白物語   作:ネコ

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17 注意?

 山の中を街道沿いに駆けていると、霧が段々と晴れてきた。完全に霧が晴れる前に、服に付いた葉っぱなどを払落とし、人通りが無いことを確認してから街道へと出ていく。

 

「全く人通りがありませんね」

「そうだな」

 

 子供らしく、落ち着きが無いように振る舞いながら、周りをキョロキョロと見回して進んでいく。こういう時に自分の外見は便利だった。周りを気にせずに警戒することが出来るのだから。

 

 周囲を見渡すが、特に怪しいところはない。また、何かに見張られているような感じも受けること無く進んでいく。上忍クラスが相手では、見張られていても分からないかもしれないが、再不斬が警戒していないところを見るに、今のところここまでは順調なのだろう。

 

 残念なことは、途中で休憩所のようなところがない事だろうか。

 

 そんなことを考えながら進んでいると、あることが起きた。

 

「!」

 

 港町においてきた水分身が、何者かによって殺られたようだ。わざと一般人のような振る舞いをするようにしていたので、殺られることは想定内だが、尋問なりなんなりされて、もっと時間が稼げると考えていた。

 

 表情はニコニコと変えることなく、再不斬に問いかける。

 

「再不斬さん」

「分かっている」

 

 再不斬にも分かっていたようだ。おそらくは同じような命令をとっていたのだろう。

 

 時間稼ぎが終わったいま、港町からこの街道を通っている自分達は、十分に怪しい部類に入るだろう。殺った際の消え方で、忍者であるとあたりをつけるはずだ。波の国に隠れ里が無いとはいえ、忍者が居ないとは言えない。逆に雇われの忍者がいる可能性が高いだろう。

 

「どうしましょうか?」

「俺は、次の街までこのまま行くつもりだ。もともとそういう話だっただろう?」

「まあ、そうですけどね。と言うか、このままだとヤバイのって、こっちだけじゃないですか? 変化の術を使ってないし……」

「そう言うことだな」

 

 既に街道を通っている時に、数人とすれ違っているので、今更変化の術を使用したところで、再不斬と共にいるのでは意味がない。平然と答える再不斬に対して溜息が出そうになるが、どこで見られているか分からないので、表情は崩さずに心の中でガックリと項垂れる。

 

(未だに後先を考慮出来てない自分が恨めしい)

 

 昼にはまだ早い時間帯だったが、店の立ち並ぶ場所が見えてきた。一瞬もう街に着いたのかと思うようなところだが、街道の両脇に数件並んでいるだけで、その先はまた街道が続くことから、自分の考え違いであると分かる。

 

「少し早いですが食事にしませんか? 朝飯も食べていませんし」

「余裕だな」

「慌てても仕方ないですよ。腹が減ってはなんとやらです。それに、最悪誘拐されたことにするか、再不斬さんが私を背負って連れて行くという手段が「それは無いな。その時は俺だけ安全にいかせてもらう」……ですよね」

「しかし、飯を食うことには賛成だ」

 

 もし追手が来た際の手段を軽く言ってみたのだが、言い切る前に再不斬に即答されてしまった。再不斬にとっては、自分について来ない相手を、守る理由もないので当然のことだろう。しかし、この言葉が食後の白の予定を組み立てるものにはなる。

 

(再不斬さんについていけば戦闘面で安全だと思ったけど、さっきの言葉から、追いつかれた際に見捨てられるのは間違いない……。まあ、余程の相手でもない限り、逃げ切る自信はあるけど、これからもずっと追われる可能性があるし……。それならいっそ、食後すぐに次の街へ変化の術を使って移動した方が遥かに安全かな? うん、そうしよう)

 

 今後の方針を決め、借りていた物を返そうと懐に手を入れたところで、再不斬から声が掛けられた。

 

「それは預けておいてやる」

「……次はいつ会えるかわからないですよ?」

「いつか手伝いに来るんだろう?」

「まあそのために鏡を渡してますからね。しかし結構先のことになると思いますよ? 忘れた頃にってくらいに」

「通信手段としても使えるなら問題ないだろう」

「目的地に着いたら一方通行にしますよ。いきなり声を出されても困るので」

「その辺は好きにするといい。どうせお前の術だからな」

「その鏡が消えたら、私が死んだと思ってください。まあそう簡単に死んだりしませんけど」

「あれだけ鍛えてやったんだ。そんな簡単に死なれては、興味本位だったとはいえ俺の沽券に係わる」

「そんなこと気にするんですね」

「まあ、たまにはな……」

 

