白物語   作:ネコ

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18 休息?

 ひたすらに駆け抜けたおかげなのか、日の位置的に三時くらいだろう。次の街へと辿り着くことが出来た。

 

 街の入口と思える場所には、わざわざ柵を設けて門が設置してある。その周囲には、特に街の名前が書いてあるわけでもない。その門からだが、建物が見えるところまで障害物が何もなく見晴らしのいい道が少々長めに続いていた。こんな離れたところに門を造って意味があるのか不明だ。

 

 門の付近から見るに、建物が丘の上にあるので数件しか確認できないが、もしかしたらここは村かもしれない。建物群の全体像見えないので何とも言い難いが、港町からの距離と時間を考えるに、宿泊施設くらいはあると思いたいところだった。

 

 一応、門を潜る前に身だしなみを整えて、丘の上へと進んでいく。

 

(旅に必要なものを買い揃えないといけないけど、ここにはそういった店ってあるかな? せめて地図くらいは欲しいな……。それと、今後は野宿することも考慮しないといけないだろうし。本格的に寒くなる前に火の国に入りたい……)

 

 門を潜ってしばらく歩いていると、建物の方から視線を感じた。気付かない振りをしてそのまま進んでいく。この視線がずっと続くようであれば、この街に泊まるのは危険かもしれない。ここで漸く門が離れているのと、見晴らしがよかった理由に思い至った。

 

(監視がしやすいようにということか……)

 

 丘の上まで登り切ったところで立ち止まり、ここが村ではなく街だということがよく分かった。どうやらちょっとした盆地のような形をしており、この丘のようになっているところから、街全体を一望することができた。

 

 今にして思えば、大陸のメイン街道だと思われるので、それなりの大きさの街に発展するのは当たり前かもしれない。

 

 丘の上から街中へ向けて進んでいくと、幸いにも登って来る間に感じていた視線が外れた。ただ珍しかったのか、それとも、街入りした者をチェックするための監視の類なのか微妙な所だ。

 

 まずは買い物をするべく店の立ち並んでいる場所へと向かう。港町とは違い、それなりに人通りが多い。普通はこのようなものだろう。むしろ港町が異常だった。

 

 目的の店へと入り旅の準備を整えていく。港町の宿に、籠などを置いてきてしまっていたので、ほぼ手ぶらの状態での移動は、旅人として怪しんでくださいと言っているようなものだ。再不斬と別れる際、巻物や忍具を預かるついでに、カモフラージュ用の旅人道具が、もう1セットくらいあれば貰っておくべきだったかもしれないと、今更ながら少し後悔していた。

 

 他にも色々な店があり、品物についてもそれなりに充実していた。そんな中で店を巡っていると、地図も置いてあった。その描いてある内容は、波の国だけのものであり、しかも大雑把な地図で、道などが書いてあるわけでもなく、街の位置がこの辺にあるというだけの代物だ。その程度のものにも関わらず、結構な値段がつけてある。

 

(これは自分で覚えた方がいいかな……。メイン街道沿いに進んでいくとして、この地図が正しければ、あと3つほどの街経由で火の国に入れるみたいだし……。一番の問題はどうやって木の葉の里で生活するかなんだけど……、いい考えが浮かばないな。取り敢えず、火の国に入ってから考えよう)

 

 問題を先送りにして今すべきことに考えを戻す。

 

 地図の購入については―――お金はある。購入しても、恐らくは火の国まで余裕で足りるだろう。しかし、その先の事を考えると、少しでも節約した方がいいだろうと思い、地図を買うのは控えた。ただ、地図の中身を覚えるのは忘れない。地図に少し見入ってしまって、店主が少し睨んでいるような気がするが、これは仕方ないだろう。

 

 他にも、寒さ対策に、服や毛布を買うのも忘れない。子供用の服を買う時に少々訝しげに見られたが、土産として買うには5着は多すぎたのだろうと自分を納得させていた。

 

 色々と回っているうちに、夕方になったので、宿に行く前に夕食を済ませることにした。店については、適当にその辺りの所に入ろうとして、久しぶりの漂ってきた匂いについつい反応してしまう。

 

(そういえば、ラーメンなんて食べてなかったな。木の葉の里にも、ナルトが気に入っていたラーメン屋があったはずだし、味の比較をするのもいいかもしれない)

 

 そんなことを思いながら店の中へと入っていく。ラーメンの種類については至ってシンプルで、しょうゆ、塩、魚介の三種類だった。それに定食がついてきたりするくらいのものだ。せっかく海に近いので、この場は魚介を選択し、店員に注文する。

 

 仕事の終わりなのだろう、注文してしばらくすると段々と店内に人が増えてきた。人が来るということは、味についてはある程度保証されているとみていいだろう。過度な期待はいけないが、それでも少しは期待してしまう。

 

