白物語 作:ネコ
街道に出てからしばらく経っても、街の方角からの気配―――視線が消えることはなかった。それどころか、おそらくは尾行されている。
尾行されている本人が気付いている時点で、尾行といえるのか微妙なところだ。白からしたら、ストーカーに付き纏わられている感じなので、あまりいい気分ではなかった。
一度、何気なく後ろを見たときに、遠目にだが旅人風な人物が2人と、横手の林の方に、隠れているつもりかもしれないが、2人ほど居るのを確認できた。
街を出るときには、丘から門までの距離で、誰も居なかったにも関わらず、今いることを考えると、昨日の時点で、既にマークされて準備していたのは間違いないだろう。
これからの対応で問題なのは、次の街までどのくらいの距離なのか分からないことだ。
(それまでに店があれば、分身をゆっくりと行かせて、本体は先に街へと向かえばいいかな? だけど、途中で襲われるとなると、逃げるべきか、それとも戦うべきか悩むなあ。昨日からマークされていたってことは、次の街、もしくはそれまでに待ち伏せもあるかもしれないし……)
人数がいま後ろにいる4人だけなら、逃げることは話は簡単だが、先の事を考えると簡単には動けない。
街から出た人は把握されているだろうことは想像がつくので、他の人に変化してもすぐにバレてしまう。
なかなか考えが纏まらないまま、歩んでいくと、甘味処と書かれた旗を飾ってある店があるのが見えた。時計を確認すると、時刻としては10時頃。ちょっとした休憩としてはおかしくない時間だ。
店へと入る際に、横目でチラリと尾行側との距離を確認する。だいたい50mくらいだろうか。こちらも移動速度を少しだけ上げていたにも関わらず、最初よりも僅かずつではあるが近づいているのが分かった。
(ここで通り過ぎてくれたら杞憂でいいんだけど、あり得ないよなあ……)
店へと入り、適当に持ち帰りの品で、時間のかかりそうにない物を注文してトイレへと向かう。そこで、余分なチャクラを使用しない為に、タンクから水分身を造りだし店へと戻らせた。
これで、尾行していた側が店に寄ったとしても、少しは時間が稼げるだろう。ただ、この店で戦闘になったら少し困ったことになるが……。
尾行側の2人が店へと入って来た時に、水分身は無事に持ち帰りの品を受け取り、入れ違いのようにして店を出ていく。尾行側が少し焦ったような顔をしているのは、なかなか面白い。まさか休憩せずに持ち帰るとは思ってなかったのだろう。
すぐに店を出れば怪しまれるだろうし、どうするのかを2人でコソコソとやり取りしているようだ。
トイレの窓を少し開けて外に誰もいないかを確認する。林側の追手は先に向かったようで、外に人の気配はなかった。
窓から音を立てないように荷物を出して、自分自身も出ようとしたところ、店内から誰かがトイレに近づいているのが分かった。少し焦って、窓の下へとすぐさま降りたところで、すぐにトイレの戸が開かれた。
(いま、窓から顔を出して下を覗かれると、完全にアウトだな)
入ってきた人物が出るまでそう時間は掛からなかったが、こっちの心情を知らずに、トイレから出るまでにぶつぶつと文句を聞かされていた。その間、こちらが緊張していたことには変わりない。出ていった今も少し冷や汗をかいているくらいだ。
トイレから離れていくのを窓から確認してホッとひと息つく。まさかトイレに来るだなんて予想だにしていなかった。
(何事も色々な可能性を考えとかないといけないな。余裕を見せていい時ではないし)
その後、さきほどの追手の人物(トイレに入ってきた男)に変化して荷物を背負い直し、歩きにくくはあるが、街道から外れて次の街へと向かう。
水分身については、先ほどのところで食べ物を購入しているので、昼食についてはそれで済まさせて、延々と歩いてもらうつもりだ。その際に、もし戦闘になることがあれば、逃げるようにしているので、時間稼ぎには十分だろう。
最初はこちらが先に到着するすもりだったが、先に到着すると、例え街道から街へと入らずとも、警戒されかねないと思い直したのである。その分、水分身の方が先に到着すれば、そちらへと警戒意識が向くだろうという考えでもある。
