夜、ひとりの男がこの世を去った。
(呆気ないな。しかも、人を手にかけたのに罪悪感すら沸かない)
この日から、独り暮らしが始まった。
死体については家の裏に穴を掘って埋めておいた。家の中で腐敗してもらっては困るからだ。
(取り敢えず生き残るためには、力を付けないとな。ここがナルトの世界なら、まずはチャクラコントロールを付けることからなんだけど、チャクラ自体が分からないんだよな……)
それから数日は同じように、仕事をしながらチャクラについて考えたが、全く分からなかった。
(これは、誰かに師事しないと、始めの取っ掛かりからして分からない)
そんなことを少し遅くまでやっており、寝ようとしたところで、この小屋に誰かが入ってくるのが分かった。
入ってきた誰かは、いきなりこちらへと駆け寄ってくるのが分かる。
また、理不尽な暴力を受けるのかと、それに対する拒否反応だったのかもしれない。
目の前に氷の壁が出来たと思ったら、侵入者をその中に閉じ込めたのである。
(誰が助けてくれたんだろう)
そんなことを考えていたが、そこで意識はとんでしまった。