 軽口を交わしつつ、店の並ぶ場所へと到着する。再不斬の好きそうな店が無いか見てみるが、軽食店のようなところか団子屋のような休憩所と最後に宿が一軒あるくらいだった。こんな場所で宿に需要があるのだろうかと思うが、港町への距離を考えると、まあ在っても不思議ではない。それほど大きな宿ではないし、飲食店とセットということで寝ることだけを考えればいいという、ある意味港町で泊まったような宿の形態だろう。

 

 軽食店のどこにするかと目線を再不斬へと向けてみるが、どこでもいいのか一番近い店へと入っていった。一番近い店は蕎麦屋のようだ。店は奥に細くなっており、入口のある面はそれほど広くはなかった。中へ入ると、すぐにカウンターがあり、椅子は壁の方に並んでいる。どうやら立ち食い蕎麦屋のようだ。

 

 かけそばを注文すると、奥から女性がカウンターの外側に出てきて、脚の高い椅子をカウンターへと持ってきた。

 

「お嬢ちゃんはここに座るといいよ」

「ありがとうございます(男なんだけど……)」

「お礼がちゃんと言えるなんて偉いねえ。どこから来たんだい?」

「(答え難いことを聞いてくるなあ)えーっと海があるところから」

「海というと港町かねぇ。あそこは結構前に船が来なくて大変なことになってるみたいだから、みんな住みにくくなってるなってるみたいだよ。って言ってもあそこから来たんなら知ってるだろうね。海賊に襲われたって噂が広がってるから、たぶんいまも海を探し回ってると思うけど、実際のところどうなんだい? なにやら怪しい連中が、港町を拠点にして探してるっていうじゃないか。水の国からこっちへ来るとしたらってことを考えると「はいお待ちどう」なんだい人が話してる時に!」

「料理が出来たのにお客を待たせる方が失礼だろうが!」

 

 何やら二人で言い合いを始めてしまったが、こちらとしてはとてもありがたいことだった。

 

(ナイスタイミングだよおじさん! このおばさん、世間話が非常に長くなりそうな気がする。それに対して再不斬さんは、知らぬ顔して無視してるし……)

 

 おばさんの話の途中でチラリと再不斬の方を見てみたが、俺には関係ないと言わんばかりにこちらを見ようともしない。確かに自分の事を話すのは避けたいが、こうも一方的に話されるのも勘弁してほしいところだった。

 

 目の前に出されたかけそばを食べるべく、割り箸を取ろうとして、再不斬から割り箸を割ったものを目の前に差し出された。不思議に思い再不斬の方を見ると、眼で気を付けろと言っているようだ。

 

「ありがとう(何を警戒してるんだろう? 一応注意してるんだけど?)」

 

 訳も分からずに、取り敢えず礼を言ってから蕎麦を一口慎重に食べてみる。特に毒が入っているわけでもないようだし、味も普通の蕎麦である。再不斬の方を見ても普通に食べていることから、こっちのかけそばにも毒などは入っていないだろう。取り敢えず、朝から何も食べていないので、余計なことは考えずに食事を行う。

 

 食べている間もおばさんとおじさんの言い合いから、こちらへの愚痴に似たマシンガントークへと変わって続いていたが、食べることに夢中になっていることにして無視していた。

 

 食事を終えると、再不斬が二人分のお金を支払った。2人分支払ったのは、変に怪しまれないためだろう。その後すぐに店を出る。おばさんは「またきなよ!」と、店の外まで出てきて叫んでいたので、笑顔で振り返りながら手を振っておく。非常に煩わしいことこのうえなかった。

 

 店のある通りから離れたところで、再不斬に問いかけた。

 

「なぜ割り箸をくれたんですか?」

「お前はもう少し自分の年齢と体格を意識した方がいいぞ。その年齢で器用に割り箸を割ったり使ったりはしない」

「そういうことでしたか……」

 

 確かに言われてみれば、力が無いはずの年頃の子供が、何事もないように綺麗に割り箸を割ってそばを食べ始めれば、違和感を覚えられるかもしれない。箸を器用に使っている時点で、少しの違和感を覚えるかもしれないが、教育の賜物で済む話でもある。

 

(ああいう場での立ち居振る舞いにも注意しないといけないか……。島では再不斬さんと2人だったから気にしてなかったけど、今後は気を付けないとな。それにしても気を付けることが多過ぎるな……。早く年を取りたい……)

 

 少し現実逃避をしてしまったが、追われる立場であることを思い出し、再不斬に別れを告げる。

 

「ではこの辺りでお先に失礼します。それではまたいつか」

「ああ」

 

 何事もなかったかのように、横手の雑木林へと入り山の方へと向かい、街道がギリギリ見える位置まで移動する。

 

 そこで、変化の術を使用して次の街へと向けて駆けていった。

 


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