お昼前に丁度よく店があった。店の裏手に回り店内の気配を探る。
店内には調理場以外には誰も居らず、街道の方を見てみても誰も来てはいない。安全を確認してから、荷物を店の裏手に置いておいて、店内へと入っていく。
カウンター席に座り、メニュー表を見たところで、調理場にいた男から声が掛けられた。
「こんなところで呑気に飯を食べてていいのか? 相方に任せっぱなしだとまた文句言われるぞ」
何のことか一瞬わからなかったが、どうやらこの男も仲間の内の1人のようで、更に言うならば変化をした自分と知り合いであることが分かる。
(話を合わせないとまずいな)
まさか、店の人まで追手側の仲間とは思っていなかったので、内心焦りまくりである。トイレで独り言を言っていたのを思い出し、同じような口調で返答する。
「いいんだよ。少しくらい」
余計なボロを出さないように短めに答え、早くできそうなものを注文する。
「まあ、愛想をつかされないことだな。お前さんは、次の街までの人数合わせなんだろ? それに比べてこっちは飯に睡眠薬を入れろときたもんだ。料理人としちゃあ嫌なんだが、ここらで商売するには逆らえないところがつらいもんだな。大名に逆らえば一発でお終いだ。ほら、出来たぞ」
「さっさと食べて追いつくことにするよ(人数合わせね……)」
「そうしとけ。全くこんな面倒事いつまで続けるのやら」
出された昼食をさっさと食べ終わり、代金を支払う。
「んじゃまたな」
「ああ、また」
ボロが出なかっただろうかと、店の外に出て思うが、今更どうにもならない。料理自体を作っているところは怪しいところが無いかしっかりと見ていたし、特に不審な点はなかった。匂いと味についても、毒の類は入っていないようだったし、あの対応でよかったのだと思うことにした。
問題があるとすれば、尾行していた2人が元来た道を帰ってきた時に、あの店に寄ることによって生じることだが、それまでに離れてしまえばいいだろう。
気持ちを切り替えて、街道に人が居ないことを確認し、店の裏手へと回り込む。
(街道は息のかかった人ばかりの可能性が高いのか……。これがどこまでの範囲で影響しているかだけど、波の国全体だとしたらかなりマズイなあ。休憩は最低限で、さっさと火の国に向かたほうがよさそうかな?)
置いておいた荷物が触られてないことを確認し、改めて背負い直して先へと進む。
次の街までは、尾行していた者たちを無理に追い越さず、逆に遠目にて見える距離をキープする。もし、水分身の方が襲撃を受ければ、その間に先へと進めばいいし、襲われなければ、そのままついていくだけだ。しかし恐らくは、昼食を食べた店の男が言うには、この変化した男は人数合わせ。なので、尾行ではなく襲撃の可能性が高いだろう。
そして実際にその時が来た。
はじめは遠目だったので分かりにくかったが、簡易な関所のような物が街道に設置されており、そこで荷物の検査をしているようだ。おそらくは、ここで大型船の積み荷の一部でも無いのかを、合法的に確認するためだろう。
荷物の中身を言うだけで、なかなか見せようとしない水分身に対して、そこに居た全員が刃物を抜き始める。それは尾行していた男たちも同じで、林の方に居た男たちも街道へと出てきていた。水分身がわざとらしく後ずさりして後ろに向けて走ろうとしたところで、尾行していた者たちに遮られる。
なにやら相手側が何か言って包囲しようとしているようだが、包囲される前に、包囲の隙間、水分身はこちらとは逆の山の方へと走っていった。それを関所に居たほとんどの者たちが追って行く。
結局関所に残ったのは4人。街道から尾行していた2人と、元々関所に居た2人。尾行していた2人は、これで仕事は終わりなのか、刃物を収めてお金を貰っているようだ。安堵しているのが分かるし、関所に居た2人も油断しているのが分かった。
(後は水分身が攻撃喰らわないように、かつ、あまり追手を引きはがさないように頑張るだけっと)
ただ、尾行していた2人の行動が、事前に予測していたものとなった場合、それほど時間をかけることが出来ない。
最悪の事態を想定しつつ、水分身によって時間稼ぎが出来たところで、次の街へ向けて本格的に走り出した。