 出されたラーメンは確かに美味いものだった。見た目は普通のラーメンで、具材がチャーシューだけなのが残念。その代わりにと言ってもいいくらいに、スープに魚介類の味がたっぷりと堪能できたので個人的には満足だ。それ以外で文句をつけるなら、持ってくるときに、ラーメン縁を持ってきているのだが、その時に汁に親指を突っ込むのは止めてほしい。せめて盆くらい使えよと思ってしまう。その場で言ってないのであれだが、周りの客へと持っていく様を見ても同じことをしているので、ここではあれが普通なのだろう。慣れてしまえばいいかもしれないが……やっぱりよくないだろう。衛生面的に……。

 

(お姉さんならともかく、おばさんの指入りはどうかと思う。誰か注意する猛者は居ないのかな……)

 

 注意しても直りそうにはなさそうだが……と、そんなことを思いつつ夕食を終えて店を出る。

 

 街中を歩いていると、たまに視線を感じることはあるが、特に監視するようなものではなく、余所者を見るような感じであったため、この街にて泊まることにした。もし捕まえるのであれば、既にアクションを起こしてもよさそうなのに、それが無いのも理由のひとつだ。

 

 宿については、買い物をする際にいくつか聞いていたので、それほど迷うことなく向かう。今までまともな所で寝ていなかったので、今回だけは少し高めの宿にすることに決めていた。高めと言ってもいくつか聞いた中で真ん中あたりの値段の宿にしただけだが……。

 

 夕食は無いが朝食は有り。部屋にはシャワーとトイレが付いていて、共有ではあるが大浴場もあるようだ。受付にて説明を一通り受けて、宿泊名簿に名前を書く。本名を書くのはさすがにマズイと思い、悩んでいると偽名と思われかねないので、単純に白の上に一を足して百とした。自分のことながら安易すぎる。しかし、所詮はただの記帳であるし、身分証のようなものが無いので、確認されることもないからこれで問題ないだろう。

 

 受付にてお金を支払い、鍵を貰い受けて部屋へと向かった。部屋は一般的なビジネスホテルのようなものだが、前の宿が宿だけに、天と地ほども違うと実感していた。

 

 荷物を置いて気配を探り、両隣の部屋を含めて、誰も居ないことを確認してから、部屋の中を見て回る。大体調べ終わり、変な仕掛けが無いことを確認してから変化の術を解く。窓はあるがカーテンにて目隠し済みだ。

 

(今日はシャワーを浴びて寝よう)

 

 大浴場にも行ってはみたかったが、それよりも久しぶりにゆっくりと休みたい、という気持ちの方が強かった。別段警戒を怠る気は無いが、島ではいつクナイなどが飛んでくるか分からなかったし、島を出てからもまともに休んでいない事が大きい。

 

 念には念を入れて、簡易なトラップくらいは仕掛けておく。人が入ってきた際に鈴がなるような物だが、ないよりマシだろう。島での鍛錬があったとはいえ、完全とは言い難いので保険のようなものだ。

 

 その後に、シャワーを浴びて寝ることにしたわけだが、ベッドの上の布団が柔らかくて気持ち良すぎた。入ってすぐに寝てしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 翌朝。特に寝ている間に何かあったわけではないようで、久しぶりに熟睡できていた。朝に目覚めて、ここまで清々しい朝を迎えることが出来たのはいつ振りだろうかと考え、こっちの世界に来て、初めてかもしれないことに溜息を漏らす。

 

 このまま二度寝をしても良かったが、本来の目的を思い出した。張っていたトラップを取り外して、変化の術を使用し、荷物を背負って食堂へと向かう。朝の7時ということもあり、それなりに人が入っていた。

 

 食事はバイキング形式ではなく、鍵番号を見せての配膳形式で、料理の乗った盆を渡される。

 

 盆に乗った内容は、ご飯に味噌汁に魚と普通だ。お茶についてはセルフサービスのようで、自分でやかんから注いでいく。適当に空いている席へと座り朝食を食べた。普通の宿でこの食事なら、高級なところだと、いったいどんなものが出てくるのだろうと興味が沸いてしまう。

 

 朝食を食べ終えて、籠を背負い直し受付へと向かう。鍵を返して宿を出たところで、またしても視線を感じた。今度も偶々かもしれないと思い、次の街へと向かって街の外へと歩いていくが、今回は視線が外れることはなかった。

 

 見られているというのは分かるが、それがどこからかと言われると少し曖昧だ。丘の上辺りまで登ったところで、ゆっくりと街を見る振りをして振り返ると、咄嗟に建物の陰へと隠れる人が数人いた。どうやら完全にこちらをターゲットとして尾行、もしくは監視をしているようだ。

 

 もしこれが、この街を出てからも続くようであれば、何かしらの対策をしないといけない。あれほど簡単に監視がばれるようなことをしているので、忍者ではなくただの一般人だとは思うが……。しかし、一般人でも数が多いと厄介になるのは間違いない。

 

 今後の事を考えると、少し憂鬱になりながら次の街へ向けて進む。尾行と監視はこの街限定でありますようにと思いながら……。

 


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